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我こそはモン娘テイマー也  作者: hoikun
四章 知るモンスターテイマー
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95話 命

~ 商業都市マールコット ユウスケ ~



「す、すまん! 助かった!」


「この恩はまた返す!!」



 クロノスの助太刀によって助かったEランク冒険者二人が、一つの大通りに向かっていった。

 その大通りは、予めクロノスによって魔族を一掃した、比較的安全な道だ。

 冒険者ギルドから町の外まで一直線に伸びるこの道を使えば避難誘導も楽だし、避難している人達も合流しやすいだろうと思った。


 だから、優先して魔族を処理したのだが。



「ユウスケ、次は向こうに反応が……」


「……」



 既に生存者を十人ほど救出して、数字で見れば順調だ。

 だけど。



「……まだ気にしているのか、ユウスケ。」



 その選択をすることによって、俺は……







 それは、クリントファミリーを送り届けた少し後まで時間を遡る。

 そのまま街へ入って、クロノスに生存者の反応を探って貰おうとした時だ。



「ん……?」


「……どうした?」



 俺の視線の先には、動き回る小さい影がいくつかあった。

 それはかなり遠い場所で、建物の看板等は全く見えなかったが。



「あれって、冒険者ギルドか?」



 どこの冒険者ギルドも、外観は大体同じだ。遠くから見ても、その特徴は見て取れた。



「つまり、あの下で動き回っているのは避難中の人達か。」



 恐らく、ギルド内の避難施設――本来は昇級試験や決闘等に使われる闘技場のような場所――へ向かっているのだろう。

 そして、外に残って誘導しているのが、魔族に対して戦うことの出来る冒険者達ってところか。



「あっちは放っといていいか。まずは戦えない人達を優先して助けないと。」


「……ユウスケ。向こうに数人反応がある。向かうぞ。」


「あぁ、向かって……いや、ちょっとまって。」



 数人か……もし戦える冒険者なら自力で避難場所まで行けるだろうけど、戦えない人達なら護衛しつつ避難場所まで連れて行かないといけない。

 今後何人救出できるかわからないけど、あまり大人数になっても動きにくい。

 クリントファミリーは外まで護衛したけど、それを一グループ単位でやっていたら時間もかかるし、出来れば戦えない一般人でも自力で避難してもらえるのが望ましい。


 だけど、この魔族が沢山居る状態で、しかもどこに居るかも分からない中動き回るのも……


 いや、そうか。



「クロノス、プラン変更しよう。先にこの大通りの魔族を一掃する。」


「ほう?」


「予め安全な道を作っておけば、そこに誘導するだけで自力で避難できるはず。」


「承知。」



 魔族がどこに居るか分からないから動けないのであれば、居ないのが分かっている道を作っておけばいい。

 それなら皆をこの大通りに誘導するだけでいいし、一直線で冒険者ギルドか外に続くこの道なら、例え前後のどちらから魔族が寄ってきたとしても、逃げる方向の選択肢が増える。

 それに大通りなら接触しかけても、あの動きの遅い魔族を避けて通ることは難しくないはず。



「……では、少し急ぐぞ。」


「うん、頼む。」



 クロノスはグッと加速し、空気抵抗が強くなる。

 大通りを駆け抜けながら、通り掛かりに魔族を蜘蛛糸で切断する。

 蜘蛛糸、硬糸。

 金属のように強度の上がった蜘蛛糸を、魔力で操作して武器にする、クロノスの攻撃手段。

 細くて鋭い蜘蛛糸は、その強度を感じさせない程しなやかに魔族を切り刻んでいく。


 遥か遠くの冒険者ギルドの周囲では、魔族を撃退する内にこちらに気付く人達も出てきており、クロノスがバッサバッサと魔族を切り刻んでいく様子を見て歓声を上げている。



「順調だな……」



 順調だ、間違いなく。

 だけど、心なしかクロノスが浮かない表情をしている気がする。

 日頃からクールなクロノスだが、今はいつにもまして……



「……クロノス? うわっ!」



 大通りに見えていた魔族達を全て処理した後、すぐさま急旋回して加速するクロノスに、俺は一瞬振り落とされそうになって必死にしがみついた。

 速度を上げて向かっている先は、先程クロノスが数人の反応があると言った場所だ……と思う。

 曖昧なのは、クロノスが速すぎてしがみつくのに必死なせいであまり周りが見えてないからだ。

 ていうか、腕がやばい。限界が近い。



「クロノス! ちょっとだけ速度落として! 振り落とされる!」



 だが、クロノスは速度を落とさずそのまま走る。

 大人気なく大声でギャーギャー喚きながら、ついに振り落とされる寸前まで来た時に、クロノスは減速した。


 そして、そこに立ち止まった。



「ふぅ……クロノス! もうちょっとで落ちるところだっただろ! まぁ無事に到着したから良い……?」



 クロノスが立ち止まったところは、特に誰も居ない商店街だ。周りに人の気配もなく、魔族が居るでもない。

 まさか、クロノスが気配探知をミスったのか……?



「クロノス、数人の反応って言ってたのはここなのか?」


「ユウスケ。」



 クロノスは、淡々としたような表情と声で俺の名前を呼ぶ。



「向こうに新たに数人の反応がある。いくぞ。」


「え? ちょっと待て、新たにって別人って事だろ? ここにあった反応はどうしたんだ? 無事に逃げたのか?」



 クロノスは、答えない。



「クロノス!」


「ユウスケ。」




「もう、手遅れだ。」





「……え?」



 頭が真っ白になる。

 手遅れ、もう行っても事態は好転しない。

 つまり、その数人の反応は消えたということで。

 反応が消えたということは、死んだということで。



「次の反応に急ぐぞ。」


「……待ってくれ。」



 分からない、頭が回らない。

 どうすれば良いのか、何を選択すればいいのか分からない。

 けど、口は勝手に動いた。



「……その反応があったところに、行ってくれ。」


「必要はない。」



 クロノスに拒否される。

 だけど、引き下がれない。



「行ってくれ。」


「行ってどうする。」


「どうするって……確認しないと、まだ分からないだろ。」


「分かる。反応が消えた時は、死んだ時だ。」


「今回はそうじゃないかもしれない。」



 行かないと、助けないと。

 俺のこの手で、拾えるはずなんだ。

 行けば、間に合うはずなんだ。



「ユウスケ。」



 クロノスはそんな俺を、ただ無表情で見ていた。

 いや、哀れんでいたのかもしれないし、悲しんでいたのかもしれない。

 ただ、俺にはそんなの判断する余裕もなく、すがるようにクロノスに頼み込んだ。

 だが、返ってきた言葉は。



「お前があらぬ罪を背負うだけだ。」



 本当にどうにもならないということが分かる言葉で。

 彼らが死んだのは俺のせいじゃなく、それを背負う必要はないと俺を気遣ってくれているのがよく分かる言葉で。

 でも、クロノスの優しさが、どうしようもなく俺の心に刺さる言葉でもあった。



「……それでも、頼む。」


「……承知。」



 クロノスは歩を進める。

 先程よりも緩やかな速度で。


 おそらく、あの全速力を出していた時は、まだ彼らは大丈夫だったんだろう。

 だから、俺の言葉も聞かずにがむしゃらに急いでくれた。

 クロノスは、自分の役割をしっかり果たそうとした。


 なら、俺だって一度決めた事はやり遂げないといけない。

 助けると決めたなら、助けられなかった事も知らないといけない。



 クロノスが次に止まった場所は、先程の商店街とは違い、かなり荒れた商店街だった。

 商品は散らばり、踏み荒らされてぐちゃぐちゃになっている。

 屋台は壊れ、いたるところに血が飛び散っている。

 そして、倒れた人と、近くに佇む魔族が五体。



「クロノス、やってくれ。」


「承知。」



 クロノスは硬糸を使い、五体の魔族を切り刻む。

 クロノスの速さがあれば、この五体の魔族なんて敵ではない。

 バラバラにされた魔族は、崩れた後溶けて消えていった。


 俺はクロノスの背から降りて、倒れた人達に近寄る。



 戦った形跡があるのが二人。

 どちらも魔族の酸のような体に触れたのか、腕や体が溶けている。

 そして、一人は女性に覆いかぶさるようにして背中や頭が溶けており。

 女性は、覆いかぶさった男性と同じく頭が溶けて、足が折れていた。



「うっ……ぐっ。」



 込み上がってきた吐き気を抑えつつ、俺はその四人を目に焼き付ける。

 多分、女性は騒動が起きた時に足を折ってしまったんだろう。

 上に覆いかぶさっているのは女性の旦那か、兄弟か、とても親しい人なんだろう。

 だから、女性を見捨てて逃げられず、戦闘できる二人を連れて逃げていた。

 戦闘できる二人は冒険者なのか、それともただ戦えるだけの商人なのかは分からない。

 ただ、最後まで一緒に戦っていたところを見ると、やはり親しい間柄だったんだろう。


 俺は、この人達を救えなかった。

 幸せに生きていただけで、理不尽な暴力にさらされて、こんなに強い絆でお互いを助け合って、最後まで魔族に抗ったこの人達を救えなかった。

 大通りの魔族の処理をせず、直接ここに向かえば間に合っただろう。

 たらればの話だって事は分かっている。けど、こんな状況になったらそう考えずにはいられない。


 俺が、この人達を見殺しにしたんだ。







「言っただろう、あらぬ罪を背負うだけだと。」



 クロノスは、何度も俺にその言葉をかける。

 あの時見ていなければ、俺が罪悪感に苛まれることはなかったと言いたいんだと思う。

 だけど。



「違うんだよクロノス。あの時見に行かなかった方が、確かに俺の心は軽かっただろうけど。多分、命の重さも、知らないままだったんだ。」



 俺は転生した後、人の死を多く見てきた。

 俺達に絡んできたDランクパーティである『豪腕の唸り』の三人の首が落ちるところも、大規模な盗賊グループだった影のリーダー、アレイスターの首が落ちるところも見ている。

 その時、俺は何も感じなかった。

 多分、死に対して耐性がついたんだろうな、と思っていた。


 けど、実際は違う。


 仲間が、無実な人が、死んでいる姿を見ていないだけだ。

 死に対して耐性が出来たわけじゃない。


 魔族の襲撃で、俺達を襲った盗賊が死んでいたとしても、何も思わないだろう。

 でも、一般の人である、ただ幸せに生きていただけのあの四人が死んでしまった。

 理不尽な暴力によって、俺が一つ可能性を潰したことによって。

 それだけで、俺の心はこんなに苦しくなっている。


 もし、あれがリーニャだったら? シロナだったら? ヒサメやクロノスだったら?

 俺は、気が狂ってしまうかもしれない。


 全部を救えるなんて思ってない。今回で嫌でも分からされた。

 でも、救える命は、救いたい。

 守れる命は、守りたい。



「大切な人だけは、絶対失いたくないって、心から思ったんだよ。」



 この世界に転生して、やっぱりどこかお気楽なところはあった。

 生きていく方法を勉強したり、死の危険を感じたことはあったけど、俺が出会った大切な人達はまだ誰も死んでいない。

 無意識に心の何処かで、大切な人は死なないって思ってた節はある。

 でも、ごく当たり前のことだけど、悪人も善人も、関係なく死ぬ。

 魔物によって、魔族によって、盗賊によって、冒険者によって、人は誰でも死ぬ可能性がある。


 だから、その可能性を片っ端から潰していく。

 強くなって、情報を集めて、確実に判断して。



「だから、これからもよろしく頼むよ、クロノス。」


「……当たり前だ。」



 この先、俺は絶対に魔王についての情報を集める。

 魔王は倒せなくとも、魔族の襲来は絶対回避する。

 助けられる範囲なら、絶対助ける。


 その為に、まずはマールコットの魔族を一掃する。


 後悔しない為に。

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