境界跳躍理論
【極秘資料】
境界跳躍理論(Draft 3)
著者:Eleanor・A
※機密指定:重力異常研究群 / 星界跳躍計画
0. はじめに
本研究草稿の作成にあたり、星界観測家A氏より多大な協力を得たこと。深く感謝申し上げる。
天体研究に人生の99%を捧げている変人(本人談)だが、星界モデルと境界写像の私的アーカイブは驚くほど精緻だった。
彼は成果に興味がなく公表も望んでいないため、ここでは簡易的な謝辞に留める。
本研究の核心部分については、私個人の責任において記述した。
1. 目的
本資料は、重力場操作が臨界値を超えた際に発生する“次元散逸現象(Dimension Shear)”の観測結果をまとめたものである。
結果として、本来の目的ではなかったが――
「重力を極限まで逆転・射出した場合、生体意識が“宇宙境界層”を突破し、別位相世界へ再適合する」
という仮説が浮上した。
本論は魔法学ではなく、重力物理・量子宇宙論に属する。
2. 背景
既知の宇宙には、不可視の“膜構造(Membrane Layer)”が複数存在し、重力はそれら膜を貫通しうる唯一の力として確認されている。
この性質により以下が推測される:
1.重力は“次元間通信”として作用する
2.重力の極端な反転・収束は次元跳躍を引き起こす
3.生体意識は物理肉体と分離しやすい位相に入り、別世界へ“再配置(Re-Allocation)”される
(※この現象を便宜的に、以下 《軌道外転移(Orbit Drift Shift)》 と呼称する)
3. 臨界点について
重力操作が特定の閾値を超えると、周囲空間が以下の状態に遷移する:
・局所重力の符号反転(Sign Reversal)
・時空の剪断(Space-Time Shear)
・量子積層の剝離(Quantum Layer Peeling)
・虚空方向へのベクトル乱流(Void Vector Turbulence)
これらが重なると、観測者の身体は“存在の耐性限界(Existential Limit)”を突破し、物質としての形態を維持できなくなる。
しかし意識は情報として残存し、近傍宇宙の“適合領域”へ再配置される可能性が示唆される。
つまり、奴の言う“転生”という概念は、科学的には 情報再配置現象(Information Relocation) と呼ぶべきものと考えられる。
4. 重要:重力操作能力を持つ個体について
重力を直接操作できる生体は極めて稀であるが、もし強制的に臨界値に達した場合、以下の危険性がある:
・高確率で軌道外転移が発生する
・肉体は消失
・意識は宇宙の彼方へ飛ばされる
・本宇宙では“消息不明”として扱われる
特に、反転型衝撃を外部へ射出可能な個体は臨界を突破しやすく、転移発生の可能性が高い。
※あくまで理論上の話であり、特定個体を示す意図はない。
5. 結論
重力を極限まで突き詰めると、“別次元への跳躍を可能とする”という結論に至る。
ただし次元跳躍が発生した場合、帰還は不可能。(まぁそもそも肉体が消失しているのでどうという話ではあるのだが)
適合した宇宙では新たな肉体を得て存在を継続する。
もし、仮にこの現象が人為的に再現可能であれば――
世界は“死”と“境界”の定義を根底から見直すことになるだろう。
6. 所感(封印推奨)
もし師匠が狙われた理由がこの現象に起因し、奴もまた同じ結論に辿り着いていたのなら――
私は、一刻も早く"あの子"を処分しなければならない。
……いや、違う。利用するべきだ。強さはきっと、あの子の向こう側にある。
この世界に興味はない。多次元の果てで待つ“真の強者”へ辿り着けるというのなら、それは幸福なことだ。
本当に私はそんなことを望んでいるのだろうか?
“守れ”と師匠は言った。
守るとは何だ? 閉じ込めることか? 殺すことか? それとも――手放すことか?
もう私の思考が、どこまで私のものなのかわからない。
でも、私はまだ"私"を認識できている。
この抗い続ける意志こそが“強さ”の一形態なのだとしたら?
私が私を失いかけているという事実が、強さの証明だとしたら?
次にあの子に会うとき、私は私でいられるだろうか。もはやそれはわからない。
ただひとつ確かなのは、この研究は“誰か”の未来に必要になる。
いつか、これがその"誰か"に必要となったときのために。
……思考がまとまらない。糖分が足りないようだ。
あの子が帰ってくる前に、またアップルパイでも焼いておこう。 まだ、あの子が美味しそうに食べる顔を見ていたいから。
(※このメモは研究とは無関係。削除予定)




