06.私の恋を知ってください:復
拝啓。
ミユキ君、君という人は本当に減らず口ばかり叩く子だね。いや、ここは手紙だから、減らず筆、とでも言うべきだろうか。
君、よく第一印象と内面のギャップがあると言われないかい? そうでなければ、相当な猫かぶりだ。本当に、見事なものだよ。
おや。失礼、少々口が……いや、筆が過ぎたようだね。気を悪くしたら申し訳ない。
君が私のような意固地なオジサンのどこを可愛いと思っているのか、そしてそんな人間に対していったいどんな楽しみを見出しているのか、全く理解に苦しむ。だが、私も私で君には楽しませてもらっているから別にかまわないだろう。お互い様だ。
君と手紙を通じて話していると、こう、まるで手におえない仔猫を可愛がっているかのような、じゃれあっているかのような……おっと、これも失言だったろうか。
結局、私たちの本質は大して変わらない。そういうことでひとつ、手を打とうじゃないか。
いやいや、ゾウリムシというものはなかなかに興味深いところがあるよ。柊教授も、なかなかいいところに目をつけたものだ。称賛に値するね。
知っているかい、君。ゾウリムシというのは一見平べったく見えるが、実は楕円形なんだよ。びっくりだろう? それから単細胞生物にしては移動力が大きいというのも特徴だ。というのも、身体の表面が繊毛で覆われているからでね……。
……おっと。すまない、つい熱が入ってしまった。
私は一体何を語ってしまっているのだろうね。こんなんだから周りから変人だの何だのと、陰でどころか表沙汰に堂々と言われてしまっているのかもしれん。
しかし、君の手紙に書かれている彼の人物像を想像してみるたびに、私の目には柊教授という人がとても魅力的に映るよ。独り者同士、共に芋焼酎でも口にしたいものだ。
私は寂しい独身だよ。もういい年だから、今更相手も見つからないだろうと諦めているところさ。
それに、どうも私のようなレベルの変人になると、どれだけ変わった女性であろうともほとんど誰も寄っては来ないらしいんだ。哀しいことにね。
というか、私と波長が合う女性は、たいがいが恋人というより友人関係のまま終わることが多い。これまでに何人かそういう女性はいたが、ちっとも恋愛関係には発展しなかった。私が仕事にしか興味を示していないからなのか、それとも単に私が意気地なしだからなのか……原因は、分からない。
しかし、君もかなりの変わり者だと思うがね。こんなよくわからないような人間と、何のためらいもなく文通を交わしているのだから。
今や何もなくなってしまった私には、ただ君の手紙だけが心の慰めなのかもしれないな。
……ふむふむ、なるほど。君もなかなか、辛い恋をしたのだな。
きっとその子は、他人の気持ちをしっかりと考えてあげられるような子だったのだろう。だからこそ――彼女がその彼を好きだったという、君の仮定が正しければ、の話だが――自分の気持ちを抑え込んででも、君の願いをかなえてあげたかった。君の喜ぶ顔が、見たかったんだ。
恋は一個人の性格をも、簡単にガラリと変える。もともと優しく思いやりのあるはずだった君が、他人の気持ちに誰よりも敏感だった君が、そんなことなど煩わしいと、考えたくないと思ってしまうほどに。それほどに、恋は自分の気持ちというものを、先へ先へと走らせていくものだ。制御などきくものではない。
だから……自分を卑怯だなどと、汚いなどと、そんな言葉を簡単に口にするべきではないよ。
それは、誰もがたどる道だから。
もしかしたら彼女も、そういう気持ちを抱いていたかもしれないのだから。
ところで君は、結局……その彼と仲良くなれたのかい? 彼女の協力を得て、少しは近づくことができたのかい?
できれば、その続きを教えてほしいのだが。
……いや、答えたくないのならば、無理にとは言わないよ。私も自分が野暮なことを尋ねているということは、重々承知しているから。
語りたい時に、語ってくれていい。それは他でもない、君が願ったことだから。どれだけ私の好奇心がわきあがろうとも、私もいい大人だし、その辺の分別はわきまえているつもりだ。
決して、無理強いはすまいよ。
自他ともに認める変人が書いたこの支離滅裂極まりない手紙などででも、君の傷がわずかばかりでも和らいでくれれば……そう、祈っている。
敬具。
五月二十六日 自他共に認める変人・イオリ
可愛い仔猫・ミユキ様
この回を書くにあたって、ゾウリムシについてわざわざ調べてきたのですが…画像が死ぬほど気持ち悪くてねorz
しかもパソの大画面でそれが出るから、やばいのなんのって←
確か中学か高校の時に顕微鏡で見たような記憶もありますが、如何せん記憶が曖昧です。ミドリムシとか、いろいろ微生物を見たので。
そういえば余談ですが、顕微鏡見るときにまつ毛が上下でフサフサするせいで視界が半分ぐらいに狭まって、すごく邪魔だったなーという思い出があります。
まぁ、どうでもいいですが。