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街を巡る手紙  作者:
21/29

20.私の運命はあなたの手に:復

 拝啓。

 無自覚天然タラシ、とはまた、君もなかなか秀逸なことを言うではないか。ふむ、私はそういうつもりはないのだが……とまぁ、こういうところが君にそんな風に言われてしまう原因なのかな。

 君の赤くなった顔を想像するのは楽しいよ。どんどん、私の言うことに顔を赤らめてくれたまえ。


 自覚しているというか、人にそう言われているから自分もそう思わざるを得ない、といった方が正しいね。それでも、周りの評判に気付かないほど鈍感な人間よりはまだマシだろうか。そう、信じたいものだ。

 私も生徒なら、熟女の講義をぜひとも聞いてみたい。多分、どこのスーパーが安売りをよくしているだとか、値切る際のポイントだとか、教えてくれるのはそういった実務的なことばかりのような気もするけれど。

 私でよければ、いくらでも教鞭をとって構わないが……私の授業は、大体八割が無駄話で構成されているよ。そんなものでよければ、いつでも授業をしてあげよう。まぁ、そんな無駄話で構成された講義は、柊教授の講義を聞いてすでに慣れているかもしれないね。

 神経が図太いということは、裏を返せば思いやりがないともいえる。君に図太い神経がないということは、つまり君は思いやりのあるいい子だということだろう。

 安心したまえ、私には君がそういう人間になれると到底思えないから。

 ギブアンドテイクの世の中は、人間が生み出された瞬間から始まっているのだろう。自分というものができて、他人というものが現れた時点で、私たち人間はそうしなければならないという宿命を背負っているのだ。

 だが近頃は、それをできない人間も多くてね……他人の意見を尊重してこそ、自分の意見を言える。みんなが、そういう君のような考え方を持ってくれると嬉しいのだが。

 かくいう私も、気を付けていかないといけないのだね。――そう、いつか互いに完全に心を開くことができるように。私も君に対して、これからも素直に接することにしよう。

 ふむ……君にとっての私とは、そういう人間なのだね。わかったよ。否定しないで、きちんと受け止めようではないか。君の言う『ギャップ』を感じずにはいられないけれど……それも確かに、私なのだ。

 あきらめないで、という君の言葉に、私は何度背中を押されてきたことだろう。生きることに疲れた時でも、そう言ってくれる人がいれば私はどれだけでも頑張ることができる気がする。

 大丈夫だ。私も、ちゃんと約束を果たせるように努力しよう。


 運命とは、実にややこしいものだね。自分の一挙一動が、すでに定められていることのように一度思ってしまうと、慎重にならざるを得ない。

 君が目の前のこと――私と柊教授に関してのことに悩み、それとまっすぐに向き合う。きっとそれも、一つの運命だ。

 君が覚悟を決めたというなら、私も橋渡しをさせてもらうことにする。

 おそらく、同内容のことを柊教授からも聞かされるのではないかと思うが……念のため、だ。

 詳細は、この手紙の一番最後を見てくれ。


 まったく、君の言うことはいつも的を射ている。彼女のことを広い視野を持って見ることで、今まで知らなかったことが見えてくる。恋は盲目、とは本当によくいったものだ。

 君が罪悪を感じることはない。私が、彼女の気持ちとまっすぐに向き合うのが怖かっただけ。君はむしろ、そんな私に喝を入れてくれたんだ。

 彼女から招待状を受け取った時。彼女の声を、電話越しに聞いた時。そうすることにはずいぶん勇気がいったけれど、今ではそうしてよかったと心から思う。君も、同じように喜んでくれたみたいで嬉しいよ。

 数年で互いに成長できた……君は、私の手紙を読んでそんな風に思ってくれたんだね。それほど、私と彼女のことを案じてくれていたんだね。

 約束の日は、今日。この手紙を書いているのは夜中だから、式が始まるまでにはもう残すところ数時間程度しかない。

 君が感じてくれた喜びも、一緒に彼女に届けよう。ありったけの気持ちを込めて、彼女に祝福の言葉を贈ろう。

 彼女のウエディングドレス姿を、この目に刻んでくるよ。近く、その時の写真を君に見せることになるかもしれない。その時はどうか、心の底から祝福を与えてやってくれたまえ。

 きっとこれが、私たちの新たなスタートになるだろう。


 君が顔を赤らめながらこの手紙を書いたんだなぁ……と思うと、思わず読みながら頬が綻んでしまう。失敬だとは思いながら、私もまた君のことを可愛らしいと思わずにはいられない。

 君が、私を可愛いと思っているよりも、ずっと。

 君が私の失態を忘れないというなら、私もまた、君の照れた顔を決して忘れはしないつもりだ。まぁ、実際に見たわけではないのだけれど。

 二人の姿を、純粋な憧れとして見ることができるようになったのだね。この文通を始めたころは、君にそういう日が訪れるのはもっと、ずっと先のことだと思っていたのに……それほどに短時間で、君は精神的に大きく立派になったんだよ。

 先ほど、初めのころの手紙からずっと読み直していたんだが……日付を見て、驚いたよ。君から一番初めに手紙が来た日から、まだ三か月ほどしかたっていないんだね。

 私も、この手紙を書きつづった日々を色鮮やかに思い出すことができる。自分自身と見つめ合い、君のことを考えた……そんな日々は、私にとっても非常に色鮮やかな出来事として記憶に刻まれている。

 君は成長した。本当に、たくましくなったよ。

 私自身も、君と同じように少しは成長することができただろうか。

 ……いや、きっとできているはずだ。私もあのころから比べたらずっと、精神的に大きくなった。

 そう、信じたいと思う。


 日曜日は彼女と、そのご友人とのお出かけ……か。なるほど、それはいいことじゃないか。日頃の疲れやストレス発散のためにも、思う存分楽しんでくるといい。いい機会だから、彼女のご友人のお話もじっくり聞いてくるといいよ。それもきっと、君にとっての糧になるから。

 私は私で、結婚式を楽しんで来ようと思う。互いに、いい思い出を作ることができるといいね。

 敬具。


 八月十六日 夏を楽しみたいイオリ

 夏を楽しむ若人・ミユキ様


 追伸。

 八月二十一日、朝十時。

 柊教授の研究室へ、時間厳守で来てくれたまえ。

 そこで、すべての答えを出そう。

…さぁ、何とも明け透けな振りを残して今回は終わりましたが。

こうすることが、二人にとっての新たなスタートみたいな感じですね。まぁ、頑張れって感じです(←お前誰だ)


そんなこんなで次回は、満を持して登場の最終話。

さて…この手紙のみで構成されたグダグダ物語は、どのように終結するのでしょうか。

括目して見よっ!(笑)

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