12話 順調に行けば
前回のあらすじ
ホーンラビットをいとも簡単に倒してしまったリーニャ。
角にモンゴリアンチョップをしつつも何とか剥ぎ取りを完了するユウスケ。
絡みつくという意外な特技を披露するレイ。
2匹目も難なく倒したところで、ユウスケはリーニャへ感謝感激雨霰なのだった。
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無事2匹目のホーンラビットも討伐し、小休憩を挟むことにした。
周囲の警戒をしつつ10分程体を休ませるだけだが、休憩しないよりよっぽど良い。
休憩中、ふと思いついたことをリーニャに言ってみた。
「なぁ、俺にも弓使えると思う?」
レイが足止め兼前衛をするなら、俺は剣より弓の方が安定して戦えるのではないかと思ったのだ。
正直剣を振るのはなかなか疲れるし。
「弓を使うテイマーなんて聞いたことないけど……ちょっとやってみる?」
リーニャさんからOKを貰ったので、弓を借りて使ってみることにした。
狙うのは近くの木。
あれだけ大きい的に当たらなければ、弓を使うのは諦めた方がいいね。
「……で、これどうやって矢を放つの?」
「はぁ、呆れた……」
ごめんね、触ったことないから許して。
リーニャから懇切丁寧に弓の引き方を教えてもらい、近くの木に向かって狙いを定める。
しかし、なかなか狙いが定まらない。
今矢先がどこを狙っているのかがあんまりわからない。
取り敢えず、当たるだろう角度で矢を放ってみるが、大きく逸れて何処かへ飛んでいってしまった。
「まぁ、初心者はそんなもんでしょ。弓は諦めよう。うん。」
何とも言えない表情をするリーニャを置いてけぼりにし、俺は自己完結するのであった。
依頼内容は10匹討伐、討伐証明部位は角のみ。報酬は銀貨1枚と銅貨12枚。
肉はまぁまぁ美味しいので、あれば買い取ってもらえるらしい。
ホーンラビットを狩り始めて3時間程。
リーニャのお陰で、順調に7匹を討伐完了。
俺がやった仕事といえば、レイにホーンラビットの足止めをさせたりとか、剥ぎ取りとか、レイに素材を格納してもらったりとか……
現状、寄生虫ならぬ寄生中。人によっては寄生厨などと呼ぶかもしれない。
違うんです! リーニャが勝手に倒すんです!
ていうか俺の成長のために受けたクエストのはずが、リーニャが先導してリーニャが倒しているので実質成長してないのではないか?
いや、パーティプレイの練習だと思えばそんなもんか。
そもそもテイマーが本体で突っ込むほど愚かなことはないしな。
しかし、それを抜きにしてもリーニャは何か頑張ってるというか、張り切ってるというか。
リーダーになったからそういうもんなのか?
そんなこと考えている間に、リーニャが8匹目のホーンラビットを仕留めた。
もちろん俺も働いてますよ。レイに足止めをさせたりね。
「ふぅ……ちょっと休憩しましょうか……」
リーニャがそう切り出した。
大体2匹狩って少し休憩を挟んでいる。
慣れたり高ランクになってくると、もっと早いペースで狩るんだろうけど、俺が初心者っていうのもあってだろう、リーニャは細かく休憩を挟むのを提案した。
もちろん俺はその提案に乗った。休憩は大事よ、俺何もしてないけど。
てかどっちかって言うと俺よりリーニャのほうが休憩必要だろうしね。
リーニャは近くの木に座ってもたれかかった。
俺はその間に剥ぎ取りをする。
まぁ剥ぎ取りとは言っても、角を折った後、ちょこっとお腹を切って魔石を取り出した後、皮を剥いでいくだけである。
だけとは言っても、15分くらいは掛かっているし、結構疲れる。
剥ぎ取り終えた素材はもちろんレイが格納してくれるので運搬は問題ない。
ちなみに何かに使えるかなと思ってあれこれ格納してもらおうとしたら、どうやら格納できる大きさっていうのが限界があるらしく、ホーンラビットは丸々格納出来たのだが、俺の身長くらいある大きな岩は格納できなかった。
いや、必要か? とか言わないでね、なんか色々格納させてたら楽しくなっちゃってたの。
お陰で今、何かの草やら木の枝やら何かの木の実やら沢山格納していた。
格納させる度にリーニャが何とも言えない表情をしていたのはきっと、必要か? と思っていたに違いない。
そんなわけで静かな森の中、せっせと皮を剥いでいたところに、突然その音は聞こえてきた。
それは今の俺達にとっては悪魔のような、耳障りな甲高い羽音。
俺は聞いたことなかったが、それが何を示しているのかは容易に理解できた。
おそらく、ポイズンビーだ。
羽音が聞こえた瞬間に剥ぎ取りの手が止まる。
リーニャの方へ目を向けると、リーニャはもう既に立ち上がり、俺の方へ走ってきていた。
「ポイズンビーよ、音の大きさからしてそこまで近くには居ないわ。今のうちに森を出ましょう。」
肉や皮は格納する時間が無かったので、角と魔石だけを握り、レイを腕に抱いてリーニャが先導する中走り始めた。
嫌な汗が額に流れているのを感じる。
今、死が身近に居るのだと。
羽音が遠くなっていくのを感じながら、無我夢中で走った。
しばらく走って息が切れ始めた頃、まだ残る焦りは俺に質問をさせた。
「リーニャ、いつ頃外へ出るんだ?」
「落ち着いて。もう羽音は十分遠ざかったし、あと10分程歩けば森から出るはずよ。」
落ち着いてられない。音だけ聞いても3匹以上は絶対居た。
帰りたい。
「だから止めとこうって言ったのに……あぁ漏れる……」
「ビビりすぎよ。まぁ警戒心が強いのは良いことだけど。」
「うぅ、出来ればこういう恐怖は死ぬまで味わいたくない……」
そんな会話を交わしながら歩く。
あれだけ耳に不快感を刻み込んでいた羽音も今じゃ全く聞こえず、木の葉の揺れる音が俺を落ち着かせる。
「はぁ、魔物さえ居なければいい景色なのにな……」
俺の目に映るのは背の高い木々に差し込む木漏れ日、風に揺れる木の枝。
見上げるとより一層美しい景色が……
そう思い見上げた俺に、急速に落下してくる塊が見えた。
全長60cmくらいの黄色と黒の縞模様、葉脈のような羽。鋭い毒針。
ポイズンビー。
俺がその存在に気づいたとき、急激に羽を動かし始める。
ブゥゥゥゥゥゥン
音が聞こえてリーニャもその存在に気がつくが、その時には遅かった。
急降下してきたポイズンビーの毒針が、リーニャの背へと突き刺さる。
「リーニャ!」
とっさにレイをそこら辺に投げ、剣と盾を構えてリーニャに近づこうとするが、足がすくんでしまっていて動けなかった、ポイズンビーはすぐ空中へと逃げ、こちらを向いている。
次の獲物を狙っている。
「レイ! 酸弾!」
レイにそう命令すると、レイはポイズンビーに目掛けて酸弾を撃つ。
ポイズンビーはまさかスライムから酸の塊が飛んでくるとは想像していなかったらしく、回避行動を取ろうとするも酸を体に浴び、羽を奪われて落下した。
ガチガチと顎を鳴らすポイズンビー。
レイがそのまま胴体へ絡みつきに行く。
早く、斬りに行かないと。
早くしないと、毒が回る。
俺は自分の足をぶん殴った。
「痛ってぇ!」
強張った足は、殴った衝撃と痛みでようやく震えながらも動き出した。
剣の攻撃圏内へ入った頃には、ポイズンビーはレイに絡みつかれて動きが鈍っていた。
必死にレイへ攻撃しようとするが、その強靭な顎は液体のようなレイを捉えること無くガチガチと鳴らしていた。
「頼むぅ、早く死んでくれぇ……」
涙目になりつつ、ポイズンビーの首に目掛けて剣を振るう。
一度、二度、三度。
レイによって動きを封じられたポイズンビーは、三度目の攻撃にして首を切り落とされ、動かなくなった。
ポイズンビーの死体回収はレイに任せて、俺はリーニャのもとへと向かう。
「リーニャ! 大丈夫か!?」
リーニャの所持していたバッグから解毒薬を取り出す。
一つは傷口へと振りかける物、もう一つは体内へ摂取して免疫力を一時的に強める飲み薬。
焦って震える手、こぼしそうになりながらも解毒薬を用意した。
うつ伏せに倒れているリーニャの上着を捲っていき、刺された場所へと解毒薬を振りかける。
幸いなことにポイズンビーは刺した後すぐに離れた為、それほど酷い状態ではなかった。
止血の為にタオルを巻く。
上着をもとに戻してリーニャの体勢を仰向けへと変える。
次は飲み薬の方だ。
「待っ……て……自分で……飲……むから」
「まだ体が麻痺してるんだろ? 無理すんな。」
そうして薬を飲ませるのに邪魔だった乱れた髪を解かして、手に触れた感触に違和感を覚えた。
思わず確認する。そこには、少し尖った耳があった。
「リーニャ、お前もしかして……エルフか?」
その問いかけに対し、リーニャは
ただ、声を詰まらせるのだった。




