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第3章 捨て猫:出会い

あの朝、うちに現れた三毛猫が野良だったのか、それともどこかの家で飼われていた猫なのか

――結局わからないままだった。


この辺りではあまり見かけない子だった気がする。

急いで外へ飛び出して追いかけてみたけれど、その姿はすでになかった。

猫の足取りはいつも予想よりずっと素早い。


仕方がない。せっかくだから朝の散歩がてら、あの猫を探してみることにした。


家の戸締まりをして、いつものスニーカーに履き替え、鍵をしっかりかけて町へ出た。


近所の住宅地、公園、商店街、駅前――猫がひょっこり現れそうな場所を一通り歩いてみたけれど、どこにも姿は見つからなかった。


昔は、この街にももっと自由気ままな猫たちや野良犬がいたような気がする。

けれど、駅前の再開発が進むにつれて、あの静かな獣たちは姿を消してしまった。


そういえば、近くにあった鬱蒼とした木立の敷地――あそこには、確かタヌキが住み着いていたっけ。


ソラの残した餌を庭に出しておくと、翌朝にはきれいになくなっていたから、野良猫か外出中の飼い猫が食べに来たんだと思っていた。けれどある朝、2階の自室からふと庭を見下ろしたとき、そこにいたのは……タヌキだった。しかも2匹。


こちらに気づいたのか、どちらかが顔を上げて私を見上げてきた。


その表情はまるで、「ごちそうさまでした」と言っているかのようで、思わず笑ってしまったのを覚えている。


今では、その木立は取り壊され、大きなマンションの建設が進んでいる。


あの2匹は、今どこで暮らしているのだろう。


そんなことを考えながら歩いていると、公園の茂みのほうからかすかな話し声が聞こえてきた。


――猫の、声だった。


耳を澄ませると、どうやら2匹の猫が会話をしているらしい。


「もう帰ろうよ……ここはもう、長くはいられないし、お腹も空いたわ」


「でもさ、あそこに戻ると、毎日ぎゅうぎゅう抱きしめられるんだよ?あれ、苦手なんだよね」


「でも、あの家は寒くないし、ごはんもあるわ。ここにいるより、きっと安心よ」


どうやら彼らは、どこかの家から逃げ出してこの公園に居ついてしまったらしい。


そういえば、母がソラを探していたとき、電柱に貼られた“行方不明猫”のポスターがあった気がする。

あの写真の子たちかもしれない。


私はそっと近づいて、声をかけてみた。


「君たち、おうちの人が探しているよ。帰ってあげた方が、きっと安心すると思う」


驚いたようにこちらを見つめていた2匹だったけれど、私と会話ができるとわかると、ふたりは口々に“条件”を語り出した。


「帰ってもいいけどさ、ごはんはちょっと多めにしてほしい。それから……毎日ぎゅうぎゅうに抱きしめるのは、やめてって言って。あれ、ほんとに苦しいんだ。あとな、無理やり抱っこされるのも苦手なんだよね」


「私は帰りたい。でも、たまには外に出たいの。閉じこめられるのは嫌よ。それから……あの猫草、ちゃんと育ててほしいわ。すぐ枯れちゃうし、なくなると寂しいの。あれがあると落ち着くの」


私は微笑んでうなずいた。


「わかったわ。あなたたちの気持ち、ちゃんと飼い主さんに伝えるから。一緒に戻ってくれる?」


一度家に戻り、キャリーケースを用意して再び公園へ。


ふたりはおとなしく中に入り、私はポスターに記載されていた連絡先へ連絡をとり、無事に彼らを送り届けた。


もちろん、ふたりの希望もきちんと伝えた。


信じてもらえたかどうかはわからない。


けれど、私は約束を守った。


ちょっとしたお礼までいただいてしまった。


でも――この力のことは、誰にも話せない。


話したところで、きっと信じてもらえないし、“ちょっとおかしな人”と噂されるのが関の山だ。


けれど、そのとき私は、ふと感じた。


これこそが――私がこの力を持った意味なのかもしれない、と。


そうして私は、**“行方不明になったペットを探す”**という、新しい仕事を始めようと心に決めたのだった。

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