時刻表と私
ここに、分厚い本がある。
辞書のようで辞書でないし、少年向けコミック雑誌でもない。
開いてみると、文字ではなく数字がところせましと並べられ、その上を列車が走るがごとく、一直線に伸びている。それもそのはず、世界一の正確さを誇る鉄道は、それに則り動いているのだから。
これは時刻表である。
本屋さんに入っても、少年ジャンプやサンデーなどと同じサイズでありながら、あまり人目のつかないところに置いてあり、影は薄い。さらに現在では、ネットの普及によって、時刻表を使うことなく、旅行を計画できるようになったため、それを手にしたことのある人も少ないだろう。
だがこれを開くとなかなか面白い。
列車が走るがごとく・・・と表現したが、まさにその通りで、全国の2万キロ近いJR線はもちろんのこと、私鉄やバス、航空までこの一冊に集約されている。一冊あれば、日本の現在の交通が、どのように動いているのか、一目で理解することができる。
しかも、日本の鉄道は世界一の正確さを誇るとも言われているだけあり、これを実際に、駅で見ながら列車を見たり、乗車中にすれ違う列車を見ていると、時刻表に記載されている時刻と、全く同じタイミングで列車が来る。ここに快感を感じると、鉄オタの末期症状かもしれないが、少なくともつまらなくはないだろう。
これの派生に、空想旅行というのもある。お金や暇がないから、自分の理想の旅行を時刻表上で作り上げることだ。これさえあればなんでも作れる。近場の日帰り旅行から、夢の日本縦断旅行だって作れてしまう。それに加え、頭の中で空想を膨らませ、実際に旅をしている気分にもなれる。
大判1000円以上もして毎月発行されるから、毎月買う本当のファンならまだしも、一般人からすれば出費がバカにならないが、ダイヤ改正の都度ぐらいなら、買う価値は十分にあると思う。まさに時刻表は、旅の指南書であり、とても面白い。
私もこの時刻表の面白さに目覚めた一人だった。
両親が旅行に行った時に使用し、使わなくなったというので、興味本位でもらった時刻表が始まりである。私が小学3年生の時だった。
それから私は、4つの空想旅行を作り上げた。いつかできないかなという野望を持ちながら、日々を過ごした。
高校に入って、バイトができるようになってから、ようやくこれらの旅行に着手することができ、2015年、大学1年の夏に、すべての旅行を終えた。最初の計画から、10年が経過していた。しかし、同時に私は、日本で行きたい場所を、大学1年の夏にして早々に失ってしまったのである。
転機があったのは、その年の秋のこと。
とあるとき、Exelに、今までに乗ったJR線の区間をすべて打ち出し、JR全線のキロ数と比較した。時刻表を読みはじめてから、あちこちの路線を乗りまくっていたため、かなりの数を完乗してると思ったからである。
ところがその数は、全体の40%程度だった。
これに私は驚いた。
JR全線完乗をした人というのは、それこそ探せばかなりの数が見つかるはずである。ところが、その作業は一筋縄ではいかなかったというのを感じた。
10年乗りまくって、まだ40%。このペースだと、25年かかる計算である。これは無謀なことなのだろうと感じた。
しかし人間、無謀と思うと無性にやりたくなるのが性である。
私は大学で地理を勉強している。日本ならば、ある程度の地理感はある。