16話 アルダン先生
前回のあらすじ
ゴブリンの討伐をしようと森にやって来たユウスケだったが、遭遇したのはゴブリンではなくアルダンだった。
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「あれ……アルダンさんこそ、何やってるんですか?」
農夫であるはずのアルダンは、バトルアックスらしきものを担いでいた。
もし見た目通りなら、魔物を狩っていたのだろう。農夫なのに。
「あぁ、俺はアレだ。こっちの森にも異常がないかどうか調べてたんだよ。」
「異常が?」
「ほら、向こうの森にはポイズンビーが発生しただろ? だからこっちも一応調べておかないとな。」
なるほど。ポイズンビーの出現が何かの予兆かもしれないし、不安要素は潰しておこうって感じか。
討伐隊が来るまでまだ数日かかるみたいだし、ついでに頼んだりするのかな。
「それにしても、なぜアルダンさんが? そういうのは冒険者の仕事なんじゃ……」
「あぁ、そりゃ簡単なことだ。あの町では俺が一番つえーからな。」
アルダンはガハハと豪快に笑った。
確かにあんな重そうなバトルアックスを担いだアルダンは、どこからどう見ても戦士……いや、重戦士とでも表現できそうな迫力がある。
「で、お前はこれから何するんだ? もしかしてゴブリンでも狩るのか?」
「えっ、なんでわかったんですか。」
「いや、適当に言ってみただけだ。当たるとは思わなかった。」
適当じゃないですか! やだー!
アルダンは変わらずガハハと笑いながらこっちを見ていた。
「それじゃ、そろそろ行きますね。」
「おう、まぁ殴られたら痛いと思うから、殴られないように頑張りな。」
「痛いじゃ済まないと思うんですけど……」
そんなことを言いながら俺は森へと入っていこうとした。
「おっ、そうだ。ユウスケ。」
アルダンから急に呼び止められる。
「一体どうしました?」
「ついでだからよ、お前の戦い方見させてもらうわ。」
「へ?」
「テイマーの戦い方に興味があるんだよ、見たこと無いしな。それに、今更だけど剣の振り方くらいなら教えてやれるぞ。」
独学で良ければな、と後に付け加えてアルダンはそう言った。
剣の振り方教えてもらえれるのか! それは嬉しい、確かに今更だけど。
それでもこれから更に強い魔物と戦っていくことになるし、心得があるのとないのでは雲泥の差だ。
「よし、じゃあさっさと行くぞ。」
そう言ってアルダンは俺の背中をバシッと叩いて森の中へと入っていった。
本当によく背中を叩く人である。
~
森の中は、ホーンラビットの生息地域だった森とは雰囲気が大きく違った。
薄暗くて、ジメジメしている。変なキノコとか生えていそうだ。
キノコ見つけたら取り敢えずレイに格納してもらっておこうかな。
今はアルダンが先頭を歩いている。先程持っていたバトルアックスは背負って、俺の持っていた麻痺剣を持ってだ。
最初にゴブリンを見つけた時に、剣の振り方の手本を見せるといっていた。
どうやらアルダンは言葉にして教えるのが苦手らしく、取り敢えず見て欲しいといっていた。
歩くこと10分ほど、アルダンが不意に立ち止まった。
「おう、ゴブリンのお出ましだ。」
視線の先には、ゴブリンが5匹居た。
緑色の肌、頭についている小さい角、ボロボロの布を身につけ、棍棒を持っていた。
こちらを見て、鳴き声を上げる。
「ゲギャギャ!」
5匹は群れては居たが、全く統率されておらず、それぞれが適当にアルダンへと襲いかかる。
もしレイがおらず俺が一人だったら、アレを捌くのはちょっとツラそうだ。
しかし今前に立っているのはアルダンである。
町で一番強いと言っていたアルダンは、剣を構えて先頭のゴブリンへと視線を向ける。
右手に握った剣を後方に引き、左腕で前を守るように構える。
「まずは盾を使うと想定した構えだ。相手の攻撃を捌いた後の隙を狙う。」
ゴブリンが大振りに棍棒で殴りつけてくるのを、盾をつけていない左腕で受け流し、よろめくゴブリンの右脇腹から逆袈裟斬りで切り上げた。
ゴブリンは胴体が真っ二つになり、息絶えた。
その切断面を見れば、引きちぎったようなあとになる俺の剣技とくらべても、圧倒的な技術の差があることが分かる。
次は身体を少し左に向けて、剣を前に傾けるような構え。
「次は盾のない戦闘時の戦い方だ。敵の攻撃を捌くのは変わらねぇ。ソレが盾か剣かの違いだけだ。」
振りかぶられた棍棒を剣の腹で受け、そのまま受け流す。
ゴブリンが体制を崩し、よろけた所に剣で斬りかかる。
その一連の動作も、独学と言えど卓越した技術を感じさせた。
残りの3匹に視線を向けるアルダン。
「お前は盾を使うからな、一つ目の戦い方で残りを狩るから、よく見ておきな。」
盾を持っていないはずの左腕でゴブリンの棍棒を捌きながら、1匹ずつ切り捨てていくアルダン。
俺はそれを、盾で受け流す方はどうにかなりそうだが、剣の鋭さは真似出来ないだろうなと思いつつ見ていた。
ゴブリン5匹を狩り終わったアルダンは、5匹分の討伐証明部位である右耳5個を剥ぎ取って俺に渡してきた。
「ほらよ、ゴブリンの右耳だ。5匹でも少しの足しにはなるだろ。」
「俺が狩ったわけでもないのに、なんかすみません。」
「俺に取っちゃそんなもんはした金だからな。俺が欲しくなる額って言ったら、せめてCランクくらいからだな。」
はぇ~、Cランクってそんなにいい額貰えるのね。
まぁ俺にはまだ遠い話だけども。
右耳を受け取った後、アルダンは更に剣を渡してくる。
「ほら、次はお前が実際に戦う番だ。今さっきの俺がやった戦い方を真似してみな。」
「ええっ! そんないきなり真似なんて出来ませんよ。」
「いいんだよ、一度やってみな。危なくなったら俺が助けてやるから。」
マジか……えぇと、盾で相手の攻撃を捌いてから、相手の隙を見て斬りかかると……
「レイはもちろん戦闘に参加しても良いんですよね?」
「レイ? あぁスライムか。良いぞ。元々テイマーなのに従魔を使わないってのは少々酷だしな。お前の戦い方に今さっきの型を組み入れる感じでやってみな。」
最悪俺が1匹ずつ倒す間にレイに他のゴブリンの牽制なりしてもらって、出来ればそのまま倒してもらえばいいか。
取り敢えずゴブリンの死体はレイに格納してもらって、俺とアルダンはゴブリンを探しに歩き始めた。
5分くらい歩いて、アルダンが立ち止まった。
どうやらまたゴブリンを見つけたらしい。5分ってエンカウント率高くないですか。
「3匹か、まぁレイとお前なら3匹くらいは余裕だろ。」
俺とレイは前に出る。
向こうのゴブリンもこちらに気付いたようで、威嚇しながらこちらへと近づいてくる。
「よし、レイ。奥の2匹を相手してもらえないか。俺が手前のゴブリンを処理したらそっちに向かうから。」
レイはぷるるんとした後、奥のゴブリンに向けて移動を始めた。
俺は手前のゴブリンに声を上げて挑発する。
「おい! かかってこいよ!」
手前のゴブリンは挑発が効いたのかこちらへと向かってくる。
いや、言葉は分かってないだろう。なんか騒いてるからあいつから殺そうくらいにしか思ってなさそうだ。
ゴブリンは棍棒を俺に向かって振り下ろしてくる。
俺は左腕の盾で棍棒を受け流そうとするが、腕に衝撃が多く伝わってきて上手く受け流せずそのまま硬直する。
よろけなかっただけまだマシか。
ゴブリンはまた棍棒を振り下ろしてくる。
武器を持ってるとは言っても所詮は知能が低いようで、単調な攻撃しかしてこない。
何回か攻撃を受けていると、衝撃の逃し方が若干分かってきて、何回目かの受け流しでゴブリンが体制を崩した。
だけど若干甘かったようで、すぐ体勢を立て直そうとしていた。
俺は剣で斬りかかる余裕はないと思い、そのまま盾でゴブリンを押した。
「ギャッ!?」
ゴブリンは大きくよろけて後ろへと下がる。
このチャンスを逃すかと、横に薙ぎ払うように剣を振るった。
「ギャギャギャ!!」
腹へと斬撃が当たるが、致命傷にはならなかったようでゴブリンはこちらへと向かおうとする。
だが、足もフラフラで棍棒を握る手も弱々しくなったゴブリンは何ら脅威でもなく、首元を狙って振るった剣が見事当たり、ゴブリンは息絶えた。
すぐさまレイの方へと視線を向けると、レイは片方のゴブリンへと絡みつき、もう片方のゴブリンがレイを攻撃しようと棍棒で殴るが、それが全部レイが絡みついているゴブリンへと当たるという、傍から見れば仲間割れにしか見えないような光景が広がっていた。
「ゴブリンって、あんなにアホなのか……」
必死に相方のゴブリンに……いやレイに攻撃をしていたゴブリンの背後から思い切り斬りかかり、倒れたゴブリンに剣を突き刺す。
レイの方は絡みつきを止めてすぐさま体当たりをかまし、よろけたところへ鞭状に伸ばした身体を叩きつけていた。
そんな戦い方出来たのね。優秀だわ。
レイの方のゴブリンは骨が折れる様な音がした後、動かなくなった。
こうして3匹の討伐は、何の問題もなく終わった。




