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であったともだち サニアさん

 ある時、ほにゅは知り合いのいる町に遊びに行きました。

 その知り合いは、特別な部隊を率いる、軍隊のそこそこ偉い人でした。サニアという名前の女性です。まだまだ引退するにはぐんと若いのですが、まだ少女のころから長く戦っていたこともあって、平和になったら軍をやめると決めていました。

 やめた後、部隊の仲間とともに、軍の建物に近い区画でごはん屋さんを開くのだと言っていました。そのお店がオープンする前日、部隊の仲間たちと、親しい友人をわずかに呼んでパーティを開いたのです。


 部隊の人は、軍人らしい堅苦しいままの人もいますし、元から軽い雰囲気の者もいます。呼ばれた友人は、ほにゅの他に数体の波動生物と、軍のことを知っている古い付き合い数人でした。


「隊長、おめでとうございます!」


 招待客が揃うと、軍の制服に近いデザインのジャケットを着た屈強な男が、注意をあつめて、挨拶を始めました。長くなりそうだったのでサニアさん本人がツッコミを入れて上手に話を短くカット。男は気にせず、スピーチを終えて、乾杯の前に確認をしました。


 音頭を取るのはやっぱりサニアさんです。彼女を中心とした集まりなのですから誰も異議はありません。腕にたかっていた波動生物たちもいったん降りたり頭や肩の上へ移動して、腕を上げやすくします。


「今日は、あたしのために集まってくれて、ありがとう。こうして店をやれるのも、みんなのおかげだ。」




 サニアさんは貧しい家に生まれました。彼女の村では、衣食住をそろえるには少年兵になるしかありません。女子は衛生兵や調理など後方支援にあたるはずですが、サニアさんは射撃や銃の整備の才能がみつかったので、早くから前線に回され、戦い続けてきました。


 本来なら中等学校へ行く年齢になって、停戦のおかげで1年だけ初等学校へ通うことができました。読み書きも計算も、軍で必要な分野は大人に負けません。体育なんか学校中で一番です。でも、やはりというか、日常的なものの名前や、調理などは低学年クラスでやっと釣り合うくらいでした。


 初めは、どの科目のクラス分けでも、誰も近づいてすら来ないありさまでした。サニアさん自身も、同年代以下の子どもと付き合うことが、(少年兵以外には)どうしていいのかわからなくなっていました。


 勇気を出して話しかけてきたわずかな子が、一年の間に親友となりました。停戦の回数や期間が増え、サニアさんが中等学校に通えるようになった時、彼女の先生になった人もいます。たった数人ですが、お互いにかけがえのない友人同士なのです。




 サニアさんは、友人たち、部隊の人、波動生物たちに目を向けながら、胸を張りました。


「先生がいなかったら、あたしは初等科しか学歴がない、教養も何もない戦場でしか生きられないヤツにしかなれなかった。

 お前たちの部隊に配属されなかったら、あたしは下っ端の役に立たないちっぽけな一兵卒にしかなれずにいた。

 キミたちと出合わなかったら、あたしは未来を知らなかった。


 戦うこと以外に、何がしたいか。何をしてもらいたいか。考えて、夢見た未来が、今から始まるんだ。これからも、一緒についてきてくれるかい?」


 大きな歓声が短く上がり、サニアさんは目の端に光の粒をきらめかせながら、ガラスの器を掲げ、乾杯の音頭を取りました。




 お店は、朝早くから昼になる前と、夕方から夜に開きます。今は料理を乗せるテーブル以外片づけられて三〇人を超える人と五体の波動生物がいますが、本来の定員は十五人程度の小さな店です。サニアさんと共に軍をやめた人たちと、新しく雇われた人がお店を動かします。


 世界各地のつまみやすい一品料理や酒類を取りそろえていく予定で、おすすめがあったら置くよ、とサニアさんは笑います。シェリア世界産の、北方の蒸留酒を置こうと誰かがいい、何人かが賛成しました。


「こんど、おみやげにもってこられたら、いいな」


 ほにゅを含めた波動生物たちがふるふる体を震わしながら言うと、サニアさんは彼らをつつきながら、待ってるぜと豪快に笑うのでした。

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