97話 会議
2018/11/26 ちょこっとだけ文章を直しました。読み返さなくても支障はでない程度です。
クリシュナードの会議室。
あらゆる場所から重要人物が集まっていた。
アステニアの王、シリウス・グランダリア。
アステニアの冒険者ギルドマスター、レイフ。
クリシュナードの王、ミハエル・アイオーン。
迷宮都市グリルのギルドマスター、コウレン。
商業都市マールコットを治める貴族、タルゴ・ディエーラ公爵
そして、冒険者にして勇者のジョブを持つ転生者、ナオト。
彼らがここに集まっているのは、マールコットに魔族が現れた件についての会議をする為なのだが。
「……各国に通達したのだが、やはり、集まったのはこれだけか。」
クリシュナードの王であるミハエルが、ため息をついた。
「彼らは、元々自分の領地が襲われたこともなく、また今回の襲撃の重要性を理解していませんからね……」
アステニアのギルドマスターであるレイフも、ミハエルに続いてため息をつく。
そう、ここに集まっていない者達は今回の襲撃についても、今後についても他人事であり、集まった者達はこれまでの襲撃と明らかに違う部分に薄々気付いている者達だった。
もうこれ以上待っても人が増えることはないだろうと、ナオトが立ち上がって話し始める。
「今回は俺から陛下にお願いして、皆様に集まっていただきました。勇者として魔王の情報を追う中で、今回の襲撃は他とは明らかに違う点があることを、周知する為です。」
「まずはこれまでの襲撃ですが……」
レイフが、持参していた資料を広げる。
そこには、過去の魔族襲来の記録が書かれていた。
「人口の多さにより、襲撃地点を選んでいると予想していました。」
「現に何度も俺達パーティは、襲撃場所を予測して対応してきました。」
資料を見れば、ナオトが転生してきた後半の数件は、被害もかなり少なく抑えられていると分かる。
指名依頼によって対応できない時もあったが、それでも充分な結果を出していた。
だが、ナオトはその中から二枚の資料を手に取った。
「ですが、ここから少し異変が起こり始めました。最初の異変は迷宮都市グリル。俺達が開拓者としてダンジョンの調査に向かっていた時の事です。」
片方の資料には、迷宮都市グリルで起こった魔族襲来の記録と、当時の人口の簡易比較表が書かれている。
「正当に門から出入りしている人達限定で言えば、グリルの人口はトップではありません。クリシュナードの方が高い。」
その資料を見て、ミハエルが情報を追加する。
「不法な入国者等含めても、まぁ大体似たような数字だろう。グリルは多少入国管理が難しい部分はあるが、土地の大きさから考えても、クリシュナード以上の人口を滞在させることが可能とは思えん。」
「その通りです。なので、俺はここで対象が人口ではなく、人口密度ではないかと予測を立て直しました。」
「人口密度……なるほど。」
ミハエルは資料を見て頷いた。
新ダンジョンの発見によって一時的に人口が増え、その時の人口密度はクリシュナードを上回っていた。
「ですが、それも今回の襲撃で信用ならないデータになりました。」
「それが、これか……」
ナオトが皆に見せるように次の資料を机の上に置くと、グリルのギルドマスターであるコウレンが唸る。
資料を見て、シリウスも眉を寄せた。
「人口も、人口密度も高くない。今までのデータとは全く違う選定方法だな。」
「そうです。恐らく、グリルの一件か、このマールコットの一件から方針を変えたものと思われます。」
「見る限りじゃ、次はどこが襲われてもおかしくないって話か。」
資料を睨んでいたコウレンがため息をついた。
「一応、いくつかの候補はあります。まずは、人口が多い場所では襲撃に対応出来る人間が多く非効率だと考え、徐々に人口の少ない地域へと目標をシフトしている。つまり、次回はマールコットよりも人口が少ない地域を標的にする可能性です。」
「大都市への襲撃は次々と失敗している、成功確率の高い場所を選ぶのは当然であるか。」
ナオトの予想に、タルゴ・ディエーラ公爵は頷いた。
「続いて、戦闘力を一つの条件に組み込んだ可能性です。マールコットは商業は盛んですが、人口に対する冒険者等の戦闘員の比率は、クリシュナードやグリルに比べて劣ります。」
「なるほど、反撃の可能性が低い場所をってことか……今後の襲撃でマールコット以下の戦闘力である都市が狙われたならば、確定だろうな。」
ナオトの意見に、集まった皆は概ね同意する。
今後の出現地を予測するのに、充分の根拠を持っていると、それぞれが納得した。
しかし、突如レイフの指輪から声が発せられる。
『ほう、考察としては悪くない。じゃが、もう一つの変化点に気づいておらんようじゃの?』
「……! 誰だ!」
突然の声に警戒を強める王達に、レイフが慌てて対応する。
「安心してください! 侵入者ではありません! 声は、この指輪からです。」
「指輪から……だと? レイフ。素性の分からぬものと通話を繋いでいたのか?」
『妾が勝手に繋いだ、其奴に非はない。お初にお目にかかる、妾はクロトガの王である、キンと申す。妾の美しい容姿を見せられぬのは些か遺憾じゃがの。くくっ。』
少しの苛立ちと警戒を含んだシリウスの発言に、キンは冗談めかして答えた。
キンの「クロトガの王である」と言う発言に、一同がざわめく。
「あれほど姿を現さぬクロトガの王が、何故この会議に?」
『なに、妾も対策とやらに協力しようと思っての。過去にクロトガがどのような状況であったかは知っておるじゃろう。』
「……魔族の襲来による、人口の激減か。」
『そうじゃ。ここのところ魔族はクロトガに顔を覗かせてはおらんが、いつ来るかも分からんしの。出現位置を予測できるならば、それに越したことはない。』
言葉とは裏腹に、キンはどこか楽しんでいるような雰囲気を纏わせていた。
この場ではそれに気付いたものは居なかった。以前に会話をしたことがあるレイフを除いて。
「それで、もう一つの変化点とはなんですか?」
不穏なものを感じつつ、レイフはキンに尋ねた。
キンは、指輪の奥で口角を上げる。
『変化があった二度の魔族の襲来。どちらも深く関わりのある人物がおるであろう。グリルへの襲来をそなたに報告し、マールコットでは奔走しながら住人達を助けて回った。』
「……まさか。」
『ユウスケ・マツイ。転生してから、あの短期間で二度も魔族の襲来に関わった男。』
ユウスケの事を全く知らないミハエルは反応を示さなかったが、面識があるレイフ、コウレン、ナオト、名を聞いたことがあるシリウス、タルゴは顔を顰めた。
「それは、彼が黒幕……と言いたいのですかな? それならばマールコットでの彼の活躍にはどういう意味がお有りで?」
タルゴ・ディエーラ公爵がキンへと質問を投げかける。
タルゴは、マールコットでのユウスケの行動は高く評価していた。
件の襲撃の後、魔族の襲撃について多数の住人や冒険者に状況の詳細などを聞き取っていると、殆どの者から名が挙がってきたからだ。
故に、騒動を治めた功績者の一人として認識しており、もしマールコットを襲う黒幕であったとしたら、そこまで目立つ事はしないだろうと言うのがタルゴの見解であった。
『先程も言ったじゃろう。あやつは"変化点"じゃ。ここから推測できる事は三つ。一つはそなたの言う通り、黒幕である可能性。まぁ、これは転生前から魔王が存在する時点でかなり低い。魔王が何らかの方法で、異界の記憶を持ちながら別人として転生する可能性も否定はできんがの。次にあやつが狙われている可能性。あやつに何らかの私怨がある、もしくは計画に支障が出る何らかの力があるという事やもしれぬ。』
「確かに、彼のユニークスキルがあれば、戦力をかなり増やすことが出来ます。うまく行けば、個体で魔王と対峙できるような力を持つ魔物をテイムする事も不可能ではないかもしれない。それを危惧して早めに始末しておこうとしている可能性もゼロではないでしょう。」
ユウスケのユニークスキルの詳細を知るレイフは、環境さえ整えれば幻の存在と言われる古代竜をもテイム出来ることを知っている。
古代竜であれば、魔王と正面から対峙することも不可能ではないだろう。
問題は、それをユウスケが承諾するかどうかだが……と、レイフは心の中で呟いた。
「それで、最後の一つは……?」
ナオトが、キンに先を促す。
『まず、あの黒い渦じゃが、あれは空間魔術の応用じゃ。転移、創造、召喚。あらゆる魔術の複合であり、妾にも詳細まではよく分からぬ。じゃが恐らく、黒い渦の奥で魔族は創造され、黒い渦というゲートを通って街の上に転移しておる。』
「……? それが彼の話と。どう関係があるのですか?」
『分からぬか? 転移や召喚というのはとても高度じゃ。空間における座標の指定から固定化。維持と大変なコストが掛かる。それを何らかの方法で削ることが出来たら、さぞ楽になるじゃろうな。』
「……ちょ、ちょっと待ってください。まさかそれって。」
『そう、最後の可能性。それは、あやつが空間魔術における座標指定、固定化、維持。そのどれか、もしくは全ての媒体に選ばれた可能性じゃ。』
ガタン、と大きな音を立ててミハエルが椅子から立ち上がる。
「それは不可能だ。あの大規模な空間魔法を人ひとりの保有魔力量で補おうとすれば、五分と経たない内に全て消費して死んでしまうぞ。」
クリシュナードの王であり、また一流のアークウィザードであるミハエルは、魔法についての知識も豊富である。
その知識の中にあった空間魔法と照らし合わせても、キンの言うことが現実的とは思えなかった。
しかし、キンは訂正しない。
何故なら、ミハエルの魔法についての豊富な知識は、キンの千年に及ぶ膨大な時間で得た知識に比べればあまりにも体系的であるからだ。
『現在の魔法では無理じゃな。じゃが、過去の魔術であれば、不可能ではない。』
「先程から言っているその魔術とは、一体何なのだ。魔法とは何か違うと言うのか。」
『魔法は現在の理、この世界の偽られた在りし姿に過ぎぬ。その理を外れ、初めて扱うことが出来るのが魔術じゃ。』
「偽られた在りし姿? 理を外れる?」
『魔術は構成において、ちとルールが変わる。まぁ、まだそなたらには早い話じゃ。そなたの息子であれば、辿り着くやもしれぬが。』
キンの要領を得ない発言に、ミハエルは釈然としないまま発言の意味を考える。
ミハエルには息子が居る。名はマギアス・アイオーン。空席であるアークウィザードの極めし者になる可能性を秘めている、優秀なアークウィザードだ。
極めし者になると言う事は、富や名声を手に入れる事とほぼ同じ意味を持つ。それ故に目指す者も後を絶たない。
しかし、彼にとって富や名声などはどうでも良いことだった。脳内にあるのは魔法についてのみ。ひたすら魔法を研究し、遥か高みを目指す為に今は人里を離れて暮らしている。それ故に、今では魔法に対する知識はミハエルを優に超えているだろう。
「それで、例えそれが可能だとして、我々に何が出来るというのだ。魔術のことを知らない我々では、対策を練ることも容易ではない。」
『なに、簡単な事よ。あやつを監視すれば良かろう。黒幕であろうと、標的であろうと、媒体であろうと、あやつを主軸に事象が発生する筈。事が起きれば黒、起きなければ白。どちらにしても不確定から確定へと変化するだけじゃ。もし別の所に魔族が降りれば、その条件にそった仮定で進めればよい。』
キンは簡単そうに言うが、現状はかなり難しい状態だった。
別の国に自国の兵力を割くわけにも行かず、今までは冒険者という身軽な身分のナオトが善意で各国を回っていたに過ぎなかったのだ。それが予測地点がいくつかに分かれ、尚且個人の監視もするとなれば人員が足りなくなるもの必然だった。
結局、各予測地点はナオト率いるパーティとその仲間内で警戒し、ユウスケの監視はキンの配下数人が行う事となり、会議は終了した。
「クロトガの王、キン……か。」
誰も居なくなり、照明も落として薄暗くなった会議室に一人残ったミハエルが、皆が去った後の扉を見ながら呟いた。
「マギアスについて、どこから情報を仕入れたのか……油断ならんな。おい、聞いておるのだろう。」
ミハエルが呼びかけると、何者かが影から姿を現した。
「聞いとったで。なんや胡散臭い女やな。横から茶々入れてくるんは、薄々感づいとったんか?」
「あぁ。キンとレイフ……正確にはその刺客とニーアだが、それらが接触したという話を聞けば、こういう事態もあり得ぬ話ではないと思ってな。」
「はぁー、油断ならんのはあんたも同じやで。」
クリシュナードの王にここまで軽口を叩けば、普通の人間であれば重罪である。しかし、彼女はそれを許された存在であった。
何故なら、その世界に二人と居ない最高レベルの暗殺者だからだ。
「ほんで、どうしたらええの。」
「そのユウスケとやらの監視と、キンの配下の監視だ。奴らがどういう行動をするのか、もし怪しい行動を取るようであれば、最悪皆殺しも視野に入れろ。」
「それは、キンの配下に限った話か?」
「いや、ユウスケも含む。」
「そうか、知り合いやから嫌やけどなぁ。王の頼みっちゅーなら、仕方ないわな。ほな準備もあるし、早速行ってくるわ。」
そう言うと、暗殺者は影に溶け込むようにその場を去った。
「報酬に見合う仕事を頼むぞ、レンノエ。」
極めし者"絶影"の消えた先にミハエルはそう言い残すと、会議室を後にした。
最近遅筆で申し訳ないです……
ここで、三章は終わりです。
2個ほど幕間挟んで新章に突入しようと思います。




