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街を巡る手紙  作者:
2/29

01.運命を開く:往

 拝啓。

 初めまして……という書き出しでよいのでしょうか。

 このように見ず知らずの者からある日突然手紙を差し出され、さぞ驚かれたことでしょう。お気持ちお察しいたします。

 しかし私の方も、あなたに負けず劣らずの驚きを感じたのですよ。これからその状況を少し書きますので、どうか私の気持ちをお察しいただければ幸いです。


 それは、湿り気を帯びてきた生温い風を身に受けながら、誰もいない砂浜で一人海を見ていた時のことでした。

 私の足元に、何かがこつんと当たりました。見下ろしてみれば、私の立っていたすぐ側に古く小さなビンが流れ着き、ゆらゆらと波に漂っていたところでした。すすけてはいたものの、もとは透明であったのでしょうね。丸まった紙のようなものが入っているのが見えました。

 私は不思議に思いながらも、コルクで詮のされたそれを開けてみました。中に入っている紙には何が書かれているのか、とても気になったからです。

 取り出した紙には、ある家(おそらくあなたの家でしょう)の住所とともに、一行の文章が書かれていました。

 その文章がどんなものであったかについては、省略します。書いた本人であるはずのあなたにならば、書かずともきっとお分かりのはずでしょうから。

 とにかくそのとき、私は自分の目を疑いました。こんなの、まるでドラマのようじゃないか……と、そう思いました。

 そして同時に、名前も性別も分からないはずのあなたが、このビンを海へ流す光景が思い浮かんだのです。

 それで……その後すぐにビンと紙を持って帰り、こうして現在あなたに手紙をしたためている次第です。


 これも運命の出逢いだと、人はこぞって言うのでしょうか。これからきっとドラマチックでステキな物語が幕を開けるのだわ、などと呟きながら、まだ見ぬ誰かを思い、恋する乙女のようにうっとりと目を細めるのでしょうか。

 私もきっと、同じ風に考えていたことでしょう。

 今もまだ、何も知ることのないまま、純情な乙女でいられたのであれば。

 ですが、あいにく今の私は、そんな風には思っていません。

 恋というものが突きつける痛みを、苦しみを、自分の汚さを、知ってしまった今となっては――運命なんて、信じる気にもなれません。

 もしもあなたが『運命』なんて子どもじみた言葉を信じていらっしゃるのなら、それは申し訳ないことです。

 ですが、この気持ちを変える気は当分ないと思います。申し訳ありませんが、この点に関してだけは先に断りを入れておきますね。


 では何故今、私があなたに手紙を書いているのか。

 きっと、私の中の無邪気な好奇心が、私にこのようなことをさせているのだと思います。

 この住所に手紙を書けば、ビンを流した人間に間違いなくちゃんと届くのだろうか。万が一でも、私のところに返事が届く可能性はあるのだろうか。

 けっして、運命なんてくだらない言葉に惑わされたわけではありません。

 だけど、ちょっとだけ試してみたくなったのです。

 もう子どもではないけれど。そんなことは、痛いほど分かっていることだけれど。それでも……それでも、私の中にまだ少し残っていた、純粋な好奇心というものが、今の私を突き動かしているのです。


 さて。

 ここまで書いたところで一度ペンを置こうとしたのですが、そう言えば私に関する情報を少しも書いていなかったことを思い出しました。

 これはいけません。少しぐらい自己紹介をしておかなくては。今のままでは、私がひどく怪しい人間のようにしか思えないでしょうからね。

 まぁ、私にとってはあなたの方も、十分怪しい人間に値すると思われますが……そんな見ず知らずの怪しさ満点の人間にこうやって手紙を書いている私も、はたから見れば十分怪しい人間に値するのかもしれません。


 まぁ、それはともかく自己紹介をいたしましょう。

 私はとある大学に通う、成人を迎えたばかりの女です。女盛りじゃないかと周りには言われますが、心はとっくに枯れているだろうという妙な自信を持っております。

 性格は(自分で言うのもなんですが)とても引っ込み思案で人見知りが激しく、初対面の人と話をするのはとても緊張してしまいます。こんな風に相手の顔を見ずに言いたいことを何でも言える手紙やメール、電話などではずいぶん多弁なのですが。

 フルネームは明かしたくないので(現にあなたの名前もまだわからないことですし)、『ミユキ』と呼んでいただければ嬉しく思います。


 では、自己紹介もすんだところで……ここまで長々と書いてきましたが、そろそろこのあたりで失礼させていただこうと思います。

 この手紙が無事、あなたのところまで届いてくれると信じて。

 かしこ。


 五月三日 女子大生・ミユキ 

 名も知らぬあなたへ

普通の手紙風にするために色々と編集をしたかったのですが、駄目でした…。

普通の手紙と違う感じになってしまっていますが、お許しを。

ちなみにもうお分かりだと思いますが、次回は同タイトルに『復』がつきます。


今回の題名は、プリムラ・ジュリアンの花言葉。

プリムラ・ジュリアンとはサクラソウ科の花『プリムラ』の一種で、プリムラ・ポリアンサとプリムラ・ジュリエという二つの品種を掛け合わせた交配種です。

もともとプリムラは品種改良されたものが多いそうで、『プリムラ』という言葉自体が品種改良された交配種をまとめて指している、という場合も多いそうです。

まぁ、ポ●モンでいうところのイー●イみたいなものですね(←こら)

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