03.私の願いを叶えて:往
拝啓。
程なくしてお手紙が返ってきたことに、とても驚きました。最初ほどの驚きはなかったものの、なんだか私はあなたに驚かされてばかりですね。
しかし……住所を悪用されるかもしれないと心配しなければいけないのはわかっていたことでしょうに、よくこのようなことをやってのけたものですね。そのお心の強さに感服しました。
ですが、私は見ず知らずの人をおとしめるような、意味のない行為は絶対にしません。良い子かどうかは分かりませんが、確かにあなたのおっしゃるとおり、私は嘘をつけない人間です。
どうかご安心下さい。
あなたが突如として私を驚かせるような行動をしたのは、私と同じモノを――好奇心を持っていたから。そう分かった時、私は少し笑ってしまいました。
私より幾分も年上で利己的だと思われるあなたが、まさか私と同じく、子供じみたモノを持っていただなんて。
『運命』を信じていないくせに、その存在について熱心に調べたことといい……お仕事はいったいどうされたというのですか。若人にモノを教える仕事をなさっているのではないのですか。そんなことでは、私たちのお手本にはなれませんよ。
しかしあなたは、ご自分を理屈っぽい人間だとか『変人』だとかおっしゃいますけど、私はそんな風には思いません。むしろあなたを、とてもかわいらしいと思いました。男の人はいくつになっても子どもだと誰かが言っていましたが、その言葉にとても納得してしまったくらいです。
あ、どうかご機嫌を損ねることのありませんように。まぁ、大の大人が拗ねているというのも、なかなかかわいらしいところじゃないかと思いますがね。
そういえば、あなたに似た人を、私は知っています。私の通っている大学の、柊教授という人です。年の頃も、あなたとさほど変わらないぐらいじゃないかと思います(私の予想が正しければ、の話ですが)。性格もあなたと同じくらい変わった方ですから、趣味や好みなどにも似たところがあるかもしれません。
もしお会いしたら、いいお友達になれるかもしれませんよ。
ところで……私が運命を信じていないのは、ただ単にひねくれた性格だからというわけではありません。先の手紙にも少し書きましたが、恋というものは甘いだけじゃないんです。痛みも苦しみも悲しみも、全部ひっくるめて恋なんです。自分の心の中の、みにくくて汚い部分と無理やりにでも向き合わざるを得なくなる……それが、恋なんです。
そういうことを、私は知ってしまったから。
お恥ずかしい話ですが、私はこの年になるまで一度も恋をしたことがなかったんです。恋に恋する、といいますか……甘い部分にだけあこがれを抱き、痛みや苦しみやみにくさを全く知らなかったんです。
そんな私が、大学に入ってようやく見つけた本気の恋。
残念ながら、ハッピーエンドではありませんでした。初恋はかなわないものだと言いますから、当然なのかもしれません。
ようやく、運命の出会いと呼べるものをつかんだと思ったのに……人生、そう甘くはないんですよね。今回のことで、学びました。
今はまだ、あまり心の整理がついていません。次の恋を見つけられるのは、きっと、もっと先だと思います。
だから、図々しいことだとは分かっているのですが、あなたにお願いしたいことがあります。
私には、この想いを打ち明けられる相手が他にいないのです。だから……私の気が済むまで、私の話を聞いてはくれませんか。
きっと、いろいろな思い出話をしてしまうと思います。支離滅裂になってしまうと思います。それでも……見放さず、聞いてくれませんか。
ただの好奇心でも構いません。気の利いたコメントをして欲しいとも言いません。ただ、聞いてくださるだけでいいんです。
どうか、お願いします。
それから……ずうずうしいことを言うようですが、せっかくこうして文通をすることができるのですから、できればあなたのお話も聞かせていただきたいな、とも思っています。
単にあなたに対して興味がある、という理由もありますが……私ばかりが自分の話をして、それをあなたが読むだけという手紙というのは、何だか味気ないような気がして。
話したくなければそれはそれで全然かまいませんし、気の向いた時に、話したいこと――その日の出来事でも、他愛もないような話でも……なんでも、この手紙に書きつづってくだされば嬉しく思います。
それでは。
なんだか私の願望ばかりになってしまいましたが、どうかひとつだけでも私の願いを叶えてくださいますよう、よろしくお願いします。
かしこ。
五月十一日 枯れた女子・ミユキ
イオリさんへ、敬意を込めて
追伸。
あなたのことは、『イオリさん』と呼ばせてもらうことにします。
まかり間違っても『クソ虫』なんて絶対に呼びませんよ。勝手に人を悪女にしないで下さい。
私も一応、目上の方には敬意を払うことにしているんです。それぐらいの常識は持ち合わせているつもりですからね。
載せるとき、危うく追伸を忘れそうになりました(←馬鹿め)
ふぅ…危ない危ない。
ところで何か…アレですね。自分で書いておいてなんですが、すごく図々しいですね、この手紙。こんな強引な性格だったかな、彼女…。
…まぁ、それは別にいいや。(いいのかよ)
今回のタイトルは、カリフォルニアポピー(危うくカルフォルニアと書いて投稿しそうになりました。カルフォルニアって何やねん←)の花言葉。
カリフォルニアポピーとは、ケシ科ハナビシソウ属の耐寒性一年草であるハナビシソウの別名。アメリカ合衆国西部に分布していますが、日本に来たのは明治時代だと言われています。
花の色は濃い黄色が主ですが、他にも淡い黄色やオレンジ色、朱色、サーモンピンクなどもあるそうです。中には八重咲きという花弁がかなり多いものもあるのだとか。あらら、結構多彩なんですね。
カリフォルニアポピーという名はおそらくそのままの意味だと思われますが、ハナビシソウという名前は家紋の一種である『花菱』に形が似ていたからだということです。
ちなみに学名である『エッショルチア・カリフォルニカ』はロシア系ドイツ人のお医者様の名前が由来なんですが、ロシア語を無理やりドイツ綴りにしたために素晴らしく読みにくいことになってしまったらしいです。あらら。