プロローグ
俺に六歳差の姉がいる。
しかも姉は世間的に見れば、所謂『天才』と呼ばれるらしい。事実、小さい頃から勉強は出来ていたと思う。俺がまだ右も左も分からなかった頃は、そんな優秀な姉が唯一の誇りであり、憧れであり、自慢出来る存在だった。
姉が歩けば後ろをついていき、姉が新しい事を始めれば俺も同じ事を始めた。そこにはただ純粋に、少しでも姉に近づきたいという幼心が生み出した行動だった。
つまり、何が言いたいのかというと、俺は姉のことが大好きだった。
しかし俺が自分の名前を漢字で書けるようになった頃には、すでに姉と俺は比較されるようなっていた。
姉の後ろを歩けば『真似しか出来ない役立たず』とヤジが飛び、姉と同じ事をすれば『お姉さんの方は出来るのに』と他人からも落胆される。
そうしていく内に、いつしか『自慢の姉』は『コンプレックス』に変化した。
姉のことを自分の『コンプレックス』であると自覚したときにはもう姉弟間の会話は無かった。あったとしても年に数えるほどだ。
成績平均、否、成績平均以下のとりえのない俺と誰もが羨む頭脳を持った姉。その差は歴然としていて、将来もどちらが有望か、なんて誰が見ても分かりきっていた。
だが、ある日突然、姉は『病気』にかかったのである。
突然、なんて言葉は少し違うかもしれない。先天的なものだったかもしれない、はたまた本当に突然だったのかもしれない。そんなのは今となっては誰にも、もちろん俺にも分からないが。
何はともあれその『病気』は、これまで順調だったエリート街道をぶち壊し、輝かしい未来と『常識』と『正常な思考回路』を奪った。
姉が患った病気、病名は『中二病』である。
そもそも『中二病』とは、思春期にありがちな自己愛に満ちた空想や嗜好などを揶揄したネットスラングのことである。(ウィ○ペディア引用)
特に俺の姉の場合はかなり重度な上、おかしな方向にこじらせているため治療は非常に困難だ。
そして中二病を発病してから早四年。
姉は大学に行かず、働きもせず、親のもとで何もない生活を送っている。
しかし、俺はこの状況に軽い危機感を感じた。
この先姉がずっと中二病のニートだったら。今は俺達の親がいる。俺も姉もその親に面倒を見てもらっている。だが、親だっていつしか……
このままではマズい。
俺は決心した。姉をどうにかして独り立ちさせなければ、と。
これは、中二病+ニート=中ニート病の姉を何とかしようと立ち上がった弟である俺の、苦難の日々を描いた物語である。