25話 日本人との遭遇
前回のあらすじ
宿を確保したユウスケは、冒険者ギルドへと情報収集へ向かう。
そこでついに、エマの町でポロリと零した絡まれイベントのフラグを回収してしまう。
迫りくるケツアゴ、ヒョロガリ、ローブ。
しかし、それを静止したのは、雷の魔法を操る、白衣を着た日本人だった。
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「さて、これ以上暴れるようだったら、僕もちょっと怒ってしまうけど。」
そう言って白衣の日本人は俺達とケツアゴ達に視線を向ける。
右手に纏っていた雷は、徐々に大きさを増そうとしていた。
俺とリーニャはただ静かにしていたけど、ケツアゴ達はそうではなかったようで。
「わ、わかったよ。帰るから、もうやめてくれ。」
と、少し怯えるような表情で言っていた。
白衣の日本人はそれを聞いて、俺達を拘束していた魔法を解いた。
「さ、それじゃ帰りなさい。僕の気が変わらないうちにね。」
それを聞くと、ケツアゴとヒョロガリは逃げるように冒険者ギルドを出ていった。
ローブ男はそれをゆっくりと歩きながら追いかけていった。
途端に崩れ落ちるリーニャ。
俺はすぐさまリーニャに駆け寄った。
「ち、ちょっと。大丈夫……?」
リーニャはにへらと笑って「あぁー、怖かった。」と言った。
すると、白衣の日本人がこちらへと近寄ってきて、リーニャに声を掛けた。
「全く、ブラフを張るならもうちょっと勝算のある時にした方がいいと思うよ。」
「そうね、身に沁みたわ……」
その会話は、俺にはちょっとよく分からなかった。
ブラフ? 何が?
混乱している俺に気付いたのか、リーニャは俺に説明してくれた。
「私があいつに勝ってたのはスピードだけ。だからスピードだけを見せつけて、私の能力が全体的に勝ってると思わせる様にしたの。実際あの大男と真正面からやりあったら負けてたわよ。」
「そうだね、短剣を首に添えた時に相手が少しでも恐怖を覚えないようだったら、君はそのまま組み付かれていただろうね。」
合間に白衣の日本人が説明を挟んでくれる。
「大男を怒らせたのは、少しでも動きを単調にして避けやすくしようと思ったのと、正常な判断を出来なくする為。まぁ、成功するかは怪しかったけど。」
「そんな危ないことを……」
そう呟いたらリーニャは困った顔をして
「ユウスケが煽るからでしょ。」
と答えた。
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あの後、情報収集をする間もなく、なんだか居心地の悪くなった冒険者ギルドを後にした。
情報収集をしなかった理由は簡単だ。
俺たちを助けてくれたあの白衣の日本人が、俺の探し求めていた研究者だというのだ。
「今はテイマーを中心に研究してるだけで、テイマー専門で研究してるわけじゃないんだけどね。」
と、雑談を交わしながら、俺達はその日本人の自宅まで向かっていた。
何故か俺たちを歓迎するといってくれたので、お言葉に甘えてって奴だ。
「と、ここで自己紹介でもしておこうか。」
歩きながら自己紹介を行う。
「僕の名前はヒロツグ。須藤博嗣と言う。もう気付いていると思うけど、日本人だよ。」
「俺の名前はユウスケ。松本祐介です。そしてこっちがリーニャ。」
リーニャはぺこりと頭を下げた。
ヒロツグは話を続ける。
「僕は前の世界では化学関連の研究者をやっていてね、全般的に手を付けていたんだけど、特に力を入れていたのは化学反応についてだった。直前に関わっていた研究内容は、ある材料に対しての薬液による挙動についてで……」
さすがは研究者と言ったところで、研究内容について話し始めたヒロツグさんはいきなり暴走を始め、自分の世界に入ってしまった。
目を瞑って斜め上を向きながら両手でジェスチャーをして説明を続けるヒロツグさん。
それを聞き流す俺。
唖然と見つめるリーニャ。
「ね、ねぇ……何を言っているのか全く分からないのだけど……」
「あ、大丈夫だよリーニャ、同郷の俺もよく分からない話だから。」
俺とリーニャでそんな事を言っていた時、ひとしきり話し終えたらしく、ヒロツグさんの話が止まった。
「と言うことで、僕はこの世界の仕組みについて、とても興味があるんだよね。」
「仕組み、ですか。」
「そう、前の世界には全く存在しなかった物が、この世界には沢山あるんだ。分かりやすいもので言ったら魔力とか、ステータスとかね。」
確かに、前の世界には魔力なんてもんは無かった。
いや、実際にはあったのかもしれないけど、それを発見する技術や活用する仕組みは存在してない。
それにステータスという概念も、前の世界ではゲームの中にしか無いものだ。
「僕はこっちの世界に来た時、色んな人に協力してもらって、世界について研究し始めたんだ。手始めに魔力から調べ始めたんだけど、その中でも特に異質だったのが、モンスターテイマーなんだよね。」
「異質?」
「うん、殆どの職業において魔力の作用というのは、自分もしくは仲間に対して、魔力を身体の表面に纏わせる事による身体強化。もしくは攻撃スキルと呼ばれているものは、体外に魔力を放出することによって、魔力を衝撃や熱、電気等に変換している。」
また難しい話が始まった。
「それはつまり、魔力を表面的に現象化させているんだよね。それぞれの体内には影響しあってない。」
「それで、テイマーは?」
「テイマーっていうのは、モンスターをテイムするよね。テイムっていうのは、相手の魔力と自分の魔力を同調させる。魔力同士の繋がりを作ることなんだよ。これは他のどの職業にもない特徴であり、異質な魔力の使い方なんだ。」
魔力の同調、それはリビテラさんも言っていたことだ。
魔物と心を通わせるとかなんとか……
「極端な話をすれば、君の魔力を魔物に練り込むと言うか、混ぜ合わせると言うか、そういうものだ。それによってモンスターはテイマーを主と認め、受け入れる。当然、テイムにはモンスターも抵抗するけどね。」
「それで抵抗した際に生じた魔力の歪みが、体を内部から傷つけている……」
「おっ、正解。よく知ってるね。抵抗とは拒絶だ。簡単な説明をすると、アレルギー物質を取り込んだ際に生じる拒絶反応に良く似ている。詳細は違うけれども。」
その話を聞いて、エマのギルドにある図書室で見た情報を思い出した。
テイムの条件だ。
「……手負いであること、状態異常であること、油断していること、降伏していること。」
それはつまり、抵抗もとい拒絶をする余裕を無くさせる方法であると言える。
「それはテイムの条件かな? 魔力と言うのは、体を構成する上でとても重要な成分なんだ。確かに体が傷ついていたり、何らかの状態異常になっていたりすると、自然とそちらにリソースが割かれることになる。だけれど……」
ヒロツグさんは、こちらに顔を向けて、続けざまに言った。
「果たして、それが方法の全てだと思うかい?」
俺がその言葉に疑問を投げ掛けようとしたけど、それは少しお預けとなった。
大豪邸が、目の前に広がっていたからだった。
「ようこそ、我が家へ。」
ヒロツグさんは、白衣を靡かせながら振り向いて言った。
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「す、凄い……」
家の中へと招いてもらった俺達は、ただひたすらに驚いていた。
家の広さもそうだし、廊下の所々に見えるレリーフの様なものや、時折見せてもらった部屋の内部など、その全てに。
所謂成金趣味のような高額なお宝を集めている豪邸とは違い、研究に特化した屋敷と言える。
ある部屋には魔方陣とそれを取り囲む研究者。
ある部屋には様々な色の液体が入っている容器を並べてうんうん唸る研究員。
ある部屋には武器や防具を魔方陣の上に置いて何か呪文を唱える研究員。
と言う風に研究員が沢山いて、ヒロツグさんの家と言うよりかは、とても大きな研究所だ。
その中でも、恐らく客室と思われる、これまた大きい部屋へと通された俺達は、そこにあったソファに座ってヒロツグさんと会話をすることとなった。
「凄いでしょ? 正直、前の世界よりも充実してるよ。」
「は、はい……凄いです……」
「ははは、そんなに緊張しないでよ。お偉いさんって訳じゃないんだし。」
いや、この数の研究員を取り仕切ってるような人が偉くないわけ無いじゃないですか……
「ところで、どうして私たちを助けてくれたの?」
恐縮している俺の思いを知ってか知らずか、リーニャが話をしてくれるみたいだ。
「うん? 実はね、最初は助ける気はなかったんだよ。面倒事に首を突っ込むのはあまり好きじゃなくてね。」
「あー、何かそんな気はします……」
「だけど、途中で気が変わったんだよね。君のそのカバンに入っている、スライム……かな? あの攻撃は見事だったよ。」
俺はその言葉を聞いて、カバンからレイを呼び出す。
レイは机の上に降りた。
「レイといいます、俺の唯一の相棒ですね。」
「そうか。いやしかし、新種かと思えばそうでもなさそうだね。」
ヒロツグさんはあらゆる角度からレイを見つめては、触ってみたりしている。
「で、気が変わった理由っていうのは……もしかして、俺がテイマーだったから、ですか?」
気が変わった理由について、俺から聞いてみる。
今テイマーについて突っ込んだ研究をしているなら、それが一番妥当な理由だと思ったからだ。
「ご明察。そもそも僕がギルドに居るのは、研究対象を探す為なんだよね。今はテイマーを探す為だけに毎日酒場に入り浸ってるようなものだよ。君は見える位置に従魔が居なかったからテイマーとは思わなくてね。」
つまり、初めからレイが足元をついてきたりしていたらヤンキーパーティに絡まれる事なく終わっていたということだ。
俺の行動ナイス裏目。肩掛けカバン良かれと思うべからず。
「それでね……」
ヒロツグさんはレイを持ち上げたりしながらこちらに目を向けて言う。
「このスライム……レイ君を、研究対象にさせて欲しいんだ。」




