21話 夢への第一歩
前回のあらすじ
レイにゴブリン達を食べさせたユウスケ。
そのあまりにも伸びないステータスに落胆した。
レイの更なる成長のため、隣町へと向かうことにしたユウスケ。
挨拶回りが終わり、いよいよ新しい冒険の始まりが訪れようとしていた。
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旅立ち当日の早朝。俺は北門に向かっていた。
そこから真っ直ぐ北に向かったところに、次の町がある。
ついに、モン娘テイムへの第一歩を踏み出すのだ。
向こうについたら沢山やることがある。
レイの強化、俺の強化、モン娘の情報収集、ランク昇格。
そして、モン娘のテイム。
そういえばリーニャはEランク~Dランクが一番危ない時期って言ってたよなぁ。
気を抜かないようにしないと。
しかし、今日はやけに静かだな。
いつもはこの時間帯でも農作業をしてる人が沢山居るはずなのに。
何かあったのかな。旅立ちの日になかなか縁起の悪い……
それにしても、この町には本当にお世話になった。
この世界に来てから最初に出会ったアルダン。
一時的にとは言えパーティを組んで一緒に依頼をしたリーニャ。
薬草の調合について沢山教えてくれたイルダさん。
スライムをぷにぷにして仲良くなったサッタ。
Fランクで割引してくれて、助言もしてくれたリビテラさん。
何回も通った冒険者ギルド。
一度しか会ったことのないギルドマスター。
3週間程この町で過ごした筈なのに一度しか会ったこと無いって……
ごめんねマグラさん……
あと今更だけど、アルダンって何かさん付けしにくいよね。なんでだろね。
そんなことは置いといて、この3週間もあっという間だったなぁ。
初めての依頼をして、スライムをテイムして、ダートフロッグを討伐して、レイが思ったより成長して、リーニャとパーティを組んでホーンラビットを討伐して、アルダンに剣の振り方を教えてもらって、ゴブリンを討伐して。
3週間にしてはかなり濃い経験をしてるわ……
冒険者ってこんなに大変なんだね……
いや、この世界では普通なのかもしれないな。日本って毎日同じような繰り返しで生きてられるのは、そこが平和だからで、こういう命がけの事をしてたら自然とそうなるのかもしれない。
その平和な日本から来てこの世界に馴染める俺って結構凄いんじゃないか。
いや凄いよね、本当。魔物と戦ってるんだもん。凄いわ。
日本で言えば熊に剣を持って挑むようなものなんじゃないか?
いや熊の方が強いな、少なくともダートフロッグよりは絶対強そう。
今の俺でも熊に勝てる気はしない。
この世界で日本の熊ってどのくらいの強さなんだろうね。なんか一度思うと気になるよね。
ちらほらと農業をしている人に別れの挨拶をしつつ、そんなしょうもないことを考えていたら北門が見えてきた。
北門だけじゃない、そこには俺の想像もしなかった光景が広がっていた。
「おう、ユウスケ。やっと来たかよ。」
「まぁ、主役は遅れて登場するって言うしな。」
「あたし達が集まった時間が遅くて、もう出発したのかと思ったじゃないか。」
アルダン、デモランさん、イルダさんと次々に言葉をかけてくれる。
ここには、沢山の人が集まっていた。
手配していなかったのに、馬車まで用意されてある。
「え、え、なんですかこれは?」
狼狽えていると、サッタが前に出てくる。
「見たら分かるでしょ、見送りだよ。これから新しい旅を始める勇者ユウスケのね。」
サッタは爽やかスマイルでウインクしてきた。
見送り……俺の為に、こんなに。
「スライム兄ちゃん!」
子供たちが集まってくる。
中には泣いている子も居た。
「旅が終わったら、またレイと一緒に帰ってきてね!」
「頑張ってね!」
「スライムにいぢゃん……」
口々に別れの挨拶を告げてくる。
俺は子供たちの頭に手をおいて撫でてやる。
「うん、頑張るよ。お前らもちゃんといい子にしてるんだぞー。」
続いて、子供たちの親が近寄ってくる。
「ユウスケさん、子供達と遊んで貰って、ありがとうございました。」
「いえいえ、俺も一緒にはしゃいで楽しかったですよ。」
「ふふ、うちの子は今はああですけど、昨日はスライムともっと遊びたいって泣いてたんですよ。」
あ、やっぱりスライムとなんだ。
悔しいです!!!
続いてイルダさんが、小袋を差し出してきた。
「はいよ、ユウスケ。少なくて悪いけど、少し薬を調合しておいたから、持っておいき。」
「わざわざ有り難うございます。」
「いいんだよ。あたしに出来ることはこれくらいだからね。冒険者には難しいと思うけど、大きな怪我するんじゃないよ。」
小袋を受け取る。思ったよりずっしりとした感触に、少し驚いた。
続いてアルダンがやってくる。
「馬車は俺から用意させてもらったぞ。隣町まで徒歩なんてしんどいだろうからな。」
「何から何まで、ありがとうございます。」
「冒険者ってのはいつも死と隣り合わせだ。気をつけろよ。まぁ、お前の慎重な性格なら大丈夫だろうけどな。」
他にも沢山の人に別れの挨拶をする。
リーニャは、居ないのかな……
キョロキョロしてると、それに気付いたサッタが声をかけてくる。
「なに? リーニャを探してるの?」
「あ、分かる……? 昨日も一応別れの挨拶はしたんだけどさ……」
サッタはそれを聞いて、ニヤニヤしながら北門を指差した。
「リーニャなら、あそこに居るよ。」
その言葉をきっかけに、集まっていた人達が二つに別れる。
視界が開けて北門が見えるようになると、リーニャがそこに立っていた。
新調したのか、全身に防具を付けて、新しい弓と矢筒を持って。
そして、金色の綺麗な長髪は、後ろで束ねられてポニーテールになっていた。
それは、リーニャの心が大きく変わった証拠でもあるだろう。
もう、耳を隠す必要はないから。
俺はリーニャに近づいていく。
「おはよう、ユウスケ。」
「お、おはよう。リーニャ、どうしてそんな格好を……?」
リーニャは町の人達の方を見ながら、
「昨日言ったでしょ? 私、強くなるって。その為に旅に出ることにしたの。イルダさんにも、許可貰ったんだ。最後のわがままだからって言ったら、困った子だねなんて言われちゃった。」
「そうなのか……」
「ねぇ、ユウスケ。」
リーニャは俺の名前を呼ぶと、恐る恐る一枚の紙を差し出してきた。
そこには、こう書かれていた。
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パーティ名
救命の志
パーティリーダー
ユウスケ・マツイ:モンスターテイマー
パーティメンバー
リーニャ:アーチャー
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「私、昨日の別れの挨拶の後……ううん、きっとユウスケに助けられたその時から、いつまでもユウスケとパーティを組んでいたいと思っていたの。」
リーニャは迷いながら決意しながら、言葉を紡ぐ。
「私じゃまた足を引っ張っちゃうかもしれないけど。もし、もしユウスケが嫌じゃなかったら。この紙を、受け取ってもらえませんか。」
それは自信のなさそうで、とっても不安で、そんな気持ちが分かるくらいの小さく震えた声で。
俺には、モン娘を集めるという目的がある。
それは、一般的にはきっと、酔狂な趣味だとか、度の超えた性的嗜好だとか思われるかもしれない。
でも、俺は紙を受け取った。
根拠のない事だけど、それでもリーニャは受け入れてくれそうだと思ったから。
「こっちからも。よろしくお願いします。」
リーニャの顔が、みるみる明るくなっていくのが目に映った。
旅の目的は、また後でゆっくり話せばいいかな。
馬車が近くまで寄ってくる。
御者が声をかけてきた。
「そろそろ出発するかい?」
その言葉を聞いて、リーニャが止める。
「ちょっと待って。私、一つやり残したことがあるの。今やらないと、きっと後悔するから。」
そう言って、見送りに来ていた人達の方を向いた。
~
ユウスケを見送りにきていた人だかりの中、イルダに話しかける声があった。
「……よぉ、イルダ。」
「なんだ、リビテラかい。」
のそのそと歩いてきたリビテラは、イルダの隣で立ち止まる。
リビテラとイルダは、ユウスケとリーニャの方へと視線を向ける。
「……ユウスケも旅に出るみたいだしよ、俺もそろそろ旅に出る。」
「昔言ってた、やり残したことってやつかい……?」
「ああ、俺がやらなきゃならないことだ。」
二人の間に、暫しの沈黙があり、またリビテラが言葉を発する。
「……リーニャも、旅に出るんだってな。良いのか?」
「わがまま言っても良いって言ったのはあたしだからねぇ。」
そういうイルダは、嬉しい気持ちと悲しい気持ちが織り交ぜられた様な表情をしていた。
「我が子の成長っていうのは、嬉しいもんだけどね。結局最後まで母さんとは呼んでくれなかったよ。」
愛情が足りなかったのかねぇと呟くイルダ。
イルダにとっては我が子だったのだが、エルフという種族の壁が親子関係には至れなかったのだと言う思いもあった。
その種族というどうしようもない壁に、イルダはずっと悩みを感じていた。
リーニャと同じ様に。
「種族なんて、関係ないのにねぇ。」
溢れた言葉は、本当に心から思っているからこそ、自然と出てきたものだった。
それをリビテラは腕を組んで静かに聞いていた。
「あたしは、最後まであの子の親になれなかったのかね。」
その言葉を聞いて、リビテラは口を開く。
「……いや、そんなことはねぇさ。」
リビテラはいつもの無愛想な顔で話を続ける。
「あの子も、あんたと同じだ。何かキッカケさえアレば、元々壁なんて無かったんだって、気付くもんだ。」
視線の向こうでは、リーニャがこっちを向いて大きく息を吸い込んだところだった。
リビテラは言う。
「よぉく聞いとけよ。聞き逃したら、次はいつになるかわかんねーぞ。」
その台詞の直後、リーニャが大きな声で叫んだ。
「いってきまーーーす!!! おかあさーーーーーーん!!!!」
その言葉は、リーニャが、イルダが、二人共がずっと求めていた言葉。
愛情の、印だった。
「……全く、あの子は本当に……」
そう呟いたイルダは、振り返って歩こうとする。
「さて! ギルドに戻って仕事をしようかね! あの子が居ないと、受付なんてあたしくらいしか居ないからねぇ。」
それをリビテラは、肩を叩いて止めた。
その手には、小さい布が握られている。
「受付嬢が涙我慢してたら依頼しにくいだろ。ここで泣いとけ。」
「……そうだね、そうしておくよ。」
イルダはそう言うと、リビテラからハンカチを受け取った。
溢れ落ちる雫は、イルダの悩みを全て洗い流していった。
これで、一章完結です。つたない文章ではありますが、ここまで読んでくれてありがとうございます!
次は二章の旅立ち編にはいります。




