昇格試験⑧
キタァァァァァ!!ドラゴン!!
扉の先には大広間のような開けた空間に一匹のドラゴンが丸くなって寝ていた。
ドラゴンは赤い鱗で覆われており某モンスターなハンターさん主演の狩りゲーのパッケージを飾りそうな容姿だった。眠っているのに凄まじいプレッシャーを放っている。一般人がここにいたら失神からの失禁コースまっしぐらだ。
「ねぇ、レイあれってもしかして」
「ド、ドラゴン!なんでこんなところに。この大きさは属性龍。いや、下手したら龍王クラスかも。…二人とも逃げるよ。」
義兄さんが冷静に判断を下した。
なにをおっしゃる。俺は今の自分の実力を知りたかったんだ。こんなピッタリの相手はいないだろう。自分で武器や防具も作りたかったから素材も欲しかったんだ。
「トモヤ!何やってるの!?逃げるのよ!」
姉さんの静止も聞かずにドラゴンに近づいていく。
ドラゴンが静かに目を開けた。
「また人間が性懲りもなく来おったか。…ほう、お主強いな。カッカッカッ。面白くなってきたわい。」
ドラゴンは愉快そうに笑う。だがそれどころじゃなかった。声が若い、いや子供の女の子みたいな声だった。驚いた。もっと威厳のある声を想像してた。本当に声が少女の物だった。俺と同じくらい10歳そこらな風に聞こえた。
「後ろのふたりもそこそこやるようだが…足りんな。」
そう言うと二人の前に炎の壁が出現した。ふたりがなにか叫んでいるが炎の勢いが強くて声が届かない。分断されたか。まぁ、いいか。
「お主との戦いは面白そうじゃ。お主、名は?」
「名前を聞く時は自分から名乗るのが礼儀じゃないか?」
「カッカッカッ!そんな度胸のあるやつは久々じゃ!いいだろう。我が名はイグニス。さぁ名乗ったぞ。お主の名は?」
「トモヤだ。」
「うむ。いい名だ。…では戦いを始めようぞ!」
イグニスは息を大きな吸い込んでブレスを吐いた。凄まじい威力だな。部屋いっぱいに広がって迫ってくる。これは防ぐしかないな。
『アクアフォートレス』
水の上級の防御魔法を詠唱破棄で展開する。ブレスと水の要塞がぶつかり、ブレスが鎮火した。
「ほう、防ぐか。だが今のは小手調べじゃぞ?」
「分かってるよそんくらい。次はこっちから行くぞ!」
『ダイアモンドダスト』
部屋が一瞬で氷の世界になり、温度が氷点下まで下がった。イグニスも凍りついたがこっちも小手調べだ。この程度でやれるなんて思っていない。その証拠に俺と姉さん達を分断している炎の壁は消えていない。
ドラゴンを拘束していた氷にヒビが入り、粉々に砕け散った。
「この程度でわしをやれると思ったのか?」
「そんな甘く考えちゃいないさ。」
背中の剣を抜いて魔力を流す。全身に身体強化をかけ、一瞬で距離を詰める。鋭い爪を振り下ろしてくるがジャンプして避け、腕の上に着地する。そのまま頭まで駆け上がる。
「はぁっ!!」
一番柔らかそうな目に突きを放ったが、まぶたを閉じて弾かれた。それに逆らわず身を空中に投げ出し距離をとろうとするが、尻尾の追撃が飛んでくる。咄嗟に剣でガードするが、吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。
「ガハッ!?」
クソッ油断した。
当たる瞬間に身体強化の魔力を増やしたので折れてはないが脇腹にヒビくらいは入ってそうだ。動く度鋭い痛みが走る。
『ハイヒール』
光の中級回復魔法だ。暖かい淡い光が手に現れ、それを患部に当てると痛みが和らいでいく。
イグニスと名乗った龍はご丁寧にまっていてくれたようだ。
「カカッ! 回復魔法まで使えるのか? ビックリ箱の様なやつじゃのう。」
愉快そうに笑い余裕をかましている。
やはり属性龍だけはあるな。こりゃ、全力でやらないとまずいか?
「そんな余裕かましてられるのも今のうちだぞ?吠えずらかかせてやる。」
「ほう、おもしろい。やれるものならやってみい。」
俺は母さんと魔力のコントロールの訓練をする以外で初めて魔封じの腕輪を外した。
俺の体から女神から貰った底抜けの魔力が俺の体で収まりきらず漏れだし始める。
「さぁ、お返しだ。『炎よ。全てを飲み込む灼熱の業火よ。森羅万象を焼き尽くす濁流となれ。』
「やってくれたなぁ!!小僧ォォォォォォ!!」
思わず耳を塞いでしまった。凄まじい声量だ。
それにニヤリと笑って答えてやる。
「言ったろ?吠えずらかかせてやるって」
「まんまとかかされたわい。お主がここまでやるとは思わなんだ。お主の強さに敬意を表して本気でやってやろう!」
魔力が爆発した。風圧で吹き飛ばされそうになる。どんな魔力量してんだよ。
「まぁ、俺も人の言葉言えないけどな。」
『魔力開放』
封印されていた魔力を開放する。 神から授かった永久に尽きない魔力が溢れ出す。
「凄まじいな。人間にしておくにはもったいないわい。」
「うっせーよ。人間好きなんだよ。そんなデカイ図体しててもいいことないだろ?」
「人化もできるんじゃぞ?」
「まじで!?」
マジか。ドラゴンって人化できたのか。人化した姿も見てみたいな。
「お喋りはこのへんでいいじゃろう。わしはこの戦いも少し飽きてきた。次で終わらせてもらうぞ?」
「奇遇だな。俺も同じ考えだよ。」
イグニスは思いっきり息を吸い込んだ。胸が膨らんではち切れそうだ。
久しぶりにちゃんと詠唱するか。嫌だけど。
『炎よ。全てを飲み込む灼熱の業火よ。森羅万象を焼き尽くす濁流となれ。灼熱焔舞』
詠唱が完了すると同時にブレスが吐き出される。魔法とブレスがぶつかった。最初は拮抗していたが、軍配が上がったのは魔力が尽きない俺だった。
イグニスは炎に飲み込まれた。
土煙を魔法で吹き飛ばすと、虫の息のイグニスが横たわっていた。
このまま殺すのもしのびないな。回復してやるか。
『完全回復』
見る見るうちに傷が消えていく。まぶたがゆっくり開いた。
「どうして助けた?」
不機嫌そうだったが、何が不満なんだ?
「なんとなくだよ。気まぐれだ。」
「暴れて人間を殺すかもしれんぞ?」
「お前がそんなやつじゃないことくらい今のは 戦いで分かったさ。残虐な奴なら姉さん達を分断しないでさっさと殺してる。」
「ふははははは!!!面白い!やはり面白ぞお主!決めた!今からお主はわしのご主人様じゃ」
は?何言ってんの?こいつ。ご主人様?意味わからん。
「なにをマヌケずらしておる?わしが使い魔になってやろうと言っておるのじゃ。光栄に思え。」
あぁ、使い魔。だからご主人様か。母さんにもいるから知ってるけど、
「使い魔になってくれるなら、願ったりかなったりだけど、いいのか?」
「わしもここにいるのに飽きてきたところじゃったからのう。お主についていくのも悪くないと思ってな。」
「でも使い魔ってどうやってなるんだ?」
「それはわしに任せておけ」
そう言うと、イグニスの体が光って、見る見るうちに小さくなった。光が消えると俺と同い年くらいの赤いドレスを身にまとった真紅の髪と瞳が特徴的な少女がそこにいた。
「えっと?イグニス?なのか?」
俺の困惑した様子にニヤリと笑って
「そうじゃ。驚いたか?」
「あぁ、驚いた。あまりに美人だったから」
そう。人化したイグニスはすれ違ったら誰もが振り向くような神にも負けてない絶世の美少女だった。
「そ、そうか。少し照れるの。じゃあ早速契約を始めるぞ。」
「俺は何をすればいいんだ?」
「お主はじっとしていればよい」
俺の方にどんどん近づいてきて、その距離がゼロになる。
「お、おい。イグニス?」
後ろに下がろうとするが、体に腕を回され、逃げられない。
「これ、逃げるでない」
イグニスは少し背伸びをして俺にキスした。
は?え?使い魔の契約ってキスするのか?え?まじ?
テンパっていたら
「終わったぞ?。これでわしとお主がつながったはずじゃ」
言われてみればイグニスの魔力を感知できるようになっている。
「使い魔の契約ってキスだったのか?それなら先には言えよ。心の準備というものがな」
「いや、口付けじゃなくても良いぞ。こっちの方が面白いかと思ってな」
「なんだよそれ」
思わず脱力してしまった。イグニスはケラケラ笑っている。
「まぁ、とりあえずこれから宜しく。イグニス」
「そうじゃな。末永くよろしくな。ご主人様。」
炎龍王イグニスが仲間になった。




