44話 九死に一生もなんとやら
前回のあらすじ
突然現れたリア。アレイスターに憎悪の視線を向け、戦闘が始まる。
戦闘の最中、聞こえてきた会話でアレイスターはアステニアの副ギルドマスター、更に影のリーダーとして誘拐を続けてきたという事が判明する。
派手な魔法が飛ぶ中、リアは幻影スキルを上手く使い、アレイスターを殺した。
その直後、次の標的になったのはユウスケだった。
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~ スワンプウッド 三人称視点 ~
「人を攫って奴隷にしているのと同じだ。」
リアはそう吐き捨てた後、ユウスケの方向へゆっくりと歩き始めた。
その姿は、影のように霞んできている。
「……とんでも理論だな。」
ハスタがそう吐き捨てる。
実際、リアの意見に賛同する人間は殆どいないだろう。モンスターテイマーとはそういう職業であり、また、この世界には魔物と人間という線引も色濃く存在している。その為に、人間は人間の為に、魔物は魔物の為に生きるのは当然のことだ。
リアの言葉を聞いて、リーニャはユウスケへと視線を向ける。
モンスターテイマーとしての生き方を、根本から否定するようなその言葉を聞いて、ユウスケがどの様な心境なのかをリーニャは心配していた。
もちろん、リーニャやシロナがユウスケに対してそう思っていることはない。
それなりに長い間パーティの仲間として一緒に活動してきて、ユウスケの人柄がどの様なものかは分かっているからだ。
(奴隷にしているのと同じ、か。最初の考えのままじゃ、確かにそうだったかもな。)
そう思うユウスケ。昔のユウスケであれば心が揺らいだかもしれないが、今のユウスケはひとつの筋を通してきているからだ。
テイムは使役ではなく、仲間の証と。
主従関係ではなく、より心を通じ合う為の手段だと。
(俺は違う。シロナを奴隷だなんて思ってない。)
ユウスケがリアに対し、そう反論しようとした時。ユウスケの前にシロナが出る。シロナにとってユウスケは新しい道を示してくれた人であり、一緒に暮らす仲間だ。それに対して自分がユウスケの奴隷などという発言に、普段は無口温厚なシロナも頭にきていた。
「ユウスケと、シロナは、仲間。奴隷じゃない。」
ジト目でリアを睨みつけるシロナ。影のように姿が霞んでいたリアは、一旦その場に立ち止まった。
リアにとって、シロナはユウスケに強制的にテイムされた存在だと認識しており、その存在が自分の意志で立ちはだかってくる理由がわからなかった。
思考が巡る。テイムされた魔物は意思と関係なく命令に従うのか? それならあの白いハーピィがあのような発言をすることはない。なら発言も操られるのか? しかしあの白いハーピィが発している怒気は心の底から湧き上がるものだ。ならばテイムとは洗脳すらする様なスキルなのか。
リアがそのような事を頭に巡らせている間、時間にしてはほんの数秒だったが、急激に新たな展開を見せる。
「神速奥義!! 超絶稲妻キイィィィィィック!!」
遠くから声が聞こえたかと思った瞬間、次に起きたのは爆発。
いや、爆発と表現するほかない程の威力を持ったキック。
何者かが高くに跳び上がり、リアへと向けてキックを放ったのだ。
その威力は、地面に出来た直径10m程のクレーターが物語っていた。
舞い上がった砂煙が消えた後、そこに立っていたのは猫人の若い女性。
軽鎧すらも身に着けずに薄い布の普段着を着た彼女は、クレーターの中心で辺りを見回して叫ぶ。
「避けるとは! 卑怯にゃぁあ!」
その言葉の通り、リアはそのクレーターの中には居なかった。
近くでスタッと音を立て、恐らく高く飛び上がって回避したであろうリアが着地する。
「ハスタ!」
ハスタは自分を呼ぶ声がした方向を見ると、そこには派手な踊り子のような服を着た若い女性と、アステニアのギルドマスターであるレイフが居た。
「レイフさん! 助かりました!」
レイフと若い女性は、ハスタとユウスケ達のところへ駆け寄る。
レイフは、ルドルフから影の拠点がスワンプウッドにあると聞き、すぐさま行動に出た。スワンプウッドへ乗り込んで影の連中を拘束する。影の連中のリーダーがランクが高いだろうと予測し、ランクの高い冒険者に連絡も取っていた。
ギルドマスターであるレイフが直々に出てきたのは、その影のリーダーがアレイスターだと言う予測からだった。結果として、レイフの予測は当たっていた。
「一足遅かったかな? 最悪の状況ではないみたいだけど。」
「いえ、絶好のタイミングでしたよ。彼が死んでいなければもっと良かったですが。」
そう言ったハスタが視線を向けた先には、元副ギルドマスターであったアレイスターの変わり果てた姿が。
それを見たレイフは、これまでの人生で一番深いであろうため息をついた。
「薄々感づいていはいたけど、やっぱりアレイスターが絡んでいたんだね。」
「はい、影のリーダーとして活動をしていた模様です。今はもうあのような姿ですが。」
変わり果てたアレイスターの姿、その身体はところどころ黒く変色しており、首を一太刀で落とされた様子を見て、レイフはすぐに状況を理解する。
「リア、彼女がやったんだね。」
その言葉にレイフは頷く。
そう言った軽い報告を行っている最中、激しい音が周囲に響いた。
全員が音がした方向へ注目する。そこでは、リアと猫人女性の激しい戦いが行われていた。
「はいやぁあああ!」
大きな掛け声の後、周囲に響く破裂音。
猫人女性のパンチ、キック、その一つ一つが行われる度に大きな破裂音を鳴らす。
その全ての攻撃を躱すリアの表情は、いつも通りの無表情に戻っていた。
「それじゃ、ウチも加勢してくるわ。捕獲したら報酬は弾むんやろ?」
「そうだね、彼女は賞金首のようなものだ。最悪の場合は殺してしまっても構わないけど、出来れば生け捕りでね。」
「はいな。」
レイフと若い女性が軽い調子で物騒な会話を交わし、若い女性は会話が終わるとリアと猫人女性の元へと駆け寄る。若い女性のその動きは、何度もブレたように見え、まるでリアのスキルを彷彿とさせた。
「あの、レイフさん。あのお二方は?」
「あぁ、知らなくても当然かな。滅多にお目に掛かれないからね。」
そう前置きすると、二人の紹介を簡単に行う。
「今加勢した彼女が、"絶影"のレンノエだ。」
「絶影!?」
「そうだよ、たまたま連絡を取れたから依頼と言う形でお願いしたんだ。」
絶影と聞いて驚愕するハスタ。それもそのはず、二つ名があるという事は、その職業を極めているということ。
『極めし者』 そう呼ばれる内の一人、絶影のレンノエ。
その二つ名の通り、彼女は暗殺術を得意とした、最強のアサシンと呼ばれる一人だった。
「そして、リアと戦っているあの猫人の女性は、"神速"のニーア。」
レイフはニーアの方向を見る。つられてハスタもそちらを向く。
神速と言うことは、極めし者の一人。その二つ名の通り、彼女の一挙一動が恐ろしく速い。
レンノエとレイフ、そしてニーア以外のその場の誰もが理解していなかったが、先程から度々破裂音が鳴っているのは、鞭を振るった時の原理と同じく、拳や足がある一点を通過する際に衝撃波が発生しているからだった。
それも、スキルなどではなく唯の身体能力で。
それを分かっているレイフは勿体ぶったような口調で続ける。
「数少ない武道家の上位職、ストライカー。極めし者の中でも最強。Aランク冒険者の中で、もっともSランクに近い冒険者だ。」
リアとニーアが戦っている――正確にはニーアの攻撃をリアが躱し続けている――ところへレンノエが到着する。
「ニーア。そんな攻撃してたら、当てて殺してまうんとちゃう?」
「うにゃ? そう言えば無力化が目的だったかにゃー?」
先程から激しい攻撃を幾度となく行っていたと言うのに、全く息が上がってないニーア。それどころか、遊んでましたとも言いそうな軽い口調でレンノエへ返事をする。
対するリアも、距離を取ったところでニーアとレンノエを観察する。
ニーアと同じく、息は上がっていない様子だったが、それ以外のことは全く分からなかった。
(不気味な存在だ。先程怒りを露わにした時以外、全く感情が読めない。)
ハスタはリアを観察して、心のなかでそう呟く。
「でも凄いにゃ! にぃの攻撃を全部躱すなんて、凄く強いにゃ!」
そんなハスタとは違い、ニーアはまるで子供のようにワクワクしていた。
それを見たレンノエは、ニーアを咎める様に諭す。
「あかんよニーア。これは仕事。遊ぶのはプライベートだけにしときや。」
「にゃー……」
見るからに落ち込んだ様子で肩を落とすニーア。
その瞬間、レンノエの姿が消える。
リアはすぐさま振り向いて漆黒の短剣を振る。背後に迫っていたレンノエ。その右手に持ったクリスダガーと打ち合った。
「ウチはレンノエ。同じアサシン同士仲良うしようや。」
刃が重なった短剣同士、一瞬の膠着。その瞬間にレンノエの左手から、指の動きだけで神経毒の塗られた毒針が投げられる。
その毒針を左手の人差し指と中指で挟んで止めるリア。それを予期していたかのようにレンノエの左手には、もう一つのクリスダガーが握られていた。
左手が塞がれた状態になったリアに振るわれるレンノエのクリスダガー。リアは後方に飛んで躱す。
しかしそこに向かってニーアが攻撃の構えを取る。
「神速奥義!! 超絶稲妻かかと落としぃぃぃいぃいいい!!」
リアのほぼ着地地点に行われたニーアのかかと落とし、リアは空中で身体を捻って地面に手をつき、二段目のジャンプを行う。
「にゃぁああ!?」
地面に振り下ろされたかかとは、地面を大きく抉る。
ニーアの頭上へと飛んだリアは、ニーアに向けて投げナイフを投擲する。
「はいやぁぁあ!」
そのナイフを裏拳で弾くニーア。弾かれた短剣は、裏拳が当たった刃が粉々に粉砕されていた。
「な、なんだあの威力は……」
一連の流れを見ていたハスタがそう呟く。レイフがそれを聞き、ハスタへ説明する。
「彼女は体の全てが武器なんだよ。天然なのか努力なのか、彼女の身体には、常に魔力が纏われていてね。そこらの魔剣より身体が硬いんじゃないかな。だから唯のナイフなんて、弾かずとも刺さらないだろうね。」
「そ、そんなことがあり得るのですか。」
「あり得るみたいだよ。ま、彼女が特別なんだろうけど。」
ニーアとレンノエ、そしてリアが戦闘を行っている最中、シロナはもやもやとしていた。
ユウスケがリアに言われた一言が、シロナにとって初めての怒りだったからだ。
今まで生きてきて、怒りという感情を経験したことのなかったシロナは、自分のその感情が一体何なのかが分からず、でもリアに対してとても嫌な気持ちを抱えている事を何処かで発散したかった。
そんなシロナに、リーニャが近寄って頭を撫でる。
「皆分かってるわ。ユウスケがそんな人じゃないって。」
そうやって頭を撫でられ、シロナは落ち着きを取り戻す。
「ありがとねシロナ。ユウスケの為に怒って。」
「怒る……これが、怒る。」
シロナは、自分が怒っていた事を初めて経験し、ユウスケに視線を送る。
ユウスケは、シロナの視線に気付かず、ただリア達の戦いを見ていた。
シロナは思った。リアに、自分の気持ちを伝えるべきだ、と。
ユウスケのことを誤解しているのなら、それを伝えれば、分かってくれると。
シロナは、リアに向けて大声で叫んだ。
「シロナは! ユウスケに助けられた! だから! ユウスケと一緒! ユウスケは悪くない!!」
そのシロナの叫びは、リアの耳を一度ピクッと動かすだけで、戦闘はまだ止む様子はなかった。




