43話 チェックメイト
高レベル同士の戦闘の描写はユウスケ視点だと難しかった為、三人称視点で書いています。
前回のあらすじ
影の集団に遭遇したユウスケ達。
ハスタはユウスケ達に逃げろと伝えた。
ユウスケ達は真っ直ぐ森の外へと向かって駆け出す。
残ったハスタは影の集団を殲滅していくが、そこに現れたのはグラッド。
グラッドの口から漏れた情報から、ハスタは自分が足止めされていることに気付く。
森を抜けようと走っていたユウスケ達は影のリーダー、アレイスターと遭遇する。
逃げ道も塞がれ、為す術もないかと思われた矢先、風のように現れたのは因縁のある銀狼、リアだった。
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~ スワンプウッド 三人称視点 ~
土の壁が崩れる音が周囲に響く。
ユウスケの目の前に降りたリアは、漆黒の短剣を右手に持ち、アレイスターと対峙していた。
後ろ姿だけでも分かる、嫌という程溢れ出す憎悪。
揺れる黒いオーラが見える程に、リアはアレイスターを憎んでいるように見える。
「銀狼……成る程。最近嗅ぎ回られていると思っていましたが、貴方でしたか。」
アレイスターが目を細めてリアを見る。
ユウスケを追いかけていた時と全く違い、無駄なジェスチャー等が無い。
アレイスターはリアを警戒していた。
噂は予予。どの様な者であろうと、首を一太刀で切り落とし殺す。
世間では上級者程のレベルに当たるCランク冒険者でさえ、何も出来ずに殺されている。
戦闘力は、Bランク。達人と呼ばれるそのレベルはあるだろうと。
アレイスターも元Bランク。もしリアにBランクの実力があれば、相当危険な戦いになることは確定だった。
「漸く掴んだ。もう逃さない。」
そう一言呟くと、リアは地面を蹴り、あり得ないスピートでアレイスターに向かう。
アレイスターはノーアクションで魔法を発動する。
広範囲に渡る雷の魔法。軌道の読めない稲妻がいくつも地面へ、木へ、空へと伸びる。
その全てを、リアは読み、見て、避けていく。
アレイスターの顔に焦りが浮かび、すかさず次の魔法を放つ。
選んだのは、風魔法。
リアと自分との間に大きな風の爆発を起こし、風圧でリアを止めるつもりだった。
ゴウッ
大きな風が周囲に広がる。
木々は激しく揺れ、リアの登場によって座り込んでいたユウスケ率いる『救命の志』にもその風圧は襲いかかった。
「うわっ!」
吹き飛ばされそうになるのを周囲の木や地面にしがみつき、何とか耐えるユウスケ達。
その風圧の中、一点を駆け抜けるようにアレイスターの元へリアが飛び出した。
「くっ!」
アレイスターは右腕を前に突き出し、魔力を即座に放つ。
魔力は雷へと変換され、アレイスターを囲みこんだ。
リアはそれを見て後ろへ飛び退く。
冷静に、ただアレイスターを睨み付けて。
「貴女が私に憎悪を抱いているのはよく分かりましたが、はて何の理由があるのでしょう? 恨まれる様なことはした覚えがありませんが。」
アレイスターは雷を纏ったまま、リアに対して問いかける。
リアは静かに口を開く。
「アレイスター、冒険者ギルドアステニア本部の副ギルドマスター。レイフに次ぐ人材と期待されたがわずか2年で姿をくらます。そこから1年。お前は影に入り込み、影の頭脳として金を稼いできた。」
リアはハスキーな低音で語りながら、漆黒の短剣を指でなぞる。
禍々しく光る短剣の腹にリアの顔が映る。その表情は暗く、見えない。
「その方法は、色んな亜人や人族の女性を誘拐し、奴隷商人に卸すと言うもの。お前は数々の罪の無い人間を、地獄に落としてきた。」
その話を聞いたアレイスターが今度は口を開く。
「ははは、殆ど正解ですね。よく調べているじゃないですか。ですが……ひとつ違うところがあります。」
そう言うと、口元を大きくつり上げ、笑い始めた。
大きく手を開き、叫ぶ。
「私はレイフよりも優秀なんですよぉ! あのような保守的で、論理的で、頭の硬いお坊っちゃまよりずっとぉ!」
その目は大きく開かれ、ユウスケ達が感じたのは、狂気。
一頻り叫び終わると、手を下ろし、目を細めて静かに語る。
「私はずっと彼のやり方には納得できませんでした。人間とは論理よりも感情を優先する生き物。我々が人間の感情をうまく扱えば、より効率的に、より多大な収入を得ることができた。この影のように。」
ユウスケ達、リア、そしてアレイスターしか居ない森。
静かな森で、アレイスターの話し声はそれほど大きくないが、よく響いた。
「しかし、彼は何時まで経っても私を認めることは無かった。ですので、私は私の方法で、私が優秀だと証明することにしたのです。」
「それが、誘拐して奴隷商人に卸すことだと。」
「これは単なる踏み台に過ぎませんよ。影はもっと強くもっと狡猾に、いずれは国家を掌握します。既にプランは練ってありますし、アステニア以外にもパイプを作ってあります。今は保守的に生きる時代ではない。」
アレイスターはそう言い終えると、右腕をリアに向けた。
「そういうことで、私はここで終わる訳にはいきません。生きねばならない。貴女がどれほど強いとしても。」
アレイスターの体に纏った雷が消え、右腕に魔力が集まる。
今までで一番の量の魔力が。
それに対し、リアはアレイスターに向かって歩き始める。
「私はお前の考えには一部同感だ。人とは感情で生きる生き物。」
次第にリアの姿が霞み始める。
「な……何だ?」
「感情は人を強くする。」
歩きながらリアの姿は、影に溶けるように消えた。
「なっ!」
「私を突き動かすのは、憎悪。」
周りを見渡すアレイスター。
しかし、姿は何処にも無い。
「ど、何処だ! っクソ!」
アレイスターは地面に右手を着く。
「出てこないなら炙り出すだけ!」
そこから膨大な雷を発生させ、周りに放った。
地面を這い、空中へ跳ねながら全方向に走る稲妻。
「ハハハァ! さぁ! 出てこい!」
周囲に飛ぶ稲妻の中、木の上からアレイスターに向かってナイフが飛ぶ。
「ふっ! そこか!」
纏わせた雷を解除し、土の壁を作ってナイフを防ぎつつ、ナイフが飛んできた方向へ一瞬で雷を放つ。
だが、そこには何も無く。
「憎悪が、私を強くする。」
「ッ! ぐぁ!」
アレイスターの背後、リアの手に握られた漆黒の短剣が突き刺さった。
木の上から投擲されたと思われたナイフ。それは、リアの魔力が作り出した幻影だった。
設置型の幻影。任意のタイミングで発動できるそれはアサシンが使うことが出来るスキル。
暗殺を主とするアサシンは、こういった惑わせるスキルや隠伏するスキルが得意だった。
一瞬の間の後、短剣が引き抜かれる。
「この短剣を、知っているか?」
リアはアレイスターへと問いかける。
アレイスターは額に汗を流し、痛みと、形容し難い拘束感により答えることが出来ない。
「この短剣は断罪者。罪を負う者の魂を喰らい、輪廻の輪から消滅させる禁忌の宝具。」
その言葉を聞き、アレイスターの顔が歪む。
「傷口からお前の罪を、魂を喰らい、喰われた魂は黒く変色する。」
刺された傷口が、徐々に黒く変色していく。
「お似合いだ、アレイスター。罪を償いながら消えろ。」
「う、があぁああぁ! こんな、こんなところでっ!」
痛みと、全身が徐々に石になっていくような感覚に襲われながら、アレイスターは咆哮した。
最後にその言葉を残し、アレイスターはリアに首を落とされた。
~ スワンプウッド ユウスケ視点 ~
壮絶な戦いが、目の前で繰り広げられた。
始終、リアとアレイスターの攻防は目で追うことが出来なかった。
特に、リア。
始まりも唐突で、そして終わりも唐突だった。
派手な魔法を連発したアレイスターが、木の方へ雷を放った瞬間に背中から刺されていた、位にしか認識できてない。
で、リアとアレイスターの会話、驚きの情報ばかりが聞こえてきた。
アレイスターが副ギルドマスターで、影のリーダーとして人攫いを指示。
ゆくゆくは国を乗っ取るような事も言っていた。
リアはそれに対して憎悪を抱いている。
過去に何があったのかは知らないけど、誘拐と奴隷商人に何か因縁があるらしい。
「私は、成し遂げなければならない。私の為に。一族の為に。」
リアは落ちたアレイスターの首に対してそう呟いた。
俺は今、かなり落ち着いている。
アレイスターの標的が俺から外れたと言うのもあるし、とんでもない戦いを目の前にして逆に冷静になったみたいなやつだ。
そんな状態でヒロツグさんのある言葉を思い出していた。
それは、リアに目の前で人を殺されてどう思ったか。
俺は今、どう思っているんだろう。
地面に転がるアレイスターの首を見て、それでも俺は多分何とも思ってない。
魔物を倒し続けて、死と言うものにある程度の耐性がついてきたのか。
それとも、極限状態だったとはいえ、目の前でリアが人を殺す姿をもう何回も見たからか。
どちらにしても、今の目の前のアレイスターに対しては、それ程何も感じていなかった。
自分が、そしてリーニャとシロナが助かったことの方が、よっぽど大きい。
リーニャとシロナが俺の隣へと近寄ってくる。
どちらも、怪我をしているわけじゃなさそうだ。
「リーニャもシロナも、大丈夫だった?」
「うん、何とか……」
「平気。」
本人の口からもそう聞けたし、安心した。
アレイスターの隣へ立っていたリアが、ゆっくりこちらを振り向く。
細めた様な目で俺達の方を振り向いたリアは、こっちを見るなり目を見開いた。
直後。
リアは俺達に向かって地面を蹴った。
「……は?」
そう呟くのが精一杯だった俺と、言葉も出なかったリーニャに対して、唯一シロナだけが俺の前にでて庇う体勢になる。
やっぱり、俺の命を狙ってきたか!
およそ距離にして20m程の位置から、一瞬で眼前に迫るリア。
しかし、シロナが前に出たことで何故か空中へ跳び上がりシロナを回避し、俺達の後ろに回った。
着地後、すぐにこちらに向けて加速するリア。
早すぎて、シロナも追いついていない。
リーニャも、俺も、動けていない。
クソ、最悪だ。
こんなのが相手じゃ、戦うことも逃げることも出来ない。
「ハァッ!」
急に聞こえた声は、俺とリアとの間に割って入った。
「ハ、ハスタさん!」
それは影の連中から俺を逃してくれたハスタさんだった。
リアの漆黒の短剣を、ハスタさん愛用の短剣で受ける。
リアは、そのまま短剣を横に流し、ハスタさんに回し蹴りを放った。
「ぐぅっ!」
衝撃で横に飛ぶハスタさん。
回転のままに、俺を切りつけようとするリア。
「ダメッ!」
リーニャとシロナが俺の前に出て庇う。
リアは、地面を蹴って距離を取った。
クソ、俺は女の子に守られてばっかりだ。
ステータスの差が、こんなにも大きいなんて。
リアは離れた所に着地し、ゆらゆらと揺れながら少しずつこちらに歩いてくる。
憎悪の対象は、どうやら俺だけらしい。
以前にも言っていた、私はお前が嫌いだ、と言う台詞の通りに。
ハスタさんも起き上がって俺の前へ出てくれる。
「ぐっ……あれは銀狼か。商人を殺しまくっているヤツだな……?」
ハスタさんがそう呟いた。
憲兵団と冒険者ギルドはしっかり情報を共有しているようで、ハスタさんはリアの事を分かっていた。
ハスタさんはこちらに少し目を向ける。
「何で君が狙われている……?」
「恐らく、俺が隠伏スキルを見破ることが出来るからだと思います……多分。」
「君が何故そんなことが……いや、それは後で良いな。まずはあれをどうするかだ。」
そう言うとハスタさんはリアに向き直した。
ゆらゆらと揺れながら、一歩ずつ一歩ずつこちらに近づいてくる光景は、まるで死へのカウントダウンを行われているかのようだ。
ゆっくりと歩いてくるリアが、口を開く。
「元々、モンスターテイマーの事が嫌いだったが……ついに、人型に手を出したか。」
俯き気味のリアの表情は読み取れない。
ただ、とてつもなく黒いオーラが周囲を取り巻いているのはよくわかった。
「キサマのやっていることは、奴らと同じだ。」
少しずつ近づいてくるリアが、そう俺に言う。
「奴らと同じ……? どういう事だ。」
ハスタさんが俺の代わりに疑問を投げた。
リアは立ち止まり、言葉を続ける。
「人を攫って奴隷にしているのと同じだ。」
顔を上げたリアの目には、狂気的な殺意が篭っていた。




