第三判『ヘイノソト』
殺す事は相手の命を奪うということである。
居酒屋は、いつも通り賑わっていた。店内には酒の匂いと、真っ赤な顔をした大人たちがたくさんいた。
その店内の隅の方に一際異彩を放つ人間がいた。
漫画とかで言う殺気だとか何らかの雰囲気とかそういうものではなく、普通に異彩だった。
赤のスーツに黒のYシャツ、赤のネクタイに黒い革靴。
そして、紺色の髪。
正直言って、こちらの身にもなってほしいものである。
なんか、ずっと見ていたら、ほかの客から距離を置かれているような気がしてきてしまった。
話しかけづらい。そして話しかけた瞬間、客がどう反応するのか怖い。
そんなことを頭の中で考えていると、
「お~、××久しぶり~」
と心理の方から声をかけてきた。
俺は、一瞬ヒヤリとした・・・・
しかし・・・客は、声が喧騒に巻き込まれたからか何も反応がなかった。
なぜか少し残念な気がした。
俺は心理の隣の席に座る。
そうすると、心理が店員を呼ぶ。
「ご注文は?」
と、店員は丁寧に注文を聞いてくる。
「ほら、注文しろ。俺が今日はおごってやる」
と、心理はニヤリと笑いながら言ってくる。
それじゃと俺は、
「じゃあ・・・牛すじと、マグロカツ。お酒は・・・・」
とメニューを言う。
店員は注文品をメモし終わると
「かしこまりました。少々お待ちください」
と言い、去っていく。
「で、なんのようだ心理」
俺は、心理の顔を見ながら質問をする。
そうすると、心理はニヤリと笑う。
「んあ?・・・・なんでお前に用があることがわかったんだ?」
と質問してくる。
「当然だ。お前が俺を呼ぶときは絶対に何かあるからな。来る前から察してたよ」
「フフン。流石だな。・・・・・実はだな」
そこで、店員が来る。そして、注文品を置いていく。
「実はだな・・・《有無家》に婿入りする奴がいるらしい」
「それはまた不幸だな。いや最悪だな・・・・で名前はなんていうんだ?」
「許容・・・・鏡屋許容」
「・・・・暗夜か拒絶か?」
「拒絶の方だ」
有無家とは表では有名な殺人鬼。裏では有名な殺し屋と言われている一族である
有無 暗夜《崩壊の暗闇》
有無 拒絶《終着の漆黒》
有無 原罪《狂乱の晩霞》
「にしても拒絶と許容。なんだか出来過ぎな気がするな」
「ん?・・・・ああ対義だってか?」
そう言って、心理は牛すじを食べる。
「まあ、拒絶と許容は対義じゃないんだけど」
「ん、そうなのか~にしてもうめーな牛すじ」
「だが、対義殺しの家と類義殺しの家か。これは、最悪の《殺し家》が生まれるんじゃないか?」
「ハハッ確かにな。それに、あの六兄妹ももういい年だろ?」
「ああ、確か18だったか?」
「これは、俺の息子に断罪させる以外ないだろうなあ」
そう呟くと、心理の顔が少し緩む。
「そういや、椎弓君元気か?」
「ああ、元気だ着々と力をつけてきているよ」
「そろそろお前も現役引退か?」
「フン、馬鹿なまだ40だぞ?」
「俺から見たらあんたおじさんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「おいリアルにへこむなよ・・・・」
「ああ・・・でだ、お前に頼みがある」
「なんだ?」
「鏡屋許容を殺して欲しい」