10話 リーダーの仰せのままに
前回のあらすじ
宿のおっかないおっさんにビビりつつも宿代を割り引いてもらったユウスケは、レイに魔物や魔石を食わせたり依頼をこなしたりなんたりしている内にEランクへと上がっていた。
そろそろEランクの依頼を受けようとしたところで、リーニャからとんでもない発言を受けたのであった。
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「えっ?」
あれ? 聞き間違いかな? 受付嬢から変なセリフが聞こえてきたような気がするゾ?
「だから、私も行くって。」
「……それは色々とまずいんじゃない?」
受付嬢がいきなりEランクの魔物相手にドンパチやれる気がしないんですが。正気か?
「大丈夫よ、私Eランクの冒険者だし。」
「えぇ〜っ、初めて聞いたんですけど……」
「初めて言ったからね。」
「でもギルドの受付嬢が抜けるのはヤバイでしょ。」
「大丈夫、ツテがあるわ。」
ツテがあるからちょっと抜けますとか良いの? それ良いの?
リーニャは会話をしながら何か紙に記入している。
「元々依頼を受けに来る冒険者なんて少ないし、今はユウスケだけと言っても過言ではないわ。冒険者が全然来ない時には、実はギルド職員が依頼を消化してたりしたのよ。それの延長だと思えば大丈夫よ。」
「ワイルドですねぇ〜……てかエマの町不人気すぎでしょ。」
冒険者が全然来ない時はギルド職員が依頼消化とか可哀想過ぎる。
「そりゃ不人気よ。ここ低ランクの魔物しか居ないし。それより、さっさと行きましょ。」
そう言ってリーニャは冒険者ギルドを出ていった。
えっ? ツテってギルド職員の誰かとかじゃなくて? パンピー?
机に残された紙には、
パーティ名
パーティリーダー
リーニャ:アーチャー
パーティメンバー
ユウスケ:モンスターテイマー
と書かれていた。
「ちょっとぉ! せめて俺をリーダーにしてよ!」
叫びも虚しく俺はリーニャの後を追った。
〜
「あっ、いた! イルダさーん!!」
ギルドを飛び出たリーニャについていくと、一人の女性を見つけて声をかけていた。
もう40後半くらいの、恰幅のいいおばさんだ。
「あら、リーニャじゃないか。で、そっちはユウスケかい。」
「あはは、どーも……」
この人はイルダさん。最近採取関連の情報についてめちゃくちゃお世話になった。
テーナ草やオルカ草の採取ってのがFランクの依頼にあったけど、それの見分け方とか用途を教わったりしたのだ。
イルダさんはこの町一番の調合師を自称してる。
何回か調合してる所を見たけど、自称してるだけあって手際が良かった。
「で、どうしたんだいリーニャ。受付の仕事は大丈夫なのかい?」
「今からホーンラビットの討伐にユウスケと一緒に向かおうと思うの。それで、受付の仕事代わって欲しいんだけど……」
リーニャがそう言うと、イルダさんはちょっと険しい表情をした。
「ホーンラビット……だけならあんた達でも大丈夫だろうけど、本当に二人で行くのかい?」
ん? だけなら?
「他にも何かいるんですか?」
「聞いてないのかい?いや、リーニャが言い忘れてたんだろうね……最近その縄張り周辺にポイズンビーが出没してるんだよ。」
「へ?」
リーニャの方を向くと、目が泳いでいた。
なんか口笛吹いてる。
「ワ、ワタシワスレテナイヨォ? チャントイウツモリダッタヨ?」
「バレバレの嘘つくなよ! テンプレか!」
ポイズンビーといえば、単体ではEランクの強さだが、集団で出てこられたらDランクの冒険者でも撤退を余儀なくされるくらい凶悪な魔物だって図鑑に書いていた。
何でも、仲間が死ぬとか自分が死ぬとか関係なく、ただ獲物を殺すために毒針を刺しに来る凶悪さ。
一度狙った獲物は1日中追いかける執念深さ。
そしてその毒は、麻痺毒と殺傷性のある毒の二種類が混ぜ合わされたような毒らしく、徐々に体が麻痺していった後、動けない中苦しみながら死ぬという最悪な毒。
「……ホーンラビット、やめません?」
「大丈夫よ、解毒剤持っていくから。」
「いやいや命を大事にですから。死んだら元も子もないですから。」
「ポイズンビーは羽音が大きいから、近くにいればすぐ分かるわ。羽音がしたら逃げればいいのよ。」
「そんな簡単に言うけど……」
お兄さん危険な所行きたくないなぁ。
やめてくれないかなぁ。
ホーンラビット諦めないかなぁ。
恨みがましい視線をリーニャに送ってみたけど、リーニャは俺にドヤ顔を返してきた。
あぁうらめしや。
「リーニャ、あたしも今はホーンラビットは止めといたほうが良いと思うけどねぇ。」
おっ、思わぬところから援護射撃が!
いいぞ、そのままリーニャを沈めてください!お願いします!
「ううん、ユウスケはこれから色んな所を旅するわ。それこそ、この町を出て誰かとまたパーティを組むか……いえ、組めるかどうかなんて分からない。それなら、冒険者としての危険察知能力、引き際、私がいる間に経験しておいたほうが良いと思うの。」
「……たしかに、そうかもしれないねぇ。」
イルダ氏、撃沈。艦隊帰還します。
リーニャ、恐ろしい子。
パーティを組めるかどうか分からないっていうのはどういうことだろう。
同じランクの冒険者が見つからないってことか……?
あ、そうか。モンスターテイマーって上級職が無いから結構疎まれてるんだっけ?
そうか、そうなると将来性を考えても上級職のある戦士とかアーチャーとか盗賊とかを優先的に確保しておきたいか。
優秀な壁兼火力としての戦士。
中距離〜遠距離で援護できるアーチャー。
同じく中距離〜遠距離で高火力を叩き出せる魔法使い。
罠解除や気配察知に秀でている盗賊。
その他もろもろ、全部は知らない。
テイマーって今考えると、一人でなんでも出来るけど、何かの代わりになることは難しいんだな。
リーニャはそういうのも考えて、今のうちに俺に経験させようとしてくれてるのかもしれない。
「リーニャ……ありがとう……」
「えっ? 何よ急に。」
オレの心は、リーニャの優しさで満たされた。
「でもやっぱ行きたくない。」
〜
スモールタートル、Eランク魔物。その名の通り小さい亀。
非常に硬い甲羅を持っており、ダメージが通りにくい。
ただし移動速度が遅く、噛み付きさえ気をつけていればFランク魔物の体力多い版みたいな狩りやすい方の魔物らしい。
もちろん、噛まれたらたまったもんじゃないくらいのダメージを受けるみたいだけども。
今の俺には、正直ホーンラビットよりこっちの方がお似合いだろう。
「着いたわ、あれがホーンラビットが住む森よ。」
あの後イルダさんとギルドに向かい、依頼を受け直すかと思いきや、イルダさんは受付に入り、リーニャは弓矢や回復薬や解毒薬等を用意し、そのままいやいや言う俺を引っ張りホーンラビットの討伐へと向かった。
スモールタートルの語りは俺の願望であり、現実はホーンラビットの討伐なのだ。
非常に非情である。
「……ポイズンビーめっちゃ居そうだよぉ……漏れちゃう……」
「まだホーンラビットすら見えてないのに、何弱気になってんのよ。」
「だって死んじゃう……」
「あのねぇ……ユウスケはモンスターテイマーなのよ? これから他の強い魔物もテイムしていくのに、ここで弱気になってどうするのよ。」
だってモン娘は知性があるから話したら分かるはずだもん。
話の通じない虫は怖いもん。
そんな俺の思いなんて知ったことかと、リーニャはずんずん森に入っていく。
「あぁつらい……」
そう呟きつつ、俺も森へと入っていった。
森の中はもちろん道らしい道もなく、だけど背の高い草は生えておらず、木々の間隔も広く、周りを見渡しやすかった。
ところどころ差す木漏れ日を見ていると、魔物が出てこなければ観光として人々が訪れてもいいくらいの景色だった。
「はぁー……なんか気持ちいいなぁここ……」
そう、まるで危機感のないこんな呟きが溢れるほどに。
それを見てリーニャは若干じっとりとした目を向けてくる。
「気が抜けてるわね。」
ごもっともです。
「ポイズンビーが居るかもしれないんだから、ちゃんと警戒しときなさいよ。」
「分かってるよ……でもさ、無理に来なくても良かったんじゃないの? それこそもうちょっと経験積んでからでも遅くなかったと思うんだけど。」
「遅かれ早かれ経験するなら早いほうが良いわよ。それに……」
「……?」
「私だって、もう大丈夫なんだから……」
凄く小さい声での呟きだったが、木の葉の揺れる音が鮮明に聞こえるここでは、聞き取ることが出来た。
「もう大丈夫ってなに……うおっ!」
意味を聞こうとする俺の襟首を掴んで姿勢を低くするリーニャ。
俺は勢いのままにうつ伏せに倒れる。
「痛った……」
「ユウスケ、あれがホーンラビットよ。」
そう言われ視線を向けた先には、長い角を持った体長60cmくらいの兎が1匹、昼寝をしているところだった。
「うおぉ……思ったより大きいな。ヤブノウサギみたいだ。」
隣を見るとリーニャは弓を構え、既に狙いを定めていた。
「ユウスケ。私はアーチャー。Eランク。もう一人でも大丈夫な……冒険者なの。」
リーニャはまるで自分に言い聞かすように、小さな声で俺にそう言って弓を射た。




