もにゅとエルフと波動生物条約
飼い方のお話で出てきた『条約』、これは波動生物がある程度人間たちの間に広まった際に、(・ω・)たちを悪用する者が多くあったことから生まれたものです。たとえば、盗賊などが人や動物を操らせ相手に被害を出したり、破壊工作のために用いたりすることが頻発したためです。
有名な手口としては、もにゅたちの、動物と会話が出来ることを悪用して、高いペットにあらかじめ脱走することを教えておいてからお金持ちに売りつけ、後でペットだけ回収して他へ売りつけ……というのを繰り返す業者がいました。同じペットをトリミングなどで姿を変えて何回も売れるので少ない仕入れで利益を上げたのです。
帰ってくるように教え込んて直接もにゅを売るというのもありましたが、これは売られた先でもにゅが喋ってしまうことがあって件数としては少ないです。しかしそのおかげで悪徳業者の所業が明らかになり、捜査によって先のペット回収が明らかになったのでした。
もにゅは種として、他の特定の生物種、食物連鎖の上位に当たる大型の肉食獣や知性の高い人間などの種族、古代には全土に居たとされるドラゴンなどに加担しないという約束のようなものがあるんだそうです。ですが、もにゅ自身がそれを認識するのはある程度知識や経験を積んでからです。その間には、悪用されても自分が悪いことをやらされている実感がありません。
もにゅは生物と呼ばれてはいますが、生殖行為で生まれるものではないので、生まれたときから教え込むということを全ての個体に適応することが出来ません。どこで生まれるか誰にも分からないからです。なので、人間などのほうに約束を徹底するしかないとすぐに気づくことができました。
難しい言葉で書かれている条約ですが、要約すると三つになります。
一、波動生物に、故意に他の生物や生息域を攻撃させない
二、波動生物に、故意に他の生物の意思を操ることをさせない
三、他の生物の持つ社会に過度に干渉させない
一つ目は単純です。人間であれば、戦争など相手または相手領地の攻撃手段にしないこと。
二つ目は先のペット詐欺のように嘘を教えたり、自分だけに有利なことを吹き込んではいけないということです。
三つ目は、たとえば一や二が、政治の中枢に対して行う者が居たら、たいへんなことになりますよね。どんなにすばらしい人でも、他の人を意のままに操って好きな政策だけ行わせたり、敵国の偉い人の手元へもにゅを送り込んで危ないスイッチを押させたりするのは人間としてダメダメです。
条約を作って広めるまでには百年近く時間がかかってしまいました。一部の地域には野良もにゅの集落?が出来上がったり、おいしい実が取れる木だけ育つ森があったり、魔法の爆発のための荒地や、町があった廃墟がいくつも残ったりしました。それらを解決するために、さらに百年以上の時間が費やされました。
条約を記した紙と石版がそれぞれ人間の当時もっとも栄えた国のひとつであるルプシアの首都と、エルフの最長老の住む集落、大陸から離れた孤島のひとつにある集落、両性族の聖地、ドワーフの地下道の記録倉庫の奥に、それぞれ一セット仕舞われています。そこには当時の「人間」たちの種族の代表と、当時人間社会の中で暮らす最古参のもにゅの手形とサインが残されています。
その中にはドラゴンに近い種族・竜人の代表が居り、条約が破られた結果著しく生態系のバランスが崩れたときには、彼らがドラゴンを連れて大陸を訪れ、「人間」種族をごく少数を遺して抹殺するという約束があるといわれています。
実際には、そこまでではないでしょうが、破ったら何らかの罰則を人間種族全てに与えることになるというのは確実なことです。
注:「人間」の範囲はとても広い。エルフ(長耳族)や亜人の一部がふくまれる。地球の人類のような『標準種』やそれにごく近い種だけを指すときは『人類種』と呼ぶことが多い。




