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出会ったともだち からころさん(2)

 からころさんは泣きました。それから、オルゴールを持って歩きながら、メロディーを口ずさみました。日が少し高くなって町が動き出したとき、町の人がからころさんの様子に気付いて、どうしたのか訊きだして、時計屋さんに連れて行ってくれました。修理や製造をする作業場が、この世界の時計屋さんには必ずあって、時計のほかにも色々な器械細工を時計屋で扱っているのです。


 着いた時計屋さんには年老いた店長さんとその息子兄弟がいました。兄が実質的な店長のようで、他の店員さんに指示を出したり、褒めたり、叱ったりしていました。それからからころさんに気付いて、オルゴールを手にとって、簡単に調べてくれましたが、


「もうだめだね。沢山の部品を取り替えなくてはいけないけれど、古いものだから、もう作ってない部品や、合わない部品があるんだよ。……仕方がないから、同じ曲を探してあげようね。」


 そう言って、オルゴールを取り上げようとするのでからころさんはオルゴールを抱きしめました。


 兄は同じ曲のオルゴールをなんとかひとつ、探し出しましたが、微妙に違うメロディが入っているし、音の雰囲気がからころさんにとっては全く違うものでした。からころさんを連れて来た人が心配になって見にきてくれて、一緒に聞いてみましたが、その人も何かが違うと感じているようでした。兄は同じような音にならないのは仕方がないと言うばかりでした。


 そこへ弟のほうがやってきて、作業場のほうへ案内してくれ、詳しく見てくれました。しかし、どうしてもその場の誰も直せないところがあって、元に戻せなくなってしまいました。からころさんは泣いていいのか怒っていいのか、つらくてつらくて、しょんぼり固まってしまいましたが、年老いた店長さんがやってきて、何日もかけて何とか直してくれました。





 そうしてまたオルゴールを鳴らしながら歩き始めてどれくらいが経ったのか、歩いているからころさんを訪ねてきた人が居ました。真っ白な髪の上品なおばあさんの車椅子を押しながらよろよろと歩いてくるおばあさんでした。歩いてきたほうは、車椅子に乗っているおばあさんの娘のようです。かがんだり出来ないので、からころさんはそばに居た人に拾い上げてもらいました。


 車椅子のおばあさんの膝の上でオルゴールを鳴らすと、おばあさんは二人とも目に涙を浮かべて、うっとりと聞き入りました。


「『まさか、もう一度あの家の思い出に出会えるなんて、夢みたい』ですって。」車椅子のおばあさんの口に耳を寄せた後、おばあさんが言いました。車椅子のおばあさんは、ゆっくりした動きで、からころさんを撫でました。


「ししゅりーだー」


 からころさんが言うと、車椅子のおばあさんはぽろぽろ泣き出してしまいました。






 シシュリーはあの夜から、お姉ちゃんとともに見知らぬ小さなアパートに閉じ込められて暮らしました。世話する係は二人と年が近く親しかったメイド一人。アクセサリーや衣服など持ち物の多くは売り払われました。服は質素でぱさぱさしたものに変えられ、売れ残りや出荷できない野菜を貰って何とか作った素朴な料理を食べる毎日。


 数日は野外学校気分でしたが十四、五の女の子には耐え難いものだったでしょう。しかし、あの屋敷の者だと分かれば殺されてしまうのですから、メイドや、すぐに事情が飲み込めたお姉ちゃんは必死にシシュリーをなだめたり、気をそらすような遊びを考えたりしました。

 数年後にやっと一室から解放されたシシュリーは、新聞で家族がどうなったかを知りました。そして、逃げ切れずに捕まってから大人になり、同様の処遇を受けた家族の男性と無理やり結ばれ、彼とともに家庭を築いて耐え忍びました。


 六十歳を越えて数年、やっと解放されたシシュリーは、今まで縁のない、全くの新天地でつつましく暮らしてきました。そして、先日、旅行で立ち寄った国で、『隣の国の、尋ね人を探し続けるもにゅ』の記事を目にしたのでした。


 それから、シシュリーとその夫は町に引っ越してきて、からころさんを『飼い主』から引き取りました。『飼い主』は時計屋にいたひとりで、シシュリーの養子になりました。一家は、つつましく、でもとても楽しい毎日を過ごしています。はじめは、聴くとかなしくなるからと言っていたシシュリーも、町の人と話すうちに、からころさんがオルゴールを鳴らして歩くのを見守るようになりました。きっと、シシュリーが懐かしい家族の下へ旅立つか、自身が波動に還るまで、からころさんはずっとオルゴールを鳴らし続けるのです。






 同じ曲の新しいオルゴールを、直してくれた時計屋さんの工房で作るようになり、町じゅうで様々な音色で曲を聴く事が出来ます。あちこちで耳にした理由を知る事が出来たほにゅは、しばらく町に滞在し、その音色をじっくりと味わうのでした。

からころさんという名前とオルゴールを持って歩いていること、お屋敷がひどいことになって元の飼い主家族がバラバラになるというのだけ浮かんだところから、どうしてだろう?と気になって生まれた話です。

何か元になる話がありそうな気がするくらいありがちな話のような気もしますが、思い浮かばないのでどこから出てきた発想なのか今も分からないままです。

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