17話 アルダン先生2
前回のあらすじ
アルダンに戦い方を教えてもらい、ゴブリン3匹相手に見事無傷の勝利を収めた。
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「まだなっちゃいねぇな。」
3匹分の右耳を剥ぎ取って、死体をレイに格納してもらった後、アルダンの第一声がコレだった。
「まぁ、初めてだし仕方ねぇか。途中で攻撃を受け流した後に盾で相手を押したところはなかなか良い判断だったぞ。」
「ありがとうございます。」
確かにそこは自分でもなかなかいい判断だったと思う。
自画自賛。大事。
「そうだな……恐らくだが、お前まだ攻撃するのに躊躇いというか恐怖というか、そういうのがあるだろ?」
「そうなんですかね……?」
「あぁ、剣を振るうときの重心がおかしいように見える。」
重心が? 剣を振るう時は一応踏み込みで勢いをつける感じを意識してたけど。
「なんつーかな、お前は重心移動を全部足でやってるように見えるんだよな。」
「そうですね、それって何かおかしいですか?」
「重心っていうのは、全身なんだよ。言葉にするのは苦手なんだが……多分お前はまだ上半身が魔物に近寄る事を恐れている。ソレのせいで足だけで重心移動をしようとするから、剣に勢いが乗り切らねぇ。」
アルダンは俺から剣を受け取り、構えた。
「いいか? 俺が今から重心移動を見せるから、身体の動きを見ろ。重心を意識して見ろ。」
アルダンは、そのまま何回か剣を振り下ろす。
ソレを、俺は足先から剣先まで観察した。
正直なところ、あんまりよくわからなかった。
ただ見た感想だと、上半身は若干捻りが入ってるように見える。
剣先は弧を描くようにして振るわれている。
みたいなところだった。
でも俺が何か掴めるまで何回も何回も、アルダンは剣を振るってくれた。それで俺も、なんとなく重心の動きが分かったような気がする。
多分、意識するのは足じゃなく剣先だ。
俺は足で重心移動をしていたから、上半身から上には勢いが乗らないって言っていた。
アルダンは多分、剣先を意識して剣を振るっている。
剣先に重さというか、荷重というか、ソレを意識したら、上手く振れそうな気がした。
「ユウスケ、お前何か掴んだな? 表情が変わったぞ。」
アルダンはニヤニヤしながら俺に剣を渡した。
俺は今さっき思いついたことを実践してみる。
だが、上手くいかなかった。振り下ろした剣に、身体が持っていかれたのだ。
その御蔭で盛大によろけてこけてしまった。
「いってて……上手くいきそうだと思ったんだけどなぁ……」
「いや、重心移動は今さっきよりマシになった。だがまだ間違ってるな……」
アルダンはウンウン唸っている。多分言葉を探しているのだろう。
アルダンは探り探り俺にソレを伝える。
「えぇと、重心移動はマシになったが、勢いと一緒に重心を剣に乗せすぎだ。重心は身体に残せ。勢いだけを剣に伝えろ。」
「えぇ……全然イメージわかないです……」
「ちょっと何回か振ってみろ。その度に俺が助言するから。」
アルダンの重心指南は、その後1時間程続いた。
「ハァ、ハァ」
流石に1時間も剣を振っていると疲れた。
今は地面に寝転がって休憩中だ。
レイを枕にして寝転がると、超絶気持ちいい。
レイもこういうのはあまり嫌じゃないみたいで、大人しく枕になっていた。
可愛い。
「だいぶマシになってきたな。最初の頃より、かなり剣に威力が乗ってるはずだ。」
アルダンは俺の仕上がりにそれなりに満足したみたいで、笑顔で頷いていた。
「悪いな、なかなか教えるのは苦手でよ。どっちかって言うと身体で覚えるタイプだったからな……」
それでも1時間ほど根気よく教えてくれた事が、アルダンの人の良さを表していた。
「いやいや、かなり助かりました……戦闘技術は身を守るためにも持っておいたほうがいいですから……」
「そうだな、死にたくなけりゃ強くなれってことだ。」
よし、かなり休憩したし、そろそろゴブリンを探しに行きますか……
そう思って立ち上がった所で、アルダンが少し険しい表情をしているのが目に入った。
「……アルダンさん、どうかしましたか?」
アルダンは少し目を瞑った後、ある一点に視線を動かした。
「ほぉ……なかなか面白いやつが出てきたな。」
「えっ? もしかして、魔物ですか?」
「あぁ、この気配は、恐らくゴブリンリーダーだろう。」
ゴブリンリーダー。それはゴブリンの中でも若干知能が備わっており、名前の通りゴブリンを率いて集落を作ることもある厄介なゴブリンだ。
集落を作るだけでなく、身体能力も普通のゴブリンとは違って少し高いため、普通のゴブリンだと油断して戦ったものが怪我をすることも少なくないらしい。
討伐ランクは、単体でEランク。ゴブリンの討伐ランクがEランクの依頼になるのは、こいつのせいだといっても過言ではない。
「ユウスケ、丁度いいしゴブリンリーダーを倒してこい。」
「えぇ…」
「大丈夫だ。この気配だと周りのゴブリンも10匹居ないくらいだ。普通のゴブリンは俺とレイが受け持ってやるから、お前はリーダーだけやればいい。」
そんなお膳立てされたら、やらざるを得ないじゃないですかぁ……
でもゴブリンリーダーと聞いて、若干怖気づいてる自分がよくわかる。
そんな迷いがある俺に、アルダンから悪魔の囁きがあった。
「ゴブリンリーダーの討伐報酬は、1匹銀貨1枚だぞ。」
「やります。」
ゴブリン達の姿が見えてくる。
数は1、2、3…8匹か。
そのうちの1匹が、動物の皮の様なものを身にまとい、角が若干大きく、身体も若干大きいゴブリンが居た。
そいつが、ゴブリンリーダーだろう。
確かにパッと見ただけでは、普通のゴブリンと間違えそうだった。
「リーダーがどいつかはわかるな? お前はあのリーダーを倒せ。俺とレイは周りのゴブリンを片付けていくからよ。」
アルダンがゴブリンに向けて走り出した。
「よし、レイ。周りのゴブリンを頼む。」
俺が指示すると、レイもゴブリンへ向けて走り出す。
俺はゴブリンリーダーへ近づいていく。
ゴブリンリーダーは俺が向かってきているのを見て、戦闘態勢に入った。
「グギギギャ!」
ゴブリンリーダーは先手必勝とばかりに棍棒で殴りかかってくる。
速度は普通のゴブリンと比べて早かったが、攻撃の単調さは、あまり変わってないみたいだな。
一度目は早さにびっくりして盾で受けるだけになってしまったが、二度目は大丈夫だ。
もう一度振り下ろしてくる棍棒を、盾で受け流す。
しかし、ゴブリンリーダーは受け流されてもあまり体勢を崩さなかった。
こいつ、様子見してるのか?
他のゴブリンと違って、若干余裕を持たせて攻撃しているのか?
三度目の攻撃を受け流した後、やはり体勢をそこまで崩さなかったので、盾で押して体勢を崩そうと試みる。
すると、最初にゴブリンを押した時より、すんなりゴブリンリーダーの体制を崩すことに成功した。
多分、重心移動の練習の成果だ。
俺はあの練習によって、恐らく身体の使い方そのものを少し理解した。
それの結果、剣術のみならず、重心移動に関係する動作全てに勢いを乗せることが出来るようになったんだ。多分。
よろめいたゴブリンリーダーに向けて、剣を振るう。
最初にアルダンに見せてもらった逆袈裟斬りだ。
ゴブリンリーダーの右脇腹から左肩へと、まるで剣が吸い込まれるように切り裂いた。
アルダンと同じように、真っ二つにというわけにはいかなかったが、それでも成果は上々。
大きく切り裂かれたゴブリンリーダーは、痛みに苦しみながらも何とか立っているレベルだった。
もう一度横薙ぎに斬りかかる。コレで終わりだ。
しかし、最後の最後で最大に油断をしてしまっていた。
もうゴブリンリーダーは攻撃できないと思っていたのだ。
俺が剣を振ろうとした矢先、ゴブリンリーダーは避けるでも受けるでもなく、攻撃を選んだ。
俺の頭上に、棍棒が迫ってきていた。
俺の剣がゴブリンリーダーの胴体を捉えたと同時に、ゴブリンリーダーの棍棒が俺の脳天に直撃した。
あまりの痛みと衝撃に、視界が回る。
ドサッという音が聞こえた。
多分俺が地面に倒れこんだ音だ。
徐々に視界が暗転していく。
そうして、俺は気を失った。




