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街を巡る手紙  作者:
11/29

10.尊敬と信頼:復

 拝啓。

 まずは、返事が遅れてしまったことをお詫びしようと思う。

 ここのところ仕事が立て込んでいてね。まともにアパートへ帰ることのできない日々が続いていたんだ。

 本当に申し訳ない。決して忘れていたわけではないので、どうかこの件で私を見放さないでくれたまえ。


 なかなか嬉しいことを言ってくれるね。まぁ、多分互いに姿が見えないということが一番大きいのかもしれないけれど……。

 君の独りよがりな気持ちなんかじゃないよ。私も、君にはそれなりの信頼を寄せている。周りにいる他の人間とは違って、君とは本音で話ができるような気がするからね。

 しかし、その友人のせいで眠っていた君の性癖(?)が完全に開発されたようだね……。やっぱり、心配になるよ。何だろうね、まるで父親のような気分だ。実際に子供がいたことなどないのだけれど。

 若い子が好きって……君ね、その言い方だとまるで私がロリータ・コンプレックスの気を持っているようじゃないか。誤解を招いてはいけないと思って付け加えるが、私はそんな気などないからね。たまたまだからね。

 でもまぁ、確かに子供ができたら溺愛はしそうだ。過保護な父親になってしまいそうな気がするので、気を付けなければならないとは思う。


 年代も性別も違うのに、私たちはどうして似てしまっているのだろうね。確かに、不思議なことだ。

 私も独自に研究をしてみようかな。君も、柊教授から何か聞くことができたならどうか教えてほしい。


 家族から生き別れた兄弟がいるとかいう話は聞いたことがないが、案外そうかもしれないね。でなければ、こんなに似ているはずはない。

 雪の結晶、ね……もし成功したのならば、私もぜひ見てみたいものだ。

 しかし研究室に閉じこもるなど、本当に熱心にやっていたのだね。結局成功したのだろうか。気になって仕方ないよ。よければ、君から柊教授に聞いてみてもらえないだろうか。


 別にかまわないよ。離婚のことについては、いずれ君にも話をしようと思っていたことだから。

 恋愛感情は、人によってそれぞれ違う……なるほど、そんな考え方もあるね。私はそんな考えには至ったことがなかったから、ハッとしたよ。

 では、私が妻だった女に感じていたものも、そうだったのだろうか。

 確かに、一度は焦がれた女だ。燃え上がった時もある。だからこそ、私は彼女にプロポーズする決意をしたのだ。だがその期間は短く、結婚してからはさざ波のように静かになった。

 だからなのだろうね。君の言うとおり、私が妻のことをもっといたわってあげていれば……そうすれば、彼女が私から離れていくことはなかったのかもしれない。

 だが、その時の私は、何より仕事が大事だった。家庭を――妻を支えるために、仕事をしなければならないと思い込んでいた。

 そのかけがえのない大切な家庭が、内側から徐々に壊れてしまっていたことなど、気づきもしないまま……。

 偉そうなことではないよ。前にも言ったと思うが、君にとっての私は目上の人間などではなく、対等な文通相手だ。

 それに、君が書いてくれたことは実に正論だ。私はこのことを、忘れることなく胸に刻みつけることだろうよ。


 相手を信頼していたからこそ、友達だと思っていたからこそ、苦しかった……それはきっと、その子も同じだったろう。私は君もその子も、二人ともが優しかったのだと思うよ。

 恋は確かに人を変える。君のことも、変えてしまった。その子はどうだったろうか。気付かないだけで、その子も恋によって変わったところがあったのではないだろうか。

 いい友人同士でいられているのならば、よかった。私がしていたのは、杞憂だったね。安心したよ。


 誰も悪くはない。その子ももちろんだが、君にも、彼にも、罪はないんだ。大丈夫。相手に気を遣って、自分を責めることなどないよ。それは君にも、彼女にも、彼に対しても言えることだ。


 優しさは時に残酷なものへと姿を変える。彼は確かに優しかったろうね。だが、優しすぎるのは罪だ。

 彼は優しすぎるからこそ、誰にも恨まれなかったんだね。そして、まじめで一途だった。昔からその子のことしか見ていなかったわけだから、他の女子に例え優しくしたとしても、それ以上にはならなかったのだろう。

 変人と言われている私からも、彼は不思議に見える。おかしな魅力を備えている人だね。そこに、君は惹かれたのだろうけれど。

 気を遣われすぎるというのも、考えものだ。それでは逆につらいままだろう。むしろ君は積極的に二人でいるところを見るようにして、慣れてしまうのがいいんじゃないかと思うね。

 目の前で堂々とのろけられれば、きっと君も呆れてしまって、恋愛感情も徐々に冷めていくんじゃないか?

 まぁ、これはあくまで私の予想だがね。

 わざわざそんなことをしなくても、いずれは時間が解決してくれるんじゃないかとも思うけれど。

 こんな話の聞き方でよければ、私はいくらでも君の感情の風化に付き合おうじゃないか。


 そうだね。やたらとしっかりしているときよりは、ほろ酔い加減で頭が多少ボーっとしているときの方が筆は進むよ。

 酒のつまみとしても、長い夜の相手としても、君の手紙はちゃんと役割を果たしている。だから安心してくれたまえ。

 一人じゃないと言ってもらえるだけでも、私の心は安らぐ。ほっとするよ。ありがとう。


 近頃は酒がない状態でも、いくらでも文章は出てくるようになったよ。君に心を開いているあかしだ。

 少しずつでも距離は、縮まっているんじゃないだろうか。

 そうであればいいと、私も心から願っている。


 課題のレポートはちゃんと提出できたかな? 私が言うのも何だが、締め切りだけはきちんと守るように。

 敬具。


 六月二十七日 遅刻魔・イオリ

 真面目な学生・ミユキ様

イオリ、呑兵衛説出ました←

うちの父親も、一杯飲んだあとの方が上手い字が書ける!とよく言ってます。特に年賀状書くときとか。

ほろ酔い加減で「凛、見てみぃ。うまいやろ~」なんてよく自慢してきます。いやぁ、酒って怖い(^q^)

そんなとき私は「お~、さすがお父さん。天才!」とか言って囃し立てます。酔っぱらいの扱いはお手の物でございますよ(←何言ってんだお前)

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