42話 元凶
前回のあらすじ
見事ウグバゴを倒すことが出来たユウスケ達。
試験官であるハスタも姿を現し、戦闘に対する評価を貰う。
ウグバゴの討伐証明部位の剥ぎ取りと言う合格を目前にしていきなり現れたのは、影と言う集団だった。
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「影……?」
ハスタさんが呟いた言葉に聞き覚えは全く無い。
だけど、恐らく今現れたあの10人程の集団の総称なんだろうくらいは予想できる。
ほぼ黒に統一された服装、成る程分かりやすいくらいに影だ。
ハスタさんは逃げて、と言った。
それは、俺達では戦力にならない程の強さを持っている。
つまり、俺達と同等のEランクか、それよりも上の集団って事だろう。
逃げるが吉、スピードで勝っていることを祈るしか無い。
「リーニャ! シロナ! 逃げるぞ!」
俺達はハスタさんに背を向け、走り出した。
~ スワンプウッド ハスタ視点 ~
目の前に現れたのは10人の集団。
影と総称されるその集団は、少し前まで商人等を襲い、物品を盗難していた盗賊団だ。
戦闘ランクはリーダーが凡そD程度。団員になると所詮はE程度だろう。
ここまで接近されていることに気付けなかったのは癪だが、戦闘において遅れを取ることはまず無い。
今回はリーダーの姿が見えないが、周囲を探せばすぐ見つかるだろう。
こいつらの後に巣を潰しておくのがベスト。
後ろで走っていく音が聞こえる。
賢明だ。無駄に熱い感情に身を任せてこの場に残るより断然。
目の前の集団から3人、『救命の志』への追跡を試みたようだが。
「させるか。」
俺の手元から消えた投げナイフが、奴らの足へと刺さる。
「おい、ウグバゴに手こずってただろ……? 今手元が見えなかったぞ……?」
「くそっ! お前あのパーティの仲間じゃねぇのかよ!」
どうやら、俺の事を『救命の志』の一員だと勘違いしているようだ。
身の程知らずには教えてやらないといけないな。
「俺はハスタ。ギルド職員であり、今回のあいつらの試験官であり……」
腰に下げていた愛用の短剣を引き抜き、足にナイフが刺さって動きの鈍っている一人を始末する。
奴らが俺に速度で届くことはない。
「元Bランク冒険者の、ローグだ。」
10人対1人という人数差。
1ランクまでなら脅威の範囲ではあるが、EランクからBランクまで3ランクもの違いがある。
ここまで離れると、数の差と言うのは全く脅威にならない。
見えても、追えず。
追えても、掠らず。
ただ一方的に蹂躙するだけの単純作業。
に、なるはずだったのだが。
「やけに粘るね。Eランクくらいかと思ってたけど、皆Dはありそうだ。」
最初の犠牲者を含め、足を負傷していた3人は簡単に葬ることが出来たのだが……
残りの7人は、それなりに武術に関して心得があるようだ。
誰に学んだのかは分からないが、一人ひとりがリーダークラスだと言っても良いレベルにまで引き上がっていた。
元より、盗賊等という集団は冒険者の脱落者共だ。
Dランクへの昇級で冒険者を諦める者が多い。
そんな奴らが盗賊に成り下がっておきながらここまでの戦闘力を持っているとは驚いた。
「くそっ! Bランクが相手なんてついてねぇ!」
悪態をつきつつも、奴らは俺から視線をそらさない。
いや、そらせない。
俺から視線を外すとどうなるのか、理解しているんだろう。
初めは『救命の志』を追おうとしていた奴らも、考えを改めたようだ。
俺に背を向ければ死ぬ、と。
人間、ある時には冷徹にならねばならない。
こういうゴミとも呼べる集団に、慈悲をかけていてはならない。
奴らの攻撃を躱しつつ、一人ずつ確実に殺していく。
飛び散る血、上がる悲鳴。
こういうのは余り、得意ではないのだがね。
「うっ、うわあぁぁぁぁぁ!」
7人目の首を掻っ切る。
残り3人。今頃は『救命の志』達もこの森を出ている頃だろう。
「おいおい、ここまでやられてんのか。」
森の奥から気配が近づいてきて、そう言葉を発した。
ガタイの良い、大斧を持った男。
思い当たるのは、一人。
「お前、リーダーのグラッドか?」
その言葉を聞いて、男はニヤリと笑う。
「半分正解で、半分間違いだな。」
男は、立っていた場所から急加速し、こちらへと向かってきた。
速い……!
振り下ろされる斧を躱す。
「俺はグラッドだが、リーダーじゃねぇ。」
「なんだと?」
「今のリーダーは、俺達を高みへと昇らせてくれる素晴らしい人だ。」
大斧を振り回し、俺へと連続で攻撃を仕掛けてくるグラッド。
しかしその取り回しに隙は殆ど無い。
大斧に対して短剣では単純に押し負ける。
全ての攻撃を躱し、反撃の機会を伺う。
「ハッ、盗賊ごときに素晴らしい人間なんて存在しないだろう。」
「さぁ、名前を聞いてもそう思えるか?」
余裕そうな表情を浮かべ、グラッドはその名前を口にした。
「我らが影のリーダーは、アレイスター。」
どくん
脳が揺れる。
そんな筈はない。
「そんな筈はないッ!」
怒りと動揺を掻き消すように叫ぶ。
「さぁ、どうだか。信じるか信じないかはお前次第だ。」
バカバカしい! アレイスターだと?
ハッタリだ、冷静になれ。
「ハッ! その話が本当なら、俺の相手はアレイスターでないと務まらないだろうが?」
「あぁ、そうだな。倒すならの話だが。」
「倒すなら……ッ!?」
俺は一つの考えに辿り着き、『救命の志』の後を追おうとした。
しかし、行く手には残り3人の雑魚とグラッドが立ち塞がる。
「おっと、お前にはアジトの近くで煩く騒いだツケを払ってもらわなきゃなんねぇんだ。いかせねぇよ。」
「くそっ! どこまでもフザケやがって!」
こいつらの目的は足止めだ。
こんな奴らに時間を食われる訳にはいかない。
『救命の志』も助けなければならないし、何よりギルドマスターに報告しなければならない。
影のリーダーがアレイスター。
アステニアの、副ギルドマスターだと。
~ スワンプウッド ユウスケ視点 ~
俺達が離れた後、後ろでは戦闘の音と声が鳴り響いていた。
リーニャやシロナの気配感知に全く引っかからない程の腕を持っていれば、あの連中はどうってこと無いのかもしれない。
全力で一直線に森の外を目指す。
「後ろに気配は?」
「無い。分からないだけ、かも。」
シロナに聞いてみたけど、返事は曖昧なものだった。
シロナ的にはあの10人に気付かなかったんだし、今回の感知が正しいとも断言できないんだろう。
「どっちみち前に障害がない限り、走って抜けるだけだ!」
森の外に出てしまえば、姿が見える分立ち回りも楽だ。
出てしまえば……
「では、道を塞いでみましょうか。」
聞きなれない低音の声がした直後、俺達の進行方向が突然爆発する。
「うわっ!」
慌てて立ち止まるが、バランスを崩してこけてしまった。
何が起きた?
目の前には、大きな土の壁が出来上がってきた。
今さっきのは爆発じゃない、コイツが地面からいきなり出てきたのか。
恐らく、魔法だ。
「おや、派手にぶつかってくれても面白かったのですが。」
後ろから声がする。
「誰?」
リーニャが声のした方へ問いかける。
姿を表したのは、長い黒髪の30代後半くらいのメガネをかけた男だった。
「私が誰か、そんな事はどうでもいいのですよ。」
その男は、わざとらしい手振りで俺達に語りかける。
「拠点の近くで騒いでいたものですから、少し迷惑料を頂きに参ったのですよ。君達はお金を余り持っていなさそうですから、物品で良いですが。例えば……そこのエルフとハーピィでも。」
あぁ、ふざけた発言だ。
恐らくさっき俺達を襲いに来た影って連中の関係者。
魔法の規模を考えると、連中の中でもトップレベル、つまり。
「お前、影のリーダーか。」
「おぉ、理解が早くて助かりますねぇ。」
影のリーダーは俺達の方向へ向けて右手を広げる。
次第に魔力が集まってきているのが何となく分かる。
魔法を使う気だ。
「悪いのですが、こちらも時間がないもので。さっさとその二人を寄越して貰えませんかねぇ。」
魔力を溜めた右手が、バチバチと音を立て始める。
土に雷、複数属性を操る魔法使い。
どれほどの価値かは分からないが、複数属性っていうのはレアなんだろうなぁ。
最悪だ。
「そんな要求乗れるか!」
啖呵を切ったが、ぶっちゃけ逃げる算段も勝つ算段もない。
とにかく相手の攻撃が当たらないのを祈って逃げる。
「シロナ! 出来るだけ高く飛べ! リーニャも横に外れて逃げろ!」
奴の狙いがあの二人なら、俺がしばらく足止めをするしか無い。
「でもっ!」
「いいから!」
「無駄ですよ。」
逃げようとしたシロナの前にも、リーニャの前にも、いきなり土の高く壁が上ってくる。
右手に魔法を発現しつつ、だ。
あいつ、同時に複数の魔法を使いやがるのか!
「クソ!」
俺は影のリーダーに向き直し、剣を構える。
逃げる事はできない。なら、戦うしか無い。
「ハハッ、諦めませんか。まぁ、コレで終わりですがね。」
影のリーダーは、右腕に溜めていた魔力を、雷魔法を放つ。
ヒロツグさんのパラライズを、リーニャでさえ避けられなかった。
それ程に、雷魔法っていうのは速い。
そんなの、俺に避けられるわけがない。
「うああぁぁぁぁああぁぁ!!!!」
意味のない咆哮。
迫る雷を前に、俺は何も出来ないまま。
「んー!!!!!」
「シロナ!?」
シロナが俺の身体を掴んで無理やりずらす。
雷魔法は、背後の土へと当たって消えた。
「……ほう。」
影のリーダーはそう呟くと、メガネを直す様な動作をする。
それより、シロナはいつの間に俺の近くへ……?
「ユウスケ。」
シロナがゆっくりと俺から影のリーダーへと視線を移す。
「見える。」
シロナはそう言った。
見える。
アイツの攻撃が?
「シロナ、戦えるのか? アイツと?」
「ん。」
攻撃が見えない俺が戦うより、見えるシロナが戦った方が勝機はある。
俺とリーニャが援護すれば、どうにかなるか……?
いや、危険だ。
アイツの狙いはシロナとリーニャ。
向かっていけば思う壺。
「シロナ、見えるなら尚更リーニャと逃げてくれ。」
「いや。」
「ダメだ。」
シロナは、頑なに頷かない。
逃げることを、しない。
「次は避けられませんよ。」
影のリーダーが俺達に向けて両手を広げる。
集まる魔力。
絶対にやばい。
「あぁもう! なるようになれだ!」
俺は盾を構えて衝撃に備える。
効果があるかは分からない。だけどやらないよりはマシだ。
魔法を撃った直後の隙にシロナやリーニャが攻撃を加えるしか無い。
「大丈夫、殺しはしませんよ。」
影のリーダーはニヤリと笑い、バチバチと鳴る両手から魔法を……
「ん、誰ですか。」
俺達の方ではなく、少しズレた斜め後ろに放った。
直後、シュッと言う風を切る音。
数個の何かが影のリーダーへと向かっていく。
それを土魔法で小さい壁を作って防ぐ影のリーダー。
そこに刺さっていたのは。
「……ナイフ?」
呟いた俺の前、スタッと着地したのは前にも出会ったことのある。
ある種の因縁があるあの獣人。
「漸く見つけた、アレイスター。」
銀狼のアサシン、リアだった。




