出会ったともだち ペイシュエイさん
ほにゅはあるとき、大陸の東方にある国シァデンを旅していました。首都シンシュエから北に数時間、乗鳥車にゆられた先にある、少し古い町にある観光名所を訪ねます。
シァデンは現地の言葉で小さい・大きいという字を書きます。漢字で表すと小大ですね。小さな都市国家から町の外に領土を広げるうちに隣とぶつかって、戦国時代になって、それから天下を取ったシュエを首都とした大きな国になったことに由来します。
アメリカの州や日本の藩のような、元の都市国家を首都とした国を束ねてできているので、「省」ごとにさまざまな違いがあります。
戦国時代にそこそこ生き残った地域には、それ以前の古い時代の遺跡や史跡が遺されています。新しく整備したところでは個性的というか、デザイナーが競って建物の見た目や機能を競う様子が見られます。内陸の山がちなところでは木材などの産業や森林浴などの売りがありますし、海のほうは多様な魚介類を味わえるのです。
ほにゅが向かっているのは、古い家々もそこそこ新しい建物も混在する、中堅都市のひとつピェイシェイです。シァデン文字で、餅を作ると書きます。名前のとおり、前に紹介した新年のおもちの、三大生産地のひとつです。この町では新年以外にも大福などのもちもちしたメニューが何種類も作られていて、通りを埋めるように店が立ち並んでいます。お菓子の製作体験などを行う店もいくつかあり、いちばんの大通りは餅になじみのない西方などの外国人には人気のスポットとなっています。
そんな店のひとつにほにゅは入りました。もにゅ用の席にぽんと乗ると、別のもにゅがひとつ、近づいてきてちょこんとほにゅの席の前に布でできたコースターを敷いて去っていきました。しばらく待つと、人間のこどもの両手に乗るような陶器の器がコースターに乗せられました。中には、名物のお団子が3つ並んでいます。それぞれ上に蜜ときなこと餡が乗っています。それぞれに、竹を削った箸と平たい串がついていて、観光客はみんな串ですくって食べています。
ほにゅはがんばって箸を使って食べます。餡の団子をつまんで口に入れると、それを見ていた客たちが次々と箸に挑戦し、団子を落としそうになりました。
そして、お団子がひとつ、宙に舞って……
ぱくり、とさっきのもにゅが食べ、着地しました。落としたり飛んだものをみんな食べてしまうのですが、全員にひとつずつ、お団子がサービスされます。怒る人もいますが、少数ですし他の客にいろいろ言われて店を出て行ってしまうか、そのもにゅが店の外まで引っ張っていってしまいます。店の人がペイシュエイ、と声をかけるとペイシュエイはぽよぽよ跳ねるのではなく、もぞもぞと進んで戻っていきます。
店の人がサービスぶんの団子を配り終えると、ペイシュエイは、にゅっと手を伸ばして店の人から団子をいくつかと先ほどの竹の串を受け取り、細かく団子を切っていきます。
団子を切ったり、切れ込みを入れてずらしたり、くっつけたりして、数分でペイシュエイ自身よりも大きな美しい鳥が出来上がると、店は拍手喝采で満たされます。ほにゅもぽよぽよと体をふって大興奮です。
出来上がった鳥はその場で分けられ、食べられてしまうので、まるで夢のようなひと時です。その時々で店で作っている商品が違うので、ペイシュエイが作るものも数十種類はあるようです。特定の行事用の餅や饅頭でつくるものはそのときしか作らないので、店は予約だけでいっぱいになってしまうほどなのです。
ほにゅがそのままその店で、体験教室の時間までのんびりしているあいだも、ペイシュエイはせかせかと店内を這うように動き回っています。体験教室の時間になって、ようやくまかないのお団子(失敗作などですね)を食べている姿はちょっぴり不思議な気分です。
体験教室では、ペイシュエイにあこがれて、教室で作ったお団子を悲惨な姿にしてしまう人が後を絶たないそうです。ほにゅも、ふぞろいの切れ込みが入った、広がらないお団子を食べながら、しょんぼりする羽目になりました。不恰好なお団子を食べながら悔しがる人間たちを見ながら、ペイシュエイはしししし、と満足そうに笑うのです。
ペイシュエイ(ピェイ・シュェイ)は餅の工と書きますし、彼は物心ついたときから店主の技を真似して覚え、披露し続けているのです。もしかしたら、あるじ以外の誰も俺にはかなわないぜ!などと思っているのかもしれません。
(・ω・)ほにゅは ぶきようなのです。




