まあるいもの
あるとき、ほにゅは仲良くなった仲間たちと集まって遊んでいました。
ある個体の提案で、次に集まるときに、自分の一番好きな丸いものの話をしようということになりました。
最初は提案した個体が話し出しました。その横には、一回りくらいしか大きさが変わらない、人間のこぶしくらいの大きさの柔らかいボールがありました。いろんな色の五角形と六角形が組み合わさってできています。
「これがあれば、いろんな遊びができるの。たいくつしないよ!」
次の個体も同じようなボールを持っていました。しかし、もうちょっと硬くて、汚れているけどもとは真っ白だったのだろうとわかります。白い地を赤い糸で縫い合わせてあります。そして何か文字が書かれているようでした。
「お世話になってるおうちの人からもらったの。アーシェから来た、『やきゅう』を教えに来た人の練習会でもらったものなんだって。ずっとお部屋に飾ってあったんだけど、そのあとでぼくにくれたんだー」
話によると、その家の子供が野球を始めたのだけど、数年で飽きたのか嫌になったかしてやめてしまったのでした。ボールに書かれた文字は、指導をしていた地球のそこそこ有名な野球選手のサインだったわけです。
みんなで両方のボールをぽんぽんと回してリフティングをしては、いいねー、とはしゃぎました。
ある個体はおわんを持ってきました。これはおいしいご飯の入れ物だ、と。おいしいご飯ならおいしくておいしくないご飯はおいしくないのは当たり前だ、と誰かが言ったのでおわんを持ってきた個体はしょんぼりしました。
でも、また別の誰かが言いました。
「いれものが変わると、気分が変わるよね!具がないごはんやおかゆでも、きれいな色のおわんにいれるとちょっと違う気持ちになれるね! カラフルなおかずを、もようがない、淡い色のお皿にもりつけるとカラフルさがひきたつよね!」
それを聞いて最初に当たり前だといった個体さえ、おおおー、と歓声を上げました。
声をひそめて、人間の女性の乳房がいちばんだという者もいました。声をひそめたのは、人間など哺乳類が言ったら悪意があるかもしれない内容だからです。選んだ理由は、生まれたばかりの人間の大きさが倍近くに育つのに必要なすごいものだからだと、その個体は述べました。何より、大事な人にしか触れてはいけない宝物だからです。
ふむふむ、と何体かがうなずきました。
ある者は自分をかたどったぬいぐるみクッションを紹介しました。大きなピザを注文した者がいて、届けた人間が困り果ててしまったりもしました。届けた先にもにゅしかいなかったら、お金払ってもらえるのかとか、いろいろ心配になりますね。
最後の個体は夕方の空を見上げて、まだちょっとはやいなー、とつぶやきました。そして、先にあったかい温泉に行こう、と山を指し示しました。そこで一度解散し、それぞれが持ってきたものを置いてきました。
山の中の、人間が知らない、その山の生き物だけが使う温泉。みんなはぷかぷかと浮かびました。近くに生えている、人間が食べられない、見た目がキンカンに似た実を上に乗っけてかがみもちごっこをしたり、その実を食べたりしていると、
「見てーー!!あれが、ぼくの、いっちばん、だいすきな、まぁるいもの!!」
最後の紹介をする個体が大きな声を上げました。指した先には、地球の月に似た、それより少しちいさいけど、同じようにまあるくてとても明るい衛星が浮かんでいました。みんなで、それを、まったりと眺めていました。




