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異世界転移は糞ゲー人生のはじまり  作者: 夢野天瀬
第2章 本番糞ゲー開始
46/98

41 実は人間やめてました


 一難去ってまた一難とはこういう事を言うのだろうか。

 全く予想だにしていなかった問題が発生した。

 ああ、封印迷宮に入れないという問題は、依然として解決していないが、それ以外の問題が発生したのだ。

 ご存知の通り、腹ペコ猫娘が求婚して来たのだ。

 一週間前から俺達の後を付けるようにして、夕食時になると現れ始めた腹ペコ猫娘ニアだが、彼女の目的は旦那候補を探すことだと言う。

 それは全く構わないし、自由に遣って欲しいのだが、何故かその候補に俺が選ばれた。

 そうなると一体何が起こるかは、誰でも簡単に分かる事だろう。


『ソータ、ダメだぞ!』


『ダメよ!ソウタ、分かってるわよね』


『本妻の僕が許可しないよ?』


 という具合に、脳内嫁のエル、脳内愛人のミイ、自称第一夫人のカオルが凄みのある声で訴えてくる訳だ。

 言われなくても、求婚されたからといって、はいそうですかと結婚する筈がないだろ?

 何を焦って怒りを振り撒いているのやら。


 それよりも、俺としては、白羽の矢を俺に立てた理由を知りたい。

 色々と悩んだ末に、本人に聞くのが手っ取り早いという結論に達し、即座にそれを実行する事にする。


「ニア、何で俺なんだ?」


 俺に抱き付いたまま、とても嬉しそうに尻尾をフリフリしているニアは、俺の顔を見上げてくる。


「だって~ニャ~、猫男って何処にいってもおらんニャ~よ」


 いや、俺の猫耳と尻尾は偽物だから......


「だって~、ちゃんと動いてるニャ~よ?」


 それでも偽物だから! ちゃんと人間の耳があるだろう。

 

 そんな事を思いながら自分の耳を触ったのだが......

 

 ん? あれ? あれれ! ない! 耳が無い~~~~~~!

 

 俺はこの事で初めて人間としての耳が無くなっている事に気付いた。

 すぐさまカオルに視線を向け、その事について尋ねてみる。


『えっ、今頃なのかい?僕はてっきり気付いているものだと思ってたんだけど』


 カオルからはそんな回答が......

 すると、脳内嫁のエルが話し掛けてきた。


『妾が出会った時には無かったぞ?』


 なんだって! そんな馬鹿な話があるか! 俺が猫男になる筈がない!

 抑々、俺は何時から人間の耳が無くなったんだ? 

 

 そんな疑念で頭が混乱していると、今度は脳内愛人のミイが口を開いた。


『私が出会った時には、人間の耳は無かったわよ?』


 その言葉に愕然としていると、正確な情報をカオルが教えてくれた。


『チュートリアルが終わったタイミングだね』


 そう、俺はずっと人間だと思っていたのに、実はチュートリアルが終わったタイミングで猫男になっていたのだった。

 その衝撃的事実に愕然としていると、腹ペコ猫娘のニアが不思議そうな表情で尋ねてくる。


「どうしたニャ~の?」


 ぬぬぬぬ...... まあいい。全然良くないけど、まあいい。

 それよりも、別に、この世界で猫男が俺だけという事は無いだろ?


『カオル、そんなに猫男は居ないのか?』


 自分が猫男になってしまったショックを必死に抑えながら、カオルに猫男について尋ねてみた。


『う~ん、間違いなく絶滅危惧種だね』


 どうやら、ニアは全く相手が見つからない旅の途中で、俺と出会ってしまったとようだ。

 しかし、彼女が俺を選んだ理由はそれだけでは無かった。


「それに~ニャ~、ソウタのごはん、めっちゃおいしいニャ~よ」


 うぐっ、結局は飯だな...... 良し分かった。


「ニア、悪いけど、俺は猫男じゃな...... まあ、猫男の件は置いておいて、俺には遣るべき事があるんだ。だから、お前の旦那にはなれんぞ」


 その言葉を聞いた途端、ニアは和やかだった表情を絶望のものへと一変させる。

 更に、次の瞬間、大声で叫びながら物凄い勢いで走って何処かへ行ってしまった。


「ソウタのバカニャ~~~~~~!ろくでなしニャ~~~~~~~~!」


 この場合、バカと言われるのは甘んじて受け入れるとして、何故ろくでなしなのだろうか。


『あ~あ、泣かしちゃった』


『流石はソータ。ハッキリ言える男はカッコいいぞ』


『まあ、仕方ないね。これで良かったんだよ。まあ、颯太がろくでなしなのは、今始まった事ではないしね』


 ミイ、エル、カオルの三人がそれぞれの感想を述べているが、俺の背中ではキララが悲しそうにしていた。


「あんぎゃ......(ニャンニャンが......)」


 どうやら、キララはニアの事をかなり気に入っていたようだ。


「でも、お兄ぃ、あれで諦めたと思う?」


 マルカが最後に嫌な予感のする言葉を残したが、俺はその言葉を聞かなかった事にして、奴の舐め回した木皿を回収して洗い物を始めるのだった。







 翌日、取り敢えず封印されているという禁断迷宮へと向かってみた。

 どうも、禁断迷宮の所在は、迷宮国メールガルアと違って、都市の中にではなく、街からかなり外れた場所にあるようだ。

 そんな迷宮に向かって、いつもの様に栗毛馬の競争しながら走っていると、後方から怪しい気配を感じた。


「後ろから気配がする」


「ん~、猫じゃない?」


 俺の声にマルカが見もせずに答えてくる。

 

 それは有り得ることだな。てか、猫と言うのを止めないか?

 なんか、猫と聞く度に心臓に負担が掛かるような気がするんだが......

 それはそうと、ここで振り返ると、再び修羅場が来そうなので、敢えて知らん振りで走り続ける事にしよう。


 そんな調子で半日ほど進むと、グランドキャニオンの様な場所へと辿り着いた。

 その光景は、まさにグランドキャニオンと呼ぶに相応しい景色であり、長い年月を掛けて自然が作り出した浸食と言う名の芸術だった。


「すげ~~~!絶景だな~~~!」


 思わず、その景色に感嘆の声を上げてしまった。

 いや、この光景を見て感動しない方がおかしい筈だ。


『それよりも、先に進もうか。時間もあまりないし』


 ぬぬっ、折角、この素晴らしき光景を満喫しているのに......


 それでも不平を表に出さずに、カオルの足差す方向へと進むと、そこには大きな門があった。

 だが、それを門と言って良いのだろうか。

 その門は物理的にも厳重に封鎖されており、更に見たことも無い文字が至る処に刻まれている。

 それは見るからに『入るな危険!』と訴え掛けているように感じる。


『カオル、これ、どうやって入るんだ?』


 マルカが興味津々といった様子で門に近寄るのを眺めながらカオルに尋ねる。

 すると、彼女は黙り込んでしまった。

 一体如何したのだろうか。

 そんな訝し気な視線を両手で抱くカオルへ向けると、彼女は前足を門に向けていた。

 その真剣な様子に物が言えず、黙って見守っていると、彼女は一気に脱力したように屁たった。


『ダメだね。封印を解除しようとしたけど、どうやら封印時に使用した鍵が必要なようだね』


 前足を翳していたのは、封印を解くためだったのか。

 それよりも、カオルがダメだと言うなら、入る方法が無いのだが......


『じゃ、如何するんだ?』


『多分、あの街に鍵があると思うんだ』


 カオルが言うには、恐らくロルアロの街にその鍵があり、それを奪取する他ないという事だった。

 結局、その言葉で俺達は戻る事になったのだが、未だに怪しい気配が付いて来ている。

 ダメだ。あれを見ると、災厄が訪れるんだ。

 己にそう言い聞かせて、必死に怪しい気配を無視する。

 しかし、無視できない状況が訪れた。


「いい匂いがするニャ~ね」


 そう、ロルアロの街の近くまで戻り、陽も暮れたことで夕食の用意を始めたのだが、奴は昨夜の結婚拒否を気にする事無く現れた。


「にゃ~もお腹空いたニャ~よ」


 まあ、こうなることは、ある程度覚悟していた。

 だから驚きはしないが、この娘、もしかして、ずっとこの調子で付いて来る積りだろうか......

 そんな事を考えつつも、目の前で滝の様な涎を垂らす少女見遣るのだが、この状況を無視するのには、強靭な精神力が必要だった。


『あ~あ、また餌を与えちゃった。もう完全に離れなくなると思うよ?』


 そう、あの肉を見る目付き、延々と流れ出る涎、出来上がった肉をカオルやマルカに渡す度に寂しそうにする仕草、俺はそんな腹ペコ猫娘を無視できなかった。


 まあ、結婚は別の話だ。飯くらい与えても問題ないだろう。


「お兄ぃ、飯くらいなんて安易に思って無いよね?もしそうなら甘いよ?」


 そんなマルカの予言めいた言葉が実現化するまで、さほど時間を要する事は無かったのだった。







 翌朝、いつもの如く朝食の用意を始める。

 うちのメンバは、ご存知の通りマルカを除いた全員が肉食系女子だ。

 それは、幼いキララとて例外では無い。

 そんなうちの面子は、既に誰もが予想している通り、朝からガッツリ肉を食う。

 という訳で、携帯コンロとフライパン、様々な肉とちょっぴりの野菜を取り出し、朝食の準備に取り掛かる。

 すると、後方の草むらからガサガサという音が聞えてくる。


 あれ? 夕食じゃないのに......


 そう思いつつ振り向くと、眠そうな目を擦るニアが近付いてくる。

 その様子からして、まだまだ眠たいのだろうが、それよりも気になる事は、こんな朝早くから登場した事だ。

 これまで、毎晩の夕食時に現れる事はあったが、朝食時に現れたのはこれが初めてだ。


「おはよう~ニャ~よ。朝からイイ匂いがしてるニャ~よ」


 そう言って、ニアは俺の向かいに座る。

 完全にそこが己の指定席かのように座っている。

 まあ、食材は腐るほどあるし、朝食を食わせるのに何の問題も無いが、俺の後方から現れたマルカがポツリと溢した。


「あ~~、やっぱりね」


 とても気になる。そのマルカの一言がとても気になる。

 だが、今は飯を作っている最中だから、その話は後にしよう。

 また、肉の焼き加減をミスると、カオルが煩いからな。


 そうして朝食を作り終え、みんなで飯を食っている処で、今日の予定を確認する事にした。


『カオル、今日は如何するんだ?街の中で情報収集か?』


『そうだね、封印の鍵が何処にあるかを探る必要があるね』


 カオルとの念話で、これからの行動方針を決めていると、それまでペロペロと食べ終わって空になった木皿を舐めていたニアが話し掛けてきた。


「ソウタは何を遣ってるニャ~の?昨日はおかしな門の前に行ってたニャ~し」


 ん~、それを答えていいものかどうか、でも無視するのも可哀想だし......


『別に教えても支障はないよ。彼女が何をしようと影響は無いだろうからね』


 カオルがそう言うので、正直に教えて遣ると、ニアは尻尾をピンっと伸ばし、嬉しそうな顔で話し始めた。


「それなら、にゃ~が情報収集してくるニャ~よ。にゃ~は情報収集とか大得意ニャ~よ。いつも美味しいご飯を食べさせて貰ってるから、お返しニャ~の」


 おおお、毎日、タダ飯を食わしていたと思っていたが、こんな所で役に立つとは!


 ニアの言葉に感動しながらカオルを見遣ると、彼女は黙って頷きで返してきた。

 どうやら、カオルもニアが手伝うのに賛成のようだ。


「じゃ、ニア、悪いけど頼むわ。俺達も街に入るが、夜になったらここに戻るから」


「了解ニャ~よ!」


 俺の言葉に元気よく返事をしたニアは、物凄い速度で街の方向へと走っていった。


『あの走りっぷりは、颯太よりも速いかもね』


「んぎゃ......(ニャンニャン......)」


 カオルはニアの速度に感嘆し、キララはニアが居なくなった事で寂しそうな声を漏らすだった。







 ニアに遅れること一時間程度、色々と後片付けを終わらせてから、俺達はロルアロの街へと入った。

 街の雰囲気はいたって普通だ。

 てか、門で揉めなかっただけメールガルアより好感を持てる。

 実は一悶着あるかと思っていたのだが、思いの外すんなりと街に入る事が出来た。

 ただ、奇異の目は避けられない。

 と言うのも、変態衣装の上からローブを着ているのだが、キララを負んぶしている所為で、フードを被れないのだ。

 そうなると、必然的に黒猫耳が見えてしまう。

 それだけで、一般市民からすれば注目の的だ。

 これがもし東京なら、誰も振り向きもしないだろう。

 そういう視点から考えると、この糞ゲーな異世界よりも、東京の方が遙に異常だと言えるかも知れない。


 それは良いとして、現在は活気のある露店街を歩いているのだが、突然、キララが騒ぎ始める。


「んぎゃ!んぎゃ!(アレ!アレ!)」


 指を差して騒ぐキララの視線の先には、美味しそうな匂いを漂わす串焼きの屋台があった。


「おいおい!朝飯を食ったばかりだろ?」


「あんぎゃ~~~!(たべる~~~!)」


 ついさっき朝飯を食ったばかりなのに、食べたいと必死に訴えるキララに負けて、彼女に串焼きを買って遣ると、マルカとカオルが期待の篭る視線を向けてくる。


 はいはい、君等も食べるのね。


 結局、脳内嫁エルと脳内愛人ミイも食べると騒ぎ出し、俺も食べる事になったのだが、そんな俺を見たカオルが念話を飛ばしてくる。


『颯太って、本当に女に甘いよね。特にキララなんて......完全に親バカだよ?』


 何言ってるんだ。買わないと騒ぐ癖して!

 声にすると、余計に突っ込まれそうなので心中で呟くのだが、今度はマルカが串焼きの感想を述べてきた。


「ん~、イマイチだねコレ。これならお兄ぃの焼肉の方が美味しいよ」


 確かにマルカのいう事は一理ある。

 俺も食ってみて感じたが、全く美味しいと思えなかった。

 いっそ、俺が店を開いた方が......

 いやいや、そんな事なんてどうでも良いんだ。

 今は鍵の在り処を見付けないと。


 こうして街の中を探索して情報を集めたのだが、結局は食べ歩きとなり、何処の屋台が美味しいとか、何処の肉が拙いとか、そんな情報だけが蓄積されて時が過ぎていく。

 そんな時だった。厳つい男の怒鳴り声が聞こえてきた。

 その原因が何であれ、全く関わる気は無いのだが、ふと視線を向けると厳つい五人の男が一人の少女を囲んでいる。


「お兄ぃ!」


 マルカの声からすると、彼女は助けたいのだろう。

 しかし、俺としては首を突っ込みたくない。

 ところが、マルカと視線での遣り取りをしている間に、一人の厳つい男が吹っ飛んだようだ。 

 その男が発した絶叫を聞いて、直ぐに視線を囲まれている少女に向けると、厳つい男達が次々とぶっ飛ばされている。

 その時点で、揉め事の状況に気付き、直ぐにこの場を離れようとしたのだが、どうやら手遅れだったようだ。


「ソウタニャ~ね!」


 そう、厳つい男に囲まれ、更にそれをぶっ飛ばしていたのはニアだった。

 そんな猫娘が、猫耳の男に声を掛けた訳だ。

 誰が見ても身内だと思うだろう。

 俺がそう思うように、ぶん殴られた奴等の仲間もそう思ったらしい。

 何処に隠れて居たのかは知らないが、ゾロゾロと厳つい男達が現れて、俺達の周りを囲んだ。


「ん~四十人くらいは居るみたいね」


 マルカ、そんな報告は要らないからな。


「それで、如何するの?お兄ぃ」


 どうするもこうするも、俺達に選択権は無いだろう。さっさと片付けて逃げ出すぞ!


 彼等には悪いが、少し痛い目に遭って貰うさ。と、思ったのだが、その後ろからも続々と男達が現れる。


「ニア、何を遣ったんだ?」


 時に、少女一人が街を歩けば、胡散臭い男に絡まれる事はあるだろう。だが、これは少し異常だと思う。

 そう思う理由は、集まった奴等がヤサグレ者というより、兵士の様に見えるからだ。


「ん?鍵があったニャ~よ。はいニャ~!これニャ~よ!」


 ニアはそう言って、紫色の水晶玉を俺に向けて放ってきた。

 おいおい! 投げるなよ! 大切な物なんだぞ!


 慌ててその珠を受け取ったのだが、なんと、ニアは鍵を盗んで追われていたのだった。

 それなら、意地でもこいつ等を倒して逃げる必要があるな。


「でかしたぞ!ニア!今夜はたらふく肉を喰わしてやるからな」


「ほんとかニャ~~!やったニャ~~!元気が出たニャ~よ!ここはにゃ~に任せるニャ~よ!」


 この後、夕食の話で超人化したニアが、百人からの兵士を一人で全滅させた。

 だが、更に衛兵がウヨウヨと集まり、最後は俺の雷撃魔法をブチ噛ます事となった。

 結局、ニアのお蔭で無事に禁断迷宮の鍵を手に入れたのだが、この一件で俺とニアは凶悪猫夫婦として、この国で一級指名手配となるのだった。


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