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5.初めての人間配送だけど、……空の旅は地獄でした

 晴渡る空の下。

 

「食料よし、寝床よし……」


 早速――と、いうか半ば強制的ではあるけれど、目的地の「ヴァレオラ王国」まで飛ぶことに。

 山脈を挟んでの隣国。馬車だと一週間くらいかかるけど、私の足だとおよそ二日くらいかな。

 ちなみに、ちゃんと行くのは初見だ。それこそ日帰りで飛べる距離には頻繁に足を運ぶのだが、山脈を超えないといけないという理由がどうにも億劫で……まぁなんというか微妙な距離なのだ。ヴァレオラというのは。

 それこそこうやって、色々と準備しないといけない。


 聴いた話によると確か……緑豊かで、とにかく広大な領地。特産物は茄子。普段あまり野菜を食べない私だけどヴァレオラの茄子はめちゃくちゃ好き。特に、焼いてミソをつけて食べると絶品で――


「早くしろ」


「は、はひっ!」


 背後から、冷たい声。

 同時に、背中に“コツン”と硬いものが押し当てられた。刃物だと思って飛び跳ねたけど普通に拳を当てられただけだった。いや冗談になってないって……

 

「で、ではですね……この“星”に乗って飛びます。これが空路(くうろ)っていうんです。こんな感じで――」


 足元に星を編んでそれに乗って見せる。


「……何も見えないけど」


「えっ……あ、そういえばそうでした。他の人には……見えないんでした。すみません、なんか……えへへ」

 

 彼女は、「はぁ」とため息をつく。

 

「……本当に大丈夫かしら」


「ご、ご安心ください!」


 勢いよく胸を張る。

 

「私のスキルは、これしか出来ません。空を飛ぶだけ、それだけのスキルです。竜を切ったり採掘したり、料理が上手くなったり雷を出したりも出来ないんです」

「――でも、だからこそ私は、私にしかできない方法で。あなたを必ず送り届けます。それが、私にできる唯一のことなので」


 そう。大事な大事な、私にとっての大きな任務!

 今まで手紙を運んだり簡単な依頼ならやったことがあるけど人間を運ぶのは初めてだからね!

 

 私は「ふんす」と息をはき、彼女は「ふん」と吐き捨てた。


「では、――出発の前に、一つだけ聞いてもいいですか?」


 私の言葉に、彼女はピクリと眉を動かした。


「おそらく危険な空の旅になりますけど、本当に私一人で大丈夫ですか?」


 風が止まった。

 金の髪が光を受けて揺れる。


「ほら、ちゃんとした冒険者とか……。私よりも、もっと……その、頼れる人……いるんじゃないかなって……」


 その瞬間だった。その瞳がギリッと細められた。


「……あなた、今私を馬鹿にした?」


「えっ!?  い、いや! まさかそんな!」


「だったら、どうしてそんなに“他に選択肢がありますよ”みたいなことが言えるのよ!」


 怒鳴った声が、最後だけかすれていた。


「できるならとっくにやってる!! やれるなら……とっくに……っ!」


 私は慌てて頭を下げる。


「す、すみません!  ごめんなさい、ただ……」


 そう言うと、彼女はそっぽを向いた。背中は真っ直ぐだったけど、指先が白くなるほど拳を握っていた。


 ――訊いちゃいけないんだ、今は。


「じゃ、じゃあ座ってください」

 

 まぁ何はともあれ、後は……この人を"これ"に縛り付けて、準備完了。


 木製の椅子にクッションを敷いて、背負えるようにタスキを掛けた――そう、名付けて私流、『運び椅子』。

 怪訝な顔をして座った彼女にロープをきゅっ、きゅっ、と。肩から足首まで、しっかり固定。

 後は要所に布を巻きつける。首、手首、足首、腰――

 ミイラ、というほどではないけれど、まぁ、かなりぐるぐる巻き。

 仕上げに目隠しを――


「ちょ...ちょっと!? 何これは!? なんで縛られてるのよ!?」


「え……いえ、空は危険なので。これくらいしないと危ないと思うんですよ」


「いや、だからってこれは……やりすぎでしょ!?」

 

「いやいや、そんなことないですよ。多分結構揺れるし、慣れてないと舌も普通に嚙むし....大丈夫です。空に出たら縛っておいてよかったと思いますよ☆」


「じゃ、じゃあ……目隠しはいいわ。外の景色も見たいし」


「そうですか? まぁ、では結構高く飛びますが暴れないでくださいね。口だけは危ないので、塞がせてもらいます」


「う.....んむ」

 

 彼女の返事を待たずに口を塞いでおいて....うん、これでよし。

 ……これでよし、なんだけども――うーん、正直、この状態で私が逃げればこの人は何もできないよね。なんて考えるけど……。

 これでも一応受けた依頼だ。仕事はします!私だってプロだし!プロなら脅されても何されても、やってやりますよ!


「じゃ、行きます。快適空の旅~」


 地面を強く蹴り、空路を編む。足元に星の粒がふわりと灯った。


「ん――――っ!!」


彼女の叫びがくぐもる。高度を取り、町を跨ぎ、屋根の影から影へとスラロームする。

風は穏やか、見上げれば抜ける青。遠く、山脈の背中が鈍い銀色に光っている。


天気は快晴。風も穏やか。これ以上ない飛脚日和だ。


「気持ちいいなぁ……」


 星の足場を二、三踏み、いつもより少し高く跳ぶ。 

 さっきまで遠くにあった雲の縁が、指先で触れそうだ。

 地上の建物なんて、もう米粒みたい。

 

「んんんんんーーっ!」


  背中からくぐもった悲鳴が響いた。

 まあ、初見はそうなるよね。だいぶ高いし。


 目の前に聳える山脈の――だいたい5合目くらいの高さだろうか。

 時折、危険がないかを確認しながら上昇、下降を繰り返しつつ”飛脚”していく。

 ちなみにお腹に抱えた荷物の重さはない。完全なゼロ。自分の体重も、彼女の体重も感じてない。

 空路がすべてを負担してくれるからね。これはそういうスキル。

 だから試しにこういう地上スレスレまで一気に降下してからの~

 大ジャンプ!


「んんんんんんっ!」

 

 こういうことをしても足には何の負担もない。

 しかしせっかくの飛脚日和だと言うのに後ろが異常に……

 

「う、うるさいですね.......」

 

 やっぱり、口を塞いでおいて正解だった。

 いや、それでも十分やかましいけれど。


 それにしっかり縛っておいたのも正解。

 ……まぁ、はたから見たら完全に誘拐犯の図なんだけど、仕方ない。初フライトの人って大抵パニックになるし、空で暴れられたら真っ逆さまだ。安全第一、これは"配慮"です!

 

 今日は天気もいいし、日差しも暖かい。

 ……こんな状況で楽しんでる自分がちょっと嫌になるけど、

 まぁでも、最近は空を飛べる機会なんてそうそう無かったし……少しだけ、ね。


 何回か横ロールしながら日光を全身に浴びつつ気持ちよくフライト。

 

 昼過ぎに出たから、まだ日没までは時間がある。

 山脈を超えて、その先にある「ヴァレオラ」までは――上手くいけば明日の昼ごろには到着できるだろうか。

 こうやってただ星を編む。“空路”を編んで、点にして、点を線に。線を道に。私だけの空の道。


 ガツンッ。


「いったぁっ!?」


 後頭部に鈍い衝撃。星でも落ちた? いや違う。


「んんん! んんーっ!!」


 ……頭突き二連発。


「わ、わかりましたっ! 一旦降りますからぁ!!」


 急降下。風が肌を切る。

 地面すれすれで“空路”を消して、 着地と同時に急いで拘束を解いた。


「ど、どうされまし――痛っ!? いったぁぁぁ!!」


 衝撃。

 ……今度は拳で頭ぐりぐり。 これ、やばいやつ!!


「死ぬかと思ったのよ! もっと丁寧に運びなさい!」


「い、痛い痛い痛い! 脳みそ出ちゃいますって!!」


「大げさ!」


 ようやく手が離れ、私は正座した。

 半泣きでひたすら謝る。


「ご、ごめんなさい! もっと……こう、ふわっと運びますから……!」


 彼女はそっぽを向いたまま、ふん、と鼻を鳴らす。

 金の髪が風に揺れ、光を弾いた。


 怒ってるはず――なのに、ほんの少しだけ柔らかく見えた。

 ……でも、彼女が拳を握りしめたまま、こめかみに青筋を浮かべてるのを見て――。やっぱりこの人、冗談抜きで人を殺せる人種なんじゃないかなって思い出した。

最後まで読んで下さり、ありがとうございます!

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