26話 情報収集
前回のあらすじ
白衣を着た日本人のヒロツグに助けられたユウスケ達。
どうやらその人が探し求めていた研究者のようだった。
とても大きな研究所のような豪邸に案内されたユウスケ達は、ヒロツグにレイを研究対象として借りたいと言われる。
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「レイを、研究対象にって……」
それってつまり、レイを借りたいってことだよね?
え、貰いたいってことなのか? 貰いたいの方ならちょっと遠慮したい。
どちらにせよ、今の最大戦力とも言える最前衛のレイをここで無くしてしまうのはつらい。
なんて感じに困っていると、ヒロツグさんは慌てて付け加えた。
「あぁ、いや、今すぐにってわけじゃないんだ。もう少し仲間が増えたりした後にでも考えてくれたらね。もちろんレイ君はお返しするよ。」
その言葉を聞いて、安心した。
モン娘をテイム出来たら、またここにこようかな。
「でも、なんでレイを?」
「うん? あぁ、スライムって、普通あんな攻撃しないからね。」
あんな攻撃って、触手ムチみたいな奴か。
あれそんなに珍しいのかな。
「君と過ごしたお陰で、変わったのかもしれないね。」
そう言うと、ヒロツグさんは微笑んだ。
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「長い間、お邪魔しました。」
「食事もご馳走してもらって、本当に有難うございます。」
「いやいや、お昼時に家に招いたのは僕だし、食事くらいは出させてもらうよ。それにコチラにとっても中々有益な時間だった。」
話をするだけでなく、ご飯までご馳走してもらって盛大にもてなされた後、ヒロツグさんに玄関まで送ってもらった。
結構な時間ヒロツグさんと話をしたお陰で、空が赤みがかってくる頃だった。
「特にモンスターテイマーである君とのパイプをもつ事ができたのは大きいかな。モンスターテイマーってかなり少ないから、存在だけでも貴重なんだよ。」
「パイプを持てたとか、本人の前ではあまり言わないような……」
「ハハハ、そうだね。でも、君にもメリットはあるだろう? 僕は持っている情報を君に渡せるし、一応守れる範囲なら守ってあげることも出来るよ。」
確かにヒロツグさんの持つ情報量はとても多い。
こちらに来て何年立っているのかは分からないが、研究者として培った情報量は、俺達と比べたら莫大だった。
でも、守れる範囲なら守ってあげるって……ギルドでのあの魔法もそうだけど、この人一体何者なんだ。
「ヒロツグさんって、冒険者やってました?」
そう問いかけると、答えは簡単に返ってきた。
「ん? そうだね、今はもう冒険なんてやってないけど、転生した直後はやっていたよ。あの頃はパーティメンバーもいたけど、Bランクまでは上がったね。」
「Bランク!?」
「そうだよ。僕は最初からアルケミストとして転生することが出来たからね。」
アルケミスト、って、なんだっけ……
「アルケミストって分かる? 魔法使い系統の最上位だよ。」
「最上位!? あれ、最上位ってアークウィザードじゃ……」
「得意な分野によって分岐があるんだよ。そしてそれぞれに名前が振り分けられてる。アークウィザードは主に攻撃魔法を得意とする魔法使いだね。アルケミストは補助魔法や錬成等に長けている。錬金術師とも言うかな。研究者の僕にはお似合いだろう?」
アルケミスト、錬金術師か……確かに研究者にとってはこれ以上無いくらいにお似合いな職業かも。
しかし錬金術師って魔法使いの枠なのか。なんか腑に落ちない。
まぁでも、どこかのスチールなアルケミストの錬金術だって土魔法みたいな見た目してたりするし、魔法陣みたいなのあるし、魔法使いだって言われたって違和感ないかもしれない。
「そういう訳で、僕は君にとって有用な存在だ。存分に使ってくれていい。その報酬として、レイ君を貸して欲しい。」
「そうですね……考えておきます。」
「うん、よろしく頼むよ。」
そう言葉をかわすと、俺はヒロツグ邸を後にした。
「……ねぇ、本当にレイを貸すつもりなの?」
屋敷から充分に離れた後で、リーニャがそう問いかけてきた。
それは多分、信用できるのか? って意味だ。
「うん、ある程度仲間が揃ってきたら。」
日本人ってだけで、正直あまり警戒してない部分はある。
だって、この世界に来た日本人が凄く悪いことしてます! なんて想像できないし、あったとしたらある程度噂になっててもいいはずだし。
転生者に対して悪いイメージが持たれてない時点で、それは先人たちが全員善行を積んできたという、ある種の証明でもある。
そもそも神に拾われる魂に、邪悪なものなんて無いのだ。多分。
「そう……」
俺の返事に、リーニャはただその一言を返してきた。
改めて冒険者ギルドへと戻ってきた俺達は、魔物の情報を収集する為に図書室へ向かうことにした。
このまま宿に戻っても、夕飯までまだ時間があるし、時間を持て余すだけだと思ったからだ。
モン娘の情報もだし、俺が次に倒すべき魔物や、テイムして有用な魔物、危険な魔物も調べておく。
それともう一つ、今更にも程が有るのだが地理関係も出来るだけ把握しておきたい。
そんなことで受付のお姉さんに話をして、いざ図書室へという時に、ギルド内の酒場の方からある噂が聞こえてきた。
最近冒険者の中では瞬く間に広がっている噂らしい。
今それを話しているのは、男二人だった。
「おい、聞いたか?」
「何をだ?」
「最近現れた、例の黒い悪魔の話だよ。」
「黒い悪魔……?」
「あぁ、少女のような叫び声を上げて、近寄ってきた冒険者をズタズタに引き裂くって言う……」
随分物騒な話だ。少女のような叫び声で冒険者を釣って、餌にでもしているのか。
助けようと思った良心的な冒険者も、邪な考えで近寄る盗賊の類も居るだろうから、さぞ効率的なんだろう。
最近現れたと言っているし、魔物も環境に合わせて進化していってるのかもしれないな。
「あぁ、スクリーマーって呼ばれてる奴か。」
「そうだよ。未だにあの森に居着いてるらしいし、姿を見た奴も居ないから探しようもなければ逃げようもない。」
「姿を誰も見たことがない? なら何で黒い悪魔なんて噂が広がってるんだよ。」
「姿を見たやつは全員殺されてるんだが、どうやら第一発見者だけは逃げ帰ってこれたらしい。それで口にしたのが黒い悪魔だって話だ。まぁそれが本当かどうかは分からないけどな。それに、声を聞いたやつは何人も居る。取り敢えず、少女の叫びが聞こえてきたら森から出ろよ。それが例え本物の冒険者だとしても助けに行こうなんて考えるな。死にたくなかったらな。」
「あぁ……分かったよ。ッチ、次から次へと厄介事が舞い込んでくるな……」
「そうだな、最近の人攫いや商人殺しもそうだ。アステニアは何らかの陰謀に巻き込まれているのかもしれないな。」
「冗談やめろよ。もしそうなら俺はこの町を出るぞ。物騒でかなわん。」
そう言うと、男二人はギルドを出ていった。
なるほど、少女の叫び声で冒険者を釣るからスクリーマーか。
それに、人攫いや商人殺しなんて事件も発生しているらしい。
この町は思っているより物騒みたいだ。
こういう危険な情報は、冒険者ギルドとかよりも冒険者の方が早かったりするから、噂話にはアンテナを張っておかないと。
後ろでリーニャも、険しい表情になっていた。
受付のお姉さんも険しい表情だった。
「はぁ……スクリーマーね……」
思わず呟いた。
スクリーマーに怯えて依頼を受けない冒険者も沢山いることだろうし、ギルドも大変だなぁ……
受付のお姉さんも、陰気になっているのか溜息が多かった。
スクリーマーの出現区域だけは把握しておかないとうっかり遭遇しても困るので、その出現する森を教えてもらうために受付のお姉さんに近づいて行く。
受付のお姉さんもそれに気付いたみたいで、ため息を付きつつ話し始めた。
「最近現れたんですよ、1週間程前かしら……。とある冒険者さんが息を切らして走ってきまして。事情を聞いたら、少女のような叫び声が聞こえたからそちらを見に行ったら、見たこともない黒い魔物が冒険者パーティを殺している姿を見たって言うんです。」
「今噂になっている通り、叫び声で冒険者を呼び寄せてるんですね。」
「そうなんです……でも、一番最初はそんなことなかったんだけど……」
一番最初は……? 一番最初ってその1週間前の話なんじゃ?
「一番最初って?」
そう聞くと、受付のお姉さんはあっ! という表情をして、周りをキョロキョロした後に俺に耳打ちした。
「えっとね、本当は2週間ちょっと前くらいに、目撃情報はあったのですよ。実害が出始めたのは1週間前のその日からで。それまでは叫び声は出すけど、冒険者に追われると逃げていたらしいです。」
「えっ……冒険者を呼び寄せていただけ? 何の目的で?」
「それが良く分からないんですよね。その魔物が叫び声を上げる理由が。捕食でも無いし。」
魔物が殺人による快楽を得るとは考えられないし、捕食をしないとなると、何の為に……
いや、待てよ。叫び声で冒険者を釣るくらいだし、相当知能はあると見て間違いない。
知能があるとなれば、人型であるという可能性も高いんじゃないだろうか。
「もしかして、人型なんですか?」
「いえ、それが……その目撃情報を私に教えてくれた冒険者パーティは、詳しくは教えてくれませんでした。どうやら情報のリークによる手柄の横取りを防ぎたかったみたいです。」
「手柄? つまり、討伐するつもりだったという訳ですか。」
「そうです、もうお察しかもしれませんが、その冒険者パーティが討伐を決行したのがおよそ1週間前で、それをたまたま見た冒険者さんが息を切らして私に報告に来てくれたんです。」
2週間前にはそこに居て、1週間前に討伐に行くまでは人に危害を加えず、討伐決行後から人を殺し始める。
うーん、良く分からない。身を守る為……か? 殺しに来たから殺す、って言う感じか?
なら何でわざわざ叫び声で呼び寄せるような真似を……
「それで、その姿については未だに謎のままなんですよ。私に報告してくれた冒険者さんも姿を見たようですが、それを教えてもらうことは出来ませんでした。」
「何でですか?」
「姿を口に出すと、恐怖が蘇るらしいです。ただ一言、黒い悪魔だ、と仰ってました。」
黒い悪魔、か。それが今冒険者の間で噂となって広がっている訳だ。
噂と言うか、真実が出回ってると思っても良さそうだね。
「この話は、あまり公にしたくないんですよ。襲われない期間があったという事実があれば、自分なら大丈夫だろうという根拠のない自信を持って、勝手に討伐へ向かう人達も出てくる可能性があります。」
そこまで言うと、受付のお姉さんは一つ咳払いをして元の姿勢へと戻った。
「という訳で、ギルドとしても無闇矢鱈と冒険者さんを失うようなことはしたくありません。その黒い悪魔が出没するティグレの森はここから西側に出て村を一つ挟んだ先にありますから、くれぐれも注意してください。出来れば、近づかないように。」
「分かりました。ちなみに、討伐依頼って出されてるんですか?」
「えぇ、上層部も頭を抱える案件です。今はランクBで出していますが、近々ランクAへと上がるかもしれません。個体での戦闘能力が遥かに高いようですから。」
ランクAになるかもしれない、か。これは相当やばいな。何があっても近づかないようにしておこう。
でも、一応将来のことを考えてこの一言だけは言っておくのだ。
「もし、人型の魔物だったら、俺に教えてください。」
受付のお姉さんの訝しむ様な唖然とした様な表情を尻目に、俺とリーニャは図書室へと向かった。




