13話 リーニャの思い
前回のあらすじ
リーニャに寄生しつつも順調にホーンラビットを倒していくユウスケ。
8匹目の剥ぎ取りをしている最中に急に聞こえてきたのは、ポイズンビーの羽音だった。
急いでリーニャと共に逃げるユウスケだったが、逃げた先の頭上からポイズンビーの奇襲を受け、リーニャが倒れてしまう。
なんとかポイズンビーを倒したユウスケは、解毒の為にリーニャに駆け寄ったが、そこで……
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「リーニャ、お前もしかして……エルフか?」
リーニャは、ただ黙ってしまった。
この世界のエルフの立場がどうなのか知らないけど、リーニャはエルフであることを隠しておきたかったのか?
いや、今はそんなことを考えてる場合じゃないな。
取り敢えずここから離れないと。
「ほら、まずコレ飲んで。さっさと町に帰って休もう。」
リーニャは大人しく薬を飲んだ。
リーニャを背負って15分程歩いた。
既に森からは出ており、遠目には町が見える。
おそらく後30分歩いたら到着するってところかな。
「……驚かないのね。」
不意に後ろから声をかけられた。
小さな声でそう言ったリーニャは、今どんな顔をしてるんだろうか。
「驚かないって、エルフだったことに?」
「……そうよ。」
「あー、ポイズンビーが居なかったら驚いたかもね。」
実際ポイズンビーに対しての恐怖や、リーニャが毒死する可能性とかで頭が一杯だったし、普通に町でエルフだって知ったらもっとリアクションが大きかったと思う。
ポイズンビーという言葉を口にした時、後ろでリーニャがビクッと震えた。
「……ごめんなさい。」
「ん? あぁ、ポイズンビーで怪我した事?」
「それもあるけど、ユウスケを危険にさらしてしまった事。」
これ、落ち込んでるところ俺がほじくり返した様な感じでなんかやだな。
そういうつもりじゃなかったんだけど。
「ユウスケを成長させるとか豪語して、結局足引っ張って、危険にも晒して。それで助けてもらって。私よりユウスケの方が、よっぽど冒険者として優れているわ……」
「いやいや、俺は初心者であんまり経験ないし。」
「関係ないわ、初心者かどうかなんて。生き延びて、大きな怪我もしないで、人を助けられる。そんな人が冒険者として優れていないと言える?」
「でもEランクだよ。まだ優れているなんて言えないから……」
「一番死人が多いのは、EランクからDランクの間の冒険者よ。ここで生き延びて、ランクアップしていける人は、優れているわ。間違いなく。」
死人という言葉を聞いて、今度は俺がビクッとした。
そう、死。今さっきの戦闘は、俺がテイマーじゃなかったら死んでいたかもしれない。
たまたまレイがいて、たまたま酸弾を撃てて、たまたま当たって。
俺が無傷で勝てたのは、そういう偶然が重なった結果だと思う。
「……怖かったなぁ。」
そう呟くと、首に回されていたリーニャの腕が少し強張るのを感じた。
実際、死にかけたのはリーニャだ。リーニャの方が、きっと怖かっただろう。
しばらくの沈黙の後、リーニャはぽつぽつと語り始めた。
「……隠していたかったのよ。」
「え?」
「耳、エルフってこと。」
「なんで?」
「人族の町で、私一人だけエルフ。イルダさんに育ててもらって、5歳くらいの頃に気がついたの。私だけ、ここの町じゃ私だけが違う、って。」
リーニャが話したのは、こういう話だった。
エマの町の近くに、とても大きな芽が突然現れた。
何事かと町の人間が近寄って調べた所、その芽の中には赤子の状態でエルフが眠っていた。
人族には、エルフの生態についてそれ程情報があるわけではなかったが、それでもこの様に芽から産まれるなんて事はありえないことだと思った。
エマの町の住人は、どうするべきか悩んだ。
エルフと人族は、それ程深い交流を持っているわけでもなく、人族がエルフの赤子を育てているという状態が、どの様な結果を生むのか分からなかったからだ。
そこで、イルダさんが自分が育てると名乗り出たんだそうだ。
エルフの子は、イルダさんからリーニャという名前をもらって、ずっとイルダさんに育ててもらった。
エマの町の住人は、とても親切だった。
住人全員の娘、もしくは孫のように可愛がってもらった。
でも、リーニャは5歳くらいの頃に、自分の耳が尖っている事に気づいた。
イルダさんに聞くと、イルダさんは全てを話した。
きっと、聞かれた時に嘘はつかない様に決めていたんだろう。
それが悪かったわけじゃない、けど、それをきっかけにリーニャは悩み始めた。
自分はエルフで、本来は人族であるイルダさんに育ててもらうべきじゃない。
イルダさんは、本当の親じゃなくて、赤子の自分を可哀想に思って育ててくれた、と。
「愛情を感じてない訳じゃない。だけど、そういう思いが、私を支配してしまうの。」
一度そう思ってしまうと、周りの優しい人達は、私を憐れんでいるように見える。
一緒に遊んでくれた同年代の子達は、エルフが珍しいから構っていてくれただけかもしれない。
「だから、私は耳を隠すようになった。髪を伸ばしているのも、耳を隠す為。」
エルフだって、思われないようにする為。
いつの間にか、歩みは止まっていた。
それは、リーニャの話を真剣に聞く為だったのかもしれないし、リーニャに何かを言おうとした結果だったのかもしれない。
でも、なんて言えばいいか分からなかった。
だって、そんな重い話、お兄さんには早すぎるんですもの。
「あー、リーニャ? 取り敢えず、一旦休憩しようか。」
そうして、近くにあった木の根元にリーニャをおろした。
俺も近くに座る。
リーニャは、少し沈黙した後、またぽつぽつと話し始めた。
「私、今回の依頼を受けたのは、本当はユウスケの為じゃなかったの。」
「へ?」
「本当は、私の為なの。私が、早く独り立ち出来るって所を、イルダさんに見せたかったの。」
なるほど、だからリーダーもやって、先導して、あんなに張り切ってたのか。
「ポイズンビーが出てたのは知ってた。ユウスケに言い忘れてたのは事実。でも、ユウスケがホーンラビットの依頼を受けるって言った時、ポイズンビーの話をするより、これを利用して、危険な所に行っても大丈夫っていうのを、イルダさんに見せたいって思った。」
「……そうなのか。」
つまり、イルダさんの元を早く離れたいって思っているのか。
これ以上世話になって迷惑をかけないように。
「最低よ、私。全て分かってて。でもユウスケに迷惑をかける道を選んだの。」
「イルダさんを思う気持ちは良いけど、たしかに感心できないね。」
「……うん。ごめんなさい。」
リーニャにはちょっと、お仕置きが必要なのかもね。
俺はリーニャを背負った。
「ちょ、ちょっと待って! もう歩けるから!」
「いーや、町までは背負って行きます。これはお仕置きです。」
「えっ、お仕置き……?」
「そう、お仕置き。街についたら、イルダさんに今回の事を報告します。」
そう言うと、リーニャの表情は暗くなった。
きっと後悔とかしてるんだろう。
「リーニャ、イルダさんがリーニャの事どう思ってるか知りたいんでしょ?」
「それは、そうだけど……それと何の関係が……」
「街に戻ったら分かるよ。」
そこから30分。
ずっとリーニャを背負って町まで歩いた。
正直ちょっとつらかったけど、女の子に重いとか言うのはタブーだってどこかで聞いたので、休憩は挟まずに町まで一直線に向かった。
街に戻って見えたのは
イルダさんと町の人数人が、こちらを見て大きく手を振っている光景だった。
「リーニャ! ユウスケ! 随分遅かったじゃないか! 心配したんだよまったく!」
「あはは、初心者だから手間取っちゃって。」
「それにしてもだよ! それで、どうしてリーニャを背負ってるんだい。」
そう言ったイルダさんは、心配そうにリーニャを見つめた。
リーニャは顔を合わせづらいらしく、伏せている。
「……実は、ポイズンビーに遭遇しました。」
「えっ、遭遇したって、もしかして……」
「リーニャが、刺されました。」
「っ!!」
イルダさんが目を見開く。
「解毒薬は傷に振りかけたし、飲ませてもいますが、一応詳しく見てもらったほうが良いと思います。」
イルダさんはリーニャへと声を掛ける。
「リーニャ……」
「……大丈夫よ、ユウスケが助けてくれたから……」
その言葉を聞いて、イルダさんは俺とリーニャを抱きしめた。
「無事で良かったよ! あたしはもう歳なんだから、心臓が止まるかと思ったじゃないか!」
「……イルダさん、泣いてるの?」
「当たり前さね! もう、全くこの子はいつになってもどこか抜けてるんだから……本当に無事でよかった……」
「……心配かけて、ごめんなさい。」
イルダさんとリーニャは、泣いた。
リーニャもこれで、悩みが無くなればいいね。
多分、思ったより単純な事で、リーニャは愛情の印が欲しかったんだと思う。
それを知らないまま独り立ちなんてしたら、心の靄はずっと晴れずに暮らすことになってたかもしれないから。
ちなみに俺はリーニャの腕が首元に回っていた為、プロレス技をダブルでかけられているような感じで苦しく、ギブアップの合図で腕をペシペシするまで二人の絞め技は続いた。




