41話 昇級条件その1-4
前回のあらすじ
ウグバゴの戦闘に苦戦するユウスケ達。
苦戦しながらも攻略の糸口を見つけ出す。
音を頼りに索敵をしていると感じたユウスケは、大声で注意を引き寄せる作戦へ出た。
その頃、アステニアの冒険者ギルドでは、連続誘拐事件について捜査を進めていた。
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ウグバゴは、毒々しい液体を口に溜めた状態で、リーニャに向き直した。
直後放たれる毒液。
「ッ! なんで!!」
リーニャは音を立てていないのに!
リーニャはウグバゴを挟んだ反対側に位置取って居た為、ウグバゴは俺に背を向ける形となった。
その御蔭で、レイから撃ち出された酸弾はウグバゴの表面の粘液にあたり、ジュワジュワと音を立てながら粘液だけを溶かした。
「リーニャ!」
急に毒液の標的になったリーニャは不意を突かれながらも何とか横に転がり躱していた。
「ん!」
シロナが風魔法をウグバゴに放ち、毛を切り落とし肌を傷つける。
毒液を吐いたウグバゴは、屈んで突進の準備をしている。
誰だ、誰に行くんだ。
ゴウッと風を巻き込んで跳躍したウグバゴの行き先は、空。
また音を立てていない方向かっ!
「シロナ!!」
ウグバゴが身体を捻りながらシロナへ向かって大口を開けて突っ込む。
速い。
「んんんっ!!!」
シロナは自分のすぐ左側に風の爆発のようなものを発生させて真横に飛ぶ。
その際、身体を捻って足の鉤爪でウグバゴの毛の禿げた身体へ斬撃を入れた。
「ナイス回避!」
リーニャが弓を絞る。
「私も良いところ見せないとねっ!」
放たれた矢は3本だ。
かなりの高さまで跳躍していたウグバゴの自然落下に合わせて、リーニャの矢が飛んでいく。
1本は足に、1本は胴体に、そして最後の1本は先程抉れた傷に突き刺さった。
「グオオォォォっ!」
足に数本の矢が刺さっているウグバゴは、着地に失敗し胴体から叩きつけられる。
大口を開けてもがくウグバゴを見ると、視界の隅に何かが映った。
あれは、俺が突進を受けた時に弾き飛ばされた剣か!
ウグバゴは今体勢を崩している、拾うならチャンス!
俺は剣へと駆け出した。
ヒュンヒュンという音、シロナがウグバゴへ風魔法で追撃しているようだ。
剣まであと少し、と言う所で上からガサッと音が聞こえた。
上を見上げると、そこにはヴェノムイーターが。
騒ぎを聞いて近寄ってきやがったのか!
ヴェノムイーターは俺に向かって飛び降りてきた。
「キシャァァ!」
「くそっ! こんな時に!」
盾を使って弾く。ヴェノムイーターの頭に盾が直撃し、そのまま左に吹っ飛んでいった。
だけど大したダメージじゃないはずだ。すぐにこっちに向かってくる筈。
俺は剣を拾ってヴェノムイーターに向き直す。
「走って!」
遠くでリーニャが俺にそう叫んだ。
直後に放たれる矢。
矢はヴェノムイーターの胴体へと刺さり、そのまま地面に縫い付けられた。
「ありがとうリーニャ!」
俺はウグバゴへ向かって走り出す。
ウグバゴはシロナの風魔法を受けた後、空中から全体重をかけた急降下キックをくらい、未だに立ち上がれていない。
あの口の中にどうにかして酸弾をぶち込んでやりたい、その為には……
「シロナ! 足の毛を落としてくれ!」
「んっ!」
空中に舞い戻ったシロナは、風魔法をウグバゴに向けて放つ。
それはウグバゴの足付近へと音速で迫り、一部の皮膚が露わになる。
足を落としてしまえば、もう動けない。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
もがくウグバゴの動き回る足に何とか当たるよう願いながら全力で剣を振り下ろす。
その願いが通じたのか、足へとヒットした。
「グルゥゥゥッ!」
だが、硬い。切断には及ばない。
「くそっ!」
「かぜ!」
上からシロナがそう叫ぶ。
風? 魔法か?
そこから飛び退く俺。
シロナは俺が入れた切り傷に向けて、風魔法を放つ。
見事傷に重なるようにヒットし、足を切り落とす。
シロナは、風魔法を使う度に精度や威力が上がっている気がするな。
コツを掴み始めたんだろう。
足を一本失い、自由を奪われたウグバゴは口へ毒液を溜め始める。
でも、もうあれじゃ撃つ位置も定められない。
「レイ、酸弾!」
レイがカバンからひょこりと顔を出して、酸弾を放つ。
今度こそ、完璧なコース、完璧なタイミングを持ってウグバゴの口へと向かっていく。
「自分の毒とブレンドされろ!」
酸弾が口の中へ直撃する。
直後ジュウッという音とグロテスクな匂いが立ち込める。
「ゴポォッ!」
ウグバゴはしばらくのたうち回ったが、徐々に動きが鈍くなり、完全に止まった。
ウグバゴ、討伐完了。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
身体が震える程の大きな声で叫んだ。
ついに、ウグバゴを討伐した。
「強かった。」
シロナが降りてきて俺の隣へと着地する。
「本当、強敵だったわね。今までで一番強かったわ。」
リーニャもこっちに近寄ってくる。
「でも、攻撃を受けたのは俺だけだし、殆ど被害なく勝てたのは凄いよ。」
「私達は、速度に自信があるからね。」
リーニャはシロナを抱き寄せてそう言った。
そう言えば最初にそう言ってたな。
リーニャもシロナも、周りを見る能力が凄い。
シロナは口を開けたウグバゴが屈んだ時、すぐさま突進だと判断して俺を助けてくれた。
リーニャは俺が剣を拾いに行った時、急に出てきたヴェノムイーターに援護射撃を行った。
本当、いいパーティに恵まれたな。
「あっ! ヴェノムイーターは!」
リーニャが矢でヴェノムイーターを縫い付けた方向を見ると、一人の男性がこちらに歩いてきた。
白髪のウルフカット見たいな髪型で、白いシャツの上に黒いマントを羽織っているような格好をしていた。
凄いキザなイケメンって感じだ。
「うん。大丈夫。ちゃんと処理しておいた。」
その男性の手には、首を落とされたヴェノムイーターが掴まれていた。
「えーと、貴方はもしかして冒険者ギルドの?」
「そう、試験官だ。ハスタと言う。」
ハスタと名乗った男性は、紙を取り出して俺達に評価を伝えた。
「事前の準備や情報収集は問題無い。Eランク帯にしては寧ろよく出来ている方だ。そのスタンスはそのまま続けて。戦闘に関しても、まぁコイツを殺れるなら問題ないかな。ただやっぱり防御力不足で危なっかしい感じがあるから、戦士をパーティに誘ってみても良いかもしれない。」
防御力に関してはハスタさんの言う通りだ。
攻撃を受けられるし、受け流せるみたいな守りの要が欲しい。
攻撃はリーニャとシロナが居るから、多分足りてないことはない筈だ。
「戦闘中の観察や情報収集も中々鋭い、ハーピィの子とアーチャーの君は味方の状況を、テイマーの君は敵の情報を把握することが上手い。それぞれに判断力もあるし、まさに司令塔とそれを守る兵士って感じの良いパーティだと思う。まぁ、司令塔にしちゃ前に出すぎだけどな。」
確かにシロナとリーニャは味方の状況を見ることが上手い。
戦闘中何回も助けられたし、何回も思った。
でも、俺が敵の情報を把握することが上手い……?
「後半、ウグバゴの動きを予測することが出来ませんでしたけどね……」
ウグバゴは音だけを頼りに周囲を把握していると思った。
だけど、後半のアイツの動きは違った。一番大きな音を出していた俺ではなく、リーニャやシロナへも攻撃を仕掛けに行っていた。
「そうだな、思い込む所は直した方が良いな。」
「もっと討伐前に情報収集するべきでしたね……」
「いや、討伐前の情報収集は上出来だぞ。そもそもウグバゴの情報はわざと削ってあるんだ。」
「……えっ?」
「高ランクになったら、完全に把握することが出来ていない魔物も多い。いつどんな攻撃を仕掛けてくるかは分からない。だからウグバゴの情報はわざと削って、戦闘中に臨機応変に対応出来るかどうかのテストもやっているんだ。」
そうなのか、道理で集めた情報にない動きをすると思った。
ちなみに、集められなかった情報と言うのは、毛に粘液を分泌する効果がある、基本は音によって周囲の生き物を察知している、皮膚が露出する割合が高くなればその分音を拾う能力が上がる、と言うものだ。
後半のウグバゴがリーニャやシロナを狙ったのは、羽ばたきによる音や足音等の些細な音も拾えるようになったからだと言う事。
つまり、大声を出すという発想は間違ってなくて、風魔法等で毛を切り落とした後半にウグバゴがもっと些細な音を拾えるようになった事に気付いて居ればもっと良かったという事か。
まぁ、これにて無事ウグバゴの討伐を完了した。
今日は取り敢えず戻ろう。
ウグバゴの討伐証明部位は足の爪だ。
一本だけ、ほぼ毎回突進の際に力をいれる足がある。
その足の爪は、踏み込む力を強める為に異常に発達しているのだ。
爪を取るのは中々大変だと聞いているけど、文句は言ってられないんだよなぁ……
そうして、剥ぎ取りを開始しようとした時、ハスタさんが表情を変えた。
「ちょっと、動かないで。」
剥ぎ取りをしようとした俺達を静止させ、周囲を確認するハスタさん。
頬を汗が伝う。
「これは、マズいなぁ。」
その独り言の後に、木陰から何かが飛んでくる。
ハスタさんが素早く腰に下げていた短剣で弾くと、それは投げナイフだった。
投げナイフが弾かれたのが合図かのように、木陰から人影が現れる。
その数、10人。
「一体何なの?」
リーニャとシロナが戦闘準備をする。
俺も剣を構えた。
「やめろ、ここからまっすぐ後ろに逃げろ。」
戦闘準備をした俺達に、ハスタさんはそう小声で言う。
「そんなにヤバイ奴らなんですか?」
俺が小声でそう尋ねるのが耳に入ってないかのように、一言呟いた。
「影……」




