雨の日には
ばたばたと強い雨が降っていて、街を行く人間の姿は通勤通学のほかは極端に少なくなります。
地球と違って、この世界は通勤の時間がまちまちですし、基本的にあまり遠くへ行かないから、ずっと数少ない公共交通機関がすし詰めになることもあまりありません。日本のような細かい鉄道網はまだないですし、車の台数もずっと少ないです。
傘をさして歩いている人の中に、波動生物を肩にのせた人がいます。だいぶ定着した地球式のスーツ姿から、会社員だとわかります。肩の波動生物は肩が揺れるリズムに合わせてぽよぽよと体を揺らします。スーツの女性はスラックスの裾から水滴が垂れて足元が濡れているのが気になり始めました。立ち止まって、肩の波動生物に話しかけます。
「ねえ、ぽんちゃん。足元、乾かないかなあ」
ぽんちゃんと呼ばれた波動生物は、仕方ないと言った風に、もそりと肩から離れ、ふよふよと彼女の足元へ降りていき、スラックスの裾に触れました。
「ちめたいぉ」
ぽんちゃんはごにょごにょ何か唱えてから、ぶぅーっと勢いよく息をスラックスの裾と足元に吹きかけました。
女性とぽんちゃんは、何度かやりとりを繰り返しながら、かなり歩いていきます。そこそこヒールのある靴ですが、女性は慣れているようで、足取りを乱しません。
ちなみにピンヒールは演劇の衣装とか、華やかなドレスを着るような人しか履かないので、足がひどく痛くなるまで歩くのはまれなことです。
それにしても、長い時間、歩いていきます。
さすがに疲れたのか、途中の喫茶店でひと休み。
傘を所定の場所に立て、ぽんちゃんが女性全体に息を吹きかけてから席を探します。そして席に着く前にぽんちゃんが自分に魔法をかけて、一気にふわっと自分を乾かします。表面の細かな毛がぶわっと立ち上がって、一瞬、一回り大きくなったかのように見えます。
他に入ってくる波動生物も、入り口で自分をぶわっとさせてから席に着きます。毛足が長い個体は、急にふたまわりくらい大きくなったかのように見えて、大きくなる瞬間を目にしてしまうとびっくりします。
ぽんちゃん以外の波動生物に慣れていないのか、女性は偶然目にした、寒い場所帰りのほにゅのぶわっ!を見て、コーヒーが覚めるまで目をしぱしぱと瞬かせるのでした。
(・ω・)びっくりさせて ごめんだぉ
でも寒いときにはふかふかもふもふになりたいんだぉ。




