35話 不得意分野
2017/02/16 一部文章の見直しを行いました。
前回のあらすじ
『不屈の魂』メンバーの皆と話をして、白いハーピィは人間に対する生け贄として生かされ続けてきたのではないかという推測をしたユウスケ。
門についてギルドマスターの返答を待っている間、リーニャとハーピィの乗る馬車で待つことに。
その頃、手紙を受け取ったギルドマスターのレイフは、憲兵団で受け入れ体制を整えてもらうと共に、これから来るであろう世界の大きな変化の為に準備を始める。
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しばらく馬車で待っていると、先程走って町中に消えた兵士が戻ってきた。
ギルドマスターから伝言のようだ。
内容は、前にリーニャ誘拐があった時に俺が治療してもらった、あの憲兵団の寮に向かってくれとのことだった。
どうやら、そこの治療室を使って良いと言うことらしい。
確かに一般人や冒険者は寄り付かないし、話が通ってある状態ならハーピィを見るなり攻撃なんてことにはならないだろう。
しかし、帰ってきて間もないのにそんな簡単に許可が出たのだろうか。
ヒロツグさんはこの国では相当地位の高い人なのかな……
布で隠された馬車の中で揺られること数十分。
つい最近お世話になった寮へと到着する。
馬車を迎えてくれたのは、聞き覚えのある声だった。
先に降りたヒロツグさんと会話をしている
「すみませんな、このような小汚ないところで。」
「いえいえ、僕の無理を聞き入れて貰えただけでも感謝です。それに手入れも行き届いていてとても綺麗な寮だと思いますよ。」
「恐縮ですな。して、こちらの馬車に?」
「えぇ、そうです。」
そう言って俺達が乗っている馬車の中に顔を覗かせたのは
「ん? 君達は……」
「ども……お久しぶりです。」
憲兵団のヴェルニーだった。
「いや、驚いたな。あの時の少年か。レイフ殿から取り次いでくれと言われ、どんな大物が来るものかと内心ヒヤヒヤしていたところだ。見知った顔で安心したよ。」
「俺の方も、知らない人に囲まれるより安心します。」
「はは、そうだろうな。憲兵団は活動内容に反して、人を殺しそうな悪い顔の奴ばかりだ。」
ヴェルニーは、笑いながらそんな冗談を言う。
今俺達は医療室にいる。
ハーピィの治療の為に運び込んだ後、軽く世間話をすることになった。
今ハーピィはクアレオ修道院のビショップであるパーラの治療を受けている。
パーラはどうやら憲兵団専属のような立ち位置にいるらしく、大体傷ついた人はパーラに治療されている。
その慈母のような笑顔と包容力に、恋をしてしまう団員も珍しくないとか。
ハーピィの状態を確認した時に立ち会ったのだが、身体中についていた傷は、爪のような物での傷だと言っていた。
また、栄養失調のような状態であり、ろくに食事も取れていないだろうと言うことだ。
これで『不屈の魂』のメンバーと出した、生け贄のために生かされていたという推測はほぼ間違いないものとなった。
傷の治療はパーラがどうにか出来るが、栄養に関しては食事をするほかにないので、目覚めてもある程度の食事を取るまでは衰弱した状態が続くだろうと言われた。
まぁ、暫くはここを使って良いと言われたから、食事の代金さえ俺達が稼いでくれば良い話だ。
問題は、ハーピィが目覚めた時、俺がどうやって説得するかだった。
まず、ハーピィが人間に対して物凄い恨みを持っている可能性がある。
そりゃそうだ。元々人間が白いハーピィを価値のある物として狩ってこなければ、こんな目に合うことはなかった。
恨みの矛先はまず間違いなく人間に向いていると思っていい。
それに、元々説得が出来る相手ではない可能性もある。
仲間思いなら、同じ種族の生き物以外に対して全く気を許さない事も考えられる。
そして何より、俺が説得なんて全く経験したことがない事が大きかった。
「取り敢えず、これで大丈夫です。傷跡も全て消すことが出来ました。思ったよりも傷が深くなくて助かりました。」
パーラがハーピィから手を離し、こちらへと向いてそう言った。
「そうですか、ありがとうございました。」
「いえいえ、治療が仕事ですから。それに、人型の治療という貴重な経験も出来ました。目が覚めたら、食事を取らせてあげてください。それでは私はこれで。」
そう言うと、パーラは深くお辞儀をし、部屋を出ていった。
ハーピィの方を見ると、ベッドに寝転がって落ち着いた顔でスヤスヤと寝息を立てていた。
「おっと、そうだ。ヒロツグ殿。少しご相談があるのですが、良いですか?」
「僕なんかで良ければ話を聞きましょう。」
「それでは、ここでは何ですので……」
「ん? あぁ、良いですよ、移動しましょうか。」
ヒロツグさんとヴェルニーは何やら話があるらしく、部屋を出て行った。
「私も、何か手伝ってくるわ。お世話になりっぱなしじゃ居心地が悪いし。」
そう言うと、リーニャも部屋を出ていった。
今回も、ハーピィの治療代は要らないと言われた。
ヒロツグさんのお陰か、ギルドマスターのお陰かわからないが、そう話を付けてくれたらしい。
リーニャは、多分それが落ち着かないんだろう。
部屋に残るのは、俺とレイとハーピィだけになった。
ハーピィの呼吸音だけが聞こえる。
最初に、なんて声をかければいいんだろ。
いきなりテイムさせてくれなんておかしいし……
そもそも、テイムさせてくれっていうのがおかしいな。
手伝ってくれ……いや、仲間になってくれ……か?
そうやって悩んでいるうちに、ハーピィはゆっくりと目を覚ました。
「あっ、目が覚めた?」
心の準備が全く出来てないうちに目を覚ましてしまった。
ええい! なるようになれだ!
ハーピィは、身体を起こした後、自分の身体を見たり周りをキョロキョロしたりしていた。
ジト目気味で、目が赤い。
アルビノだ。
「お、おはよう。お腹すいてるでしょ? えーっと……そうだ。」
そういえば、エマにいる頃に木の実を沢山レイに格納してもらってた筈だ。
レイに二つほど出してもらい、ハーピィに差し出す。
「これ、木の実なんだ。後でしっかりした食事が出てくると思うから、取り敢えずこれ食べて。」
そう言って俺も一つ口に運ぶ。
甘酸っぱい味が口の中に広がる。なかなか美味しい。
それを見て、ハーピィも木の実を食べる。
「ええと、身体についてた傷は治療したよ。体調はどう?」
取り敢えず仲間云々は置いといて、会話を試みる。
「……なんで?」
何でと聞かれた。何が? 治療したことか。
「ええと、死んだら困るから。」
「……シロは、死なないとダメ。」
シロ? って名前かな。
「何で死なないとダメなの?」
「シロが死なないと、皆が死ぬから。」
「大丈夫だよ。皆は死なない。」
「なんで?」
「誰も、殺しにいかないからだよ。」
「でも、人間が攻めてきたって言ってた。」
あぁ、俺達がハーピィをテイムしにいったのが、ハーピィ達にとっては白いハーピィを狩りに来たって勘違いされたのか。
「攻めに行ったんじゃないんだ。」
「じゃあ、なんで?」
実際には、最初は力でテイムしようとしてたし、攻めに行ってたと思われても仕方ないよな。
でも今は違う。
「お願いをしにいったんだよ。」
「お願い?」
ちゃんと説得して、ちゃんとお互い納得して、テイムする。
仲間として、迎え入れて、仲間として、来てもらう。
その為に、まずは気持ちを確認しないといけない。
「シロ、でいいのかな? シロは、人間は嫌い?」
「……わからない。」
「えーと、死ぬのは嫌?」
「シロは、皆の為に死ぬ。それは怖くない。」
「シロは、生きたい?」
「……」
シロは考え込んだ。
多分、生きることについて考えたことが無かったんだろう。
仲間からは死ぬことだけの話をずっと聞かされ続けてきた筈だ。
だから、その答えは多分出ない。
俺は、その答えを出す手伝いをする。
「シロは仲間の為に一度死んだんだ。」
「……?」
「仲間を守る為に、人間の生け贄になって、群れから居なくなった。だからシロは、もう自由に生きても良いんだよ。」
この言葉が、シロにとってどう聞こえたのかは分からない。
でも、俺の思っていることを、俺の気持ちを伝えていく。
「俺のお願いっていうのは、俺の仲間になって欲しいってことなんだ。」
「……仲間に?」
「そう、モンスターテイマーって知ってる?」
「……知らない。」
「モンスターテイマーっていうのは、魔物と協力して生活をする人のことなんだ。」
ちょっとぼかしたけど、概ね間違ってないはずだ。
俺はモン娘と協力して、この先生活していく。
だから、これは俺のモンスターテイマーとしての生き方だ。
レイがカバンからひょこっと顔を出す。
シロは、レイを見て少し驚いていた。
でも、有効的な関係を築いているのは分かってもらえたかもしれない。
「俺が生活していく上で、君の、シロの力が欲しいんだ。」
「……シロの、力が?」
「そう。俺達はシロを絶対傷つけない。だから、俺達の為に、生きてくれないか?」
そう言って、右手を差し出す。
ちょっと大げさかもしれないけど、これが俺のお願いだ。
力が必要とは言わない。それは嘘だ。なくったって生きていける。
でも、シロの力が欲しいのは本当だ。あったほうがより幸せに生きていける。
だから、俺達の為に生きて欲しいと願った。
シロは、俺を見つめて答えを出した。
~ シロ ~
常に意識は朧げだった。
生きているのか、死んでいるのか分からない様な状態だった。
気付いた時からいつも身体中が傷だらけだったし、仲間のハーピィ達はシロを嫌っていた。
お母さんだけは、いつも泣きながらシロに謝っていた。
シロとは、名前だ。
他のハーピィ達には無い、シロの個体だけの名前。
皆は、シロのことを災厄だと言った。
群れを壊滅させる原因だと。
なら、シロは死なないといけない存在だ。
今日もいつも通り血まみれになりながら少しのご飯を食べていたら、急に身体が浮いた。
どうやら、死ぬ日が来たようだった。
でも、別に死ぬならそれで構わなかった。
ふわふわと運ばれた先には人間が居た。
そういえば、シロが居ると人間が攻めてくるって聞いたことがある。
この人間達も、シロを狙って攻めてきたらしい。
シロは、人間に近づいた後、地面に落とされた。
地面が近づいてくるのが見えて、意識を失った。
次に目が冷めた時は。ふわふわの何かが身体に覆いかぶさった状態だった。
何だか分からないけど、とても暖かい。
近くには、あの時の人間が居た。
話しかけてきたので、会話を交わした。
もらった木の実を食べると、初めて食べる味がした。
話を聞くに、どうやら傷を治療してくれたらしい。
話を聞いていると、あの山に居たのは攻めに来たのではなく、お願いをしに来たらしい。
人間はシロに死ぬのは嫌かと聞いた。
死ぬなら死ぬで良かったし、怖くないと答えた。
すると、次は生きたいかと聞いた。
咄嗟に答えが出なかった。
生きるって、またあの時のように傷まみれになって毎日を過ごすということなのだろうか。
それは、嫌だった。
仲間の為に死ぬのは良かったけど、その為にあんな生き方はしたくない。
でもそれは、生きたくない、って感情では無い。
自由に生きても良いって言われたけど、自由に生きるってどういう事か分からない。
考えていると、人間は話の続きを始めた。
お願いとは、シロに仲間になって欲しいとのことだった。
シロの力が欲しいって言われた。シロの事を絶対傷つけないって言われた。
お母さんの事を少し思い出した。
お母さんは、何があってもシロの味方だって言ってた。
毎日ごめんねって謝りながら抱きしめてくれた。
何だか、その時のお母さんによく似た顔をしてる。
何だか、嘘はついてない、そう思った。
「ん。」
シロは、自分の手を一度胸に当てた。
人間は言った。
「シロは仲間の為に一度死んだんだ。」
人間は言った。
「仲間を守る為に、人間の生け贄になって、群れから居なくなった。だからシロは、もう自由に生きても良いんだよ。」
そう、シロが皆のところに戻らなかったら、それは死んだのと同じ。
仲間の為に死んだのと同じ。
なら、災厄のシロはもう終わり。
ここで新しく始まった命は、死ぬ為の命じゃない。
シロは人間の手に、自分の手を重ねた。
「生き方、教えて。」
シロは、死ぬ為に生きてきたから、生き方が分からない。
だから、教えてもらう事にした。
人間は、笑いながら答えた。
「じゃあ、まずは美味しい食べ物でも食べてみようか。」
「ん!」
シロの新しい命が、動き始めた。




