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街を巡る手紙  作者:
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04.私の願いを叶えて:復

 拝啓。

 君が思ったよりいい子だったことに、私は安心したよ。正直、私自身も無謀なことをしたと多少後悔していたのだが……君ならば、私の個人情報をむやみに暴露したりはしないだろう。先の手紙に書かれていたことも、きっとすべて本当のことなのだろうと解釈している。

 嘘をつけないということは、正直だということだ。正直であることは、とてもいい子であるという証だよ。繰り返すまでもなく、君はいい子だ。これを機にきっちり憶えておくといい。


 君の言うことももっともだね。

 しかし勘違いしないでほしいのだが、そんなくだらない調査じみたことをしながらも、私はちゃんと自分の仕事をこなしているつもりだ。周りから変人とか何だとか散々なことを言われながらも今まで首にならずにやってこれたのは、やるべきこともきちんとやっているから。自分の仕事と趣味・嗜好をうまく両立させることができてこそ、大人というものだよ。

 しかし君の言うとおり、男というものはいつまで経っても子供であるものだ。好奇心も、可愛らしさも……そういった子供らしいものの全てを、いい大人になった今でも勿体なくて捨てられずにいる。

 だから何が言いたいのかというとだね、私が可愛いという君の見解は正しくない。それならば男という生き物すべてを可愛いと言うべきだと、その方が正式だと、そういうことなのだよ。

 言っておくが、別に意地を張っているわけではないので、誤解しないでいただきたい。


 君の大学の柊教授という人、それはぜひ会ってみたいものだ。彼についてのさまざまな話を、ぜひ聞いてみたい。

 私が勤めている場所には、話が合う人がなかなかいなくてね。意外に皆、それなりの常識を持っているようで……仕事をしている間は別にそうでもないのだけれど、独りになると近頃少し、寂しいと思ってしまうんだ。

 仕事のあとに一人で真っ直ぐ家へ帰っては、マンションのベランダに出て夜空を見上げながら、一人寂しく晩酌を楽しむ毎日。飲み会だの何だのに呼ばれることは滅多にないから、必然的に一人でいる時間が多くなるんだよ。友達と言える人間も、そんなにいないしね。

 寂しい男と、笑うのならばぜひとも笑っておくれ。


 君の言うとおり、確かに恋は甘いだけじゃない。恋には甘さや楽しさ、嬉しさといったプラスの感情だけじゃない。痛みや苦しみなどといったマイナス感情も、全てをひっくるめたものを恋と呼ぶのだ。自らの醜くどす黒い感情と、向き合わざるを得なくなる。それは私も、何度か経験があるよ。

 そういう思いや経験を繰り返して、我々は大人になっていくものだ。これがただ一度というわけじゃないし、最後というわけでもない。君は始まりに立ったんだ。ただそれだけのことに過ぎない。だからそんなに悲観したり、自分を責めたりするようなことはないのではないかと思うよ。

 かくいう私も、過去に恋愛面で大きな失敗を犯したことがある。そのことについては、君が望むならばいずれ話をしよう。

 とりあえず今は、君の気持ちの整理とやらが付くまで、じっくり時間をかけて考えていくべきだ。気の利いた返事はできないだろうが、私でよければいくらでも話を聞こうじゃないか。長い人生としてみれば、私は一応君の先輩にあたるからね。


 それから、最後に。

 私は君にとって、一応は単なる文通相手にすぎない。だから、全く敬意など払ってくれなくて構わないよ。目上の人間、というよりは、単なる暇つぶしの相手としてでも考えてくれればそれでいいんだ。余計なことは考えないで、敬意を払うのは君の大学の教授や、大学の先輩たちだけにしなさい。

 でもまぁ……好きなように呼んでくれ、と言ったから、君がそれでいいと言うなら構わない。女性からイオリさん、と下の名前で呼ばれるのは、少し照れくさいところもあるけれど。

 くだらないことでもいいというのならば、私もどんどん自分の話をしよう。君が知りたいことなら、いくらでも教えよう。


 その代わりといってはなんだが、私からもお願いがある。

 この手紙を通して、どうかプライベートを寂しく過ごす中年男の、心の慰みに付き合っていただきたい。君が飽きたら、いつでも切ってくれて構わない。だが、それまでは……。

 なにとぞ、ご検討を。

 敬具。


 五月十五日 寂しい男・イオリ

 我が人生の後輩・ミユキ様

二往復目にして、何か全体的に文面がいちゃつき始めた感満載になってきましたが…まぁ、いいか←

男女の戯れ的なものを凛が書くと、何故か無意識にいちゃついてしまう傾向になるようですね(苦笑)

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