34話 白は災厄
前回のあらすじ
麻痺したハーピィを説得しようと思った矢先に、舞い戻ってきた三匹のハーピィの内の一匹に白い何かを投げつけられる。
それは、血まみれの白いハーピィだった。
固まっているユウスケ達を尻目に、麻痺したハーピィを連れて帰るハーピィ達。
白いハーピィを治療する為に山を下りたユウスケは、馬車の護衛で雇っていた冒険者達にユニークスキルと白いハーピィを連れて山を下りた経緯を説明する。
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揺られる馬車の中で、経緯を説明する。
今は俺だけが護衛の冒険者達が乗る馬車に乗っている。
ハーピィを寝転がらせるスペースの確保って言う意味もあったし、俺が彼らに説明する為でもあった。
「なるほど、つまりこの白いハーピィは普通のハーピィ達に売られたんですね。」
「生贄とも言うな。」
経緯を説明すると、『不屈の魂』のメンツはそう結論づけた。
「何でそう思います?」
俺の質問に、『不屈の魂』のリーダーであるパラディンのガウンが返答する。
「俺も時期に狩ることになると思ってたから情報を集めてたんだけどよ。まず、人型ってのは仲間意識がすげー強いんだよ。だから一匹でも飯が食えてない奴が居ると、そいつの為に他の奴らが身を削って狩りをするような連中なんだ。」
それは図鑑でも見た。ケンタウロスなんかが良い例だ。仲間を一人でも失うことがあれば総勢で国家を潰すとまで宣言した程だ。
「つまり、痩せこけているって言う状況がおかしいと。」
「そうだな。意図的に飯を食わされていない筈だ。」
続いてウィザードのロロップが話す。
「もしそうなら、何の為にそんな事をしたのか、です。嫌な憶測になりますが、生贄の線が強いと思いました。恐らく、集落が襲われそうになった時、価値の高い白いハーピィを差し出すことによって、他の仲間を見逃してくれと言う事でしょう。」
「現に仲間であるハーピィが襲われたから持ってきたんだろうね。そうなると、逃げたハーピィ達はもう集落を移動している可能性が高い。」
ロロップの推測に、ハンターのヒューマも同意した。
「恐らく体中についていた傷も、常時付けられていたものでしょう。逃げ出さない様に、ある程度の怪我を負わせ、飯もろくに与えずに、でも死なない程度に食わせ……残酷ですね。」
「それもこれも、白いハーピィを価値のある物として狩ってきた俺らが悪いんだろうな。」
ウォーロードのウィリスがそんな事を呟いた。
ガウンが聞き返す。
「どういう事だ?」
「だってよ、白いハーピィを見かける度に集落を潰してきたんだぞ。あいつらからしたら、白いハーピィなんて貴重でも何でもない、唯の疫病神だ。生まれただけで今までずっと恨まれて憎まれて、そんな中で生かされて捨てられるんだぞ。あいつらが残酷なんじゃない、そうさせた俺らが残酷なんだ。」
その言葉を聞いて、皆が黙ってしまう。
俺は、あの傷だらけの白いハーピィにどんな顔をして説得すれば良いのか分からなくなった。
町の門まで着いた。前に門を通過した時と同じく兵士が数人で通行証の提示を求めている。
そこへヒロツグさんが出ていき、何やら話をし始めた。
ギルドマスターに話をしてみるって言ってたやつかな。
ヒロツグさんが何か紙を渡すと、門にいた一人の兵士が慌てた様子で町の中へと走っていった。
ヒロツグさんがこっちに戻ってくる。
「ちょっとギルドマスターに話を通してくれるから、それまではここで待機だね。今は誰かに見られたら面倒くさいことになるし、一応馬車の中を覗かれないように布で細工しておこうか。」
そう言うと、ヒロツグさんはロープで布を掛け始めた。
手慣れた感じで掛けられた布は、馬車の中を覆い隠した。
これで白いハーピィは見られることはないだろう。
「しかし、ギルドマスターに話を通してもらえるって、あんたいったい何者なんだ?」
ガウンがヒロツグさんに質問する。
「うん? 何者ってものでもないよ。ただの物好きな研究者だ。」
「あんな施設であれだけ部下を従えてて、ただの研究者は無いですよヒロツグさん……」
ついポロっと溢した言葉に、ロロップが反応した。
「そういえばヒロツグって名前どこかで聞いたことあると思ったら、マジックアイテムの作成方法を確立させたあのアルケミストじゃないですか!」
その台詞にざわっとする『不屈の魂』のメンバー。
「ち、ちょっと待て! それ本当か!?」
ガウンがロロップに聞き返すが、それに答えたのはヒロツグさんだった。
「確立させた訳じゃないよ。何個か作っただけで。」
「その何個か作るって言うのが凄いんですよ! マジックアイテムの作成に手を出した人は数知れず、しかし成功者はただの一人も居なかったんです。マジックアイテムは作れない。そんな常識を打ち破った、まさに革命の研究者です!」
ロロップは目を輝かせてヒロツグさんへ熱い視線を送っている。
対してヒロツグさんは困り顔で笑っていた。
「僕が快適に暮らしたいから、欲しいものを作っただけなんだけどね。結界石もそうだし、信号弾もそうだし。」
「次は! 次は何を作る予定なんですか!」
ロロップが身を乗り出す勢いでヒロツグさんに質問する。
「あはは……次はエアコン……えっとね、特定の空間の気温を一定に保つアイテムを作ろうと思ってるよ。」
「気温を一定に……ですか。そんなこと可能なんでしょうか。」
「前の世界にあったんだけどね、そっちにあったものはこっちでも大抵実現出来ると思う。電気回路やエネルギーは魔方陣と魔力で代用できるから。」
「でんき……かいろ?」
「あぁ、うん。そういう技術があるんだ。」
ヒロツグさんとロロップがマジックアイテムの話で盛り上がり始めたので、俺はリーニャとハーピィが乗っている馬車へと移動する。
「あっ、ユウスケ。」
日差しが遮られて寝室のようになった馬車の中では、良い回復薬のお陰で傷が治ってきているハーピィが寝息を立てていて、リーニャは隣で座っている。
傷が治ってきているとは言え、部分的にではあるけど無残な傷跡が消えずに残っている場所もあった。
長期的に負わせられた傷は、傷跡として残りやすいんだろうか。
俺が傷跡を見ているのが分かったのか、リーニャが教えてくれた。
「高位のヒールを使えば、傷跡も綺麗に消すことが出来るんだって。今さっきヒロツグさんが言ってたわ。」
「そうなんだ。」
俺達が襲撃された時は、事件に巻き込まれたって事で治療費は免除して貰ったけど、今回は治療費を払わないといけないだろうなぁ。
お金を払って当然の事だから、別に渋るわけじゃないけど、問題は俺の所持金で足りるかどうかだ。
またヒロツグさんに工面してもらう事になるかもしれない。
まぁ、今はそれでもいいさ。そうなれば時間をかけてでも借金を返していくし。
ランクが低い間は、高ランクの人にお世話になれば良いのだ。
俺はギルドマスターからの返事待ちの間、しばらく馬車の中で過ごした。
~ アステニア 冒険者ギルド ~
アステニアの冒険者ギルドの執務室。一人の男が書類の整理をしていた。
彼の名はレイフ。20代後半にしてギルドマスターへ就任した。
彼の管理能力や判断能力の高さは、同年代と比べても頭一つ抜けた才能があった。
そんなレイフの元へ、一つの慌ただしい足音が聞こえる。
この頃、人攫いや商人殺し、果てにはスクリーマーと言う正体不明の魔物と、連続して問題が起きている。
レイフは書類を整理しながらも、あぁまた面倒事かなと扉の方へ視線を向けた。
扉をノックする音が聞こえる。
「どうしたの?」
「至急! レイフさんに報告が!」
聞こえた声は、レイフが能力を認め、ある程度の判断を任せた管理者の男だった。
彼の冷静な判断と状況把握能力は、レイフに引けを取らないものだ。
その冷静な彼が、息を切らして走り、焦った口調でドアをノックするのだ。
面倒事であることは明らかだった。
「いいよ、入って。」
「はい!」
部屋に入るや否や、レイフの元へと駆け寄り、一つの手紙を差し出した。
「ヒロツグからです!」
「……ヒロツグから?」
レイフはヒロツグの事を知っていた。
ヒロツグとは、ここ数年で名を挙げたアルケミストだ。
その業績は数知れず、魔力の運用方法や魔法陣の研究を行い、魔法陣の構造を理解し、そしてそれをマジックアイテムとして使える状態にするという、誰しもが夢半ばに研究を断念した事をいとも簡単に実現してしまった男だ。
ヒロツグの研究のお陰で魔力に関した知識が飛躍的に高まり、回復薬等の効果もより高い物が作られるようになった。
それに、ヒロツグが直接関わったわけではないが、プリースト系列の職業にも大きな影響を与えた。
身体の構造、魔力の役割、それらを理解することによってヒールの質も高まり、また治療速度も以前と比べ随分早くなった。
クアレオ修道院は、彼の研究結果を積極的に取り入れ、質の高いプリーストを数々育て上げている。
そんな男が、ギルドマスターのレイフに手紙を寄越すとは思いもしなかったのであろう。
レイフは疑問を浮かべながらも、受け取った手紙を開ける。
その中身を読んで、レイフは何かを書きながらすぐに管理者の男へと指示を下す。
「この手紙を持ってきた兵士にはヒロツグに馬車を憲兵団の寮まで移動させるように言っておいて。君は憲兵団に医療室の使用許可と、彼らの護衛が出来るように3人ほどの人手を割くようにお願いしてくれるかな。」
そう言うと、レイフは管理者の男へ書き上げた手紙を渡す。
「分かりました。差し支えなければ教えて貰いたいのですが、その手紙はどの様な内容で?」
管理者の男はレイフから受け取った手紙をしまい、レイフの読んでいた手紙の事を尋ねた。
「あぁ、ヒロツグがまた凄い事を仕出かすようだよ。」
「凄い事……ですか。」
「うん、もしこれが本当のことなら、常識がひっくり返るだろうね。また彼の手で。」
「そ、そんなにですか……では、失礼します。」
詳細を聞くことは出来なかったが、それも直に分かることだろうと管理者の男は執務室を出て行った。
慌ただしい時間が過ぎ去った執務室は、いつも通りの静寂に包まれた。
管理者の男が出ていった後、レイフはヒロツグからの手紙に視線を落とす。
「彼の手で、というか、この少年の手でかな?」
そこには、とあるモンスターテイマーの事が書かれていた。そして、これから何をするのかも。
「間違いなく、世界が大きく変わるね。どうしようかな。」
そう呟いたレイフは、これから起こりえる可能性に対して、人知れず準備を始めるのだった。




