46話 俺の生き方
前回のあらすじ
ニーアとレンノエの力により、リアを撃退したユウスケ達。
漸く落ち着けるかと思った矢先に聞こえてきたのはスクリーマーと思われる叫び声だった。
ニーアとレンノエはスクリーマーの討伐へと向かい、レイフ達はアステニアへと戻ることに……
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~ アステニア ユウスケ視点 ~
"神速"ニーアと"絶影"レンノエがスワンプウッドに残って、スクリーマーと思われる叫び声のする方へと向かっていった。
今頃、接触している頃かな。俺達はアステニアに戻り、アステニアのギルドマスターであるレイフさんに、あの森で何があったのかを説明することになった。
とは言っても特に説明するような事はなく、ウグバゴ討伐後に影の集団が現れた事、ハスタさんに逃されて走っていたらアレイスターが追いかけて来た事、リアが現れてアレイスターに憎悪を向けていた事、そしてアレイスターの後、矛先が俺に向かった事をそのまま伝えた。
レイフさんは俺の話を聞いて、リアの過去について……というか、銀狼という一族の過去と現在について調べる事にしたらしい。
今では伝説の種族だと謳われる銀狼。その歴史は謎に包まれており、どこに居たのか、どのように生活していたのかは全く記録に残っていない。
とは言え、今でこそそれなりに獣人達と交流のあるアステニアだけど、元々獣人達と接点のあまりない国だったらしいし、獣人の歴史について詳しく残ってた方が不思議ではある。獣人の国へ行けば、詳しく知ることが出来るかもしれない。
でも、リアが時折零していた言葉、一族の為に成し遂げなければならない……だとか、憎悪に動かされている……だとか。あれだけの情報があれば、予想するなと言われる方が難しい。
恐らく銀狼の一族は、奴隷商人や盗賊絡みの何者かに何かをされた。例えば、捕まって奴隷に卸されただとか。それにしては、銀狼を奴隷に持っている人っていうのも話を聞かないし、本当のところはわからないけど。
そんな感じで、レイフさんとは別れ、その後ウグバゴ討伐の完了手続きへ。
色々あったお陰で、討伐証明部位の回収が出来てなかった訳だけど、そこは事件の事についてハスタさんが証人となり、特例として依頼完了することが出来た。
そんなこんなで諸々終わらせた今、獅子の宿にてウグバゴ討伐記念の盛大なパーティを行っている。
盛大とは言っても、俺達『救命の志』と、『不屈の魂』と、ちょこちょこシロナを見に来ていた冒険者達数人でだ。
あのシロナ大食い大会事件から、シロナの食べっぷりが好きになって見に来る冒険者がちょくちょく増えた。表情を見る限りでは、邪な考えも持ってなさそうだし、リーニャもシロナも嫌な顔はしてなかった――この二人はやたら感が鋭く、いやらしい視線とかはめちゃくちゃ気付くらしい――し、多分純粋にファンとして見に来ているようだ。『不屈の魂』メンバーのロロップもその一人である。
机には、とてもEランクの俺達が頼むようなものではない豪盛な料理が並び、それらは全て『不屈の魂』のリーダーであるガウンの奢りだった。
「さぁ、俺達の後輩であるユウスケ達の成功と無事を祝って、沢山食べてくれ! 乾杯!」
「「「「乾杯!!」」」」
酒の酌まれたジョッキを高らかに上げ、ちょっとした宴が始まった。
「ガウンさん、何かすみません。こんなに沢山の料理やお祝いまで。」
「気にすんな。中には腐った様な連中も多いが、殆どの冒険者は後輩の成功っつったら嬉しいもんだぞ。それに、俺達『不屈の魂』はお前らの事気に入ってるしな!」
丸テーブルを囲むように、俺、『不屈の魂』リーダーのガウン、メンバーのヒューマ、ウィリスが座っている。ガウンの言葉に、ヒューマもウィリスもうんうんと頷く。
「ウグバゴの討伐は、後回しにする奴らが殆どだ。大体Dランクの昇級直前の190件とかそこら辺で受けるんだぜ。それがお前ら、まだ100件も依頼こなしてないんだろ?」
ウォーロードのウィリスが俺にそう言うと、ハンターのヒューマも続けて喋る。
「いくらCランクのハーピィをテイムしたとは言え、ウグバゴの討伐を無事に終えるのは冒険者としての基礎がしっかりしていて優秀だと言う証明でもありますからね。」
いやいや、優秀なのはレイとリーニャとシロナですよ……ぶっちゃけ俺は何もしてないしな。
ミディアムレアに焼かれたステーキの一切れをフォークで、カバンの中に居るレイへと運ぶ。
働いた者にはそれ相応の報酬があるべきなのだ。味覚があるのか無いのか分からないけど、美味しいものを食べるのはとても大事なことである。
ステーキを食べたレイも、何となく嬉しそうな感じだし、きっと美味しいと感じてるんだろう。
レイにステーキをあげながら、チラッと隣のテーブルへ視線を向ける。
そこでは、リーニャ、シロナ、ロロップ、それに加えて大食い大会事件のギャラリーでちらほら見かけたような気がする女性の冒険者が数人で、サラダ等のヘルシーな料理を囲んでいた。
「んーーーーー!!! おかわり!!!」
シロナが立ち上がって空になった皿を天高くに掲げる。
それを見たリーニャが、はいはいと皿を受け取ってサラダをつぐ。
「出ましたね! あのシロナちゃんのおかわりが! ほら、こっちのサンドイッチも食べてください!」
ロロップが目を輝かせてサンドイッチを乗せた皿をシロナの前に差し出す。
シロナはそれを受け取ると、両手でサンドイッチを掴み、食べ始める。
「あぁーー! 可愛いです! シロナちゃん! 後で翼とか足回りとかもふもふしてもいいですか!」
サンドイッチを頬張るシロナを見て、ロロップがめちゃくちゃ興奮している。確かに、シロナは小動物的な可愛さがあるのは分かるが、それ以上にロロップは熱狂的なファンみたいだ。最初にシロナを見た時から片鱗を覗かせていたが、最近はもうこんな感じですぐ欲望が口に出る。
まぁ、分かる。理由は恐らく、シロナのあれだ。
「ん!」
もふもふしていいかと聞かれれば、その場で立って両手を広げるのだ。
これはシロナ流「触ってもいいぞ、存分に触ってくれたまえ。」の合図であり、シロナがそうするからこそ、ロロップはもうやりたい放題にもふもふしている訳である。
「おぉぉ……この触り心地……Sランクの羽毛布団のようでありますぅ……」
「あっ! ずるい! 私ももふもふしたい!」
ロロップが通販のウリ文句見たいな台詞を零せば、同じテーブルに座っていた女性冒険者もシロナをもふもふし始める。
シロナは、こういう触れ合いは食事と同じくらい好きみたいで、満足そうにしていた。
「女のコミュニケーションは過激だな。」
ウィリスが笑いながらそんな感想を言う。
「なんなら、俺らもやりますか?」
俺が『不屈の魂』のメンバーにそんな冗談を言うと、ガウンが考えるような素振りを見せ。
「まぁ、ユウスケは見た目ゴツくねぇからやっても良いぞ。」
「すんません、俺が悪かったす。」
そんな俺とガウンのやり取りを見て、ウィリスとヒューマは笑った。
「で、これからどうするんだ? 昇級まではチマチマとアステニア周辺の依頼でもこなすのか?」
ガウンが俺にそんなことを聞いてきた。
多分、アステニア周辺で色々ないざこざが起きたから、ここを離れるのかどうか聞きたいんだろう。
確かに、リアに襲われたり『豪腕の唸り』に拉致されたり、やりたくもないイベントを消化した訳だけど。Dランクに上がるまではアステニアで過ごそうかと思っている。
こんなイベントなんて何処に行ったって起きる可能性はあるし、それなら沢山コネを作れたアステニアに居る方が、まだ安全だ。
……まぁ、リアの件はどこでも起きる可能性がある様な事件じゃなかったけど。
それに、何だかんだこの町は好きだ。
「当分はアステニアで依頼をこなします。Dランクになったら、ここを出ることになると思いますが。」
「そうか。」
「シロナには、色んな食べ物を食べさせてあげるって約束しましたからね。各地の特産品とか、そういうのを巡る旅に出ようかと思ってます。」
シロナが決めた、シロナの生き方。美味しいものを沢山食べて、幸せになること。
勿論、それが絶対に正しい幸せのあり方だとは言えないけど、それでも間違っている訳じゃない。
シロナが初めて決めた、シロナの生き方。
ガウンは、俺を見て、優しい表情になった気がした。
「へぇ、それも良いかも知れねーな。俺らも気が向いたら、食を巡る旅でもしてみるか。」
ウィリスも、ヒューマも、微笑みながら頷いた。
「それに……俺には、新しい旅の目的も出来ましたから。」
二つのパーティと冒険者達を巻き込んだ、小さく盛大な宴も幕を閉じ、軽く風呂に入った後、俺達は借りている部屋へと戻った。
今日一日が物凄く濃い体験だったからか、何だか久しぶりに戻ってきたような感覚がする。
「ふぅー。何だか、今日は疲れたわね。」
リーニャがベッドに倒れ込む。柔らかい素材のベッドは、衝撃に反発してリーニャを一瞬浮かす。シロナも真似してベッドに倒れ込み、シロナの反動でリーニャとシロナがまた一瞬浮く。
俺もベッドに座る。
後は、寝る前に俺が考えた新しい旅の目的を、今日の内に二人に伝える事にした。
「なぁ、リーニャ。シロナ。」
うつ伏せになっていた二人は、ベッドに座りこちらを向く。
「どうしたの?」
「んー?」
「旅の目的、なんだけど。」
リーニャは知っているが、シロナは知らない。
俺がモン娘達とイチャイチャしたいから、片っ端からテイムしようとしていたという事は。
まずはそこから説明して、新しい方の説明に入る。
「俺は、元々モン娘……えと、人型の魔物に興味があって。モンスターテイマーになったのもその為だし、シロナ……というか、ハーピィをテイムしようと思ったのも、その為だったんだ。」
「イチャイチャしたかったのよね。」
「イチャイチャ?」
リーニャがド直球な表現をし、シロナがそれに首を傾げている。
「まぁ、なんだ。恋人のような、そういうことをしたかったんだよ。」
シロナはそれを聞いても、いまいちピンときてないようだった。
ハーピィには、そういう風習はないのかもしれない。
俺は先を続ける。
「それで、最初の方は、ハーピィも適当にテイムするつもりだったんだ。」
だけど、ハーピィに攻撃しようとして、ハーピィの怯えた表情が見えて、それが出来なくて、シロナが運ばれてきて、目の前に落とされて、俺の中でその意識が変わった。
リアが俺に憎悪を向けた時に言った言葉。人を攫って奴隷にしているのと同じ。今の俺の目線で見返してみれば、あながち間違った事でもない。無理やりテイムするということは、彼女らの集落から、家族から引き離して、無理やり連れ回す事なのだから。
「無理やりテイムしたってさ、幸せにならないだろ。俺の理想は、皆で幸せになることだったんだからさ。間違えてたんだよな。シロナのお陰で、俺はその間違いに気づいたんだ。」
傷だらけで、息をするのもやっとで、そんな生活をしてるのが、人間のせいで。
幸せになるつもりでモンスターテイマーになって、見た光景がそんな不幸で。
もしかしたら背負わなくても良い罪を背負ってるだけかもしれないけど、俺はそれをどうにかしたいと思った。
「リアに襲われた時にさ、シロナが言っただろ? ユウスケに助けられたから、一緒にいるんだって。それを聞いてさ、俺思ったんだよ。」
リーニャとシロナは、こっちをじっと見つめる。
俺は一度深呼吸をして、新しく考えた、俺のやりたい事を伝える。
「人型達を、助けたいんだ。困ってない人型も多いかもしれないけど、困ってる人型も沢山いると思う。昔のシロナみたいに毎日傷だらけの生活をしているかも知れないし、食べ物が全然ない場所で苦しんでるかもしれない。」
人間と、人型と、今みたいに壁が出来てるのは、きっとお互いを知らないからだ。
人間は人型を恐れる必要はないし、人型も人間を恐れる必要はない。お互いが歩み寄って、協力出来たら、もっと良い世界になると思う。理想論だし、机上の空論だし、現実味を帯びてないかもしれないけど。
ハーピィの羽毛だって、シロナに頼めばくれないこともないだろう。毛づくろいをすれば、時折抜けることだってあるのだから。爪だって、一度切ったってまた伸びてくる。わざわざ狩って素材を集める必要なんて元々無い筈なんだ。
「俺は、人型と共存できる未来を、作りたい。」
その時に、俺達を気に入ってくれた人型には、仲間になってもらおう。
シロナみたいに、お互いが歩み寄って、お互いがそれを望んで。
テイムという、繋がりを作ろう。
「……甘いかな。」
俺の話を、一言も声を発すること無く聞き終えたリーニャとシロナ。
無理だって言われるかも知れないな。
「そうね、とんでもなく甘いと思うわ。」
リーニャが、少し座高の低いシロナの頭を撫でながら、言った。
「人型全員が私達の話を聞いてくれるとも限らないし、余計なお世話だって追い返されるかもしれないし、場合によっては私達の命が危なくなるかもしれない。でも……」
俺のやりたい事を、真っ向から否定する様な言葉。だけど、その声色はとても優しく。
「私も、そんな世界を見てみたい。皆が幸せなんて、とてもユウスケらしいもの。」
微笑むリーニャの隣で、シロナも頷いた。
今日から、俺は……いや、俺達『救命の志』は、二つの目標を掲げて旅をすることになった。
世界各国の美味しいもの食べ歩きツアーと。
皆が幸せになる為の、人型と人間の共存を目指して。
第二章終わりです。ここまで読んでくれてありがとうございます! 少し幕間を入れるかも知れませんが、次からは第三章ということで、だいぶ物語が進んだところから始まる予定です。




