32話 テイムの為にすべきこと
前回のあらすじ
ヒロツグへテイムの支援をお願いすることにしたユウスケ。
ユニークスキルの内容を話すと、快く受けてもらうことが出来た。
魔物図鑑を確認してハーピィをテイムすることに決めたが、出発直前にヒロツグから投げかけられた質問に歩みが止まる。
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「テイムの為に……傷つける……」
その言葉を聞いて、歩みが止まった。
俺に合わせるように、リーニャとヒロツグさんも立ち止まって俺の方を見る。
傷つける? 当たり前の事だろ?
テイムするのに必要な事なんだから、実際にレイもそうやってテイムしたんだから。
手負いであればあるほどテイムの成功率が上がるんだから。
当たり前の事だろ?
「出来ますよ、出来ます。レイだってそうやってテイムしたんだし。」
そう言うと、ヒロツグさんは「そうかい。」とだけ言って、振り返ってまた歩きだす。
そうだよ、別に何も問題ない。テイムの為なんだからさ。
~
アステニアから馬車を出し、随分と離れた所まで来た。
近くに大きな山が見える。
ハーピィは山の中腹あたりに集落を作ることが多いらしい。
山の頂上にはそこらの魔物の中で上位に入る強さを持つ魔物が住み着きやすいらしい。
文字通り弱肉強食のピラミッドの頂点に立つ訳だ。
ハーピィはそこに干渉しない様に、そして人間からも干渉されないように中腹あたりで集落を作っていると思われる。
ということで、馬車で来れる場所までは来たし、ここからは歩きで中腹まで登っていく事になる。
馬車は山の麓から少し離れたこの場で待機してもらうわけだけど、周囲にはDランク帯の魔物がちらほら居るし、襲い掛かってくる可能性もあるから護衛の冒険者を雇っている。
つまり俺達を乗せた馬車と護衛の冒険者達を乗せた馬車の二台で来た訳だ。
ココらへんの資金は全く考慮していなかった俺だけど、ヒロツグさんが工面してくれた。
何から何まで頼ってしまって申し訳ない気持ちだ。
「それじゃ行こうか。結構捜索範囲が広いから、今日中に見つかると良いけど。」
そう言って、木々に囲まれた山へと入っていく。
登山の経験が全く無い俺は、少し登ったあたりでもうヘトヘトだった。
足場が悪く、道らしい道もない様なところである。
慣れた人でも相当疲れるんじゃないだろうか。
リーニャは汗こそかいているがまだ余裕がありそうな表情だったし、ヒロツグさんに至っては汗ひとつ無く平然と登っている。
俺、そんなに体力無かったのか……
「あんまり急がなくていいよ。そのせいで何かあっても大変だからね。」
ヒロツグさんはそう言ってくれるけど、ここでペースを落としたくない。
唯でさえ無料で手伝ってもらっているのに、俺のせいで拘束時間まで伸びるなんて事はよろしくない。
「ユウスケ、大丈夫……?」
リーニャが心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫だよ。ちょっと疲れてるけど、休むほどじゃない。」
そうだ、休んでる場合じゃない。
今は、前に進む時だ。
上を目指して歩き始めると、肩にポンと手を置かれた。
振り替えると、ヒロツグさんだった。
「僕はちょっと休憩したいんだけど、いい?」
ヒロツグさんにそう言われては、俺もダメとは言えなかった。
そんな調子で休憩を数回挟んで、ヒロツグさんが足を止める。
「うん、ここら辺だね。あとは濃度を頼りに一周回ってみようか。」
「あの、いったい何を目安に生息区域を割り出してるんですか? それと濃度って……?」
「うん? あぁ、魔素濃度だね。山って言うのは山頂に近ければ近いほど魔素の濃度が高いんだ。」
魔素濃度……?
俺の頭上にクエスチョンマークが出てたんだろう、ヒロツグさんは詳しく説明をしてくれる。
「まず、この世界には空気中にも魔力があるんだ。体内にある魔力とは分けるために、それを魔素と呼んでいる。そして時間が経てば、魔素は生き物に染み込んでいくんだよ。だから魔法を使っても魔力は自然に回復するし、魔物なんて生き物が生まれたんだろうね。」
最大MPっていうのは魔力の貯蔵量で、その上限まで染み込めば後は空気中に残るらしい。布に水を含ませるようなものだ。
ヒロツグさんの話によれば、頂上まで上ったことは無いが、恐らく山の頂上には魔力の噴火口のようなものがあって、この星の内部から魔素が漏れ出して山頂から麓まで流れてくると推測しているということだ。
でなければ高所の方が魔素が多い理由が無いらしい。
まぁ確かに星の中心にいけばいくほど魔素が濃くなるのなら山頂のような中心から遠いところほど魔素は薄くなるはずだ。
まぁ、星の中心にいくほど魔素が濃いというのも仮説なんだけど。
そんで、これまた仮説だけど、魔物って言うのは魔素の濃度が濃い場所にいれば食事で栄養を取る必要が薄くなる可能性が高い。
山頂なんていう生物の少ないところへ陣取っている高ランクの魔物が人前に滅多に姿を現さないのは、食事を取る必要がなく、狩りのために動く事がないからだろう。
それでもヒロツグさんによれば年に数回は目撃されてるし緊急討伐以来も出されたりする事から、全く食事をしなくて良い訳じゃなさそうだけど。
まぁそう言うことで、魔素の濃度で大体どれくらいのランクの魔物が住み着くレベルかがある程度分かるんだって。
現地を何回も訪れた、言わば経験則のようなやつだ。
さて、これからハーピィを探し始めるので、ハーピィの情報についておさらいだ。
まず好奇心旺盛。戦闘を避けるために人間と接触しないようにはしているだろうけど、遠巻きに見るくらいならやりそうだ。
物音とか立てれば向こうから簡単に出てきてくれるかもしれない。
容姿については、知っての通り上半身が人間、下半身と腕……というか翼が鳥類だ。
翼の中間……関節になるのかな? その部分に手がある。
やはり人型には人型の文化があるようで、それなりに加工技術を持っているらしく、人間である上半身は動物の皮やハーピィ自体の抜け落ちた羽などを加工して作られた肌着を纏っているらしい。
髪の毛は人間と同じく、個体によって色が違うとのことだ。
鳥類の部分は、基本的には茶色っぽい羽毛(ハーピィの毛を羽毛と言うのかはちょっと怪しいが)で覆われている。
基本的にはというのは、ごく稀に白色のハーピィが目撃されているからだ。
討伐記録もあるが、戦闘力の違いは無いとのことだったので、恐らく白変種やアルビノといった色素がうんぬんかんぬんのやつだ。
白いハーピィの素材は高値で取引されるらしい。
だから目撃情報があれば次の日には大勢の冒険者が素材目当てに山を登るんだとか……
そして戦闘方法が、鋭い鉤爪と風魔法を得意としたオールマイティな遊撃手って感じだ。
ヒロツグさんの先導する方向へとついていく。
ヒロツグさんは、明日には見つかるだろうって言ってたけど、出来れば今日中に見つけたい。
魔素濃度を頼りに、山の中腹をぐるりと一周する形で歩いていく。
日が沈むまで歩いても、四分の一も歩けないだろう。
足場の悪い中、黙々と歩き回ったが、初日に見つける事は叶わなかった。
適当なところへテントを張って一晩過ごした。
夜の見張りはどうするのか気になったけど、ヒロツグさんがマジックアイテムを周りに置いて回っていた。
どうやら簡易的な結界を張るものらしい。5個で1セットの使い捨てアイテムみたいだ。
Cランクくらいまでなら寄せ付けない程の強さを持っているらしい。
予め魔力を補充しておいた魔石のような見た目の石を、五角形になるように設置して魔力を流せば、8時間は結界を張ることが出来る。
その代わり、効果を失う時間になると、唯の石になってしまうと言うことだった。
このマジックアイテムは、ヒロツグさん達の研究によって作られたらしい。
正直凄い。
その結界のお陰で特に何事もなく朝を迎えた俺達は、早速ハーピィを探すた為に歩き始めた。
しばらく歩くと、ヒロツグさんが手を横に出して静止の合図を送ってきた。
「ちょっと二人はここで待ってて。」
そう言うとヒロツグさんは一人で先に進んでいった。
数十秒後、激しい稲妻の音と一緒に何か羽ばたくような音が聞こえた。
リーニャと顔を見合わせて音のした方、ヒロツグさんの元へと向かう。
その先には視界の開けた場所があり、空中で羽ばたく二人のハーピィと、地面に倒れている一人のハーピィ、そして詠唱しているヒロツグさんの姿があった。
その詠唱を見て、空中にいたハーピィ達は、自分達が劣勢だと思ったのか撤退した。
「なんか……結構薄情なんだなぁ……」
「冒険者の世界も似たようなものだよ。それに襲った側の僕らが言える台詞でもないよね。」
俺の呟きが聞こえたのか、ヒロツグさんが返事をする。
俺達はハーピィに近寄っていく。
どうやら先手でパラライズを成功させた様で、意識はハッキリあるが身体は思うように動かせない様子だった。
「……うぁ……ぐ……」
俺達に掛けたときよりよっぽど強力な奴みたいだ。
何かを言おうとしているらしいけど、言葉になっていない。
その表情は、怒りや悲しみが折り混ざった複雑な表情に見えた。
「ユウスケ君、何をしてるんだい?」
ヒロツグさんが急に声をかけてくる。
「ボーッとしてないではやくダメージを負わせないと。テイムするんでしょ?」
どうやらハーピィの姿を見て固まっていたようだ。
それじゃダメだ。パラライズが切れる前に攻撃しないと。
「そうですね。じゃあ、やりますよ。」
俺は剣を振り上げる。相手はCランクの魔物だ。一撃加えたくらいじゃ、大した傷にもならないだろう。
振り上げた俺の剣を見て、ハーピィはビクリとする。
「あぁ……うぁ……」
ハーピィが俺に何かを言おうとするが、言葉にならない。
俺は、剣を降り下ろした。
ハーピィの怯える顔が、目に入って。
傷つく姿が、脳裏に浮かんで。
俺は。
振り下ろした剣は、ハーピィには当たらなかった。
地面に打ち付けられ、手から離れてその場に転がる。
外した、この至近距離で。
「ユウスケ……」
リーニャが近寄ってくる。
あぁ、ごめん。早くするよ。
もう一度剣を拾って、もう一度振り下ろすから。
次は、外さないから。
転がった剣を拾いに向かう。
「ユウスケ!」
リーニャが大きい声で俺を呼ぶ。
分かってるって、急ぐから。
フラフラと剣を拾いに行く俺にリーニャは駆け寄ってくる。
あぁ、怒るのかな。
あんな距離で攻撃を外した俺を。
まぁ、怒られて当然だ。
そう思った俺を、
リーニャは抱きしめた。
「……?」
リーニャの体温が俺の身体に伝わってくる。
「どうしたの、リーニャ。」
「ユウスケ……」
リーニャは俺を離さない。
「早くしないと、麻痺が切れるよ。剣を拾わないと。」
「ユウスケ!」
俺がそう発言すると、リーニャは俺を怒る。
何で。
「無理だよ、ユウスケ……」
「どうして。」
「ユウスケだって、もう分かってるんでしょ……?」
「……」
「ずっと震えてるよ。ずっと怯えてる。傷つけることも、傷つけられることも。」
――傷つける? 当たり前の事だろ?
「ユウスケは言ってたよ? モン娘とイチャイチャするのが目標なんだって。」
――テイムするのに必要な事なんだから、実際にレイもそうやってテイムしたんだから。手負いであればあるほどテイムの成功率が上がるんだから。
「強がらなくても、焦らなくても、いいんだよ……」
――当たり前の事だろ?
「ユウスケ……」
「……そうだね。」
出来ない。出来ないよ。
モン娘が好きだとか、そういうのを抜きにしても、俺は出来ない。
多分一生、人間や人型みたいな、自分の意志があって、感情があって、死ぬことが怖くて、目の前で怯えてるような、そういう生き物を傷つけることは出来ない。
俺の感情が、人型を傷つけられない。
「ユウスケ君。最初に聞いたよね? 傷つける覚悟はあるかって。」
ヒロツグさんが声を掛けてくる。
「そうですね、ありませんでした。言う通りでした。」
俺の覚悟の甘さを、ヒロツグさんは最初から分かってたんだろう。
だから、俺に気付かせるために、そういう忠告をしてくれていたんだ。
自分の身を守る為に暴走した焦りは、それを無視してしまっていた。
「ふふ、別に責めてる訳じゃないんだよ。ここからが僕の研究の一つだからね。」
そんな俺に、ヒロツグさんは一つの提案をしてきた。
それは、ヒロツグさんがテイマーを研究する中で、題材の一つとして掲げていたものらしい。
「会話は出来るんだし、お願いしてみてはどうかな? 僕に頼んだみたいに。」
それは、人型を、言葉で説得すると言うものだった。
2017/6/01 読んでいてい紛らわしくないように、空気中の魔力→魔素に表記変更




