31話 ユニークスキル
前回のあらすじ
ヴェルニーに事件の概要や関連性などを聞き、またシルビアの情報を渡してその場を後にしたユウスケ達。
今の自分達に必要なのは戦力だと理解したユウスケは、ヒロツグ邸へと向かう。
そこでヒロツグへ、自分のユニークスキルの情報を渡す代わりに要求する事とは……
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「ユウスケ君の、ユニークスキルか。それは気になる所だね。」
いつもの微笑んだような顔から一転して、鋭い目を向けてくるヒロツグさん。
ヒロツグさんは、研究の材料を渡せば協力を惜しまないと思う。
俺がユニークスキルという情報、それとその力を使って出来ることを伝えれば、今から俺がするお願いなんて簡単に受けてくれるだろう。
「俺のユニークスキルは、テイム限界解放です。この世界ではテイム出来ないと言われている知性を持つモンスター。人型や古代竜などをテイムすることが出来ます。」
その言葉を聞いて、ヒロツグさんは特に驚いた様子がなかった。
それどころか、
「あぁ、殆ど予想通りの効果なんだね。やっぱり君に声をかけて正解だったよ。」
そんな事を言い始めた。
「予想通り……? もしかして、知ってたんですか?」
「いやいや、そうだね。君のユニークスキルについて聞いたんだし、僕も教えようか。」
ヒロツグさんは、わざとらしく右目を右手で覆い隠すと、指を広げて目を見せた。
「僕のユニークスキルは、鑑定眼だ。この世界では唯一、物や人を鑑定することが出来る。」
鑑定眼……物や人を鑑定することが出来る。異世界物の小説なんかじゃよく聞く能力だけど、この世界にはただ一つしかないのか。
「研究者に相応しい能力だろう? 冒険者ギルドで君に会った時、不躾ながら鑑定させてもらったんだ。」
その時に、俺のステータス、ユニークスキルを把握したって言うわけか。
じゃあ、俺がこうやって来ることも、ある程度予想していたのかもしれない。
「つまり、俺の要件はもう分かってるってことですか?」
「そうだね、僕の予想が正しければ。」
ヒロツグさんは右手に雷を纏わせて、リーニャへと発射した。
「ッ!」
回避しようとしたが間に合わず、リーニャはその雷を受ける。
それは冒険者ギルドでも見た、所謂パラライズのような麻痺する魔法だった。
「テイム支援、でしょ? こういう風に。」
全てお見通しだ。手のひらで踊っていたのかもしれない。
それでも、きっと悪い取引にはならないだろう。
「その通りです。お願いできますか。」
ヒロツグさんは、リーニャの睨む顔を横目に笑った。
「勿論だよ。貸し、一つだね。」
~
「さて、テイム支援を手伝えるのは生憎僕だけなものだから、ランク帯はCからBの下級までとして貰うよ。そもそもアルケミストは支援がメインで、ソロじゃ何も出来ないような職だからね。」
今現在、冒険者ギルドの図書室に俺達は居る。
改めて魔物の図鑑から、テイムする魔物を絞り込む為だ。
「僕の麻痺を使って安全にテイムしたいのなら、Cランク帯の中で決めた方がいいよ。Bランクの魔物は効かない可能性がある。」
それを聞いて、俺はCランクの魔物へと絞り込む。
Cランクでも、今で考えれば充分な戦力だ。
Cランクの中でも、知性を持たない魔物もいれば知性を持つ魔物もいる。
アイアンゴーレムやヘイトスコルピオ等の魔物は知性は無く、単純にステータスの問題で強い。
リザードマンやオーガ等は中間だ。判断力等は少しはあるが、会話までは成立しない。
そしてCランクの人型、人型は会話が成立する。意思疎通が出来るかどうかは別だけど。
人型のランク分けと言うのは、かなり曖昧な物だった。
そもそも、見た目で強さを測りにくいのだ。
しかも群れると予想外の連携を取ったり、追い込み漁みたいな戦略的罠を張ったりするという話だ。
それに、データがしっかり取れていない人型も多い。
人型は普通の魔物と比べて知力が高い分、戦闘力がピンキリの人間という相手を襲うようなリスクは犯さない。
つまり、不意の遭遇くらいしか戦闘データが取れていないのだ。
まぁ、中にはそんなのお構い無しに誰彼構わず戦闘をけしかける人型も居ないでもないらしいけど……
その中で、Cランク以上の戦闘力があったとの報告が全く無い人型も存在していた。
ハーピィだ。
性格は基本的に好奇心旺盛らしく、足の鋭い鉤爪と風魔法を得意とする人型魔物。
群れで過ごしているが、好奇心に負けて単独行動を取ることもしばしば。
また、それ程物事を考えないのか罠を張ったりすることはなく、連携だけに気をつければCランク冒険者の4~5人パーティでも狩ることが出来ると言う話だ。
もしテイム出来れば、空中戦というアドバンテージを手に入れることが出来るし、さらに鉤爪による遊撃や風魔法による後衛もこなせる。
人型といえばマーメイド、アラクネ、ラミア、ケンタウロス、アルラウネ等。
しかしそれらの人型はCランクからAランクまで戦闘力の幅が広く、強さを判別出来ないうちは基本的に戦わないのが吉だとされている。
全ての人型に言えることだけど、集落のようなものを作って暮らすのが殆どで、自ら人間を好んで襲う事は少ないらしい。
特にケンタウロスなんかは、人間と明確な意思疎通が可能な上に、戦闘力が高く仲間思いだという。
仲間に被害を出さない為、人間には不戦協定を提示しているって話だ。
もし手を出そうものなら、全ての戦力を投入してでも国を潰すとまで宣言してるとか……
まぁ、それはあくまで噂の話。
少し話がズレたけど、今回狙うのはハーピィだ。
幸い、生活区域が付近にあるというのもある。
ヒロツグさんにそれを伝える。
「なるほど、ハーピィか。そういえば人型もテイム出来るって話だったね。」
ヒロツグさんはうんうんと頷いた。
「人型の魔物というのも、実に興味深いんだよね。レイくんもそうだけど、テイムに成功したら数日お借りしたいものだ。」
「落ち着いたらにしてくださいね……」
「落ち着いてからって……そう言えばあの時、物凄く鬼気迫る表情だったけど、一体何かあったのかい?」
あの時って、家に頼みに行った時かな。
別に隠しておくような事でもないし、伝えとくか。
ヒロツグさんに、ここ最近起こった一連の事件を説明する。
「ふむ……それはとんだ災難だったね。Cランクになれば落ち着くんだけど、Dランク帯の冒険者が一番危ないんだよね。」
ヒロツグさんはそう言うと、ため息をついた。
「実践を積んできているからそれなりに強くなってきてるし、そのせいで調子に乗る人が多くてね。他の冒険者にちょっかい出したり、自分の力を過信しすぎて魔物に返り討ちにあったり。」
そういえば昔、リーニャに聞いたことがある。
EランクからDランクの間が、一番人が死にやすいって。
もし死にやすい原因がDランク冒険者で、今回の俺達のようにDランクに絡まれて殺されるEランクの冒険者もいるのかも知れないと思ったら、何だかふつふつと怒りが湧き上がってくるようだ。
俺の心情を察したのか、リーニャが手を握ってくる。
顔を見ると、とても心配そうな表情をしていた。
はぁ、落ち着こう。今怒ったって何も出来ないし矛先もない。
「まぁ、そう言う輩を相手にするなら、Cランクの人型は充分脅威になるだろうね。どう間違ったってDランクに負けることはない。それに、人型は悪意には敏感なんだ。君らを襲う輩がいれば、襲われる前に察知してくれるだろう。」
その話を聞いて、より安心した。
そうだ、Cランクになれば落ち着くって言ってた。
Dランクさえ抜けられれば俺達は……
そうと決まれば早速行動だ。
戦力補充は早ければ早いほどいい。
「ヒロツグさん、ターゲットも決まりました。いつならテイムに向かえますか?」
「うーん、そうだね。別に今からでも無理ではないけど、人は多い方がいいし、僕の部下に声を掛けてみるよ。研究の進捗具合や予定が大丈夫そうなら支援に連れていきたいしね。それを考えると、明日の早朝出発かな。」
「分かりました、じゃあそれで行きましょう。」
そう言うとリーニャを連れて図書室を急いで出る。
明日までに一度防具を新調しておくべきだ。
金銭的に可能ならリーニャの武器も新調しておいたほうがいい。
もしもの為に回復薬も買っておかないと。
あとテントとかそういう登山グッズもあれば買っておこう。
「ちょ、ちょっとまってユウスケ! 早いよ!」
俺に引っ張られてこけそうになっているリーニャを気にせず、防具屋へと向かった。
「これは……あまり良くない傾向だね……」
後ろで呟かれたそんな言葉が、今は聞こえなかった。
~
翌朝、ヒロツグさんの家に向かう。
昨日は防具を全部新調した。勿論性能は今まで装備していたものより断然いい。
回復薬もテントも買った。携帯食料も7日分買ってある。一応水筒も。
その代わり、全財産の三分のニ程持って行かれたが、必要経費だ。
生活できない程まで使ったわけじゃないし。
ドアをノックしたら、ヒロツグさんが表に出てきた。
軽く挨拶を交わす。
「部下に声を掛けてみたんだけどね、皆手を離せないみたいだ。今日は僕一人で手伝うよ。」
「そうなんですか……ヒロツグさんに手伝ってもらえるだけでもありがたい事ですし、贅沢は言わないことにします。」
「それじゃ、行こうか。」
そう言って歩き始める。
それに俺達もついていく。
しばらく歩いて、ヒロツグさんが話をし始めた。
「ユウスケ君は、人を殺したことはあるかい?」
「え?」
突然の質問に、気の抜けた返事しか出来ない。
「まぁ、無いよね。じゃあ、大きな怪我を負わせたことは?」
「えと、それも無いです。」
喧嘩だってまともにしたこと無いのに、怪我なんて負わせられるはずもない。
こっちの世界に来てからも、怪我をしてばかりだ。
「そっか。昨日聞いた話の事だけど、その銀狼の……リア、だっけ? に、目の前で人が殺されてどう思った?」
「え? えーと、その時は自分の事で精一杯で、全く意識してなかったです。」
「そっか。」
その質問の後、しばらく無言が続く。
何だったんだろう。今の質問は。
別に嫌な気分になったとかじゃないけど、意図があんまり分からなかった。
しばらく歩いて、ヒロツグさんが口を開く。
「テイムするのに、最初に言っていた条件は揃えるつもりかい? 例えば状態異常とか、不意打ちとか。」
「そうですね、その方が確実だと思うので。」
「別に、ユウスケ君の覚悟を踏みにじるわけじゃないんだけどね、一つ聞いていいかな。」
「え、はい。何でしょう。」
ヒロツグさんは歩きながら、俺に一つの質問を投げかけた。
「ユウスケ君は、人間のような姿をしている人型魔物を、テイムの為に傷つける事は出来るかい?」
俺の歩みは止まった。




