36話 新しい名前
ちょっと文字数少ないですが、キリが良いので一度切りました。
前回のあらすじ
白いハーピィが仲間になったよ!
---------------------------------------
今、俺達は憲兵団の寮の中にある食堂にいる。
皆揃って食事の時間だ。憲兵団の団員に加え、俺達『救命の志』とヒロツグさん、そして今回護衛として参加してくれた『不屈の魂』のメンバー。
「俺達も食事をもらって、なんか悪いな。」
と、言葉を溢すガウン。
他の三人も、縮こまるようになりながら食事を取っている。
そんな中、一際目立つ存在が居た。
「んーーー!!」
料理を食べ、ジト目でほぼ無表情なのに、目を輝かせながら立ち上がって叫んでいるシロ。
最初は椅子に座ったまま「んー!」と言っていただけだったのだが、料理が運ばれてくる度にリアクションが大きくなっていき、最終的にはあんな感じになった。
まぁ、調理された食事っていうのは、恐らく人間くらいしか食ってないだろうし、初めて見る物で、初めて食べる味で、それが美味しいとなればそうなってしまうのも分かる。
口の中に食べ物が入っているので、毎回んー! しか言えてないのだが、その様子を見ればどれだけ料理に感動しているかが分かることだろう。
目の前に置かれた料理を平らげた後、大きな声で「おかわり!」と言って、椅子に座りわくわくしている。
手が人間の作りと違うのでどうかと思ったのだが、案外スプーンやフォークを器用に持って食事をとっていた。
そして、なんと言ってもモリモリ食べる食べる。
某大食い女王もびっくりの食べっぷりだ。
先程から運ばれてくる料理がものの数分で空になる様子は見ていて気持ちの良いほどだ。
あのどちらかと言えば華奢な身体のどこに料理が消えていっているのか不思議だ。
周りで食事を取っている憲兵団の人達も、いいぞー! とか、もっと食えー! とか野次を飛ばしている。
そんな中、俺はある事が気がかりだった。
シロを説得したあの後、シロから許可も得たところで、テイムの作業に入ることにした。
シロの体調が見やすくなるし、早めにやっておいたほうが良いと思ったからだ。
シロと手を重ねたまま、シロの魔力と俺の魔力を同調させるイメージを起こす。
俺の魔力が、徐々にシロに流れていくのが少し分かる。
戦闘中のテイムとは違う、俺の魔力が混ざっていく感覚。
それはシロの中でぐるぐると回り、シロがそれを包み込む。
水と油のように分離していた魔力が、ある一瞬でプツッと融合する。
そうやって、レイをテイムした時とは全く違う感覚で、テイムを終えた。
そのテイムの状況を思い出しながら、ステータスを開く。
-
noname
12歳
種族:ハーピィ
状態:栄養失調
Lv9
HP 102/116
MP 55/86
STR:94
VIT:66
INT:102
DEX:145
AGI:162
【所持スキル】
[U]痛覚遮断
風属性魔法
気配感知
-
討伐難易度がCランクの割に低いステータスは、恐らく生まれてから今まで戦闘という戦闘を行っていないからだと思う。
一緒に依頼を受けつつレベルを上げれば、Cランクらしい強力なステータスになってくれる筈だ。
俺が気になったのは、所持スキルの方だった。
ユニークスキルの、痛覚遮断。
そのスキルはどういう効果なのか、何故そのスキルを持っているのか、想像できてしまうのが嫌だ。
恐らく後天的に会得したスキルだ。
それも、ハーピィの集落での生活で。
ユニークスキルを手に入れないと、耐えられない状況だったんだ。
俺はそれを見て、彼女に、シロに幸せになってもらいたいと思った。
いや、幸せにする。してみせる。
じゃないと、あんまりじゃないか。
そんな俺の思考なんて全く知らないまま、シロは当分運ばれてくる料理に舌鼓をうっていた。
「決めた!」
食事が終わって、もう一度医療室へと戻ってきた瞬間にシロが放った一言だった。
「何を?」
「生き方!」
シロは、生まれた環境のせいだろうけど、あまり長文を喋らない。
基本的に伝えたいことを、単語でバシッと投げてくる。
「どう生きるの?」
「美味しいものを、沢山食べる!」
今日の料理が相当気に入ったらしい、シロは自分の人生を食べ歩きツアーで埋め尽くしたいそうだ。
それもいい。幸せなんて人それぞれだし、食べるのは俺も好きだ。
なら、叶えればいいだけだ。
「すぐにじゃないけど、色んな国へ行くつもりだから、色んな料理を食べれると思うよ。」
「ん!!」
俺の言葉を聞いて、嬉しさのあまりに爆発しそうになっていた。
色んな国に行くのは本当だ。モン娘の生息地がバラバラだから、探し回っていると必然的に色んな国を回らなきゃいけない。
でも、それは当分後だ。まずはランクを上げるし。
ところで、先程開いたステータスをもう一度思い出す。
俺はずっとシロと呼んでいるが、名前はまだnonameなのだ。
つまり、名付ける必要がある。
俺が、今から名前はシロだって言えばそうなるんだろうけど、シロって呼ばれるのが本当は嫌なのかもしれないし、一度は確認しないと。
「そう言えば、ずっとシロって呼んでるけど、名前変えたい?」
「…ん。」
はしゃいでいたシロは、ベッドに腰掛けて少し考える。
そして出した結論は
「変える。」
だった。
新しい命には、新しい名前を付けて欲しい、とのことだ。
それが、彼女なりの切り替えなのかもしれない。
何にせよ、名前を変えたいと言っているなら変えようじゃないか。
俺が名前をつけるのだ。
……。
「ヒロツグさん! リーニャ! 緊急会議!!!」
俺は二人に助けを求めた。
~
「新しい名前……ねぇ。」
ベッドにちょこんと座るシロの周りに、俺、リーニャ、ヒロツグさんが座る。
「白い、で連想出来るのは天使とか……?」
「でも、なんとかエルみたいな名前ってちょっとイメージが違うよね。」
先程から名前を考えているのだが、中々いい案が浮かばない。
「そもそも、レイの名前を付けた時はどうやって思いついたのよ。」
「それは、レイはテイムした時生まれたての0歳だったから……」
「結構安直なのね……」
今回もテイムした場所とかから捻り出そうとしてみた。
でも、山だ。山の中腹だ。どうもじっても名前にならない。
「ハーピィとは、ギリシャ読みではハルピュイアと言うんだ。だからそれをもじってハルにするのはどうだろう。」
ヒロツグさんが案を出してくれる。
「ハル……か。」
そう呟きながらシロの方を見る。
その真っ白な姿を見て、連想したのは。
「どっちかって言うと、フユだよね。」
「ん? あぁ、確かにそうだね。」
俺が何気なく呟いた言葉に、ヒロツグさんは笑って答えた。
「やっぱりシロからもじったほうが良いんじゃないかしら。」
リーニャの言う通り、シロからもじったほうがイメージも合うし馴染みやすそうだった。
でも、シロから改名するんだし、違う名前がいいよなぁ。
「シロ、なぁ……」
あまりにも浮かばない案に溜息をつくようにそう呟くと、シロが反応した。
「ん!」
「? 何?」
「シロナ!」
シロナ? あぁ、俺が呟いた言葉が名前っぽくなったのか。
シロナ、確かにイメージ的には悪くない。
ていうか、気に入ったのか?
ステータスを開くと、名前がシロナになっていた。
「えっ早くない?」
「どうしたの?」
リーニャやヒロツグさん、果てには俺までもが分からないうちに名前が決まってしまった。
「えーっと、じゃあ今日からシロナね。」
「ん!」
「えっ? ちょっと待って。」
置いてけぼりのリーニャとヒロツグさんを横目に、シロナの命名式は終わった。
勝手に名前がついていたことは、ちゃんと後で説明しました。偉い。
名前も決まったところで、今日は取り敢えず休息を取ることにした。
食欲に関しては問題ないし、二日もすれば体調も万全になるだろう。
いや、もしかしたら明日には万全かもね……
取り敢えず今日は様子見として憲兵団の医療室で寝泊まりすることになった。
シロナはベッドに潜り込むとすぐ気持ちよさそうに眠りについた。
そうだな、ベッドとかも使ったこと無いんだよなぁ。
「何だか、魔物だなんて信じられない寝顔よね。」
シロナの寝顔を見て、リーニャがそう言った。
寝顔だけを見ると、普通の少女だ。
いや、12歳なんだし普通の少女なんだよな。
魔物だなんだって勝手に線引してるのは、多分人間のほうだ。
「そうだね、普通の女の子だ。」
シロナは、生まれがたまたま普通と違っただけで、普通の女の子だ。
食べ物に限らず、人間の生活での贅沢を片っ端から経験させてあげよう。
明日は取り敢えず、依頼をこなした後にアステニア内の食べ歩きツアーだな。
そう意気込んで、俺も眠りにつくことにしたのだった。




