23話 主要都市アステニア
前回のあらすじ
「魔王討伐ね!」
「やりません!」
「じゃあ何でモン娘をテイムするのよ!」
「モン娘が、シュキダカラ~!」
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無事、門を通過して町の中へと入った俺達は、あまりの都会ぶりに驚いていた。
そこらに並ぶ店、店、店。
特に多かったのは食べ物の出店だ。
大都市なだけあり、住人に加えて冒険者がかなり多い。
俺はまだ長期の依頼を受けたことはないけど、冒険者というのは長期の依頼中、基本的には味気ない保存食しか持ち歩かないのだ。
町に帰ってきた時、最初に何をしたいかというと、何より美味しいものを食べたいのだろう。
出店を見ていると、やはり冒険者らしき人達が食べ物を買っている光景が良く目に飛び込んできた。
「凄いなぁー……活気が違う……」
隣に座っているリーニャは少し感想が違ったようで、「人も多すぎるとちょっとむさ苦しいわね……」なんて言っていた。
それから馬車で歩くこと10分程、停留所のようなところへ到着したので、そこへ馬車を停める。
少し離れたところには冒険者ギルドが見えた。
「ありがとうございました。」
御者さんにお礼を言ってから馬車を降りた。
「いえいえ、仕事ですから。」
そう言うと、御者さんは馬のブラッシングを始めた。
「さて、それではお二人さん頑張ってください。私は馬が充分休憩をとったらエマへ引き返しますので。」
御者さんにそう励ましてもらい、いざテイマー研究者へ会いに行こうとした時、御者さんからそう言えば……と助言を受けた。
「まずは、宿屋を確保した方がいいと思いますよ。全く空いてなくて泊まれないなんてことはないでしょうけど、少しでも懐に優しくしたいなら、ね。」
恐らく、安い宿は満室になりやすいということだ。
宿屋について完全に失念していたので、御者さんにはめちゃくちゃお礼を言った。
という訳で、まずは宿探しからだ。
~
「すみません、もう満室でして……。」
停留所の近くから宿を探し始め、回ること3件目。ここまで満室の宿屋ばかりだった。
恐らく、近くに冒険者ギルドがあるのが原因だ。
冒険者なら冒険者ギルド付近の宿を取るのは、考えてみれば当たり前のことだった。
「リーニャ、これはちょっと離れたところじゃないと空いてないかもね。」
「まぁ、仕方ないわね。」
そう言うと、大通りを歩き始める。
冒険者ギルドから遠ざかる方向にも、宿屋は多くあるはずだ。
しかし歩いていると視線がこちらに向けられているのがよくわかった。
恐らくリーニャを見ている。
エルフだから珍しいのか、それともリーニャが可愛いから見てるのか分からないけど、絡まれない様に祈っておこう……
そう思いながら周囲を見回す。
この大都市には、沢山の種族が存在した。
猫耳、犬耳、アレはタヌキ? 熊? かな、所謂獣人と呼ばれる種族だ。
人族よりは数が少ないみたいだけど、それでも多いと思えるくらいには居るみたいだった。
正直、猫耳を見た時は興奮したよね、マジモンですよマジモン! ちょっとモン娘とは遠いけど!
耳をピコピコさせている姿なんてきっと悶絶するくらいに可愛いに決まってる。
あ、もちろん男の獣人も居るけどそっちはノーでお願いします。
だけど、エルフの姿は今のところ全く見ていない。
よく色んな異世界物ではエルフは森の奥でひっそりと暮らす排他的な種族に書かれることも多いし、ここでもそんな感じなんだろうか。
そうして獣人を見て宿屋を探してと視線をうろちょろさせていると、一人の獣人が目に映った。
銀色の長髪に、犬耳? 狼耳? の、凛とした目をしたとても綺麗な女性が、壁にもたれ掛かっていた。
身につけているものは軽装の胸当てや小手等で、恐らく戦士ではないだろう事が見て取れた。
その女性は、ずっとこっちを見ていたようで、俺が視線を向けた刹那、目が合って……
通行人が前を横切り、一瞬視線が遮られた直後には、もう姿が消えていた。
あの女性は何だったんだろう、妙に何かが気になる。
もしかしたら俺の第二のフェチである獣耳センサーにどストライクで引っかかったのかもしれない。
まぁ、いいや。
取り敢えず宿探しだ。
~
宿を探し始めて10件以上。
未だ、空いている宿を見つけることには成功していなかった。
まだ仕方ない。冒険者ギルドに近い方だからだ。
宿はまだある。あるけども……
「空いてないね……」
リーニャも俺も若干テンションが下がっていた。
この調子で埋まっていると、それこそ城壁の付近とかそういう端っこの宿屋しか空いてないかもしれない。
冒険者ギルドへ、歩いて何十分掛かることか。下手すれば1時間コースもあり得るかもしれない。
それは、つらい。
今、ここからなら冒険者ギルドへまだ30分ちょいくらいの距離だ。
冒険者ギルドから円を描くように離れながら探していっている為、まだ冒険者ギルドからはそう離れていない。
しかしこれは宿を探すだけで一日が終わるかもしれないな……流石にそれはないか。
なんて思っていたら、ふと一件の宿屋が目に止まった。
人気が全く無いのだ。
ここなら泊まれそうだ、冒険者ギルドへも30分位の距離だし、そんなに悪くない。
何で人がいないんだろ……対応が悪いとか、値段が高いのかな……?
取り敢えず入ってみることにした。
「あー! いらっしゃい! 宿を利用したいのかい?」
元気よく迎えてくれたのは、厳ついおっさんでもメガネかけてタバコをふかしているボサボサ頭のおっさんでもなく、30代くらいの普通の女性だった。
「そうなんですけど……空いてますか?」
「あー! 空いてるよ空いてるよ! この宿に客なんてめったに来ないからね! アッハッハ!」
何故か大笑いしている受付の女性に若干戸惑いつつも質問をする。
「えと、値段ってどんな感じですか?」
「んー? 一泊銅貨10枚で、朝昼夕のご飯は都度別料金銅貨4枚だよ!」
あれ、エマと変わらないぞ、特別高くないんじゃないか?
そう思った時、リーニャが質問する。
「もしかして、客が少ない理由って、隣の鍛冶屋のせい……ですか?」
鍛冶屋? そんなのあった?
ちょっと耳を澄ましてみると、カンカンと鉄を叩くような音が聞こえた。
リーニャはいつでも周りをよく見てるよね。さすが冒険者って感じ。
「アッハッハ! そうなんだよ! 隣の頑固親父が早朝から仕事始めるから、その音に朝起こされるって冒険者が多くてね!」
朝は特に静かだからさー! と受付の女性は大笑いしながら言った。
「それにね、職人気質が強いもんだから、気に入った冒険者にしか武器を作らないんだよ! お陰で殆どの冒険者が隣の鍛冶屋を利用出来ないし、そのせいでこの宿も不人気なのよね!」
あのー、それって大笑いしながら言うことじゃないと思うんですけど……
そんなことを思っていたら、受付の女性はずいっと顔を近づけてきて「それで、泊まるの? 泊まらないの? どっち?」と問いかけてきた。
いきなり顔を近づけられたもんだからびっくりしてうおっ! って声が出たけど、気を取り直してこの宿を利用することに決めた。
泊まれないよりよっぽどマシだ。
リーニャもそう思ったらしく、ここで良いと答えた。
「そうかいそうかい! それじゃ、二部屋分で銀貨1枚だね。」
そう聞いて俺が銀貨1枚を取り出そうとした時だった。
「ちょーっとまって! 一部屋! 一部屋でいいわ!」
リーニャがそんなことを言い出した。
「ひ、一部屋でいいって、リーニャそれ本気で?」
もしかしてこれは、俺を誘っているのか?
ついに春がくるのか?
前の世界では一度も経験し得なかったそういうあんなことやこんなことを……
「当たり前よ、今はまだお金に余裕がないんだから、こういうところで節約していかないと! 依頼だって毎日報酬の良いものが受けられるか分からないのよ!」
いけない妄想に表情がだらしなくなりつつあった俺に活を入れるような、冒険者の心得を叩きつけられた。
それを言われたら、確かにそうだと思った。
リーニャはそのままツッコミ役のようなしっかりした立場を続けて欲しい。たまにツッコミ諦めるけど。
「はいはい、一部屋ね! じゃあ銅貨10枚よ!」
改めて銅貨10枚を出し直して渡す。
その時、受付の女性が何かを思いついたらしく、
「あーっと、もし長期的に利用するならその分割り引くけど、どうする?」
と聞いてきた。
割り引いて貰えるならこちらとしても喜ばしい限りだ。
「いくらぐらいになりますか?」
「そうね、十日で銀貨3枚でいいわよ!」
十日で銀貨3枚……銅貨60枚……
ろ、六泊分……
「そ、そんなに割り引いてもらって大丈夫なんですか……?」
「アッハッハ! 客がいないより断然マシだよ! ご飯の代金は割り引けないけど!」
その代わり十日は確実に泊まらないと、そっちが赤字になるからね! と言われた。
もちろん泊まるつもりだったので、それで了承して銀貨3枚を払った。
あと利用者名簿の様なものにも名前を書いた。
こっちの宿はエマの宿とは違って、利用者名簿への名前の記載と、利用者の管理に身分証明証を出さないといけないみたいだった。
俺達は冒険者なのでギルドカードを手渡すと、それは受付の裏に置いてあった水晶にかざされた。
それで、俺達の情報が登録されたらしい。
本人確認の類は、身分証明証の照合を行うことで確認するんだってさ。若干現代じみてるよね。
「部屋は右の通路の奥から二番目左側の部屋だよ!」
俺とリーニャは、取り敢えず部屋へと行ってみることにした。
後ろで「頑張りなよ!」とニヤニヤしている受付の女性の視線を受けつつ。




