83 颯太の誓い
いやいや、酷い目に遭った......
まあ、全ては俺が悪いのだが......でも、流石にあれは仕方ないと思う。
だって、相手が嫁達だったから喜んで情事に及んだのだ。と、言っておこう。
「......でね、ソウタ、偽物とは最低でも三十回はやったよね? それも一晩三回も四回もしてたよね? それって不公平だと思わない?」
ミイ! 未だに言及してくるけどさ~。偽物と意識を共有したんだから、あの時の喜びも共有してくれよ。
彼女の苦言を耳にして、思わず心中で愚痴っているのだが、何て答えるべきだろうかと考えていると、横からエルが割り込んできた。
「なあ、ソータ。共有した記憶からすると、妾の時よりも激しく求められているような気がするんだが......妾よりも偽物の方が良かったのか?」
いやいや、そんな事実はないと思うのだが......ただ、激しかったのは否定できないかも知れない。
「あのな。正直に言うぞ! 相手がお前達だと思っていたからこそ、俺も本気になって遣ってたんだからな」
あんまり面倒なので、ぶっちゃけて正直な気持ちを伝える事にした。
すると、ミイとエルがクネクネ人形のように科を作ってモゾモゾと話し掛けてきた。
「え、えっと......それって、ほんと? 本当に私だから?」
「す、すまん。そ、ソータの気持ちを解って遣れなくて......妾もあ、あ、あ、愛してるぞ」
どうやら理解して貰えたらしい。ミイとエルはこれで大人しくなった。
「てか、二人ともそろそろ腕を離してくれないか。これから何時もの儀式が始まるぞ?」
それほど大きくはないが、柔らかな胸を押し付けてくるミイとゴージャスな胸を押し付けてくるエルに向けて、そうお願いしてみるが、ことは別方向に波及してしまった。
「あの~、お兄ぃ、本物のあたしはまだなのに、ちょっとズルいんじゃないの? それにあんなに......う、うっ、恥ずかしい......」
「にゃ~もまだなのにニャ~、あの猫娘はいっぱいしてたニャ~よ。ちょっと悔しいニャ~の」
「あ、あの......あの偽物は正直過ぎるのよ......でも、嘘は言ってないの......だから、えっと、えっと、解るわよね?」
そう、やっとの事でミイとエルを鎮めたのだが、今度はマルカ、ニア、サクラが発情し始めた。
てか、あの時の設定は全員が嫁になっていたから、遠慮せずに愛し合った訳だが、現実に立ち戻ると、遠慮なく愛し合える立場にあるのは、ミイ、エル、ニアの三人だけなのだ。
「取り敢えず、マルカとサクラは今後の進展しだいだ。だって、あの世界では既に夫婦だったからな」
「え~、お兄ぃ、ズルい! だったら、あたしもお嫁さんにして」
「にゃ~は嫁だから、問題ないニャ~ね」
「あぅ......解ったわ。それなら、私もソウタのお嫁さんになる!」
頬を膨らませるマルカ、喜びを表情に表すニア、ピョンピョンと飛び跳ねながらプロポーズしてくるサクラ。三人とも本当に可愛いと思える。
本人達が望むのなら直ぐにでも嫁にしてやりたい。それ程に愛おしいと感じてしまう。
しかしな~、そこには大きな壁があるんだぞ。カオルという鉄壁が......
そう思いつつ、石棺に向かったカオルに視線を向けると、何時もと同く寂しそうな表情でその上に座り込んでいた。
それを見た俺は酷く胸を締め付けられ、慌てて彼女の下へと向かう。
後ろでは、取り残された者達がその行動に苦言を漏らしているが、それは後からフォローする事にして、俺は急いでカオルの下へと駆けつけるのだった。
非情にも嫁達を置き去りにして、俺がカオルの座る石棺まで辿り着く。
『カオル!』
石棺の上で俯く黒猫に向かって念話でそう呼びかけると、彼女はゆっくりと顔を向けてきた。
それを見た俺は胸が張り裂けんばかりに痛んでくる。何故なら、猫である彼女の表情が酷く悲しそうだからだ。
ハッキリ言って、俺は鈍感だと言っても差し支えないだろう。そんな俺ですら猫であるカオルの表情から悲しさを感じてしまうのだ。
そんなカオルの中にある寂しさや悲しさは如何程のものだろうか。
静かに見上げる彼女に、俺は続けて話掛ける。
『前回はかなり寝込んでしまったけど、今回は大丈夫なのか?』
彼女はその問いの答えに暫く困窮していたが、黙って待っている俺にゆっくりと話し掛けてきた。
『颯太、今日は少し話をしようか』
物静かな声色でそう前置きをすると、彼女はゆっくりと話しを続けた。
『実を言うとね。僕の記憶の多くは失われているんだ。だけど、この骨を集めなければ、あの糞神を倒せない事と奴等に対する憎しみは、しっかりと覚えていてね。ほんとに全く困ったもんだよ。それでね、肝心の骨の前に来ると不思議と記憶が湧き起こって来るんだ。それも悲しい出来事ばかりが......』
カオルの話を聞いて、この儀式の時にいつも寂しそうにしていた理由を知る。
ただ、気になる事がある。その記憶は本当にカオルのものなのかということだ。
もしかして、全く違う者の記憶を植え付けられたりしていないのかということだ。
でも、それを考えても確認する術がないことに思い至り、押し黙る事になる。
そんな思考を巡らせている俺に、カオルは今も話を続けている。
『それで、骨を吸収する度に、自分が自分で無くなるような気がしてくるんだ。だから、ここ最近はなるべく喋らないようにしていたんだけど、その事で颯太には心配を掛けたようだね。ごめんね』
『な、なにを言ってるんだ。俺とお前の仲じゃないか。心配するのは当たり前のことだ。今更気にする必要なんてないぞ』
珍しく気弱なカオルに向けて、俺は当然の事だと返す。すると彼女は礼を述べつつ頭を下げてきた。
『ありがとう。颯太。僕は君に出会えて本当に良かったよ』
俺は無性にカオルの言動が気になり、思わず彼女を抱き上げる。
『あっ、ありがとう......颯太の胸は暖かいね......』
彼女はそう言って俺の胸に顔を埋める。その言動が更に俺の不安を掻き立て、思わず彼女に進言した。
『カオル、糞神討滅を止めてもいいんだぞ? 今や奴等なんて居ようが居まいが変わりない。殆ど羽虫と大差ないんだ。カオルさえ良ければ、このままみんなで幸せに暮らしていける筈だ』
そう、俺の憎悪はカオルや沢山の嫁達のお蔭で、いつの間にかすっかりと掻き消えているのだ。いや、憎悪はある。しかし、そんなものよりも大切な家族と幸せに暮らせる事の方が重要になってしまったのだ。
しかし、カオルは俺の腕の中で首を横に振った。
『それは出来ないんだ。僕の憎悪はそんな生易しい代物じゃないんだよ。それにこの身体だと、本妻である僕が君とエッチ出来ないじゃないか。正直言って、ミイとエルが君と交わった時には、全てを破滅させて遣ろうかと思うくらい嫉妬してたんだよ?』
ぐあっ......聞かなければ良かった......これで、カオルが俺と交わるまで、他の者とは出来ないことが決定したようなものだ。
それでも、思わず漏れた言葉は全く別物だった。
『す、すまん。カオルの気持ちも知らないで......』
『いいんだよ。今はもう納得しているし......僕の居ない処なら、彼女達と交わってもいいんだよ?』
あうっ~。そう言われると逆に遣り辛いのだが......
『いや、それよりも避けて通れないのなら、さっさと終わらせてから、ゆっくりと味わいたい』
『あは! 颯太のエッチ! でも、今、ちょっとだけ日本でJKを遣ってた時の気分になったよ。あはは。ありがとう。颯太』
『何を言ってんだ。俺の嫁なんだろ? だったら当り前さ』
そういうと、彼女は嬉しそうに胸に顔を擦りつける。
そんな仕草を心を温かくしながら眺めていたのだが、カオルはゆっくりと顔を上げた。
『颯太。もし僕が僕でなくなったら、君の手で始末して欲しい』
その言葉に驚き、その次の瞬間には憤慨し、思わず声に出して怒鳴ってしまった。
「ふざけるな! お前は俺の嫁だ! 何があっても俺が絶対に助けてやる。だからそんな事を言うな! 何もかも俺に任せておけ!」
その声を聞いたカオルは、びっくりしたように両目を目一杯に広げていたが、暫くして笑い始めてしまった。
『あははははは! 良く言うよ! 精神試練で偽物とエッチし捲って、本物にこっぴどく怒られていた癖に! あはははははは! でも、嬉しいよ......僕......颯太に頼ってもいいのかな?』
「勿論だ! 俺が何とでもしてやるぞ!」
今回はかなり格好悪い処を見られたが、カオルにそんな姿を見られるのも今更なのだ。だから、恥ずかしがる事無く、カオルに宣言して遣った。
『あはは。じゃ、何かあったら頼むね。あ~、あと、サクラの件だけど、あのボケは君の気を惹きたくて態とやってるんだよ。彼女は君よりも年上だしね。態と幼い振りをしているのさ。だから、あまり愚かだと思わずに可愛がってやるといいよ』
そうだったのか......サクラのあれは態となのか......まあ、それにしては少し酷いけどな......いやいや、それよりも今はカオルだ。
「心配すんな。女にはからきし弱いが、それ以外ならどんと来い!」
『颯太。もしかしたら、僕はまた眠りに就くかもしれない。だから次の目的地を伝えておくよ。次はチュートリアルのあったあの島だよ。例の地下洞窟から行くといい。ただ、糞神が何かを企んでるかもしれないから、くれぐれも気を付けてね。あと出来たら念話で頼むよ』
最後の一言で、俺はすっかり念話で話すのを止めていた事に気付いた。
『ああ、すまん。場所の件は了解した。でも、空からは行けないのか?』
『うん。恐らく結界が張ってあると思う』
そう言えば、俺が溺れ死のうとした時に、見えない壁にぶち当たったっけ......
『解った。じゃ、棺を開けるぞ』
『そうだね。君の最愛の嫁達がヤキモキしてるから、急いだほうがいいね』
その言葉で後ろを仰ぎ見ると、全員が訝し気な表情でこちらを見ていた。
どうやら、カオルの言う通りにした方が良さそうだ。
そう感じた俺は、カオルをゆっくりと地に降ろし、棺の蓋を開いた。
すると、そこには頭蓋骨があり、これで骨が全て集まったことを知る。
ただ、これまでも疑問に思ったことだが、最後の一つには何が入っているのだろうか。
棺の中にポツンと置かれた頭蓋骨を見ながらそんな事を考えていると、カオルが何時ものように前足を翳す。すると、何事も無く頭蓋骨が消えて行ったかと思うと、今回もカオルが倒れてしまう。
しかし、前回の事もあったので、直ぐに倒れる彼女の身体を抱き上げる。
『カオル! カオル! 大丈夫か? 回復!』
カオルの名前を必死に呼びながら、焦って回復魔法まで掛けてしまうのだが、彼女は薄っすらと目を開けると、ボソリと言葉を残した。
『あい、し、てる。そ、う、た』
彼女はそう言ったかと思うと、ゆっくりと瞳を閉ざしたのだった。
全く反応の無くなった彼女の胸に手をやり、鼓動を確かめてみる。
しかし、彼女の心臓はピクリとも動いていないように感じる。
その事に焦りを感じ始めるが、前回の事をふと思い出し、己の愚かさを知る。
あっ、死神だから鼓動は無いんだった......
前回と同じ過ちを繰り返して、自分でも嫌になって来るのだが、他に確かめる方法が無くて困ってしまう。
「もしかして、また眠りに落ちたの?」
カオルの状況を知り、慌てて駆け寄ってきたミイがそう尋ねてきた。
「ああ。恐らくな」
すると、今度はエルが心配そうな表情で尋ねてくる。
「大丈夫なのか? 前から思っていたが、目的を達成する度にカオルの調子が、どんどん悪くなっているような気がするが、本当に問題ないのか?」
ほう~、脳筋だとばかり思っていたエルからそんな言葉が出るとは......
予想外の台詞に、思わず感心してしまったのだが、俺はカオルに誓った言葉を聞かせてやる。
「カオルに何があっても、俺が必ず助けるって約束したんだ」
「そうなんだ~。ちょっと羨ましいけど、あたしもお兄ぃの意見に賛成かな」
俺の言葉を聞いたマルカが、少し不満そうにしながらも頷きながら賛同してくれた。
だから、マルカに、いや、全員に告げる。
「勘違いするなよ。それはカオルだけじゃない。ここに居る誰でも同じだ。みんな俺の大切な家族だからな。俺に取っては誰が上だとか下だとか、そんな差なんて無いんだ。みんなの事を大切に想ってる。だから、お前達の誰が困っても同じように助けると誓うぞ」
カオルとの遣り取りで、胸の内を熱くしていた俺は、恥ずかしがる事無く全員にそう告げた。
すると、安眠中のキララを抱いたニアが、うっとりとした表情で話し掛けてきた。
「ダンニャ様は最高ニャ~の。にゃ~は一生ダンニャ様に付いて行くニャ~よ」
彼女は見るからにメロメロな状態だったのだが、その様子がまた異常に可愛いのだ。
でも、力が抜けてキララを落としたりするなよ?
彼女に抱かれているキララの事を心配していると、今度はサクラが近寄ってきた。
「私も? 私もいいの?」
どうやら、サクラは自分の耳に入ってきた言葉が信じられなかったようだ。だから、もう一度だけ伝えてやる。
「もう一度だけ言って遣る。サクラ、お前の事も大切に想ってるぞ。だから、あんまり天然の振りをしなくてもいいんだぞ?」
「あぅ......気付いてたんだ......恥ずかしい......でも、私だけ三つも年上だし......」
「大丈夫だ。ちゃんと嫁にするからな」
「えっ!? ほんと? ほんとうに? う、嬉しい......」
自信なさ気にしていたサクラは、結局、その言葉を聞いて泣き崩れてしまった。
そんなサクラを支えるように、ミイとエルが両サイドから彼女を抱き起すと、俺の驚く様な言葉を口にした。
「良かったわね。これで私達は全員がソウタの嫁よ」
「そうだな。それにみんな分け隔てなく愛して貰えるんだ。嬉しいじゃないか」
「えっ!?」
両サイドからのミイとエルの言葉に、支えられているサクラが驚きの声をあげる。
それも仕方ないだろう。俺ですら驚愕で声が出ないのだから。
この二人は一体どうしたのだろうか。
すると、俺の驚愕を知ってか、隣に遣って来たマルカがコソコソと教えてくれた。
「実を言うとね。偽物と同化したことで、私達の関係も前よりも親密になっちゃったんだよ。あと、全員を嫁にしても、お兄ぃが分け隔てなく愛してくれたでしょ? だから、前ほど嫉妬の気持ちが起きなくなったんだよ」
マルカの言葉を聞いて、精神試練で思いもしない効果が現れた事に驚く。
というか、抑々おかしいと思ってたんだ。だって、カオルの話だとこの精神試練を無事に終えると、凄い力を得られると言っていた筈なのに、俺としては何も変わっていない。
そのことに全く当てが外れたと思っていたのだが、こんな処に喜ばしい結果が現れるとは思っても見なかった。
そんな処に、ナナミが遣って来た。
「ごシュジンサマ、これがオちてました」
彼女はそう言って、白い珠を差し出してきた。
「なんだこれ?」
俺は恐らく眠っているカオルをマルカへと優しく渡すと、ナナミの差し出してきた珠を手に取る。
すると、突然、その珠がまばゆい光を放ち出す。
「なにこれ!? 大丈夫!? ソウタ!」
「何事だ!? ソータ直ぐに捨てろ!」
「お兄ぃ、ヤバいよ!」
「まぶしいニャ~よ!」
ミイ、エル、マルカ、ニアが驚きの声を上げる。
そんな嫁達の声が聞こえてきた途端だった。
俺の身体が燃えるように熱くなり、胸が締め付けられたように苦しくなる。
その痛いみは尋常では無く、俺は思わずその場に膝を突いてしまう。
しかし、その痛みは一向に止む事は無く、必死に耐える俺をあざ笑うかのように、意識を刈り取ってしまうのだった。




