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無口の想い。

作者: SkyFrider

はい、こんにちは。ちょっとぐらい生存報告をと。

見てくださった方、ありがとうございます!

好評であれば、続編つくってみたいなあと思っております。

……まあ、だいぶ下手になっていますけどね?

夕暮れピアノも近々更新する予定です。

「……ここで何をしている」

淡く辺りを照らす光の中で静かにたたずんでいた少女をフェルシアードはいぶかしげに見下ろした。


「フェルシア一ド様ですね」


「ここで何をしていたと聞いている」


苛立つ心を抑えて再び訊ねたが、少女は何も言わずにうっすらと微笑んだ。それを見てファルシアードはより一層冷ややかな目を少女を見据えた。


「ではその前に剣を降ろしてくださるとありがたいのですが」


「ならぬ。では質問を変える。お前は何者だ」


不意に、少女が長い髪を揺らして立ちがった。剣を首筋に当てたまま、ファルシアードは小さく深い緑を宿した目を見開く。


金色の光を浴びてなお、夜闇よりも黒い髪。人形めいた彫りの浅い顔立ちから黒く輝く瞳をのぞかせる様子は、城の中で噂された容姿と余す所なく一致していた。

月の光で鮮やかに輝いた首筋から一滴の赤い血がしたたり落ちるのも気にせず、感情を一切含まない瞳で少女は皮肉げに笑って、大人びた声で告げる。


「ランスハ-ド国第一王子、ファルシア-ド殿下。レティシア国第三王女ルクアティア=レティシアの名を持つ娘として、直々にお願いがあってこの度は参りました。この夜更けに無礼だとは存じておりますが、側室へ迎え入れた記念として願いを聞き届けてくれませんでしょうか」


ランスハードの側室争いの原因である、レティシア国で16年間隠されつづけ、突然表舞台へと公表された第三王女。

幻とさえ思われた黒髪黒目をもち、先日側妃として嫁いできた奇跡の娘。


ルクアティア=レティシアはファルシアードへと確かにこう言ったのだ。


「私を書庫で働かせて下さい」、と。



「――では、今日の予定を確認させていただきます」

「必要ない」

普段よりも数段と不機嫌そうに目を細め、ファルシアードは従者の幼さが残る声を遮った。

あの、と戸惑うようにかけられる声をも無視して、乱暴に椅子へかけられた上着を羽織る。

「謁見の場は」

「執務室でございます」

やや大股に歩くファルシアードの頭の中では、昨夜の少女のことが思い出されていた。

あの少女がルクアティアであることは間違えようもない。

しかし、『願い』などといって吐きだされた言葉は王女としてあるまじき――いや、そもそも王子の寝室へと忍びこむこと自体が女のすることではないが。

ともかく、そう告げたルクアティアは理解不能の言葉に固まっているフェルシアードの手を押しのけると髪をひるがえし、太い縄のようなものを使ってさっさと夜闇へ消えてしまったのである。

あんな女が側室とは、と再び剣呑な光を瞳に宿し、見慣れすぎて面白みもない執務室の扉を開けて従者を下がらせた。

「……レティシアは何故あんなヤツを嫁がせた」

二つの向かいあわされた豪華(ごうか)絢爛(けんらん)な椅子は今日の謁見を如実に表しているようで気に食わない。

せめてもの嫌がらせにと時間に10分遅れてきたが、年季の入った振り子時計は鈍い音を響かせながら更に20分過ぎていることを告げていた。

無人の執務室。……どこか虚しい。虚しいぞ。ここは宰相や執事が控えているところじゃないのか。国家を揺るがす大事件がとびこんできたりはしないのか。

本棚に置かれた分厚すぎる聖書や資料などの裏にこっそりと入手した庶民の物語本を潜ませているのは密かなファルシアードの楽しみだが、それを出すほど気分は乗っていなかった。


音のない執務室に想像しい声と姿が入りこんできたのは、もう一時間過ぎ、ファルシアードの額にくっきりとしわが刻まれる頃だった。


「馬車が遅れてしまっただけですわ。どうぞお気になさらず、そこをさっさとどいてもら

 えるかしら?」


高飛車でよく室内に響く高い声と大勢の足音が執務室に近づいてくるのが聞こえる。

顔をしかめ、思えばいつもより派手に金や赤で装飾された軍服を見下ろした。

今日訪問してくるのは貴族令嬢ではなかったはずだ。

昨夜見た女は毎度押しかけてベタついた褒め言葉を贈るようには見えなかったはずだ、が。

もしかしてそれさえ見分けられなくなったのだろうか。

ファルシアードが微妙に青ざめた顔で扉をみるのと目にも鮮やかな薄桃色の塊が扉を開けるのは同時だった。

レティシアの軍服をきた従者とともに現れた人を思わず凝視する。


そこにいたのは、黒い髪を宝石が散りばめられた――いやごてごてと飾り付けられたピンを使って

結い合わせ、思わずめまいがするほどの薄桃色の布がふんだんに使われたドレスを着た、確かに。


確かに、……昨日の少女だった。


「あなた達はもうお帰りになっていいわ。いままでご苦労様、ほら早くフェルシアード様と二人きりになりたいのよ部屋から出ていってらして」


一方的に言葉を従者に叩きつけ、呆然とした顔の護衛の前でばんっと扉を閉める少女。

くるりとドレスを翻すさまをみ、ファルシアードは尋常でない汗を額に浮かべてつぶやいた。


「……悪夢だ……」


幻覚か。根を詰め過ぎたのかオレは。確かにこの頃仕事は多かったがそこまでとは。

ああもうダメだ昨夜が夢か今が悪夢かさえわからん。

真っ白な顔でふらふらと立ち上がり、医者を呼ぼうと―――


「悪夢で悪かったでございますねぇ昨夜のおーじさま」


「……待て。やはり昨夜侵入したのはお前か。そして声色が全く違うのはなぜだ」



「お前って名乗ったのに覚えてくださっていなかったなんて……ああ私悲しいわ嫁いだ夫がこんな

ボケた金髪傲慢阿呆王子だったなんてぇっ。というか演技に決まってるでしょう」


「殺すぞ」


「ほんとに?」


どこからか出てきた白い布でさも悲しそうに目尻をおさえるこいつ――いやルクアティアに青筋をたてるオレの気持ちはどこへやら。上げた顔は既に高飛車な姫の顔ではなく、昨夜と同じ表情だったため、抜きかけた剣をしぶしぶ鞘に戻す。



「考えてくれましたか、昨日の言葉」


「却下だっ」


「うそぉっ」


「一国の姫を書庫で働かせるなどお前の国に絶好のエサを振りまくだけだろうが!」


あっという間に噂になってこれ幸いとばかりに賠償金をせしめられるのが眼に見える。

だというのに、わざとらしく口の端を上げるルクアティアはあっさりと言い切った。


「案くらい考えてるに決まってるじゃないですか」


「ほう?」


馬鹿かこいつ。きっとオレの表情に出ているはずなのに、逆に見下した視線を返され思わずたじろぐ。

それには目もくれず、頭のかんざしを外しながらルクアティアはふっと外を見た。


「私とそっくりでなおかつお姫様役を買ってでてくれる侍女がいますし、公式の場で私が入ればいいだけのことでしょう?何のためにこんなバカみたいにつけあがったヒメを演じてたと思うんですか」


ぶるっと頭を振り、かんざしがすべて取り外された髪を揺らし、それは実に自然な動作でドレスの後ろに手をかけ―――


「お前は何をしている!」


「着替えですけどなにか文句でも」


「仮にも婦女ならっ――一国の姫だろう!」


躊躇なく落とされた布の束をとっさに下げた目線でとらえる。

ぎりぎりと歯ぎしりをする。なんなんだこの女は普通それが人の執務室ですることか!

しかし、どこか笑いを含んだ声が落とされたのは案外すぐだった。


「中に服きてるんで顔上げてもいいですけど」


「早く言え!それは初対面の奴の前でする行動では絶対ありえん!」


「悪かったですねえ」


にやにやと笑うのは誰だお前。黒い軍服を着て髪をおろしている姿は別人。


「で、話戻しますけど魔法がレティシアにはあること忘れましたか?

 どこの誰の娘であろうと話題性があってランスハードの后候補になり、それでいてまったくあちらは損がないなんて私しかいないでしょう。つまり、そういう人物が居ればいいってだけで私個人には興味がない。何をしたって気にしない。あなたもレティシアの娘と必要以上に接することもない。妥当な取引ですよ」


思いのほか冷めている目をして皮肉気に顔を歪ませるルクアティアに、複雑そうな顔をして問いかける。


「危険は」


「私が背負いますし、ないといいきれます」


「余計なことは一切しないと?」


「あなたが望むなら」


「……わかった」


ルクアティアに負けずにやりとファルシアードは笑い、手を差し出した。


「交渉成立だ。お前と話す必要がないのはありがたい」


「相当な悪人ズラしてるのわかってますか」


「うるさい」


差し出した手を握ろうとせず、小さくルクアティアはつぶやいた。


私はこの世界の部外者ですから、と。


訝しげに眉をひそめるファルシアードにそのままくるりと背を向け、

ルクアティアは窓からひらりと飛び降り、執務室から姿を消した。


……って。


「おい!?」


すでにそこに姿はない。

は、と息を吐き出し、頭を押さえる。


あそこまで規格外の女はいるのか、世界に。

けれど笑う。

今度冷やかしに行ってみるか。

少しぐらい側室と離してみるのも悪くない。




……ちなみに。

執務室へ入室の許可を与えられたファルシアードの従者が脱ぎ捨てられたドレスを見て赤く青くとめまぐるしく顔色を変え、ファルシアードが弁明を余儀なくされたことでルクアティアのもとへと

憤怒の形相で書庫へ向かうのも、そう遠くはないことである。





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