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我こそはモン娘テイマー也  作者: hoikun
二章 旅立ち、悩むモンスターテイマー
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45話 神速の由来

前回のあらすじ


 異常な憎悪と殺意をユウスケ達へと向けたリア。

 しかしそこへ現れたのは、極めし者と呼ばれた二人の女性とギルドマスターのレイフだった。

 "絶影"レンノエと"神速"ニーアがリアと戦闘を始める。

 レンノエとニーアの激しい攻撃を全て躱していくリア。


 シロナの説得も、リアを止められないまま、戦いは続いていた。



---------------------------------------



~ スワンプウッド 三人称視点 ~


 パァンという破裂音が響く。

 ニーアにより繰り出された拳をサイドステップで避けたリアは、更に身体を回転させ背後から振られたクリスダガーを避ける。その後レンノエに向けて漆黒の短剣を斬り込む。


「無駄や。」


 レンノエはクリスダガーを斜めに向け、受け流す体勢を取る。しかし、短剣を振るわれても待っていた衝撃は来ず、目の前のリアが消えた。

 その後ろに居た本物のリア(・・・・・)がクリスダガーを避けて斬撃を行う。

 意表を突かれたレンノエは無理やり身体を捻り、避ける。リアの振るった漆黒の短剣は、レンノエの踊り子のような衣服を少し切り裂いた。


「ひぇー……幻影て、ヤラしい攻撃やな……ちょっと危なかったわ。」


 距離を取ったレンノエがそう呟いた。




「あ、あの……」


 ニーア達の戦いを見ていて、ハスタがレイフに向かって話しかける。

 『救命の志(ライフセイバー)』のメンバーを自分の周囲に誘導していたレイフは、ハスタへと顔を向けた。


「彼女の力を疑っている訳ではないですが、自分の目から見てニーアさんがそれ程ずば抜けた力を持っているようには見えないのですが。何故、彼女が"神速"という二つ名で、最もSランクに近いと?」


 ハスタの言った通り、現状ではレンノエとニーアの実力は同格のように感じられた。

 確かに、魔力をまるで鎧のように常に纏う技術は凄い。だが、それもレンノエの戦闘技術があればどうにでもなりそうに思えたからだ。


 レイフはまるでその質問が来ることを分かっていたかのような表情で返答する。


「うん、今は(・・)そうだね。まぁ見ててよ、そろそろ来ると思うから。」


 そう言うと、レイフはニーア達へと向いた。



 幾度となく破裂音を響かせながら拳を振るうニーア。

 それを避けるリア。

 死角に回っては素早い攻撃を繰り返すレンノエ。

 それをも防ぎ、回避するリア。


 決め手に欠けるやり取りがこのまま続くかと思われたが、ある攻撃を境に状況が変わる。


 ニーアがリアに対して回し蹴りを放った後、ニーアとレンノエの動きが止まる。

 回し蹴りをバックステップで回避したリアも、その様子を警戒し観察する。


 レンノエはニーアに声を掛けようとして、何かに気付いたようでそのままレイフの元へと退いた。

 ハスタがレンノエに対して声をかける。


「あの、一体何が……?」


 その質問が自分へのものだと気付くと、レンノエは肩をすくめた。


「ニーアがあぁなったら、ウチはもう足手まといやからなぁ。こうなる前に捕獲したかったんやけど、ごめんなレイフさん。あの子、多分殺してまうわ。」


 レンノエはハスタへの返答の後、レイフに向かってそう言った。

 レイフも、仕方ないねとでも言いたげな表情をしていた。

 ハスタは訳が分からず、もう一度聞き返そうとした。その時。


「んんにゃぁぁぁ……」


 ニーアが今までとは違う艶っぽい声で鳴いた。

 ハスタが顔を向けると、ニーアは自分を抱きしめるように身体に腕を回し、上を向いて身震いしていた。

 それを見て、周囲のレンノエを除く全員がゾクリと鳥肌が立つ。


 完全に、雰囲気が変わった。


「にゃぁぁ……久しぶりのこの感覚ぅ……」


 ニーアは噛みしめるようにその快感に身を震わせる。

 蕩けたような表情に、皆が呆然としている中、リアがその空気を破ってニーアへと攻撃を仕掛ける。

 鋭く振るわれる漆黒の短剣。ニーアはその刃の軌道に沿って、短剣の腹に腕を沿わせて滑らせる。

 常人にはありえない、腕を使った短剣の受け流しだった。


「なっ!」


 あまりの技術に意表を突かれ、たまらず声を漏らすリア。その耳元で、ニーアが小さく妖艶に囁く。


「にぃ、ノッてきた。」


 ニーアはその場で素早く身体を回転させ、右腕をしならせながらリアに打ち付ける。その速度は、最初に戦っていた時より遥かに速くなっていた。

 リアは回避行動が出来ずに、目の前に腕をクロスさせて防御の姿勢を取る。


 パァン


 今まで以上に激しい破裂音が響き、リアが吹き飛んだ。直後、その方向へと駆け出すニーア。

 ニーアの動きは、硬い直線的なものではなく、しなやかなものへと変わっており、リアが着地の姿勢を取る頃には、もう目の前に迫っていた。

 驚愕に目を見開くリア。しかしどんな攻撃が来ても良いように身体の角度を調節する。

 ニーアは自分の胸の前に腕を持っていき、猫を連想させるようなポーズで両腕を脱力させた。

 或いは、見る人が見れば、ボクシングのような構えという感想を持ったかもしれない。


 そこから繰り出されたのは、ジャブ。それも腕全体を鞭のようにしならせた、所謂フリッカージャブに良く似た攻撃だった。

 振りかぶる攻撃と違い、ほぼ腕のスナップだけで発動されるこの攻撃は、本来は速さを重視する為にそれ程の威力は無いはずだったが、猫人の柔軟な身体能力と身に纏わせた魔力のお陰で、ノーモーションに似合わぬ高い威力を持っていた。


 最速で最大に腕のしなりを利用したその攻撃は、誰もが腕が消えたように見えただろう。

 それは、リアも例外ではなく。


「ぐッ!?」


 純粋な打撃と、その際に発生する衝撃波が重なり、反応する間もなくリアの身体に大きな衝撃が走る。

 装備していた軽鎧に、衝撃波の切り傷(・・・)が入った。


 最初の頃の直線的で単調な攻撃とは違う、目の前で消える変幻自在の攻撃。それが、リアが今のニーアに抱いた率直なイメージだった。


 再度放たれるフリッカージャブ。リアは防ごうと腕を前に持っていくが、ニーアはそれを避けるように一瞬腕を止め、別の角度から身体へと打ち付け、着実にリアの体力を奪う。


「くっ!」


 リアはジャブの間合いを抜けようと、バックステップを行う。それに合わせて、ニーアも踏み込む。

 今度は、右腕を大きく振り、遠心力としなりを利用しリアに打ち込む。


 その一撃で、戦闘が始まって以降一番激しい破裂音とともに、リアが大きく吹き飛び、木に衝突して崩れ落ちた。



 その様子を、レイフとレンノエを除いた全員が唖然と見ていた。

 あれ程までに力の差を感じたリアを、ほぼ一方的に倒してしまったその光景に、言葉を出すことが出来なかったのだ。




「あれが、神速だよ。凄いでしょ。」


 レイフのその言葉に、ハスタはようやく我に返る。


「戦えば戦うほど速く、動きもよりトリッキーになっていくんだよ。その一歩一歩が彼女のリズムを作り、相手のリズムを崩す。速度に乗ったニーアは、誰も止められない。それが"神速"の名の由来だよ。」


 通常で他の極めし者と同等の実力、それに加えて戦えば戦うほど乗っていくスピード。

 極めし者の中で最強。その戦いは、目の前で見たら納得せざるを得ないものだった。


 ニーアが木にもたれかかって倒れているリアへと歩いて近づいていく。

 レイフやレンノエ、ハスタとユウスケ達もリアへと小走りで近づく。


 リアの身体は、打撃しか受けてないにも関わらず、衝撃波による切り傷だらけだった。


「……ん?」


 レンノエがリアを見て首を傾げる。

 レイフがどうしたのか尋ねる前に、リアがハスキーな低音で喋り始める。


「……ユウスケ。お前の生き様を見させてもらう。気に入らなければ殺す。それまでは、その白いハーピィに免じて生かしておく。失望させるな。」


 そう言い残すと、リアの身体は溶けていき、唯の泥になった。


「あちゃー、逃してもうたわ。いつの間に入れ替わっとったんやろ。」


 目の前の泥を見て、レンノエが額に手を当てる。ニーアは戦闘が終わったからなのか、先程の妖艶な雰囲気は無く、キョトンと泥を見つめていた。


「分身……ですか?」


 ユウスケがそう問う。ユウスケの脳内には、忍者などが使う分身の術のようなものが浮かんでいた。

 その問に、レンノエがリアが消えたであろう方角を探しながら答える。


「分身……まぁ、分身みたいなもんやな。ウチでも気付かへんなんて、アサシンの技術やったらウチより上かもしれん。」


「なら、極めし者の名を返上でもしますか?」


「何言うてんねん。アサシンの技術は負けたとしても、戦闘経験はウチの方が上や。正式に奪われるまではウチが頂点に居続けたるわ。」


 レンノエの言葉に、レイフが冗談めかして言う。それに対し、レンノエは笑って答えた。

 周囲には先程の戦闘など無かったかのように、静寂が広がっていた。


「アイツの言うことを信用するなら、一応君は一時的には狙われなくなった、って事か。」


 ハスタがユウスケに向けてそう言った。実際レンノエがリアの気配を探しているが、反応がないところを見るに、もう近くには居ないのだろう。なら、少なくとも今は狙われる心配がなくなったということだった。


「リア……モンスターテイマーの事、人攫いみたいで嫌いって言ってましたね。」


 ユウスケがそう呟く。ユウスケが襲われた事情を知らなかったレイフは顔をしかめた。


「それはまた、随分と極論だね。確かに、人型に従魔の首輪をしてれば奴隷に見えないこともない……というかそれにしか見えないけど。」


 従魔の首輪をしているシロナに視線を向けて、確かにと納得しかけるレイフ。事情を知らなければ、そう言う勘違いがあっても仕方ないかも知れないと考え始めた。


 そんなレイフを置いてニーアがシロナに近寄っていく。


「にゃー! 人型をテイムなんて初めて聞いたにゃー! こうやって近くで見ると、結構可愛いにゃぁー……」


 そんな事を言うと、シロナに抱きついて頭を撫で始めた。シロナも満更ではなさそうな表情をしている。

 レンノエもシロナに近づいて、声をかける。


「最初見てたで、根性あるやん。仲間の為に自ら盾になるなんて、そうそう出来ることやない。」


 そう言って、レンノエもシロナの頭をわしゃわしゃと撫でる。


「ま、ご主人様にももうちょっと根性付けてもらいたいところやなぁー?」


 レンノエはシロナの頭を撫で終えると、ユウスケに視線を移した。

 ユウスケはその視線と言葉を受けて、まさにその通りだと肩を落とした。ステータスに差はあれど、始終動けなかったのは事実だったからだ。


 シロナはその発言にムッとする。


「あはは、冗談や冗談。さ、取り敢えず今日は帰ろか。本来の目的やった影についても、もう終わってもうたしな。」


 シロナの表情に、レンノエが笑いながらそう促した。


「そうだね。リーダーだったアレイスターに加えて元リーダーのグラッドも死んでしまったし、生き残りがいたとしても、彼らはまた細々と生活を始めるだろう。何かあったって取り押さえるのは簡単だ。」


 レイフがそう付け加えて帰ろうとした瞬間。森に悲鳴が響き渡った。


「キャアァァァァァァァァァァァァァアァァァ!!!!」


 その声に、全員が一斉にその方向を振り向く。


「なんや? 冒険者が襲われとるんか? ……このスワンプウッドで?」


 レンノエが口にしたように、スワンプウッドという所は、冒険者もウグバゴの討伐の為くらいにしか入らないような所だ。ウグバゴの討伐にしても、そう頻繁に行われている訳ではないし、その場合はギルドから試験官を一人つけるのでギルド側も把握しているはずだった。


「今日は『救命の志(ライフセイバー)』だけしか聞いていないけど……いや、もしかして。」


 レイフが今日スワンプウッドへ入る予定だった者たちを思い出していると、一つ思い当たるものがあった。それも、その予想が当たれば最悪の事態になりかねない物だ。

 そのレイフの予想は、ニーアの一言で現実味を帯びることとなる。


「この先、魔物の気配がするにゃー。それも、めちゃくちゃ強いにゃ。」


 ニーアが放った一言、。アステニアの周辺に居るとんでもなく強い魔物、そして少女の叫び声が聞こえた。

 その条件に当てはまるのは、ただ一つだった。



「スクリーマーだね。」



 その言葉に、ニーアとレンノエ以外が凍る。


「ちょ、ちょっと待って下さい。スクリーマーって、ティグレの森に居るのでは?」


 ハスタが動揺してレイフに聞き返す。レイフを除いて、この中でスクリーマーの脅威を一番知っているのは、一番情報が入ってくる冒険者ギルドの職員であるハスタだ。動揺するのも当然だった。


「確かに、最後の目撃情報はティグレの森だ。だけど、移動しないとは限らない。」


 レイフは頭を抱える。もしスクリーマーがティグレの森からスワンプウッドへ移動してきたと仮定する。ティグレの森よりスワンプウッドの方が、冒険者達への被害は抑えられる。しかし、Dランクへの昇級条件であるウグバゴは、スワンプウッドにしか居ないのだ。

 今後の昇級試験についてどうするか、脅威が去るまでは別案を出さなければならない。


 そんなレイフを見て、ニーアとレンノエが提案した。


「なんなら、ウチらが狩ってくるで。」


「帰る前のついでの運動にゃ。」


 レイフにとって、その提案は物凄くありがたいものだった。スクリーマーの戦闘力について詳しいことは何も分かっておらず、討伐ランクをBランクに引き上げたが、その噂から誰も依頼を受けず、仕方なくAランクまで引き上げる事を検討していたところだったからだ。


「では、すみませんがお願いします。もし危なければ、逃げて帰ってきてくださいよ。命が何より大切ですから。」


 そう言うと、レイフはハスタとユウスケ達を連れて森を出て行った。




「ほな、ウチらもささっと終わらせて帰ろか。」


 軽い調子でニーアにそう言うと、スクリーマーの方へ歩きだすレンノエ。

 しかしニーアは、その場所から動く気配がない。

 レンノエは不審に思い、ニーアに尋ねた。


「うん? どうしたんや?」


 ニーアは天真爛漫な性格をしている。それ故にいつもテンションが高く、ムードメーカーのような存在なのだが、今のニーアは表情が真剣だった。


「レンノエ、本気で戦わないと、負けるかも知れないにゃ。」


「なーに言ってんねん! ウチら二人おるんやで?」


 ニーアの言葉に、レンノエは冗談かと思い、返したのだが、ニーアの表情は変わらない。


「……そんなに強いんか?」


「直接見ないと分からないけど、多分めちゃくちゃ強いにゃ。」


 ニーアのその言葉、そして本気の雰囲気に、レンノエの表情も次第に引き締まっていく。


「そか、じゃあ、本気で行こか。最初から殺す気で。」



 そう言うと、二人の極めし者は森の奥へと消えていった。

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