第四判『変化急』
第四判『変化急』
この物語にも恋愛要素は必要なのだろうか?
俺は心理からの頼みを受けるかどうかちょっと待って欲しいといった。
報酬においては500万。申し分のない金額だ。
ただ当然のことだが《生きていないと意味がない》
リスクが高い、というのが正直な感想だった。
有無家を恐怖しているのではない。確かに有無家は、厄介ではある。ただ俺からしてみればその程度のことでしかない。
鏡屋許容本人が恐ろしいのだ。
類義を殺す鏡屋一家の次女。異名は『他人不信』
やつは有無家を超える力を持つ。類義は対義を超える。
俺は迷っていた。
心理とその後1時間ほど飲み、俺は家に帰ることにした。
時間は既に10時を過ぎ、辺りは電灯の光だけになっていた。
電灯の光は、雪が降り積もった地面に反射し、雪の白をより一層引き立たせていた。
周りは無機質なコンクリートの塀と雪よりも冷たそうな鉄柵。単色の家だけである。
生きているものは俺だけ。
呼吸を出すたびに現れる白い息がそういうことを証明してくれた。
空は曇っていて、星も見えず月の影すらもない。風はない。
まさに無感情な無音の無風景。
実に、面白くない。というか面白いという言葉も出てこない。
質素ではなく無機質。
動くものも一切ない。
そんなところを俺はただ一人、前を向き歩いている。
なにもしていない。一定の歩幅で、無駄なことを一切せず歩いている。
「『人の世は、無機質よりも無意味なり 心もなければまた無意味なり』」
そんなことをペラペラと呟く。実に寂しいそれこそ無意味なおしゃべりだった。
「おーい!!××さ~ん!!」
そんな声が聞こえ、無感情な無音の無風景は、一発で崩れ去った。
こちらにやってくる人影。その人影とさっきの声から俺は一瞬にして悟った。
トタトタと歩いてくる女。いや、まだ女の子と言ったほうがふさわしい姿。それはまさに『無残』という異名をそのうち持つことになる『水無月 刹那』だった。
「おっひさ~です!!」
そう言い、電灯の下で止まる。
綺麗なロングの茶髪に、人の心を射抜くような赤い眼。一般女性よりも高めの身長。
男っぽい革のジャケット。
俺と同じ、何でも屋というか依頼をもらうと即行使する実行者。
他のやつらは俺たちのような者を行使者という。
そのなかでも有名な者の一人がこいつ刹那である。
ちなみにだがさっきまで飲んでいた男、裁島心理は裁判官である。
こっちの世界でも行使者としてではなく個人的な感情で人を殺すものがいる。
そういう奴やあちら側の世界つまりは一般の世界から逃げてきた者達を断罪するのが裁判官である。
そのため、行使者と裁判官は対立しがちなところがある。
とはいえ、どちらも手出ししたところで意味のない戦いになるため挑むやつなんていない。
話が逸れてしまった。というか現状説明から派生してしまった。
「××さん!!元気にしてましたか?」
そう俺は聞かれる。屈託のない笑顔を前に。
「ああ、元気にしてたぞ。・・・・お前は・・・聞くまでもないか。お前の噂はよく聞いてるよ」
そう言うと、刹那は照れくさそうな顔をして頭をかく。
「えっへへ~、もう××さんのところまで噂が来てましたか~」
「ああ、随分と頑張っているようじゃないか」
「まあ、それなりに頑張って、それなりに充実した生活を送っています」
「そうか」
正直言うと、俺はこのセリフにすこし驚いた。
多分、もうコイツは百人以上人を殺しているはずだ。
それなのに、なんとでもないようにニコニコしながらそんなことを言っている。
「あ、そういえば!!奥さん。お元気ですか?」
と、ニコニコしながら聞いてくる。
「ああ、元気だ。今日も依頼を受けていたよ」
「にしてもいいですよね~。あんな綺麗な奥さんを持てるなんて!!私もあんな人を持ちたいです」
「いや、お前は女なんだから目指せよ?」
「はい~・・・まあ無理でしょうけどね!!・・・って帰りの途中だったんですよね?すいません止めてしまって」
そういうとぺこりと謝ってくる。
「いや、別に構わんさ。じゃあ、頑張れよ」
そういうと、刹那は顔を上げ、
「ハイッ!!」
と言った。
「ではまた!!」
と、続け、暗闇に消えていった。
「早く帰るか」
俺は、『久遠』の待つ自宅に向かった。
ヒトハイキガイナクシテイキテハイケナイ。