死亡の危急に迫った者の遺言
病院のベッド。
人工呼吸器を付けられて、その者は死の淵に立っていた。
医師が病室のドアを開け、近くの看護師に言った。
「ご家族の方を呼びなさい。緊急だと言って」
「分かりました」
だが看護師が出て行く前に、その者は医師に告げた。
「…遺言書を…書きたい…」
「そうですか」
看護師が出ていくのをためらっていると、医師が指示した。
「婦長を連れて、ここに戻ってきなさい。電話は別の人に頼むように」
「分かりました」
看護師が医師の指示を忠実に守るために、扉を開けて、そのままかけていった。
「すみま…せん……」
ゼーゼーと荒い呼吸音なのは、人工呼吸器の影響ではないだろう。
「いや、大丈夫ですよ。あなたは遺言の内容を考えておいてください。私が証人となって、代筆しましょう」
民法の第976条に従って、今回はするつもりのようだ。
数分後、婦長と共に看護師が帰ってきた。
「連れて戻りました」
「では、これから遺言を代筆します。あなた達は、後で証人として署名、捺印してください」
「分かりました」
二人声を重ねて医師に返事をする。
それを聞いてから、患者に向かった。
「では、あなたの遺言の内容を教えてください」
それから1時間かけて、医師が患者の代筆をした。
さらに書き終わった後に、それをゆっくりと朗読をして、証人と患者に聞かせた。
それが終わると、その証拠として、証人が署名捺印をした。
ハンコはなかったので、拇印をした。
それから次の平日に家庭裁判所へとその遺言書をもって行く。
確認を受けると、これで、遺言書として効力が発生することになる。