表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/13

5

 石造りの会議室には、低い魔力の波が満ちていた。朝の光が、ステンドグラスから差し込む。


 王国の第二王子レオン・アルフォンス・アストリアは、静かに立っていた。


 その隣には、王国魔導院の筆頭魔導士であるザハル・ミレリウス。ローブの裾からのぞく杖の先が、微かに光を帯びている。


「聖剣セリオスの行方はまだわからないのか?」


 レオンの声は低く、研ぎ澄まされた剣のようだった。


「はい。結界石がすべて沈黙し、聖域の扉も“自然に”開かれたままです」


 ザハルはゆっくり頷いた。


「封印が破られた形跡はなく、力の乱れもありません。まるで、剣そのものが意志を持って、出て行ったような……」


「剣の意志?」


「伝承によれば、あれは“意志ある聖剣”──選ばれし者にのみ応える、と。

 そして、剣が抜かれたならば勇者は、王宮に来なければならない」


 ザハルの目が細まった。


「それが、“誓約”です。王家と聖剣との間に結ばれた、古の契約。勇者は、王宮に姿を見せねばならない」


「……だが、今のところ来ていない。ならば──」


「はい。“勇者ではない者”が抜いたか、“聖剣そのものが消滅”したか。あるいは、何か第三の異常事態が……」


 レオンの手が、腰の剣──ミレティアの柄にそっと触れる。


 先日から、この剣が何かを訴えるように震えていた。


 まるで、“封印の異変”に対し、清めの剣が反応しているかのように。


「ならば、行くしかないな。セリオスの封印地へ」


「ですが、殿下──あそこは険しい山中。先遣隊を――」


「俺自身の目で見なければ意味がない」


 レオンの声は決然としていた。


「これは王家の問題だ。そしてミレティアに選ばれた俺の使命だ。セリオスが抜かれたというなら、俺には確かめる義務がある」


 ザハルは一瞬ためらったが、やがてうなずいた。


「……わかりました。では、私も同行いたします。聖域は魔術的に不安定です。念のため、封印再設置の準備もしておきましょう」


「手間をかけるな、ザハル」


「いえ。むしろ、私も見たいのです。伝説が再び始まろうとしているのかどうか」


 レオンの碧色の瞳に、静かな決意の色が宿った。


 セリオスが勇者を選んだというのなら、誓約に従い勇者は必ず王宮に現れるはずだ。


 それがなされないということは—―そこにあるのは、誓約の破棄か、想定外の“何か”だ。


 セリオスはどこかで目覚めているのか。

 何者かの手に抱かれ、罪を”切っている”のか。


 その答えを、確かめに行くのだ。


 レオンは清剣ミレティアの柄を強く握りしめた。


――手遅れになる前に


 それがレオンの使命なのだから。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ