24話 フラグ回収とはこの事です
2017/01/15 ユウスケ達が絡まれている時、ギルド職員があまりにも無関心すぎたので、少し描写を追加しました。
前回のあらすじ
宿を探し回ったユウスケ、猫耳に興奮し、犬耳に興奮し、銀色の髪の綺麗な獣人に興奮し、ようやく辿りついた宿屋はうるさい鍛冶屋の隣だった。
でも、関係ないのだ、何故なら、一度寝たらちょっとやそっとじゃ起きないからである。
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ようやく借りることが出来た宿屋の部屋は、思っていたより随分豪華な部屋だった。
ベッドが二つあり、シーツや掛け布団も凄く綺麗だ。
ベッドへと近づき掛け布団に軽く触れてみると、それなりにふわふわとした手触りで悪くない。
部屋には魔石を使ったギミックなのか、魔力を流すと部屋の電気がつくような仕掛けもあったし、この宿にはお風呂もついているらしい。
まさに至れり尽くせりなんだけど、カンカン鳴る鍛冶屋の音だけで客が来ないって言うから、随分可哀想な宿だと思う。
そういえば、この世界には俺達の世界と共通するような物が沢山あった。
ベッドもそうだし、料理なんかもそうだった。
素材を詳しく知っているわけじゃないけど、このシーツなんかも恐らく日本で使っていたものにかなり近い素材だ。
昔にこの世界に転生してきた同郷の人らが広めていったって可能性もあるし、発展して行き着いた先がこれなのかもしれない。
以前雑貨屋のようなところを訪ねた際に置いてあった掛け布団は、魔物の皮に綿のような魔物の毛を縫い付けて作られたふわふわの物だった。
多分、これは純粋にこっちの世界で開発されたものだと思う。
まぁ何にせよ、先人たちのお陰で俺達はより良い生活を送れている可能性が高い。
何処かで同郷の人達に会ってみたいところだね。
さて、先程宿探しに随分歩いたもんだからそれなりに疲れているし、少し休憩をとってから例の研究者の情報を集めることにしようかな。
まだ昼時だし、行動する時間は十分にある。
と、リーニャに声をかけようとしたところで、リーニャは少し俯いて髪をいじっていた。
「リーニャ、どうしたの?」
少し心配になってリーニャに声をかけたら、若干の間を置いて、
「……私、宿屋を探している最中に結構視線を感じたのだけど……そんなに、ヘンかな……?」
ヘン? ヘンとは……?
リーニャは今現在、ポニーテールにしている。
エルフの耳が見られることにコンプレックスを感じていた頃と違い、今は耳を出しているのだ。
金色の髪が後ろで束ねられて、スラッとした体つきにとても似合っていると思った。
そう、思ったのだ。
俺は、ポニーテールに関して、感想を何も述べてない。
リーニャに北門で会った時、馬車の中、何回もタイミングがありながら、俺という男は髪型をイメチェンした女の子相手に全く触れていなかったと言う愚行に、今気づいた。
これは非常にマズいのではないか。
いやしかし、今なら挽回できる。
今だ、今感想を言うのだ。
「いや、その髪型、とても可愛くて似合ってると思うよ。」
慣れない台詞に若干顔を赤くしながら言うと、リーニャも「そ、そう? それなら良かった。」と顔をほころばせた。
うん、間違ってない。俺の選択は間違っていなかった。
「……やっぱり、エルフって珍しいのかしらね。」
リーニャからそう問われた。
あれ、もしかして今さっきの質問ってそっちの方だったのかな……
「う~ん、どうなんだろう。今日町を歩いてる感じじゃ、一人も見かけなかったけどね。」
恐らく珍しいと思うけど、変に珍しいと断言してまた気にし始めたらリーニャにも良くないし、若干ぼかして伝えた。
あんまりぼかせれてない気がするけど。
~
しばらくの休憩を取った後、俺達は一度冒険者ギルドへと向かうことにした。
理由は単純で、どんな情報にせよ一番集められそうなところが冒険者ギルドだと思ったからだ。
人の出入りが恐らく一番多いだろうし、冒険者の噂話なんてもんだってギルドの中では無数に飛び交ってるに違いない。
そうなれば、ギルド職員だってたまたま耳に入ることもあるだろうし、世間話として聞いている可能性もある。
もし情報が手に入らなかったとして、ふたつめの目的である魔物の情報をギルドの図書室で調べる事が出来るので、単純に順番が入れ替わるだけだ。
当てもなく研究者をフラフラと探すよりよっぽどマシだろう。
ついでに途中で雑貨屋へと寄り、大きめの肩掛けカバンの様なものを購入した。
町を歩く時はレイにここへ入ってもらおうと思ったのだ。
町中を歩いて思ったんだけど、レイは小さいので人ごみに紛れると結構見つけるのが大変そうだった。
それなら、町中は逸れないようにカバンに入ってもらっていたほうが安心である。
実際にレイに入ってもらうと、歩く時の揺れが心地良いみたいで、随分と気に入ったようだった。
40分程で冒険者ギルドへと到着した。ここへ向かっている途中、やはりリーニャは周りの視線を気にしている様子だった。
コンプレックスを克服したとは言っても、好奇の視線をジロジロと向けられるのは気持ちのいいものでは無いだろうし、周りの人はエルフという珍しい人種に視線が奪われるのは仕方のないことなんだろう。
あらゆる感情を含んだ視線が向けられる中、しかし声を掛けられることもなく無事冒険者ギルドへと着いた俺達だったが、ここでまさかあのフラグを回収するとは思わなかった。
冒険者ギルド、冒険者が騒々しく行ったり来たりしている中で。
受付に向かおうとする俺たちに向かって、ついに声を掛けてくる者がいたのだ。
「おぉいちょっと待ちな、そこの可愛いネーチャン。」
アステニアの冒険者ギルドの内装は、エマとは違い酒場のようなものが設置されていた。
エマは人が少なく、ギルド内にそれ程人が集まることもなかったので、わりと簡素な作りになっていた。
しかしアステニアは冒険者の人口が高く、そうなれば冒険者ギルドへの出入りも多く、ギルドに設備が充実していくのは当然なことだった。
パーティを組む為にスカウトをする者や、スカウトを待っている者。ギルド内を集合場所にしている者。それらの人達が過ごしやすい空間を作ろうと思えば、それが自然と酒場という形で出来上がったのだろう。
ギルド的にも依頼を受けてもらえるし酒場で多少儲かるしで、双方に利益がある。
さて、冒険者の数が多いということは、その質もまた上下に広いということだ。
そりゃあもちろん、全てが全て良い冒険者とは言えないだろう。
中には、綺麗な女性冒険者を見つけたら手篭めにする為に、腕に物を言わせて無理やりパーティ勧誘を行うなんて事もある。
それが、今の状況だった。
「そんなヒョロい糞ガキなんかに構ってないで、俺らとパーティ組もうや。」
アルダンのような筋骨隆々で、バトルアクスを担いだ2m近くのボサボサ黒髪のケツアゴおっさん。
両目が隠れているような異様に長い前髪で、ナイフを腰に下げた170cmちょいくらいの黒髪のヒョロガリ。
そしてその二人の後ろで腕を組んだまま、まるで興味のなさそうにしている170cmちょいくらいのローブ姿。
帽子を深くかぶっていたので、少し長い茶色の髪しか見えなかったが、恐らく男だろう。
ローブの男は、興味なさそうにしつつもケツアゴとヒョロガリについてきていたので、恐らくパーティメンバーだ。
「あ、あのー、この子は一応俺とパーティを……」
何とか穏便に済ませようと思い、そう声を掛けようとした俺を、リーニャが腕を出して静止する。
「申し訳ないけど、そのヒョロい糞ガキとパーティを組む予定なの。他の人を当たってもらえる?」
「おいおい、この糞ガキ冒険者なのかよ! こんなナリで戦えるのかぁ?」
そう言うと、ケツアゴは大笑いし始めた。
隣でヒョロガリも笑っている。
いや、俺よりそいつの方がよっぽど殴ったら骨折れそうなナリなんですけど。
「……あぁ?」
ヒョロガリがいきなりこちらを睨みつけてきた。
隣のケツアゴも笑いが止まっている。
それどころかリーニャもこっちを見ていた。
あれ、もしかして、口に出てた……?
「お前、俺らに喧嘩売るたぁいい度胸じゃねーかよぉ?」
ケツアゴがゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
俺は恐怖でジリジリと後退する、俺の目の前には2mの大男が迫ってきていた。
その俺とケツアゴの間に、リーニャが割って入る。
「ちょっと? 貴方達、ランクはいくつなの?」
それを聞いてケツアゴは、苛立ちを抑えつつ答える。
「あぁ? 知らねーなら教えてやるよ。俺達はDランクのパーティ『豪腕の唸り』だ。」
Dランクと口にした後、ケツアゴはこちらにドヤ顔のような視線を向ける。
多分、俺達強いだろ? とか、パーティ入りたくなっただろ? とか、そういう感じの視線だ。
周りを見渡すと、他の冒険者達は呆れた視線だったり、同情する視線なんかを送ってきていた。
ギルド職員も、困惑やら何やらでオロオロしている姿が目に映る。
厄介なのに捕まった。
ランクは俺達より上、人数も俺達より上。
おまけに俺は引け腰で、今までの人生で喧嘩なんてしたこと無い。
そして俺は不本意ながら煽ってしまった。
もう逃げられないだろう。
そんな中リーニャは、ケツアゴ達に向かって、これまたとんでもない爆弾を落とすのだ。
「へぇ、Dランクにもなって、まだEランク相手に喧嘩売ってるの?」
ピキッという音が聞こえる。
実際には鳴ってないんだろうけど、ケツアゴの顔を見れば一目瞭然だった。
「Dランクにもなって、まだ冒険者の手本としての教養もマナーも無いのね。力があれば、女だって思いのままだと思ってる?」
次々とまくし立てるリーニャに、ケツアゴもヒョロガリもブチ切れる寸前だった。
しかし、リーニャは止まらない。
「ちょ、ちょっとリーニャ……」
「そもそも、今さっきも言ったけど私はこのヒョロい糞ガキと一緒にパーティを組むの。他を当たってちょうだい。まぁ、私じゃなくても貴方達みたいな野蛮なモンスターなんかと一緒にパーティを組みたいなんて人はいないでしょうけどね。」
その言葉で、ついにケツアゴとヒョロガリがキレた。
先に動いたのはケツアゴだ。
「おいこのクソアマ! 調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
ケツアゴは拳を握りしめ、リーニャに向かって殴り掛かる。
リーニャはそれをしゃがんで躱し、いつの間にか用意していた短剣を腰から抜くと、それを素早くケツアゴの首元に添えた。
いきなり周囲が静まり返る。
首元に短剣を添えられたケツアゴも、それを後ろから見ていたヒョロガリも、もう終わりだな……なんて思っていた周りの冒険者も。
そして、後ろで見ていた俺も。
全員が、動きを止めた。
ケツアゴは冷や汗をかいている。
そのケツアゴの耳元で、リーニャは話しかける。
「Eランクと聞いて侮らないことね。止めていなければどうなったか、貴方の頭でも分かるでしょう?」
とっさに身体を引くケツアゴ、しかし一瞬浮かんだ恐怖より、怒りの方が上回ったみたいで、
「おい! このクソアマ殺すぞ!」
と、後ろのヒョロガリに声をかけた。
ケツアゴはバトルアクスを構え、ヒョロガリはナイフを二刀抜き、それに対峙するリーニャは短剣を構えた。
マズい。非常にマズい。
ケツアゴとヒョロガリがリーニャに向かって一歩を踏み出す。
その瞬間、俺も叫んだ。
「レイ!」
俺が叫ぶと同時に、俺の肩掛けカバンから水色の触手が二本伸びてケツアゴとヒョロガリに迫る。
ケツアゴとヒョロガリは一瞬のことで戸惑い、そのままレイの触手ムチによって叩かれ、後ろへ突き飛ばされた。
「リーニャ! 一旦逃げよう!」
その声にリーニャが振り向こうとしたところで……
身体が、動かなかった。
恐怖とかじゃなく、物理的に、動かなかった。
見ればリーニャも、そしてケツアゴとヒョロガリも動けなくなっているようだった。
よく見ると、それぞれの身体に、電気のような物が絡みつくように走っているのが分かる。
これは、恐らく魔法だ。
静寂に包まれた冒険者ギルドの中に、一人の声が聞こえる。
「ちょっと静かにしてくれないか、折角の酒が台無しだよ。」
それは右手に電気を纏わせた、黒髪で眼鏡をかけた、白衣のような服装の。
「そう思わないかい?」
日本人だった。




