18話 心配なんです、色々と
前回のあらすじ
アルダンに重心について教わった後、森の奥から現れたのはゴブリンを率いるゴブリンリーダーだった。
戦闘経験を積むためにゴブリンリーダーとタイマンする事になったのだが、最後の最後でゴブリンリーダーの痛い反撃を食らってしまい、ユウスケは意識を落とすのだった。
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太陽が真上でギラギラとテンションを上げ、まるで休暇を知らないかのように自分の仕事をこなしている真夏。
俺は高校の友人と他愛もない会話をしていた。
「でさ、そこで俺がこう言ったわけ。お前の事を、一生離さない……ってな。」
「んで、結果は?」
「罠だったよ。バッドエンド直行。もう二度とヒロインがヤンデレのギャルゲーはやりたくないって思ったね。」
どうやらヤンデレヒロインに惨殺されたらしいこいつは小山武。
高校で唯一のオタ仲間だ。
情報技術系なんて感じの工業高校に通っておきながら、何故か周りは体育系のノリばかりと言う非常に過ごしづらい環境に見舞われたせいで、気軽に話しかけられる人間がこいつしかいなかった。
高校3年間、お陰で今では親友といっても過言ではない。
「で、祐介の方の新作はどうだったわけ?またモン娘系買ったんだろ?」
「あぁ、昨日はやってないんだよね。今日からどっぷりやるつもり。」
「そうなの? まぁやったら感想教えてよ。じゃ、またね。」
そう言って武は曲がり角を曲がっていった。
家へと着いた俺は、早速PCを起動する。
もちろん、最近買ったモン娘ハーレム物のギャルゲーをする為だ。
少し前から頭が痛いが、ゲームをするのに支障はない。
ゲームを起動すると、ウィンドウが開かれる。
タイトル画面が表示されると、そこには金髪で耳の尖ったエルフのような女の子が表示されていた。
何故か、見たことがある。いや、会ったことがあるような気がする。
耳にかけたイヤホンから声が流れてくる。
「……て……きて……」
それは、何か最近聞いたことがあるような声だった。
「起きて……起きてよぉ……」
ソレは泣きそうで、切なそうで、とても震えた声だった。
その声をきっかけに徐々に意識がまどろんでくる……
やばいな、眠たくなってきた。寝るならPC消しとかないと……
そんな考えが頭によぎっても、身体は動かなかった。
意識は、深い底へと沈んでいく……
~
真っ暗な意識の中に、少しずつ声が聞こえてくる。
「……だから、落ち着けよリーニャ。」
徐々に会話が聞こえ始める。
少し太い声と、少女のような声が何か言い合いをしているのがうっすらと聞こえてくる。
「だって! 戻ってきてからもう3時間以上も目を覚まして無いのよ!」
「だから、大丈夫だって。ロゼッタとか言うプリーストにも見てもらったろ。ヒールもかけてもらったしよ。」
「そうだけど……」
片方はアルダンで、もう片方はリーニャか。
戻ってきてから3時間目を覚まして無いって、俺が?
……そういえば、俺ってゴブリンリーダーと戦ってたんだっけ。
それで、ええと……あ、そうだ。
確かとどめの一撃を入れる時にゴブリンリーダーに頭を思いっきり殴られたんだ。
それで気絶しちゃったのか。
どうやら夢を見ていたみたいだ。
これから先モン娘をテイムする人間がゴブリンリーダーごときの殴り一発で意識持っていかれるとか笑えない。
目を開ける。
眠いわけじゃないのに、やけに瞼が重かった。
目を開けると、ここがどこか分かった。
アルダンの家だ。
アルダンの家の部屋のひとつに運ばれたみたいだ。
取り敢えず、起きたって伝えないとね。
そう思って口を開くけど、出てきたのはうめき声みたいな変な声だった。
「うぅ……」
その声を聞いて、近くに居たアルダンとリーニャがこっちを向く。
アルダンはばつが悪そうに、リーニャは大粒の涙をためて。
「ユウスケ! やっと起きたのね!」
リーニャは俺が寝ているベッドへ身を乗り出してくる。
近い、近いよリーニャ。ドキドキしちゃう。
側のアルダンも、続いて話しかけてくる。
「悪いなユウスケ。俺が戦士だから戦士の感覚でいたが、モンスターテイマーは脆いんだったな。失念していた。」
アルダンは申し訳なさそうに、それはもう本当に申し訳なさそうに俺に謝った。
ガタイのいい厳つい男が俺に頭を下げている光景は、逆に俺のほうが気圧されてしまう様な思いだった。
まだはっきりと出ない声で、何とか会話を試みる。
「いや、油断したのは俺の方ですから、頭を上げてください。」
「いやいや、運良くお前が死ななかったから良いものの、下手すりゃ一撃で死んでたからな。本当に悪かった。」
「いやいやいや……」
まるで日本でよく見る光景になってしまって笑いそうになったけどなんとか堪えた。
アルダンといやいや合戦をやっていた所に、コンコンとノックの音がする。
誰だろう、取り敢えず入って貰おう。
「はい、どうぞ入ってください。」
中に入ってきたのは、イルダさんと、水色のロングヘアーに青と白が基調の修道服のようなものを着た知らない女性だった。
歳は見た目だと20代後半かな?かなり綺麗な女性だ。
俺の知る修道服とちょっと違うのは、被り物は何もしておらず、服の胸のところに赤いルビーのような宝石をはめたブローチのようなものをつけていたところだ。
これはこれでいい。
「ユウスケ、起きていたんだね。」
イルダさんが手元に調合した薬らしきものを持って部屋に入ってくる。
続いて修道服の女性が微笑みながら入ってくる。
その微笑みは慈悲深い天使のようで、包容力を感じさせた。
凄く、お母さんです。
「お初にお目にかかります、ロゼッタと申します。」
「あ、これはこれはどうもご丁寧に……」
ロゼッタと言えば、今さっき目を開ける前くらいにアルダンが言ってたような……
つまり、俺を治療してくれた人か?
「体調の方はいかがですか? どこか不調はありますか?」
「あぁ、いえ、全然問題ないです。むしろ前より良いくらいで……」
「そうですか、それは良かったです。ヒールが失敗してなくて。」
えっ? 言葉の最後に小さい声で不穏な台詞が聞こえたような……
気のせいかな? 気のせいだよね?
すると突然廊下でバタバタと大きな足音が聞こえてきた。
かと思えばいきなりドアが勢いよく開かれ、そこには修道服を着た背の低い黒髪ショートの女の子が仁王立ちで立っていた。
「ロォォォゼェェェッタァァァァァ!!!!」
どうやらお怒りの様子である。
「勝手に他人を治療しないでって言ったでしょ!! まずはあたしに報告しなさいって!!」
ものすごい剣幕でロゼッタに捲し立てる謎の少女。
呆然とする俺たち。
ニコニコしているロゼッタ。
よく分からない状況に場馴れしてそう? なアルダンが宥めに入る。
「まぁちょっと待て、無理矢理治療を頼み込んだのは俺だ。その子を叱らないでくれ。」
「頼まれて治療をするなとは言ってないの。勝手に治療をするなと言っているの。」
「そもそも、あんたはこの子のなんなんだ? 見た感じは年下に見えるが。」
その言葉を聞くと、少女はまたもや仁王立ちになって鼻をふんとならし、こちらに右手人差し指を向けた。
「あたしは、クアレオ修道院でビショップをやっているフリナ・クアレオ! 12歳よ! ロゼッタの教育役を務めているわ!」
なぜかご機嫌に自己紹介をしたこのフリナちゃん。
無い胸を張って鼻をならしていた。
「ふふん! 驚いたわね? 驚いたわよね? 12歳でビショップにまで上り詰めたこのあたしに! あんたたちに崇める権利をあげるわ。」
なんだ……このテンションは……! 俺の上位互換か!?
立場がなくなるからやめろよ!
「12歳でビショップだと? 本当ならかなり凄ぇな。」
勝手に焦燥感に苛まれていた俺をほったらかして、アルダンその他はフリナに驚いていた。
そんなに凄いのだろうか。まずビショップってなんだ?
頭にはてなマークを浮かべていた俺に、リーニャが耳打ちしてくれる。
「ビショップって言うのはプリーストの上よ。プリーストが下位だから、ビショップは中位ね。」
なるほど、つまり12歳にして中位職にまで自力で上がったのか。
そりゃ凄い。
「しかしフリナ・クアレオって言うと、もしかしてクアレオ修道院を建てた貴族の?」
「そうよ、ズィーダ・クアレオの娘よ。」
「はぁー、それじゃあかなりのお偉いさんじゃねーか。俺敬語なんて使えねーぞ。」
アルダンからポンコツ発言飛び出しました。
「いいわよ敬語なんて。もともと貴族の立場が嫌で修道院に入ったんだから。今のあたしは貴族じゃなくてビショップなの! ビショップ!」
フリナちゃん。ビショップという単語を口から放つ度に無い胸を張って仁王立ちをする。
小学生特有の可愛さを感じるね。
「……そこのあんた、何か失礼なこと考えてない?」
いーやぁ! 大人の女性特有の勘の鋭さがありますね!
凄いと思います!!
「さぁ、ロゼッタ! 帰るわよ! もう勝手に行動しないでよね本当に!」
フリナはロゼッタの首根っこを掴もうとして身長が足らず、両腕をつかんで歩こうとした。
いやちょっと待ってくれ、俺は聞きたいことがあるんだ。
「フリナさん、ちょっと待ってください。」
フリナは立ち止まってこちらを向く。
「ん? なによ?」
「どうしてロゼッタさんは勝手に治療をしてはいけないんですか?」
そう、勝手に治療してはいけない理由だ。
緊急性のある怪我の時、今回なんて俺は気絶していた訳だし、いくら教育中だとか言っても報告なんて後回しでいいはずだ。
「関係ない人は知らなくていいわ。」
関係ない人ね。残念ながら俺は関係ある人なんだな。
「俺は、治療を受けた者です。当事者なら聞く権利はありますよね?」
その台詞を受けてフリナは眉をピクッと動かした。
手応えを感じた。これは理由を聞けるぞ。
「はぁ……聞いたら後悔するかもしれないわよ。それでも聞く?」
えっ? 後悔? なんで? 尚更気になる。
「教えてください。」
フリナは、ハァとひとつため息をつくと、俺に向かってこう言い放った。
「ロゼッタはね、一人でのヒールの成功率が10回に1回程、つまり10%なのよ。」
はい、若干予想してました。問題ないです。
でも失敗するなら成功するまでかければいいのでは?
そう思った俺に、フリナは追い討ちをかけてきた。
「しかもロゼッタの場合、失敗した時若干ダメージを与えるわ。」
その台詞を言い放った後、フリナは背を向けて肩を落とした。
絶句する俺たち。
そして、この部屋に来てから今の今までずっとニコニコしているロゼッタ。
あの話を聞いた後では、天使の笑顔には見えなかった。
この人、悪魔だ。




