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第43話 15×夜空



「信じられんねー」


 緋真家を去り、自宅への帰路を歩く織斗と咲。

 不貞腐れたような織斗の言葉に、咲はちらっと兄を一瞥してすぐに視線を逸らした。


「あれは、織斗くんが悪いよ?」

「なんでだよ! むしろ俺、被害者だからな?」

「…………殴ってごめんね」

「咲が俺に手をあげた意味がわからない。あの場から逃げたかったのは同意するけど」

「これね、ライオンパンチって言うんだよ」

「ライオンパンチ?」

「猫パンチの進化系、本気の殴打。広が名づけたの」

「ネーミングセンスおかしいな、あいつ」

「痛かったよね、ごめんね」


 そっと頬に触れようとする咲。しかしその手は織斗に捕まれてしまった。

 じっと、お互いの目を見つめ合う。


「俺、頑張るから。神木当主として、咲に認めてもらえるように。咲の兄ちゃんだって胸張って言えるように、がんばる」

「うん……」

「あと、殴ったことも許す」

「え? あ、うん。ありがとう」

「俺は咲のことを大事にしたいから、これから何があっても、大抵のことなら許す」

「いや、それは……」

「俺のそばにいる限り」


 その言葉に、咲は軽く首を傾げた。

 そしてその意図を理解して、顔を綻ばせる。


「それは、これからもずっとそばにいろってこと? もしまた家出したら、今度は許さない?」

「ちゃんと帰ってくるなら許す。いや、勝手に出て行ったら許さない。から一言、俺に言ってからにしろ」

「うん……」

「五倍は生きような、咲」

「五倍?」

「十五年間離れてただろ、俺たち。だからその五倍、七十五歳までは生きる。咲を無視してた十五年分の五倍の期間、幸せを与え続けるから」

「……長いねぇ、あと五十九年もある」

「あっという間だよ、そんな時間……必死に生きてたら、あっという間に過ぎる」

「でも、どうして五倍? 六倍の九十歳じゃないの?」

「男の寿命は短いからな。俺、その歳まで生きれる自信ない。咲は二百歳まで生きてていいぞ」

「そんなに長く生きれないよ。私より、織斗くんの方が長生きすると思うよ。馬鹿となんとかは風邪ひかないって……」


 はっと、口を閉じる咲。織斗に睨まれ、苦笑いを返す。

 織斗はわざとらしくため息をつき、「許す」と言った。


「いま、ちゃんと隣にいてくれるから。今の暴言も許す」

「優しいね、織斗くん」

「約束したばっかだからな。まぁ、だから俺は、咲が何しても許すし絶対に守るから。これからはもう、勝手に離れるなよ?」

「うん……うん、離れないよ」


 目尻に涙が溜まったまま、咲は笑った。

 その笑顔が愛おしくて、織斗も笑った。

 手を繋いだまま、再び住宅街を歩く。


「そういえば織斗くん、勉強してくれたんだね」

「勉強?」

「神木家のこと、本読んだって言ってたでしょ?」

「あぁ、徹夜で頑張った……忘れたけど」

「忘れた?」

「こんな分厚い本五冊も読んだんだぞ、覚え切れるわけねーよ」

「織斗くんて、神木の子だよね? ……もしかして、頭悪い?」

「…………」

「あっ、否定できないんだね。図星ついてごめんね」

「……余計傷つく。頑張ろうかな、俺。そういえば咲、飯食った?」

「まだ食べてないよ。織斗くんは?」

「俺もまだ。コンビニでアイスでも買って帰るか」

「夜ご飯にアイスっていいの? アイスがご飯でいいの!?」

「そんな喜ぶなよ、冗談だよ」

「冗談なの?」

「……そんな悲しそうな顔すんなよ。夜ご飯のあとのデザートな」

「やった、アイス! ……織斗くん、お金持ってきてる?」

「……いや」


 たわいない会話をしながら歩く二人。

 外灯の光が明るく、手を繋ぐ二人の影を遠くに伸ばした。



次で四話終わりです!

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